高町なのはのIS学園見聞録外伝 我こそ、戦車道極めし者 作:ピロッチ
鬼皇流の原型となった西住輝鳳の伯父兼養父である菊池左近次から
西住輝鳳の詳細を聞かせて貰う事になった大洗・IS学園連合の一同。
人類史上最強の戦車道競技者である彼女は高2の時点で、
欧米各国のプロリーグ優勝チームを片っ端から叩き潰し、
世界の戦車道関係者を恐怖と絶望のドン底に蹴落とさんばかりの強さを発揮したのだが、
彼女の生涯最後の年となる高3の時、彼女は更なる伝説を築き上げていた。
「それでは、ここからはあ奴が高3に進級してからの事を語ろう。
えーと、キンガ…と言ったな。この年にお前さんのお袋さんが
留学先の東京の高校から大洗に転校させて貰い、
卒業した3年生…あ奴の先代の不良グループのリーダー格に替わり
戦車道部に入部した事は聞いておるか?」
「はい。この年で祖父の任期が終わってハンガリーに帰国するので、
最後の恩返しとして祖父の計らいで
その様な措置を取らせて貰えた事は母から聞いておりまス。」
「お前さんのお袋さん、相当才能があったらしいな。新入りだが忽ち実力を見せて、
全国大会直前には副長に上り詰めておったとあ奴から聞いておる。」
「そうですネ。唯、何故か帰国後は戦車道から身を退いていたので、
生で見た事は無いのですガ。」
「そうか…まあ、あ奴があの様な最期を遂げた以上、そうなるのは致し方ないのやも知れん。
まあ皆も予想は着くであろうが、この年も全国大会であ奴は優勝した。
当然、1輛の損失も出さずにな。」
「うん…まあ大伯父さんが自分で生涯無敗って言ってたし、当たり前だよね。」
「それだけではない。あ奴はその年の全国大会も1回戦でまた黒森峰とぶつかったのだ。
どうやら前回の雪辱を果たすべく、西住流が裏で手を回した様だな。だが残念な事に
流石に砲身叩き折り狙撃は対策していたが、そんな物で根本的な解決になる筈も無い。
不憫なのはあ奴とぶつかった時の黒森峰の隊長よ。しほが在学中右腕として信頼した姉妹でな、
2年次は姉、3年次は妹が隊長として率いていたが、高校時代、黒森峰の隊長としては
2人して1回戦負けという屈辱を味わわされた事になる。尤も、今はその姉妹も
西住流師範の免状持ちで夫もあり、娘は居ないが息子には恵まれた様だな。」
「菊池=サン。その姉妹って、もしかして茂武姉妹の事かな?」
「…その通りだ。お前さん、何処かであの姉妹に会っているのか?」
「会った事があるも何も、今コーチとして雇ってるんだけど。」
「何と…!やはり戦車道の業界は狭いのだな。
まあ、最早高校生では相手にならないのは分かり切った事であるから、
今更語る事ではないとして問題は大会終了後だ。プロリーグでも相手にならぬあ奴に対し、
『もう一つのプロ』が挑んできおったのだ。」
「もう一つのプロって…まさか…!」「現役軍人だったり…しませんよね?」
「いや流石にそれは無いでしょ。どんだけ性能進歩してると思って…。「そのまさかだ。」
「「「「「マジで?!!」」」」」
「その年各国の高等部戦車道全国大会優勝チームが招待された
国際交流合宿がアメリカで開かれてな。そこで現代戦車のデモとして
米国海兵隊が1輛持ち込んだ現役の戦車兵が操る
試合を行う催しがあったのだが…勿論、競技用戦車はWWⅡまでの旧型、
現代戦車の敵ではないのでどの国の代表も敵わない…のだが、あ奴は例外よ。
既に中等部の時点で現代戦車に勝てる奴にとって、そんな物逆に敵では無い。
