ドラゴンメイド・ラブコール   作:久本誠一

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全員分終わったのでまたしても最終回です。


ハスキーの一問一答

「本日は、私どもに御主人様の話をご所望とのことで」

 

 礼儀正しく優雅に一礼したその姿を前に、記者は緊張のあまりごくりと唾を呑んだ。目の前にいる眼鏡の女性、最後のドラゴンメイドが放つ気品に、無意識のうちに気圧されてのことだ。これまで話を聞いてきた彼女たちとは文字通りに一線を隠した実力を持つ、この館どころか空間全体を事実上統べるメイド長。ただ相対しているだけで敵意や害意は一切向けられていないのに、何故に彼女が最強であるのかを早くも心から理解する。

 

「……は、はい。突然の訪問にも関わらず快く答えてくださって、大変恐悦至極です!」

「確かに最初は驚きましたがこちらこそめったにないお話を頂きましたこと、この館の一同を代表して感謝します。自分の『好き』を表立って口にするというのは、彼女たちにとって改めて自分の心と向き直るいい機会となったでしょう」

 

 もちろん、私にとってもですが。そう付け加えて小さくはにかむと、先ほどまで怜悧な美貌と感じられたその顔立ちが急に柔らかなものとなる。彼女自身は間違いなく同じ顔だというのに表情ひとつでまるで印象が変わるそのギャップに内心驚きながらも、まごついてばかりはいられないとのプロ根性がどうにか記者の口を動かした。

 

「それで、ですね。まず最初に、改めてお名前と役職をお聞きしたいのですが。すみません、記事の体裁はなるべく全員で合わせたいもので」

「畏まりました、そういうことでしたらどうかお気になさらず。私のことはドラゴンメイド・シュトラール、あるいはハスキーとお呼び下さい。メイド長などともよく呼称されますが、正確にはハウスキーパーメイドとしてこの館全てのメイドを……そして何よりも御主人様との健やかな暮らしを取り仕切ることを、現在の生業としております」

「健やかな……そういえば、先ほどちらりとお聞きしたんですが。なんでもご主人とのある種の接触に対し、ご自身も含めた戒厳令を敷いていらっしゃるとか?」

 

 淀みない自己紹介の言葉尻から先ほど取材した炎のドラゴンメイド、ティルルが口にしていた内容をふと思い出して何気なく問いかけてみる。最初に持ち出すにしてはいささか以上に突っ込んだ話題である事は百も承知だが、それ以上にこれだけ絶世の美女たちが揃いも揃ってこの閉じた空間で1人の異性を溺愛していながらも、こと性的接触だけはあの気まぐれなラティスですら大人しく言うことを聞くレベルで頑なに断ち続けていることの意味が記者の目から見ても理解できなかったのだ。彼女たちにその気がないのかという線は、わざわざ戒厳令まで敷かないといけないという現状が逆説的に否定する。では主人の側はどうかと問えば、ティルルの話を聞く限りそういう欲自体は持っているようだしその可能性も薄いだろう。

 果たせるかな、その純粋な疑問を聞いたハスキーはさっと表情を曇らせた。何か理由(ワケ)ありだと言葉よりも先にその表情が雄弁に語り、後から追いかけるように申し訳なさや切なさ、我慢とほんの少しの気まずさといった様々な念が入り混じった言葉を慎重に紡ぐ。

 

「……そうですね。誰の口から聞いたのかは追及しませんが、それは紛れもない事実です。理屈では割り切れない皆の不満は痛いほど感じていますし私としてもこの判断を下したことは断腸の思いではありますが、それでも私にとっては御主人様の心身の安全こそが何よりの優先事項ですので」

「もしよろしければ、もう少し詳しいお話を伺っても?」

 

 好奇心に駆られて先を促すと、ハスキーは小さく頷いた。彼女自身、最初からこの件についてはここで話すつもりだったらしい。あらかじめ言語化を考えていたとしか思えないほどスムーズに、その胸のうちを語りだす。

 

「問題は、私たちドラゴンと人間である御主人様の体の構造の違いです。長命種でありかつ捕食者側でもあるドラゴンは必然産めよ増やせよ、といった被捕食者の生殖形態とは無縁の生き物であり発情期もその極めて長い一生に比べればごく短期間でしかありませんが、その分だけ一度の交尾でも確実に子を成せるようでなければ次代に命を繋ぐことができません」

 

