ガルチェア大陸・東ガルチェア方面にて、コロポニア王国を中心として東海岸諸国は近年例を見ないほどの経済的発展を見せていた。
最初は品質の良い刃物や農具などが齎され、壊れにくく丈夫な道具が流通して便利になったと思っていた矢先、あっという間に畑を耕してしまう鉄の獣が新たに運ばれてきてちょっとした騒動になる。
人間は元より牛などの家畜よりも力強く、耕作や切り開いてない土地まで畑を広げる事も出来るので大農家や豪商などがこぞってコロポニア王国へ向かった。
それもこれも、最近海の向こうから訪れたという異海の国から齎されたというのだ。
コロポニア王国を訪れた者達は、まず様変わりした港町の姿に驚愕する。
人間の手首ほどの太さの縄を巻き取って、先端の釣り針状の金具に吊るす大掛かりな装置が港町に備えられており、沖の方では島のように巨大な船が小舟に荷物を積み直してコロポニアの桟橋へと行き来する光景が広がっているのだ。
「ただ事ではない、何かが起きている」その情報を大慌てで祖国に持ち帰った商人や諜報員たちは、海の向こうから訪れた未知の民に注目し、更に情報を得るためにコロポニア王国に人員を送るのであった。
だが海の向こうから訪れた日本国はまだ本領すら発揮していない、これは様子見の小手調べ、それが終われば本格的な大陸の開発が始まるであろう。
『これがニポン国の地図か、なんて精密な作りだ』
『しかし、良いのか?これ程詳細で緻密な地図は国家機密に相当するものの筈だ』
『それが信じられないこと、ニポン国では一般的に流通しているものだそうで、彼らからすると隠すような物では無いんだとか』
唸りながら顎髭を撫でる貴族。
『ううぅぅむ、それにしてもオキノ海にこれ程大きな島国が存在するとは、何故今まで発見されなかったのか』
『こうなると、新たに領海の線引が必要になってくるな』
『まさか我が国を含めた大陸の沿岸部の測量まで行われていたとは、これが仮の地図とは信じられん、幾つか既知の島も確認されているが、ニポンとの距離はかなり近いな』
『だが、ニポンも実効支配出来ていない島が殆だろう?過去に訪れた漁師が休憩に使った記録が残っている。ニポン国の文明の痕跡自体無い無人島だ』
コロポニア王国の資料室で日本から提供された各種資料の調査を行うが、その一つ一つが自国にある資料よりも正確に書かれているので、日本の持つ測量技術に内心冷や汗を流していた。
日本国が確認している小島の中で未確認の島が無いか、目を皿の様にして見つめその多くが自国の漁師も利用する島、即ち領土を主張しても問題ない土地である事に安堵する。
だが、日本国古来より領土として存在する島、佐渡島のすぐ隣に看過できない文字が書かれていた。
『人魚島…だと!?』
『ばかな、漁師の間に伝わる与太話の類ではなかったのか!?』
すぐさまコロポニア王国は、日本国に人魚島の存在が本当なのか訴えた。
確かに佐渡島の近くに存在する島であり、そもそも日本の領海のかなり内側に位置するので、ごく最近自然発生した島として日本の領土に組み込まれたのだという。
『漁師たちの間で語り継がれている伝説がある、オキノ海に海の民の住居あり、その血肉に不老長寿の力有りと』
『つまりは、太古の昔から我が国の漁師が人魚狩りを行っていたという何よりの証拠!人魚島の領有権は我が国にある!』
『そもそも、貴国のサドガ島とやらには人は住んでいるのか?漁師たちが人魚狩りの休憩に使ったという小島の可能性もある、不当に領有権を主張されては困るぞ!』
売却された下級貴族の屋敷を改装した日本大使館にコロポニア上層部が押しかけると、日本から派遣されている大使は困惑の表情で応対した。
『落ち着いてください、佐渡島は新潟県に属しており、国道も敷かれたかなりの規模の村も存在します。貴国の言う人魚狩りの休憩に使ったという小島は恐らく別の島でしょう』
『では、何故貴国の主張する領海に既知の小島が存在するのだ!我らを騙そうとしてもそうはいかんぞ!』
日本の大使はため息をつくと、眼鏡に指を当てて修正し口を開く。
『…それでは、つかぬことをお聞きしますが、その人魚島は実効支配できていましたか?』
『は?い、いや何を』
『そもそも貴方達は、人魚島の民を海の民として認識しているわけで、島を実効支配していたのは貴国ではなく、その海の民ではないのですか?』
『だ、だが彼らは人間ではないはず。貴国は野山を闊歩する野生動物に土地の領有権があるとお考えなのか?』
その言葉を聞いた瞬間、日本の大使の眼鏡の奥の視線が鋭くなる。
『貴国は言葉を操り意思疎通能力を持つ部分的に人間に近い体の構造を持つ海の民を野生動物と同列に扱う了見であると、そういう意味でしょうか?』
『な、何を?』
『彼らは我が国の領土と隣接しており、どのようにしても我が国と関係を持たざるを得ないと判断し、我が国に亡命及び領土編入を希望しております』
『なっ!!!?』
『野生動物にこのような民族自決を下せる能力がありますか?更に言えば、貴方達の口ぶりでは漁師たちに伝わる噂話程度の話、つまり貴方達の言う人魚島そのものである確証は無いということです』