チーム全員を出すまでもなく、一騎討ちで難なく勝ってしまったわ。」
「ですよね~…。」
「これに腹を立てたのが
戦車道後進国の、それも高校生の駆る旧式戦車に現代戦車が負けるなど認められん!として
海兵隊に『1個中隊を投入してリベンジしろ!』と命じて、
合宿最終日にあ奴にリベンジマッチを仕掛けたのだ。
あ奴はタシュ1輛に対し、米国海兵隊は
流石に誰がどう考えても海兵隊の勝ちだと思ったが…その程度ではあ奴には敵わなかった。
飛んで来る敵弾を機銃でバッタバッタと撃ち落とし、
砲口に砲弾を叩き込んでは1輛ずつ仕留め、その繰り返しで遂に返り討ちにしてしまったわ。」
「現代戦車1個中隊を…1輛で返り討ち…。」
「ね、ねえ、みぽりんの叔母さん、もう人間じゃなくて別の生き物でしょ…。」
「人間じゃ無いなら…戦車道星人…?」「「「それだ!!!」」」
とうとう本職ですら輝鳳にはまるで歯が立たない。
そして、遂に彼女は空前絶後、唯一無二の伝説を打ち立ててしまう。
「こうして、本職ですら自分に歯が立たないと知った輝鳳は、
その生涯最後となる試合相手としてとある一団を指名した。その相手の名は…。」
旧陸上自衛隊*1第7師団所属、第71戦車連隊だ。
「えっ?!」「旧自衛隊の…戦車連隊?!」
「本職1個連隊と試合したんですか?!高校生チームが?!」
「如何にも。向こうは当時の日本最新鋭戦車10式が74輛。
対してあ奴の手持ちはタシュ1輛、ズリーニィ75とトゥラーンⅢが2輛ずつの計5輛だ。」
「いや、いやいやいや!流石に無茶が過ぎますって!」「で、でも勝ったん…ですよね。」
「そうだ。あ奴は勝った。10式74輛に殲滅戦ルールで挑み、奴は勝ってみせた。
勿論、流石のあ奴も現代戦車1個連隊相手に無傷で勝てた訳では無い。
試合終了後、生き残ったのはあ奴の乗るタシュ唯1輛だけであったと言う。」
「……本職の、それも現代戦車1個連隊相手に…勝っちゃったんですか?たった5輛で?」
「もう滅茶苦茶だ!」
「何かもうさ…1個連隊に勝った西住ちゃんの叔母さんが凄いのか、
最後の1輛まで追い詰めた旧自衛隊が凄いのか分かんなくなってきたよ。」
「ねえ…もし菊池さんの養子になってなかったら…みぽりんのお母さん、
そんな人と比べられて、絶対おかしくなってたと思うよ。」
「先輩の叔母さん、もう化け物とか戦車道星人なんて言葉じゃ全然足りねえって!
もうなのはさんとタメ張るレベルの悪魔だろ絶対!」
「⌒*(◎谷◎)*⌒ん?」「アイエッ?!」「そうだ。その事だ。」
「その事?」
「うむ。今正にそこの若いのが言った通り、当時の人間も、
最早あ奴を人と思わなくなってしまった。曰く『魔人』だの『鬼』だの『魔王』だのと…。
そして、あ奴の影響が遂に戦車道その物を大きく蝕んでいったのだ。」
「蝕んで…何が起きたんですか?!」
「世界全体で、競技者が一気に目減りし始めたのだ。
『日本にキホ・ニシズミという悪魔的天才競技者がいる』
この事実が戦車道界に広まった事で、余りにも強すぎる天才の存在で心が折れ、
引退する者が世界各地で続出し、あ奴が台頭した2年間で
競技者は一気に2割減、日本に至っては3割も減ってしまったのだ。」
「え?!たった一人のせいで競技者が3割減?!!」
「無理も無いだろう。あ奴を野球に例えて言うなら、
『創設以来、ほぼ全ての試合をコールド勝ちで完全試合を達成したチーム』の様な物だ。
最初の1年は良くてもそんな物が2年3年と続けば野球はどうなる?