 理知的な眼鏡も相まってどこか講義中の教師を思わせる調子で、ハスキーの言葉は続く。記者もその内容が怪しい方向に進み始めたことは察知しつつも、淡々とした口調に引き込まれてついそのまま聞き進めてしまう。

 

「おわかりですか?雌ドラゴンである我々の身体の生殖機構は、ただでさえ痛みや刺激に強い雄ドラゴンとの交尾でも確実に子を成せるように特化されたつくりとなっています。それをドラゴンよりも遥かに刺激に弱い人間の男性が不用意に相手してしまえば、人間に与えられるそれとは次元の違う快楽のあまり廃人となりかねません。それをさせないための戒厳令です」

「うーーーん……なるほど……?」

 

 流石の記者も、そう返すのがいっぱいだった。いくらなんでもそれは発想が飛躍しすぎてはいないか、と個人として思いはするのだが、確固として否定できるだけの根拠もなく。そもそもドラゴンによる異種間恋愛自体が、わざわざ彼女がはるばる話を聞きに来る程度には珍しい事象なのだ。そこからさらに踏み込んだ話、ましては下世話な分野についてなど、当然知識があるはずもない。

 しかしどうやら、その不信は記者が思っている以上に筒抜けだったようだ。ため息をついたハスキーが、頭が痛いといった表情で額に手を当てる。

 

「残念ながら、これは事実です。とまでは言い切れませんが、少なくとも一考すべき根拠はあります。あまり口にする内容でもないため他種族にはあまり知られていない話でしょうが、ドラゴンの間には古くから伝わる悲恋の伝承があるのです。ある人間の男に恋をしたドラゴンが人化の術を苦労して会得し晴れてその男と結ばれるも、初夜を迎えて次の朝日を見ることなく男は物言わぬ廃人と化してしまったと。そうでなくとも、国を傾けた白面金毛九尾の狐の話は有名でしょう。狐の手練で国すら傾く、人間の快楽耐性はそれほどにか弱く閾値も低いものですよ」

 

 そう語るハスキーの声色はいたって真剣そのもので、記者をからかおうという響きはどこにもない。先ほどのティルルの悶々とした様子を合わせて考えても、やはり彼女たちはいたって本気であり真面目に考えているとしか思えなかった。

 それでもなお半信半疑で、そもそも自分で振った話題とはいえどうやってもアダルトにならざるを得ないこんな話をどう記事にまとめたものかと首をひねっていると、その答えより先にある疑問がわいてきた。少し躊躇ったものの、ここまできたらこれも聞いてやろうと手を上げる。

 

「あの、これは本来の質問ではなく私の好奇心なのですが。お話は分かりましたが、それではご主人はこの先も実質独り身のままお過ごしになるんですか?」

「いえ、そうはさせません」

 

 眼鏡の奥の瞳に強い意志の光を煌めかせ、今日一番の強い口調で断言するハスキー。主人の為というのも確かにあるがそれ以上に彼女自身の私情と欲望も多分に含まれているのは明らかなこの会話の内容の高尚さがどれほどのものかはともかく、その真っ直ぐな気迫は記者も思わず居住まいを正すほどのものであった。

 

「そうならないために、今は……御主人様に対しこのような表現を使うのはあまり褒められたことではありませんが、言ってしまえば仕込みの段階です。今現在我々と御主人様がお過ごしになっているこの空間も、毎日のお食事やお飲み物も。急な変化で体調を崩さない程度に、ですが人間界とは比べ物にならないほどに魔力を込めています。時間はいくらでもありますので、日々魔力に慣らしていくことで少しずつ体を順応させ、御主人様の精神力と快楽耐性の底上げを行うわけです」

「そ、そんなことをやっていたんですか。それで、この空間を?」

「正確にはそれも目的のひとつ、ですね。あくまで主目的は誰の邪魔も入らず時間の流れも歪めたこの空間で、御主人様がお望みになる限りいつまでも過ごすことですから」

 

 今度こそ、記者は絶句した。いかに上位存在で神性の欠片さえも帯びているといえどもあくまでいちドラゴンの範疇であり、それこそ文字通りの神に分類される存在など上には上がいる中で彼女が用意したと考えればあまりに規格外な所業。その全てはあくまでも、たったひとりの人間を相手に過ごす日々のためだという。

 

「なんといいますか……愛が凄いですね……」

「お褒めの言葉、恐縮です」

「……ちなみにそれ、ご主人はご存じなんですか?」

 

