高町なのはのIS学園見聞録外伝 我こそ、戦車道極めし者 作:ピロッチ
鬼皇流の原型となった伝説の競技者西住輝鳳の事を聞かされた大洗・IS学園連合一同。
その余りに法外な強さに戦き、呆気なくかつ疑惑の残る死に疑問を抱きつつ、
左近次は去り際に西住流先代家元、西住ちほの日記をみほに託し大洗に帰っていった。
そして翌日、次なる相手聖グロリアーナ女学院との試合に備える一同であった。
「さて、次なる相手は高校戦車道4強の一角、聖グロリアーナ女学院である!
かの校はこれまでOG会の権勢強大にして、
主力装備も
今年は
東雲特車から受け、その戦力は甚だ強化されている!」
毎度おなじみ、ハードのお浚いから始まる作戦会議。
みほも普段はですます調なのに作戦会議の時だけはである調で話す癖がすっかり染みついた様だ。
「…自ら望んで行った行為とは言え、こうして実際に戦う立場となると震えが止まりませんわ。」
「まあ、全体の競技レベル向上の為に必要な行為だから仕方ないの!」
「そうだよ!それに戦うなら勝ちたいけど、
この試合は理屈の上では負けても問題ない消化試合だから、もう少し肩の力を抜いてさ…。」
「確かに、この試合は双方消化試合と言う境遇同士故、
精神的に余裕が出来るのは幸いと言えよう。
だが『戦車道は祭儀なり』をモットーとする流派であるからには、
手抜きは礼に悖る。その点だけは心して掛からねば。
では例によりハードの確認から入ろう。早速今大会の使用車両を確認する。」
早速今大会の聖グロの試合の映像記録が再生される。
尚、大洗・IS学園連合は他校の試合は全て束謹製ステルスドローンを用いて撮影している。
「今大会の過去の2試合、
聖グロは
「どれも17ポンド砲搭載車…火力は過去一だね。」
「17ポンド砲って言うと、この前戦ったコアラの森も装備してた奴か。」
「このA43、相当脚が速いですね。史実じゃ鈍足が嫌われて試作止まりでしたが、
この試合を見る限り倍以上は出てますよ。」
「その件ですが、聖グロはA43の主機をベッドフォードから
ロールスロイス・ミーティアに換装した事が確認されていますわ。」
どう言う事かと言うと、史実のA43試作車は40㌧級のA22を拡大した結果、
総重量50㌧を超える大物となったのだが、その主機はA22を踏襲した
最大出力たった350馬力のベッドフォードエンジンのままだったのだ。
当然その脚は極めて鈍重で、最大速度は路上でも僅か18km/時弱。
その余りの鈍足から開発陣は最大出力600馬力のロールスロイス・ミーティアへの
換装を考えたのだが、もし実行した場合関連する全ての機材も大幅に更新が必要となり、
それには相応の時間も必要となる事からエンジンの換装は断念された経緯があるのだ。
しかし現代の戦車道競技においては話は別だ。まして最初からミーティア搭載前提なら尚の事。
「A30、A41、まだ未投入のA39もミーティアを搭載しているみたいだから、
聖グロは車輌のエンジンが全部ミーティアで、主砲もA39以外17ポンド砲で統一してるのか。
結構効率的ですね。」
「コアラの森戦を見る限り、聖グロの戦い方はお嬢様学校とは思えないやり方も
厭わないみたいですね。ほら見て下さい。ルール上禁止されてないのを良い事に、
やられた戦車を盾にして中から燃料・弾薬を抜き取りながら戦ってますよ。
良く言えば不屈の、悪く言えばセコい戦い方も出来ると…。」
「仮にも4強の一角だから、そう言う経験値は多いんだろうな。」
「唯、戦いの場は市街地…というより、私達の地元大洗町全域なのは救いでしたね。」
「地元の戦車道後援会に、私達の勇姿を見せ付ける絶好のチャンスです!」
「と、言いたい所だが指揮を執る私の地元ならざる事は難点と言えよう。」
「「「「「あっ…。」」」」」
「もう一つ懸念があるのは、敵さん私達が怖くてA39を投入してこないかな?」
「ああ、それも有り得るな。コイツの32ポンド砲は厄介極まりないぞ。
初速1.5km/秒を超える
1.5km先の310㎜相当の装甲を射貫くWWⅡ当時の英国最強の対戦車砲だ。
余りにも弾が速すぎて斜面効果補正が無効化されるせいで、
17ポンド砲を完全にブロック出来た聖王の正面装甲とてこいつの前じゃベニヤ同然だ。
合計400㎜のIS-4砲塔正面なら何とか防げそうだが、
今度は逆に主砲のDー25Tで向こうの正面装甲が射貫けん。」
「A39を全部投入すれば、それだけでこっちは大迷惑ですね。
ISUー122BMを使うべきかな?」
「いや、市街地に、それも言い方悪いけど田舎町にA39を投入するのは無謀なの!
