高町なのはのIS学園見聞録外伝 我こそ、戦車道極めし者 作:ピロッチ
話は少し遡って…
日戦連が所有する訓練場にて合流した両校の戦車道部員達。
この訓練場は公式戦にも使用可能な面積を持ち、地形も平原、山地、崖に川もあり、
一角には本物の鉄筋コンクリート製建造物で出来た市街地が再現されている。
「それでは、今回の訓練内容はIS学園の車輌を仮想敵として実際の戦闘を行い、
実際の試合がどのような物かを把握して貰います。それでは、早速始めましょう!」
「「「「「はい!!」」」」」
一斉に乗り込む両校の部員達。
「いよいよ初訓練なの!ラウラ、索敵は任せるの!!」
「あ、あの…何故私が車長役を?私は特殊部隊畑なので戦車は未経験なのですが。」
「大丈夫なの!やり方は私が大体知ってるから兎に角敵を探すの!!
後はこっちで倒すの!いざと成ったら、アイパッチ外しても構わないの!」
「アッハイ。そこまで仰るなら信じましょう。」
ラウラはついこの間、何者かに違法システムを専用機に仕込まれ、
システムの作動によりトーナメントが中止に追い込まれた上、
口封じとして軍と国際警察に捕らわれそうになった所、
起爆したなのはが返り討ちにして力尽くで冤罪を認めさせた恩が有り、
その縁でなのはを狂信的に信奉していた。
「さて、このマニュアル本の真価が試される時が来たの!!
こちら1号車、キンガ、聞こえる?」
『こちら2号車、キンガ、感度良しでス。』
「今回の訓練はこの前私が作ったマニュアルが
実際に通用するかどうかのテストプレイ…。
一番経験豊富なキンガには悪いけど、私の指示通りに動いて貰うの!!」
『はい、宜しくお願いしまス。』
一方、大洗側は…
「西住ちゃん、作戦は?」
「まず、タシュの主砲でISー4相手に有効打になる箇所は
車体の後方と履帯位しかないので、タシュは今回陽動、挑発に徹します。
あくまで攻撃の要はイシュトヴァーンなので、
タシュは無理せずやられない立ち回りをお願いします。
と言っても、向こうも分かってると思うので、
市街地に逃げ込んで建物の陰に隠れて弱点を隠しながら反撃する等
対策を採ってくる筈です。」
「つまり、相手は初手で市街地に逃げ込もうとする可能性が高いんだね?」
「そういう事です。そこで逃げ込む前に叩きます。
タシュ各車は陽動、挑発に徹すると言いましたが、具体的には足下を狙って下さい。
履帯を破壊して動きを止めれば、そこで後ろに回って仕留められます。
もし駄目だったとしても、相手に丘を登らせて車体の下側か、
側面をイシュトヴァーンの真正面に晒させるなりすれば、後はお任せします。」
「分かったよ。」「任せて!」「応!」
「今回イシュトヴァーンの徹甲弾は全部高速徹甲弾にしました。
その弾なら車体前面の下側と砲塔側面なら大体1㎞、
車体側面も大体1.5㎞まで近づけば貫通可能です。
それと、いくらイシュトヴァーンの高速徹甲弾でも
砲塔正面と車体前面の上側は貫通出来ないので絶対に狙わないで下さい。
それで、何か質問がある人はいますか?」
「向こうの122㎜砲だけど、イシュトヴァーンの装甲は大丈夫?」
「ISー4の122㎜砲は確かに口径は大きいですが、
初速で下回るので貫通力はタシュの80㎜砲と同程度です。
イシュトヴァーンの正面装甲なら難なく跳ね返せますし、
実戦なら着弾の衝撃で装甲板が脱落したり内側が剥離して車内に飛び散って
戦闘不能になる可能性も有りますが、これは戦車道なので話は別です。
特殊カーボンライナーで保護されているのでその心配はありません。
おまけに向こうは弾が重い上装薬と一体じゃないので、
1発射つと装填に時間が掛かるので、その隙に間合いを詰めましょう。
正面さえ向けていれば、履帯か砲口に当たらない限り持ち堪えられます。」
タシュの80㎜砲の初速は毎秒870m強、
貫通力は500m先の均質圧延鋼に
そしてイシュトヴァーンの88㎜砲は初速が毎秒1,000m、
貫通力は同じ条件で凡そ220㎜、
また、毎秒1,130mの高速徹甲弾の場合は280㎜を超える。
一方、ISー4の122㎜砲は口径は現代戦車並みだが
初速が毎秒800mと向こうより遅く、
貫通力はタシュの80㎜砲と同程度しかない。
おまけに弾頭の重量は80㎜砲の8㎏に対し25㎏と3倍以上も重く、
装薬と一体化していないので、装填は恐ろしく時間が掛かる。
「成る程ね!なら安心して戦えるよ。」
「それでは、時間です。訓練開始!」
亜美の号令で訓練開始を告げる号砲が響き渡った。
1時間後…
「あ、あの~…西住ちゃん?」「な、何でしょう…?」
「何と言うか…その…全っ然ダメダメじゃん!」
「完璧に裏をかかれまくってましたね…。あはははは…」
何と戦闘訓練はIS学園側が2対8の不利を難なく覆して完封してしまった。
「というか、IS学園側の隊長さんに一言良い?」「何なの?」
「…お宅の射撃どんだけ正確なのよ!!