『どうせあいつらが勝つ』『野球の名を騙る公開処刑ごっこ』と人気ががた落ちして、
ゆくゆくは競技としての価値を失い消えて無くなるだろう。」
「た、確かに…。」
「そんな訳で、事態を重く見た国と国戦連が遂に動き出してな。
文科省がその年の秋、日戦連を通じて大洗戦車道部の全部員に引退を勧告したのだ。」
「え?!じゃ、じゃあ余りにも強過ぎて…国が力尽くで辞めさせようとしたのかよ!」
「そう言う事になる。だが、あ奴はその勧告に条件を突き付けたのだ。
『日本中の全流派の家元、次期家元、師範の免状持ち全員を集めて
殲滅戦ルールで一局勝負しろ、向こうが勝てば言う通りにする。
こっちが勝ったら全流派の家元を強制引退させ、日本の全流派を自分流で統一する。』と。」
「「「「「げっ!!!」」」」」
「それって…俺達鬼皇流と同じで、日本中の流派に宣戦布告したって事かよ?!」
「そうだ。あ奴自身、この時点で既に地球上の全チームから試合を拒否されて
もう戦える相手が居なくなってしまったのでな。
どちらにしろ、競技者として戦うのはこれで最後にする気だったのだろう。
この頃にはエルジェーベトは両親共々帰国し、あ奴も卒業後に備え、
当時の後援会と協力して国中から中古車輌を集めて回っていたからな。
かく言うワシも後援会の一員として協力は惜しまなかった。
なんだかんだ言って、自分の娘が戦車道の世界トッププレイヤーである事には変わらん。
ワシは今でもこれが誇るべき事であると疑っておらん。」
「じゃあ…大洗で見付かった車輌は輝鳳叔母さんが卒業に備え、
何とか大洗戦車道部を維持しようと当時の後援会と手分けして
必死にかき集めた車輌だったんだ。」
「成程ね。それらの車輌は今束さんが強化改修して、
予備装備としてこちらに保管してあるの!」
なのはの言う通り、大洗の戦車道部が再建された際発見された車輌は、
東雲特車がハンガリー製AFVを寄贈した際、改装計画をみほに提案し、
みほもそれに同意。その後、みほと相談した結果この様に改装された。
ドイツ製 フランス製
・Ⅳ号戦車D型→Ⅳ号戦車H型 ・ルノーB1bis→シャールB40
・Ⅲ号突撃砲F型→Ⅲ号突撃砲G型
・
旧チェコスロヴァキア製 米国製
・LTー38B/C型→クルップ38(D) ・M3リー→ラムⅡ後期型
日本製 英国製
・八九式中戦車甲型→改装せず練習用に ・MK.Ⅳ→武装を除去し物資運搬用に
・三式中戦車チヌ→三式中戦車チヌ改
「で、その条件を出された向こう側はどうしたんですか?」
「どの流派もあ奴を恐れ、志願する者はほぼ皆無であった。
りほやしほは生家と言う事であ奴の暴挙を止めるべく戦う気だったが、
他の師範がまるで名乗り出ず、このままではあ奴の不戦勝…と目された矢先、
あ奴は…あ奴等は死んでしまいおったのだ。」
「え?!そこで死んじゃったんですか?!」「何が有ったの?!」
「実に呆気ない物だった…あ奴が死んだ当日、当時の大洗学園艦の甲板下にあった
機甲科の燃料庫が突如爆発炎上してな…あ奴等はその時、
皆燃料庫の真上で車輌倉庫の清掃中だったのだ。」
「燃料庫が爆発?!じゃ、じゃあ…真上にいた叔母さん達は…。」
「うむ…皆、今や爪一片、髪一本たりとも…この世には残っておらん。
あ奴等が駆った…ハンガリー製AFV共々…灰も残らず…おおおおおおぉぉぉぉぉ!」
なんだかんだ言って自慢の娘だった輝鳳の最期を口にした事で
昔を思い出してしまい、慟哭の声を上げる左近次。
「お、大伯父さん、大丈夫?!」「も、もう無理に話さなくても宜しいのでは?!」
「そうなの!元はと言えば私達が勝手に教えてくれと頼んだ事だから、
無理に話す事は無いの!」
あのO☆HA☆NA☆SHI星人のなのはにここまで言わしめる程、
左近次の嘆きは深かったのだ。
「…いや、ワシの本意はまだ伝えられておらん。最後に、それだけは聞いて欲しいのだ。」
「大伯父さんの本意?」
「左様。まず、りほや年寄り共がみほを追い出した理由だ。
一言で言えば、奴等は第二の西住輝鳳の誕生を恐れておるのだ。
あ奴の死後、日本戦車道の第一義は『第二の西住輝鳳を出さない事』に集約されておる。
この国にこの20年間ハンガリー製AFVを使う高校がおらんのも、
大洗戦車道部が廃部されておったのも、全てはその一環よ。
何より、あ奴は仲間を撃破されずに勝つ事を何よりの誇りとしておった。
『僚車を失ったら戦術的に負け』と口癖の様に言うておったからな。
故に、勝つ事よりも仲間を救う事を優先したお前さんが
第二の西住輝鳳になるやもしれんと恐れ、その芽を摘む為に吊し上げて追い出したのだろう。」
「はぁ?!何だよそれ!自分で追い出した身内が無双しまくったのが、
そんなに許せねえってのかよ、西住流の老いぼれ共は?!」
「許す許さぬの問題ではなかろう。連中はあ奴に流派を乗っ取られ掛けたのだからな。」
「確かに。」「言ってみれば、今の私達と似た様な立場だからな…。」
「しかも、戦績は圧倒的に向こうが上…そりゃ恨まれても文句が言えないの!」
と、ここで杏がこんな事を言い出した。
「ねえ、これ私の勝手な推測なんだけど。
西住ちゃんの叔母さんが事故死したのって、もしかして…他殺なんじゃない?」「…?」
「考えてもみてよ。叔母さんって余りにも強過ぎて競技者人口を減らす、
言い方悪いけど、戦車道その物の癌に成り果てた人じゃない?
