廃墟を転々とするミサキが先生に対して独占欲を感じる話です。

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「先生、一緒に堕ちよ……?」

 ━━あぁ、痛い、苦しい・・・・・・辛い

 

 キヴォトスに点在する廃墟を転々として一体どれくらい時が経っただろうか、暖を取れる場所なんて殆ど無くて雨風を凌げるだけでも活動拠点として使う分には十分だ。

 怠い身体を起こして空腹なのに気づけば肉体の不便さを煩わしく思いながらも生きなくてはならない為に食べる物を探す日々だ、他の皆は大丈夫だろうか、リーダーは今日もバイトをしているんだろうな、アツコはああ見えて強かでしっかりしてるから大丈夫だろう、ヒヨリは・・・なんだかんだでかなりしぶとく生きてる筈、事ある毎にあの泣き顔が頭をよぎって自然と笑みが浮かび上がる、図太い精神ですぐに助けを求められるのはヒヨリの良い所・・・だと思う、そう思うことにした。

 

 そういえば今日は先生が様子を見に来る日だったことを思い出す。

全く、自分自身も忙しいだろうに毎回生活品を持って会いに来る辺り筋金入りの善人だと思う、仮にも一度は先生の身を危険にさらした側の人間なのだけど。

 そういえば一度だけ、腕のコレを増やしている所を先生に見られたことがある、その時の表情はリーダーが止めに来た時・・・或いはそれ以上の気迫を感じた、あの時もそうだけど案外私は自分が思うより周りから大事に思われているようで、それからは余り自傷行為はしないように心がけている、見つかった場合の説教が長いんだ。

 

 先生━━そう、先生だ。

 私の生活に深く関りを持つようになった大人、一度敵対したにも拘らず生徒として扱う大人、殆ど他人なのにも拘わらず私達を助ける為に自らの危険を顧みずあの女に啖呵を切った大人の人、そして今も・・・こんな自分の為に時間を割いて態々会いに来てくれる、優しい馬鹿な人。

 自分に何の得もないのに自分がやりたいからという理由で世話をしてくる、何度突っぱねても何度も来るものだから結局こっちが折れるしかない、だけど嫌じゃなかった、先生とのやり取りは暖かくて、安心する。

 

 何時からだっただろうか、先生とのやり取りを終えて先生が帰る時に名残惜しさを感じるようになったのは。

 今更言うまでもないことだが先生は多忙だ、過去に数回当番としてシャーレに出向いた事があるがその度に書類仕事をしていた記憶がある、生憎碌に手伝えた記憶はないが噂によればシャーレ当番の倍率はかなり高いらしいという噂を耳に挟んだ、まぁ先生と二人っきりで居れる時間が取れるのだから倍率が高くなるのも当然だろう。

 ━━そう、先生は他の生徒からも人気がある、誰にでも人当たりが良く優しく相談に乗ってくれる頼りになる、そんな大人の人、人気が出ない理由がない、だから理解してはいたのだ、あの優しい目は私だけに向けられることはないのだと。

 

 ━━苦しい・・・・・・辛い・・・・・・痛い

 最近、先生が他の生徒と話しているところを見た、それはいい、先生は私だけのものではないのだからほかの生徒とも楽しく話す事もあるだろう、それはいい。

 何度も言うが先生は多忙だ、そしていろんな生徒からも人気がある、つまりそれはあの暖かさや温もりに触れる機会はその生徒の数だけあるのだろう・・・・・・うん、先生は優しいから、そういうものなのだろうと思った、思うことにした。

 

 ━━嘘つき

 だけど偶にこんなことを思う、もし━━もしも先生のあの暖かさや温もりを、優しさを・・・・・・視線に写る光景を自分の物だけにできたのなら、それはどれだけ満ち溢れて、幸福な事だろうかと、そんなこと、出来る筈ないのにね。

 

 ━━嘘つき

 先生は、誰にでも優しいから、皆に平等に優しく接するのだろう、私は数いる生徒の内の一人にしかなれない、私だけの先生にはなってくれない。

 

 先生の事を思う度に胸が痛くなる、今自分がこうしている間にも先生は他の生徒にその優しさを振りまいているのだろう、そう思う度に胸が締め付けられたかのように苦しくなって、呼吸が荒くなって、視界がぼやけてしまう。

 

今まではこんなことなかったのに。

 

こんな思いを知るぐらいなら。

 

あの暖かさも、温もりも、優しさも、知りたくなかった。

 

 そうすれば、もっと、ずっと、気を楽にして生きて行けたはずなのに。

 

 でも私はもう知ってしまった、先生から施される暖かさや温もりも、優しさの味も、全て、知ってしまった。

 

 だけどこの想いが成就することはないのだろう、だけどずっと胸の中に秘めておいたら張り裂けそうで、それでも言葉にすることはできないのに先生には伝えたくて、だから先生━━

 

「先生、一緒に堕ちよ・・・・・・?」


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