3㎞以上先から走りながら砲口潰すとか、絶対ズルしてるって!!」
「あ~…確かにあれはワタクシも引きましたわ。あんな芸当絶対無理ですもの。」
一体何が起きたのかと言うと、まず訓練開始直後になのは車が
3㎞超の超長距離行進間射撃でイシュトヴァーンの履帯を破壊して
3輛共走行不能になった所に砲口にも122㎜弾を叩き込んで主砲を破壊して
イシュトヴァーンを無力化。
残されたタシュ5輛がなのは車を警戒して追う隙にキンガ車が伏兵となり、
丘上から側面を取ってハルダウンからの砲撃でタシュを射ち捲る。
その隙になのは車が無力化されたイシュトヴァーンを挟んで反対側に回り込み、
みほ車を真っ先にズドン。指揮系統を潰された大洗側が混乱した隙に
キンガ車は市街地に逃げ込み、なのは車もそれに続く。
追う大洗側のタシュをなのは車がビルの隙間やら路地裏からの
行進間射撃で1輛ずつ仕留め、
そうこうしている内に履帯と砲身を交換して*2復帰したイシュトヴァーンも
市街地に入り込んだ所を死角に隠れていたキンガ車が背後から砲撃。
退路を断たれた上、固定式の駆逐戦車故車体ごと回らないと後ろが射てない
イシュトヴァーンが旋回中に
なのは車が路地裏を挟んだ向こう側から走りながらズドン。
これでイシュトヴァーンを全滅させてゲームセット。
この一連の流れを1時間足らずでやり仰せてしまったのだ。
そりゃなのは車の反則レベルの超精度の射撃をズルと疑うのも頷けよう。
「してないの!仮にISを射撃コンピュータの代わりに使って補正なんか掛けたら、
こんな物じゃ済まされないの!その場から一歩も動かずに履帯ハメを喰らわせて、
もっと短時間で勝ってたの!」
「いや~、言いたい事は分かるよ?分かるんだけどさぁ…
3㎞先の動く目標を走りながら射って当てるって、
冷戦終結以降の戦車を持ってきてやっと出来る芸当だからね?
私、高校時代15対1を逆転勝ちした事あるけど、あんな射撃絶対無理だし、
あんなのされたら、まるで敵わない自信があるんだ…うん…。」
なのはの余りの超精度の射撃に、本職の亜美ですらドン引きしていた。
「そう?ISの戦いは、もっと高度な射撃が要求されるんだけどなぁ…。」
「まあ確かに、ワタクシ共は補正込みとは言え
もっと高速で、立体機動を行う、より小さい目標と
射ち合う訓練を行って居ますが…。」
「う~ん、何かそう言われるとそう言う気がして来た。」
「西住先輩、経験者として俺等…というかなのはさんの戦い方、どうでした?」
「う~ん。何と言うか…兎に角『何処に居るかを悟られない』
『近付いている事に気付かせない』『来る筈の無い所から間合いを詰める』
『居る筈の無い所から砲撃する』そういう戦い方に徹している様な…
私の実家の西住流とは絶対に相容れないし、ライバル流派の島田流とも別物で…
敢えて言葉にするなら、『幽霊の相手をする様な試合だった』という感じです。」
「にしても凄ぇななのはさん!登校初日に千冬姉をタイマンで負かす位
ISも滅茶苦茶強いのに、戦車道もイケるクチだったのかよ?!」
「本当に有り得無いでス。今日初めて戦車に乗るのに、いくら初心者が多いとは言え
初挑戦で4倍の相手をここまで簡単に完封できるなんて…人とは思えないでス。」
「「「「「えええええっ?!!」」」」」
キンガの言葉にみほも含めて仰天する大洗側の部員達。
「た、た、た、高町さん、戦車に乗るの今日が初めてだったんですか?」
「はい、ミス・タカマチは戦車道初心者で間違いありまセン。」
「そうなの!私、戦車道の勉強は過去の凄いプレイヤーの試合記録を見て書いた
メモを清書したこの『マニュアル本』を暗記しただけなの!!」
「いや、それ何て人の試合だよ?!」
「えーと…■■■■って言うんだけど…知ってる?」
「え?いや…聞いた事無いんですけど…?