あんな長物、取り回しが悪すぎだし、視界の開けた町の西・南側…神山町と成田町は田園地帯!
夏の田畑を79㌧のデカブツが真面に動ける訳がないの!」
「私も同意見である。ましてや、A39は20km/も出せぬ鈍亀、
横や後ろに回れば一堪りも無い物を出しはしないだろう。」
「となると、A39はあくまで決勝トーナメント用の拠点防衛砲台代わり…と考えるべきか。」
「そうだとしても、残りの車輌も相当の戦力だぞ…
MBTの元祖A41を最大8輛出せるのはデカい。」
「しかしA41もかなり脚が遅い。地味に50㌧超えのデカブツだからな。」
「そう考えると50㌧超えが7輛か…かなりの重量級編成ですね。」
「聖グロは伝統的に重装甲の戦車を押し立てた浸透強襲戦術を好む傾向がありますからね。
今年は偵察要員のA30も防盾と砲塔正面装甲は100㎜超えてますから、
圧力は例年の比じゃ有りませんわ。」
「ではハード面はこの位にして、ソフト面も確認しよう。」
みほの声に合わせ、聖グロの主要メンバーの写真が並べられる。
「こちらが現隊長のダージリンこと田尻凜ですね。元々頭脳派で名が通ってましたが、
伝統的に権勢を振るっていたOG会が今回の大量寄贈で弱体化した影響で制約が緩和され、
大分自由に腕が振るえる事から、相当危険ですよ。」
「で、こっちは事実上の副長で隊長車砲手のアッサムこと
聖グロの潜入調査、情報収集活動を一手に引き受ける…私みたいなポジションの人ですね。」
「となると、学園艦にも潜り込んだりしてたかな?」
「もしかしたらそうかも知れないの!まあ、意味ないけど。」
「うむ、その為に陸上の仮校舎に一時移転したのだからな。
それにIS学園の警備システムは学園艦の比では無い。
精々人工島の外周から遠巻きに見つめるのが精一杯だろう。」
「そ、それなら安心ね…。」
「うむ。では他の主要メンバーも確認しておこう。」
かくして、大洗・IS学園連合が作戦会議を進める一方、聖グロリアーナは…
「とうとう、この時が来てしまいましたわ。我等4強と張り合える…
否、凌駕するであろう第5勢力との直接対決の時が。」
隊長のダージリン以下、メンバー全員お通夜状態で作戦会議に赴いていた。
そりゃそうだろう。どの相手校にも言える事だが寄贈元の筆頭株主が
直々に戦車に乗り込んで相手をするのだ。しかも、彼女達の父祖の地で爵位を授かった
本物の大貴族令嬢がである。ましてや5㎞彼方から一撃必殺の狙撃を喰らわせてくる
超凶悪スナイパーが同伴しているのだ。これで平常で居られる方がおかしい。
「勝敗が決勝T進出に関係ない消化試合というのはせめてもの救いだったわ。
ねえ、データをいくら入力しても勝率が0%って出るんだけど、
私何か入力ミスしてないかしら?」
「う~ん、特に入力ミスとか無いんじゃ無いですの?私そういうの良く分からなくて…。」
「あ、アナタに聞いてません事よ!」
どうやっても勝率無しの結果しか出ないアッサムに
後輩のローズヒップこと
「兎に角学園艦から陸上の仮校舎に移転して諜報の目を完全に防がれたのが痛過ぎますわ。
こちらが入手できた情報はオルコット嬢と隊長の西住みほだけ…。
せめてもの代わりにと大会前の旗揚げ戦として対薄田社戦の映像記録を入手しましたけど、
何度見ても滅茶苦茶ですの。3㎞彼方から初弾命中させてくるあたり、
本物である事はもう疑い様が有りませんわ。」
「でしょうね…。これに加えて偽兵、魔改造、サーチライトで目眩まし…
おまけに過去の2試合もデータになりそうにないわね。
一撃必殺と相手の作戦を看破してのやり返し…兎に角何をされるか分からないと。」
「あ、あの…ダージリン様?」「何?」
ここで隊長車装填手で次期隊長最有力候補のオレンジペコこと
何か言いたい事がある様だ。
「本当にA39は使わないんですか?」
「使わないんじゃ無いのよ。使えないのよ。総人口が学園艦の半分程度の地方都市に
要塞突破用の79㌧を走らせられるインフラがあると思って?」
「そ、それは…。」
「投入したとしても、脚が遅過ぎて聖王あたりに簡単に横に回られて一巻の終わり。
決勝T以降の試合で隘路を塞ぐ位しか役割はなさそうね。」
「…正直、私達詰んでません?」
「「「「「はぁ…。」」」」」
なまじ実力がある分、大洗・IS学園連合の力量が理解出来てしまった聖グロメンバー。
彼女達の明日はどっちだ?