高町なのはのIS学園見聞録外伝 我こそ、戦車道極めし者 作:ピロッチ
作戦会議に集合したなのはの元に現れた老人、菊池左近次。
何を隠そう、彼はみほの母しほの父方の伯父にしてみほとまほの大伯父であり、
鬼皇流の原型となった西住輝鳳の養父だったのだ。
彼曰く「輝鳳はしほの妹だったが特別養子縁組にて自分の養子となり、
西住本家と法的に縁切りされた」身の上だったのだ。
そして、その彼の口から西住輝鳳の伝説が語られる事となる。
「大伯父さん、皆集まったよ。」
「IS学園学園側も、全員集めたの!私達3人以外はホログラム通信だけど。」
「ああ、ご苦労さん。それじゃ、ワシの知る限りでのあの子の事…輝鳳の事を話そうかの。
その前に、改めて自己紹介しておこう。ワシの名前は菊池左近次。
この度再建された大洗女子学園の戦車道部後援会で理事を務める事となった。
そして、ワシは西住みほの母方の祖父の兄であり、
これから話させて貰う西住輝鳳の父方の伯父にして養父だった男でもある。」
「西住輝鳳…私達の戦闘スタイルである鬼皇流の基本になった人ですね。」
「まず、西住輝鳳の血縁に関して説明しよう。あ奴は20年前に死んだワシの姪であり、
西住流の次期家元である西住しほの2つ下の妹として生まれた。
即ち、ここに居る西住みほの叔母と言う事になるな。」
「みぽりんの叔母さん…。」「20年前にもう亡くなってるんですね。」
「左様。そして日本の、否、世界の戦車道史上最強の競技者…それがあ奴であった。」
「史上最強の…戦車道競技者?」
「うむ。あ奴は途方も無く強かった。この世の誰もあ奴と戦車道で戦って勝った者はおらん。
生涯54戦無敗。そして、その54試合中唯最後の1度を除き、
一度も味方を撃破された事は無かった。そして、その全てをたった2年で成し遂げおった。」
「2年で54戦無敗?!」
「しかも、53戦は1輛もやられなかった?!」「強過ぎるでしょ?!」
左近次の語るその生涯戦績に驚きの声が上がる。確かにとても信じられる数字では無い。
「それだけではない。ワシの記憶が正しければ、あ奴は常に『たしゅ』1台に
『ちゅらさん』と『ずるいなー75』が2台ずつ、この5台だけで戦っておった。」
「ちゅらさん?ずるいなー?タシュは今乗ってるから分かるけど…。」
どうやら20年も前の事ゆえ、左近次は記憶が曖昧になっている様だ。
だが、優花里は正確な名に予想が付いたらしく、こう尋ねた。
「菊池さん!ひょっとして、トゥラーンⅢとズリーニィ75の事じゃないですか?」
「おお、それじゃ!良く分かったの。確かにそんな名の車輌じゃった。」
「それで…たった5輛で常勝無敗?
しかも54戦中53戦は味方が1輛もやられなかったって…化け物ってレベルじゃねえよ!」
「ホントに人間かよ…!」「と言うか、着いて来れるメンバーも化け物揃いだろ…。」
「全くだ。まずはあ奴がワシに養子入りする前の事から話そう。
これはあ奴の実父であるワシの弟から聞いた物ばかりだが、
幼少の頃から戦車道の才能は人を超えておったそうだ。
初めて戦車に乗ったのは7歳の時だったが、
同じⅥ号に乗った姉のしほがまるで敵わなかったりほを、
乗り方を教わって初めて乗ったⅢ号で主砲の中に砲弾を飛び込ませて一撃で撃破し、
危うく殺しかけたと言う。思えばそれがあ奴とりほの確執の始まりだったのかも知れん…。」
「うげっ…砲弾を主砲の中に射ち込んで、母親を殺しかけたって…!」「うわぁ…(怖気」
「そりゃ親姉妹から怯えられたって仕方ないな。」
「全くだ。だが、あ奴の恐ろしさはそれだけでは留まらなかった。
10歳になる前にはりほやしほは当然、師範と師範代は全員一騎討ちでは歯が立たず、
奴の乗るⅢ号を止めるのに、師範の免状持ちが乗るⅥ号B型1個小隊では足りず、
もう1個小隊を引っ張り出して刺し違えるのがやっとだったと愚痴っていたのを
ワシの弟が聞いておってな、弟が里帰りした際には良く聞かされたわい。」
「しょ、小学生の時点で師範2個小隊で互角って…。
お姉ちゃんや私なんか、中等部に進んでも一騎討ちで勝つのがやっとだったのに…。」
「いや、中学生の時点で師範に勝てる西住殿も十分凄いですよ。」
「うんうん。」
「そして、成長して黒森峰中等部に進んだ際、あ奴はとんでもない事件を起こしおった。」
「とんでもない…何をしたんです?」
「その年、防衛軍の前身だった旧自衛隊から特別講師が派遣されてな、
講義の一環で『現代戦車の進歩具合を披露する』と言う名目で当時の最新戦車だった
10式に戦車道競技仕様の改装を行った特殊戦車とのデモ戦闘を行う事になったのだ。
当然、中等部も高等部もだれも敵う筈が無い、無いのだが…
1輛だけ勝ってしまった者が居た。」
「それが…輝鳳叔母さんなんですね。」
「如何にも。奴は砲弾を機銃で叩き落とし、
例によって砲口から乗っていたⅢ号の砲弾を飛び込ませ、一撃で仕留めてしまったのだ。
そしてこの一件で、西住本家ではある問題が浮上してしまったのだ。」