 言葉を選びに選んでようやく出てきた無難な表現に悪びれることなくしれっと答えたハスキーに、薄々どんな返事が返ってくるか察しつつも恐る恐る問いただしてみる。

 

「いいえ、これは今のところ私どもによる独断専行、単なる我が儘です。ですがその、御主人様もお若い男性ということでそういった欲求もお持ちであることはもう調べが付いていますし、私どもとしてもやはり御主人様とはこうして日々を過ごせるだけで無上の幸福であるとはいえ、叶うならばよりお近づきになりたいといいますか、その……それに、もし御主人様が不快に思うようであればまた体内の魔力を少しずつ抜いていけば……」

「な、なるほど、よくわかりました」

 

 蛇がいることが見えている藪をつついた、その反応は案の定に露骨だった。先程までの迷いない毅然とした口調からはうってかわってしどろもどろに、露骨に目線を逸らして早口に言い訳を並べ立てはじめる。放っておくといつまでも続きそうなそれを強引に押し止めて、畳みかけるように質問を重ねて取材の方向を今更ながらに軌道修正する。

 

―――――それでは次の質問ですが、そんなご主人の一番の魅力とは?

 

 質問の意図が分かりかねますね。女が男を愛することに、メイドが主人を敬愛する事に、理屈がいちいち必要と?

 

―――――あのすみません、これ一応最年少のラドリーさんですらちゃんとひとつに絞って答えて頂いた質問なんですが……。

 

 む、そうでしたか。では……その誇り、でしょうか。

 

―――――誇り、ですか?

 

 はい。この世界に御主人様をお招きするよりも前のある時点から、我々は御主人様のことを一方的にずっと見ていました。天涯孤独な身の上で、自分のことは自分ですべて面倒を見て。それでも不平や弱音の類を口にせず、前を向いて過ごすその姿を見ていました。

 確かにそれは現状を変えようとする上昇志向や、目立った成功を収めるための原動力足りうる前向きなエネルギーではなかったかもしれません。けれどもそこには御主人様なりに自分の生き様に対して自分だけで責任を取り、それを背負って生きていこうという気概がありました。そしてそれは、今も変わりません。私どもを立ててその奉仕に身を委ねつつも、そこに溺れることなく自分の中でのある種の線引きを保ち続けており……。

 もし、もし仮に御主人様がドラゴンメイドの奉仕に溺れ甘く堕落した生活を送るような方でしたら、私どもの愛は変わらずともメイドとしての主従関係はおそらくは今とは違った形になっていたでしょう。選んだ御主人様を単に愛するだけではなく、メイドとしても敬愛できるというのは、とても幸せなことです。

 

―――――ありがとうございます。ではそんなご主人との今の生活にあたり、種族の格差がいい方向と悪い方向に出たことは?ただこのふたつに関しては、先ほどのお話でもう答えは出ている気がしますが……。

 

 そうですね。御主人様が我々に気を遣ってご自分からの催促をしていない現状、夜の奉仕を行うためにはこちらから声を掛ける必要があるというのに。それを求められていることを承知していながらもそ知らぬふりをして過ごさねばならないことは、この種族の違いが生んだ口惜しい不幸と言って差し支えありません。

 

―――――なんかもう、自分の欲を一切隠さなくなりましたね。

 

 そういう話をご所望でしょうから、それに取り繕う意味も特にありませんしね。そして希望的観測が持てるのもその逆、いざその時が来れば人間の雌では決して不可能なドラゴンメイドのご奉仕を思う存分味わっていただけるという点です。

 

―――――まさか最後の最後で、いい話から一転してこんな突っ込んだお話を聞けるとは正直思っていませんでしたがありがとうございました。

 

 

 

 

 

「それでは本日は、興味深いお話をいろいろとありがとうございました」

 

 広い玄関にて。帰り支度を済ませた記者が、館を出る前にずらりとお見送りに来たドラゴンメイド一同へと改めて礼の言葉を口にする。それを受けてパルラ、ティルル、ナサリー、チェイムが深々と礼をしたままこっそりと素早く視線を合わせ、阿吽の呼吸で何も言わずとも一歩下がる。唯一ピンと来ていなかったラドリーのメイド服の裾もさりげなくナサリーが引っ張ってやはり一歩下がらせたところで、ハスキーが丁重に口を開いた。

 

「いえ。先ほども言いましたが、むしろ貴重な機会を頂いたのは私どもの方です。むしろ私的な話を最後まで聞いて頂いたこと、感謝申し上げます。そして……」

 