(あれ?おかしいな?何故か名前だけ聞こえなかった…。)」
「そう?親戚か何かだと思ったんだけどなぁ…まあ良いや。
そうそう、ラウラから一言言いたい事が有るみたい。」
「うむ。大洗の諸君に
普段の先輩後輩は関係ない。言いたい事を少しでも手短に伝える以上、
無線は命令口調で使え、それが鉄則だ。」
「うううっ、気を付けます!」
「という訳で、この『マニュアル本』が役に立ちそうだという事ははっきりしたの!
はい、これが私が書いた『マニュアル本』のコピーなの!
同盟を組む手前、ドクトリンは統一する必要があるから、
大洗・IS連合チームはこの『マニュアル本』通りに戦う事にしようと思うの!
これはそっちに進呈するから、今後はこの『マニュアル本』通りの行動が取れる様に
訓練を行う事を提案するの!!」
「そ、そうですか…。」
その夜…
「あはははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!」
訓練場の宿泊棟の一室からみほの笑い声が響き渡った。
「に、西住殿?!」
同じ部屋を宛がわれた優花里が驚いてみほに近づくと、
みほは真っ青になっており、目からは涙が溢れていた。
隣室の
華、麻子、沙織もその笑い声の異様さに慌てて駆け込んでくる。
「みぽりん、どうしたの?!」「人が折角寝てたのに…」「どうしました?」
みほの前にはなのはから譲られた「マニュアル本」が。
「西住殿は部屋に着いてからこの『マニュアル本』を
一心不乱に読み続けていたんですが、読み終わった瞬間…急に笑い出して…。」
「「「??????????」」」
どういう事か混乱していると、みほが口を開いた。
「あ…あはは…こ…これ…もし…この『マニュアル本』を完璧に使いこなしたら…
西住流も、いや島田流も…纏 め て 完 封 出来ちゃうんだ…あははは…。」
「「「「ええええええええええええええええええええええええええ~っ?!」」」」
「戦車道が…完成しちゃった…終わっちゃった…。戦車に乗った事も無い人が…
何もかも…何もかも終わらせちゃった…あは、あはははははははははははははははは
ははははっははははははははははははははははははははははははははははっはははは
はははははははははははははははははははははははははっはははははははははははは
はははははははははははっはははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははっはははははははははははははははは
はははははははっはははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははっはははははははははははははは!!!」
「だ、大丈夫か?!」「お、お気を確かに~!!」「しっかりしてー!!」
狂った様に笑うみほを見て大慌てする乗員達に目もくれず、
ひとしきり笑ったみほはばったりと床に仰向けに寝転がると、こう呟いた。
「なぁんだ…もう見つかっちゃった…こんな所に有ったんだ…私の戦車道…。」
「「「「??????????」」」」
翌日…
あの「マニュアル本」を読んで以来、戦車道にトラウマを抱えていたみほは
それまでの弱気だった態度が嘘の様に自信に満ちた少女になっていた。
「お早う御座います!!!」「やあ、お早うなの!!」
「はい、あの『マニュアル本』のお陰で私の戦車道も見付かりました!!
これで自信を持って戦車道が出来ます!!」
「それは何よりなの!!じゃあ、今日と明日で
基本を全部抑える気で合同訓練に励むの!!」
「はい!!…ああ、そうだ!」「何なの?」
「昨日高町さんが言っていた凄い人の試合記録…
昨日聞いた時は何故か名前だけ聞こえなかったんですが…何て人だったんですか?」
「ああ、プレイヤーの名前?…■■■■なの!」
「■■■■…う~ん、やっぱり聞いた事の無い名前です!
でも、親戚には違いないので、いつか家族に聞いて見ます!!」
「そうすると良いの!!それじゃ、早速訓練を開始するの!!!」
「はい!!」
そうして、この日と翌日の訓練は無事終了し、
両校の部員達は打ち上げで親睦を深めたのであった。
そして、打ち上げ終了後…大洗側の副隊長の杏が
突然IS学園側にやって来るや、こう切りだしたのだった。
「なのはさん!私達で西住ちゃん旗印に新しい流派作るよ!!」
「ちょ、ちょっと待って下さい!!何とんでもない事を軽く言ってるんですか?!」
「そ、そうだって角谷さん?!どうしてそうなるんだよ?!」
いきなりの提案に驚く一夏と箒。
「いやね、初日になのはさんが譲ってくれた例のマニュアル本を読破したら
西住ちゃんが人が変わっちゃってね。ほら、知ってるよね?