「跡継ぎ問題…ですか?」
「そうだ。家元のりほは順当に長女のしほを跡目にする予定だったが、
一族の、特に若手連中の中には『才能で遥か上を行く輝鳳を後継者に』という声があってな。
このままでは西住家が真っ二つになると言う事で、りほは最後の手段を取った。」
「それが、特別養子縁組なんですね。」
「如何にも。15歳未満が対象の特殊な養子縁組でな。
この縁組が成立した場合、元の親との親子関係は法的に消え去り、
引き取り先が正式な実の親と言う事になる。りほはこの制度を使い、
表向きは『後継問題で分家親族から身の危険に晒され兼ねない』と言う理由で、
当時子の居ないワシの元に養子入りさせたのだ。」
「表向きは…?」
「左様。実質は長老勢による西住宗家からの追放だな。
仮にあ奴が後継となった場合、支持した若手連中の発言力が高まり、
長老勢がお払い箱に成りかねないと言う事でな。
何より、あ奴の戦いは密集体系による電撃戦主体の西住流とはまるで相容れぬ
長距離砲撃と隠蔽、奇襲を重んじる戦い方で、
りほの言葉を借りるなら、『幽霊の如き戦い』だったのだ。」
「確かに、鬼皇流も予想外の位置から隠れながらの長距離狙撃が主体なの!」
「当たり前だが、あ奴とりほはまるで折り合いが悪かった。
既に己の戦車道を確立したあ奴と先祖代々の伝統を重んじるりほは
凡そ親子とは思えぬ程不仲だった。時には手を上げられた事もあったが、
あ奴は一族で最も苛烈な女でな、りほがそんな事をした日には、
親だろうがお構いなしに足蹴にするわ顔を踏むわ、とかく容赦を知らぬ子だったそうだ。
一度など、しほに手を上げたのをあ奴が見かけ、
指揮杖代わりに持っていた模造刀で殴り付けた事もあったと言う。」
「お、親を蹴り飛ばして踏ん付けて、挙げ句に模造刀でぶん殴るって…。」
「暴力に訴える親も親だけど、倍返しを喰らわせる娘も娘だよ。」
「なんつう暴力一家だ…。」
聞いて居た部員達が呆れながら一斉にみほに視線を向ける。
「む、昔の話だから!それに、お母さんはそんな事しないよ!
お母さんは厳しいけど、それでもお姉ちゃんにも私にも一度も手を上げた事は無いもん!」
「そうか…しほはりほを反面教師にできた訳か…負の連鎖を断てたのは良い事だ。
まあそんな訳で、犬猿の仲だったあ奴を合法的に宗家から追い出したりほは
『西住流の関東進出の為、門下で最も強い者を尖兵として送り込む』と言う名目で
関東の、それも当時戦車道の存在しない女子高だった大洗に進学させ、
ワシ等親子はそれまで住んでいた八代から大洗に引っ越す羽目となったのだ。」
「何それ!実質島流しじゃない?!みぽりんの叔母さん一家が可哀想だよ!!」
とうとう憤りが爆発した沙織。声を張り上げてりほの行為に腹を立てる。
「みぽりんから聞かされていたけど、みぽりんの母方のお祖母ちゃん、ほんっとに最っ低!
そんな頃から身内を一人の人間として見る気が無い人なんだね!」
「落ち着け沙織。」「そうですよ沙織さん。これは私達が生まれる前の話なんですから。」
「華も麻子も、こんな話を聞かされて平気なの?!」
沙織の激昂は収まらない。
「言いたい事は分かる。だが西住家は私達とは違い300年近い歴史のある旧家だ。
歴史を絶やさない様に、後継問題で非情な措置を執らねば成らないのは仕方ないのだろう。」
「そうですよ。平気とは言えませんが、流派の家元である以上流派を守る為に、
流派の教えを違える人を追い出すと言うのは考えられる事だと思います。
ましてや、その人が自分達を超える才能を持っていたとすれば、
いつか取って変わるんじゃないかと不安になるのも仕方の無い事です。」
「む~っ!!」
ふくれっ面の沙織。どうにも納得いかない様だ。
「沙織…と言ったかの?お前さんにそう言って貰えるのは有り難い事だ。
まあ昔の話故、今は気にしてはおらんよ。で、話を続けるとな。
あ奴もこの縁組を聞き入れワシの養子となり、法律上の名は『菊池きほ』と成ったのだが、
その際縁組の条件として『ワシを伯父と呼び、生涯西住姓を名乗る事』
を聞き入れさせたのだ。『受け入れねば群馬の島田流に養子縁組を申し立て、入門するぞ』
と脅しまでかけてな。りほに対し、生んだ事実だけは隠させぬという
あ奴なりの抵抗の意思なのだろう。」
「ワァ…」「相当根に持ってますね。」
「そして大洗に入学したあ奴はその直前、名を変えておるのだ。
元々あ奴が生まれた時の名は、『西住きほ』だったのだが、入学に際しあ奴は
『輝』く鳳凰の『鳳』と書いて『輝鳳』と言う漢字表記を自分に付けたのだ。
そして、これが西住輝鳳の伝説本編の始まりとなった。」
「遂に最強伝説の始まりですね!一体、どんな暴れ振りを見せたんですか?!」
「うむ…ここから先は更に荒唐無稽な話となる。皆、着いてくる覚悟は良いな?」
「「「「「(無言で頷く)」」」」」
「…良かろう。では、あ奴が大洗に入学してからの事について話そう。」
差し出された緑茶を一口呷り、左近次は言葉を続けた。