だからさ、世界中の戦車道関係者から相当恨まれてると思うんだ…だから…その…。」
「事故に見せかけて、爆殺されたって事?」「……うん。」
「………この際だ、はっきり言っておこう。実はワシも今言った意見と同じ考えだ。」
「えええっ?!」「大伯父さんも、叔母さんは殺されたって考えだったの?」
「そうだ。あ奴の死で得をする者は余りにも多い。
あれが仕組まれた物だったとしても、ワシは驚かんだろう。みほよ、その上で言うが、
お前さんがこの先全国大会を何処まで勝ち進められるかはワシには分からん。
だが、大会が終わったら身の振り方は考えておかねばならんぞ。
早い所戦車道からは身を退き、鬼皇流も解散した方が良いかも知れん。
あ奴の二の舞にだけはなってくれるな。そうなればここに居る者達の命では済まされん。
両親や姉も後追いしかねんぞ…ワシの弟の様に。」
「私のお祖父ちゃんが?…後追いって、お祖父ちゃんは自殺したの?!」
「そうだ。弟は養子縁組を強行した事でりほとは離婚したのだが、
あ奴の死を知り、その年の暮れに毒を呷ってな…。」
「そんな…!」
「まあ、公式の発表ではあの件は唯の事故として片付けられておる。
ワシもそうであってくれとは願っておるのだが、それでもやはり疑わしくて仕方ないのだ。」
「……………。」
「と言う訳で、ワシの知るあ奴の武名はこんな所だ。これで、満足して貰えたかの?」
「それはもう!生きて居たら、是非戦ってみたかったの!」
「「「「「ナンデ?!」」」」」「?」
「いや、ちゃんと聞いてたのかよなのはさん?!あんな滅茶苦茶な人…
かどうか分からん奴の伝説を聞いて真っ先に出た感想が
『戦ってみたい』って、頭おかしいだろ?!!!」
「あぁ~~~~~~~⌒*(◎谷◎)*⌒~~~~~~~ん?」
「ヒィィィィィィィィィィィィィィ!」
「こう言う所も…実にそっくりよの…。」
威圧感満々のなのはを見て、輝鳳を懐かしむ左近次であった。
かくして後援会再建の挨拶は無事終了し、左近次は帰路に就く事となるのだが…。
「さて、もう時間が来てしまった様だ。ワシはこれで帰らせて貰おう。
とその前に…最後にみほに渡したい物がある。」
そう言うと、左近次は一冊の分厚い本を取り出した。
それも唯の本では無い。小さな南京錠でロックされ、鍵がチェーンで繋がれている。
「これは…?」
「日記帳だ。あ奴がワシの元に養子に来た際に西住家から持ち出していた様で、
あ奴の死後、形見としてワシが預かっていたのだ。」
よく見ると、表紙には手書きで「西住ちほ」と書かれている。
「西住ちほ…?」「うむ。何でも先代の家元でりほの母親だそうだ。」
「じゃあ、私にとっては曾祖母ちゃん…にあたる人の日記になるね。」
「うむ。先人の貴重な資料だ。ワシは中を見た事はないが、
もしかしたら、何かの役に立つかもしれん。持っておくと良い。
少なくとも、一介の木工芸屋のワシが持っておくよりは為になろう。」
「うん、大事にするね!」
「では、今日はこれにてお暇させて貰おう。次は後援会の皆と共に大洗で会えると良いの。」
「うん!大伯父さん、今日は有り難う!カラダニキヲツケテネ!」
「「「「「有り難う、御座いました!」」」」」
こうして、一同に見送られて左近次は去って行った…。
この日記帳が、この後戦車道界に救済と惨劇を齎す事になる事はこの時まだ誰も知らない。
自衛隊を防衛軍に拡大再編している。