ウチは優勝しないと廃校になるって。」
「は、はぁ。」
「それで、文科省がウチを廃校にしようとする理由はね、
『大洗が部活動等で特に際立った成績を上げていない』からなんだってさ。
……こうなったら、そもそもの前提をひっくり返すしかない。」
「だから、流派を作るんですか?」
「そう。『高校生だけで戦車道の一流派を完成させた』。
これなら、廃校する理由は無くなる。西住ちゃんがね、言ってたんだ。
あのマニュアル本はね、『書いてある事を完全にマスターしたら、
日本二大流派を完封できる完成度』なんだって。
それだけの流派を作り出した学校を、廃校する理由が有る?」
「それは…まぁ…。」
「まぁ、なのはさんが家元でも良いんだけど、形式的にさ、
西住流家元の孫の方が旗頭として受け入れやすいし、
分家して流派を立てましたって事にしとけば色々楽じゃん?
何より、なのはさんはISが本業だから
戦車道にそこまでかかりきに成れないじゃんさ!」
だからさ、なのはさんに伝えてよ。『西住ちゃん頭にして流派作ろうぜ!』って!
向こうが『大洗が部活動等で特に際立った成績を上げていない』事を大義名分に
廃校にするなら、こっちも『戦車道の流派を創設した』って大義名分用意して
全力で文科省にあっかんべーを喰らわせてやろう!」
まるで週末の予定を決める様に計略を練ってきた杏。
その余りにとんでもない計画に、IS学園側は驚き呆れ、
なのはは大受けして笑うしかなかった。
「アーッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!!
それであの子に家元を押し付けるって!!おもしれーのっ!!」
「いや何処が?!そもそも未成年が家元なんて名乗って良いのか?!」
「大丈夫なの!!私が家元後見役と言う事で家元代行すれば良いし、
束さんと千冬先生も外部相談役として引きずり込めば、
文句を言える人間は日本中に物理的に一人も居なくなるの!!」
かくしてここに全ては決まった。こうして戦車道史の激流は動きだし…
今後の日本戦車道の行方を決定的に変えてしまった事変の幕は
斯くの如く上がったのであった。
「と言う訳で、西住ちゃん!流派を開いてくれ!」
「返事はハイ、うん、無言の肯定で頼むの!!」
「 」
そして、話は数日後の黒森峰女学園の学園艦に飛ぶ。
「あ、新しい流派を…創設した?!!」
「ちょ、何でよ!!あの子、戦車道から身を退いたんじゃ無いの?!!」
「私にも分からないです…でも、前副隊長はまだ戦車道を続ける気で…
ほら、これ!生中継で、今全国に記者会見の様子が流れてるんです!」
そう言って小梅がまほとエリカに見せたスマホの画面の中では、
今までに見た事が無い程自信に満ちた表情のみほが各局のカメラの前に立ち、
額縁に入った「鬼皇」の二文字を掲げ堂々とフラッシュの光を浴びながら
会見をこう締め括った。
「最後に改めて宣言します!日本戦車道に、家元は私一人居れば良い。
西住流、島田流、その他諸流…おしなべて…無価値!
何故なら、私は戦車道を武道と認めない!
私は戦車道を礼節に富み、淑やかで慎ましく、凛々しい女性を育てる武道ではなく…
『戦車と共に散って尚、戦いを求める亡霊と、
完成する事無く歴史の闇に消えた全ての戦車への鎮魂の祭儀』とする為、
ここに
原作未登場のAFV紹介 その7
シャールG1R
1936年にルノーD2の代替として開発が行われていた
フランス製試製中戦車。砲安定装置や半自動装填装置、
光学測距儀を備える等、当時としてはかなりのハイテク戦車となる予定だった。
※下記の数値は作中世界でのみ通用する数値で、史実と同一とは限りません。
寸法 車体長5.57×車幅2.94×全高2.80㍍
機関 ルノー製 V型12気筒ガソリンエンジン
「T13」 400馬力
最高速度 40㎞/時
重量 35㌧
乗員 4名
武装
主砲:40口径75㎜砲×1
機銃:7.5㎜機銃「MAC31」×2
装甲(単位:㎜)
防盾 60
砲塔 前面 側面 後面 天板
60/60/60/15
車体 前面 側面 後面 天板 底板
60/60/60/15/20