 本来ならばメイド長として完遂すべき挨拶をあえて途中で切り上げ、代わりに隣へ視線を送る。スカートの両端をわずかに手でつまんで持ち上げることで別れの言葉を譲られたことへの感謝の意を示し、すいとラティスが一歩前に出た。

 

「お仕事、頑張ってくださいな」

「ありがと、持つべきものは親友だわね。それじゃあ、もうアタシがここに来ることはないだろうけど……」

 

 そう告げる記者の言葉は彼女の本音だ。ここは本来ドラゴンメイドたちとその主人の為に作られた楽園であり部外者があまり入り込んでいい場所ではない、そう今回の取材で彼女は理解していた。それに仮にまた来たいと望んだとしても、今回この空間を見つけるために大いに役立ったラティスのくれた痕跡が消えてしまえばそれも事実上不可能となる。それこそハスキー以上の格を持つ存在でない限り、彼女が閉ざした空間をゼロからは見つけられないだろう。そして、そんな相手が一体どれだけいるのかという話である。

 

「また外に出たら、ゆっくりお酒でも飲みましょう?うふふ、それまでお達者でね」

「せいぜい期待して待ってるわよ、そっちこそご主人とお幸せにね」

「……庭の空間に一時的な歪みを作りました。よろしければ、そちらを出口としてお使いください」

 

 個人的な挨拶が終わったタイミングを見計らってのハスキーの言葉と共に扉が開くと、外はすっかり夕暮れも終わりかけ。もはやその半分以上が遠くの山の向こうへと消えつつある夕日の最後の残滓を一瞥し、次いで庭の一角に開いた等身大サイズの空間の穴へと目を向ける。そちらに一歩踏み出しながら、記者は最後に手を振った。

 

「それでは皆様、長々と失礼しました!」

 

 そんな言葉を最後に記者の全身が穴の向こうへと吸い込まれるように消え、その穴も後を追うように揺らめいてふっと消える。その後も数秒間はお見送りの姿勢を崩さなかったドラゴンメイドたちだが、やがてゆっくりと息を吐きながらティルルが姿勢を元に戻した。

 

「ん……ふぅー……、終わりましたね」

「一時はどうなるかと思いましたけど、ハスキーちゃんの言う通りこれはこれで貴重な経験だったものね」

「そうそう、楽しかったぁ!」

 

 穏やかに相槌を打つナサリーと無言ながらに知らない他人相手に話したことへの精神的な疲労を隠せていないチェイムの横で、伸びをしながら明るくパルラが言い放つ。そんな彼女の頭を、ぐっとティルルが押さえつけた。

 

「ところで、パルラ?」

「わっ、ととと?何、何!?」

「あなた一体どんな態度で取材受けてたの?それに色々と好き勝手言ってたみたいじゃない、私すっっごく恥ずかしかったんだけど?詳しいお話、私にもぜひ聞かせてもらえないかしら?」

 

 思い返したらまた恥ずかしくなってきたのか、その髪のように頬を赤らめながら絶対に離さないとばかりにますます力を込めて指に力を込めがっちりと押さえつけるティルル。今度ばかりはいつものつまみ食い後に逃げる時とはものが違うと瞬時に察したパルラが瞬間的に頭を働かせ、こっそり屋敷に戻ろうとしていたラドリーへと咄嗟に目を止める。といっても、彼女を身代わりに立てようというつもりはない。さすがにそこまで血も涙もない所業をするほどパルラとて鬼ではなく、そもそもそんな真似をしたらいざ怒らせるとティルルより断然怖いナサリーが飛び出してくる。

 

「まあまあまあ、ほらお小言はご飯の後で聞くからさ、ねっ?マスターだってきっともうすぐ帰ってくるし、ラドちゃんもお腹空いたよね、お夕飯食べたいよね、ねっ?」

「えっ?……あっはい、お腹空きました!」

 

 急に出てきた自分の名前につい振り返ったところでパチパチと決死のアイコンタクトを送られ、その助けて!という雄弁な態度が伝わったラドリーが半ば流されるようにそれに乗っかって助け舟を送る……が、そんな小手先で誤魔化されるほどティルルもパルラとの付き合いは浅くない。

 

「おあいにくさま。確かに今日は私が料理当番だけど、私が取材受けたのはまだ2番目よ?余った時間でもう準備は済ませておいたから、ご主人様がお帰りになったら温めて最後の仕上げするだけなの!」