『だ、だがしかし現に人魚の肉が!』
『過去に人魚の肉を食して不老長寿とやらになった人間が居るのならば兎も角、その様な曖昧な認識で捉えていたのでは、到底島の位置を掴んでいたとは思えません。どの道、貴国の主張する領有権は無理筋と言うものです』
『む・・・むむぅっ』
『こちらも領土が丸ごと別の世界に転移してしまうと言う前代未聞な出来事に困り果てているところです。領海の線引に関しては今後話を詰めていくべきでしょう』
『転移?別世界とは?』
(コロポニア王国は情報共有すら出来ないというのですか…)
『その件につきましては既に資料を貴国に送付しておりますので、ご確認ください』
『ぬ・・ぬぬぬ、そうか済まない。この件について改めて協議しよう』
『ええ、勿論ですとも』
その後、人魚島の領有権に関する議題を王城に持ち帰った貴族たちは、日本が転移国家を主張している事の情報共有が出来ていなかった事や、先走りすぎて恥をかいたことを叱責され、より権限を持った大貴族が日本国との交渉を担当することになった。
そもそも国力差がネフィリア帝国以上に大きな日本国との領土交渉である、選ばれる者にも相応の格が必要である。
『むぅ、残念ながら致し方あるまい』
『大変有意義な議論が出来ました。これからもよろしくお願いします』
『……あぁ、互いに良き関係を築く事ができるよう願っているよ』
だが、交渉虚しくコロポニア王国は人魚島の領有権を得られなかった。
あまりにも日本国の領海の内側に人魚島がのめり込んでいた事と、原住民たる海の民が日本国の編入に前向きだった事が要因だったのだろう。
しかし、決定的に彼我の国力差があまりにも開きすぎているので、はじめからコロポニア王国が人魚島を領有する事は奇跡の親戚に過ぎなかったのである。
幸いにも日本国は此度の領土交渉で特に機嫌を損ねる事も無く、当初の予定通り交易は継続されコロポニア王国の経済的成長は続いていくのである。
「しっかし、東ガルチェア方面の孤島群は殆ど現地国家に発見済みかぁ」
「この惑星に後から入り込んだのは我々だから仕方がないが、短い夢だったな」
届いた測量データを眺めながら研究員が残念そうに呟く。
「見た所、航行技術は全体的にあまり発展していないからこの星の人類が未到達の陸地があるかも知れないし、早く調査を進めたいな」
「そうは言っても地球の国々と断絶しているから経済的に立て直すのが最優先だからな、だが可能な限り早く次の衛星を打ち上げないと立て直す機会を失ってしまう」
「ガルチェア大陸の橋頭堡は着実に完成に向かっている。これを足がかりに中央の国々とも国交を結ばねば!」
力む後輩にどこか青臭さを感じつつも、その先輩研究員はふと思い出したかのように最近編入された有人の島が記された資料に目を落とす。
「ところで、人魚の連中はどうなっているんだ?」
「ああ、既に簡単な日常会話なら出来る者も出始めているぞ、彼らの学習能力の高さには驚かされるよ」
「陸上生活は苦手そうだったが、良い関係が築けているならば問題はなさそうだな」
「そんな彼らを食おうだなんてガルチェア大陸の連中は何考えているんだか、仮にも人型の会話の可能な生物だぞ?抵抗はないのか?」
目をしかめながら忌避感を前面に出して人食いの習慣を非難する。
「それは、ほら、古代中国みたいな部分もあるから」
「……ガルチェア大陸で働く日本企業の職員にも一応注意喚起をしておくべきか」
未だに日本列島の異星転移と言う大災害の混乱は抜けていないが、それでも着実に日本はこの惑星エルメチスへと適応して行っていた。
まだガルチェア大陸・東ガルチェア方面の沿岸部の国々と接触しているだけだが、次第に日本から齎される物品などから中央ガルチェアの国々は大陸の外の国の存在に気づきつつあるのであった。
未だに戦乱が続くガルチェア大陸に齎された一つの変化は、混沌とした大陸の勢力図に何を齎すのか、この当時は誰も知らない。
1死に至る病に侵された帝国の皇帝が治療薬を求めて周辺国を好き放題→
2技術力に優れた国をガンガン取り込み医学知識も蓄積されるが治療薬見つからず→
3人魚の肉が不老不死の効果あり(とされてる)→
4日本列島まるごと異世界転移→
5日本海側に人魚島があり人魚達が亡命することで日本領土に編入される→
6沿岸部のまだ帝国に侵略されてない国に接触、異世界の大陸の橋頭堡として沿岸部の国と国交を結ぶ、海の向こうから島国が接触してきたという噂→
7交渉中に人魚島関連で領土問題に、沿岸部の国々が実効支配出来ていないことから正式に日本領土と認められる→イマココ!
8人魚島と日本の噂が流れ帝国に察知される→
9恫喝めいた領土交渉と生殺与奪の権を侵害する気満々の態度で交渉決裂→
10帝国が戦争ふっかけてくるも返り討ちに→
11帝国撃破、皇帝陛下しにたくなーい!(絶叫)→
12結局皇帝は末期がんで死亡、普通に国交結んでいたら手術が間に合ったかも知れない→
13大陸の国々や人魚を初めとした亜人達と交流を結び、共に発展していく(完)