「ひぃーっ!?痛い痛い、痛いってばぁ!ごめん、ごめんってティルル!」

「パ、パルラさんっ!えっと、長らくお世話になりました……?」

「待って、見捨てないでラドちゃん!」

「あ、あの、皆さん……」

 

 彼女の握力で頭蓋骨がミシミシといいだした幻聴すらも聞きはじめ、実際それほどの力が込められていることを感じてギブアップとばかりにバシバシとその手を叩くパルラ。どうしたものかとその場でオロオロするばかりのラドリーが混乱のあまり別れの言葉まで口走り、その後ろではチェイムが何をどう止めるために誰にどう声を掛けるべきかとやはり控えめにオロオロしている。

 その上さらにそれを遠巻きに見ている仕方ないわねえという呆れ半分面白半分な様子のナサリー、そしてむしろ自分も混ざりたそうにうずうずしているラティスにはどちらもこの場の収集を付ける気がない事を察し、ハスキーは大きくため息をついた。ともかくこの場を自分の一喝で落ち着かせるため、軽く息を吸い……。

 

―――――ただいまー。随分騒がしいけど、何かあったの?

 

「御主人様!」

 

 折よく聞こえてきた愛しい声に、瞬時にそちらへ向きを変える。自分でも喜色がまるで抑えられていない声色だったが、それすらも今は気にならない。

 そしてその一声は、ハスキー以外にも極めて有効だった。自分たちの主人をお出迎えするため、館の正門へと現れたその姿へと駆け寄っていく。

 

―――――わ、ちょっと!?え、皆庭にいたの!?

 

 夕日の残滓が沈み切ると同時に、困惑した声が響く。それも無理はないだろう、本来ならば帰りを待つにしても館の中にいるはずのメイドたちが、なぜか一斉に庭から駆け寄ってきているのだから。自分も我先に駆け寄りたいところをメイド長のプライドでぐっと我慢し、普段ならば完全に体に染みついている気品のある所作を強く意識しつつあえて歩いて近寄っていく。そんな彼女の存在を認めて、彼も少し安心したようにその名を呼ぶ。

 

―――――あ、ハスキーさん……

 

「お帰りなさいませ、御主人様。お待ちしておりました」

 

 その尻尾がぶんぶんと振れるのを我慢するあまり時折ピクピクと後ろで痙攣しているのは、当の彼女本人だけが気付いていなかった。




ドラゴンメイド・ハスキー
普段は才色兼備で完璧超竜な淑女たるメイド長なのだが前々回の添い寝イベント、さらには前回の混浴イベントといいどうにも愛してやまない主人が絡むとあからさまにポンコツさが顔を出し脳内ピンク色になる傾向がある。それは他のメイドも大なり小なり似たり寄ったりではあるのだがなかなか行動にまでは移せない彼女たちと違いそこは昔取った杵柄と抗えぬ宝への強欲な本能、時として鋼の自制心をも上回る行動力の片鱗が顔を出すことがあるので余計に結果として出力されやすいようだ。とはいえあくまでも主人とおおっぴらにイチャイチャできる生活への到達とその維持こそが最大の幸せであるため、もしこの仕込みが終わるまでに我慢の限界になってしまったら自ら全身を鎖で縛り付けてでも彼を守る方を優先しようと本気で思っている。

主人
いつの間にか人外化しつつあった。しかし仮に本人がそれを知ったところでだから最近体の調子は右上がりだしなんか視力とかも上がってきていたんだなあ(納得)。別に人間であること自体にアイデンティティやこだわりはないし、なによりハスキーさんがそうしたいって思ってやる事ならいいんじゃないかなぐらいにしか思わない。

なんかひとりだけ全体的に生々しい話となったのはこれが以前の更新でも少し触れた、ドラゴンメイドでR付きの話をいつか書く時がもし来たらその際に使おうと思って考えていた超ご都合主義なエロ用設定の蔵出しも兼ねているからです。本来ならもうちょい直球の表現でやりたかったところをこれでも全年齢ということでアウト表現にならないよう、だいぶ言葉のチョイスには気を使ったんですが。
そしてごめんなさいハスキーさん、そんなのをせっかくの単独回にねじ込んじゃって……。
もう何度も繰り返してますが私はドラゴンメイド・ハスキーが一番好きなんですよ、これでも。

それではまた次回……があるのかないのか、あったとしてもいつになるやらですが、とにかくドラゴンメイドはいいぞ。
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