高町なのはのIS学園見聞録外伝 我こそ、戦車道極めし者 作:ピロッチ
1輛も撃破される事無く全勝で1位通過。「日本中の流派に宣戦布告した高校生家元」、
「社会人リーグ優勝チームを完封した稀代の天才」
の下馬評に相応しい成果を上げたのであった。
試合終了後、みほを除く大洗側のメンバーは
全勝で1位通過出来た事の現実味を感じられない様子で、
双方の車輌が回収されトレーラーに積み込まれていく様を見ながら佇んでいた。
「勝っちゃった…グループリーグ戦、1輛もやられずに全勝出来ちゃった…。」
「高校戦車道の4強だったのに、こんな簡単に勝てるなんて…
ねえ…ひょっとして私達…強いのかな?」
「考えてみれば、私達社会人リーグ優勝チームにパーフェクト勝ち出来たんだから、
そりゃ他の高校から見れば強い…のかなぁ?」
「いやいや、私達が勝てたのは西住さんの作戦となのはさんの超長距離狙撃のお陰だよ。
全体的に見ればまだまだ初心者じゃない?」
「あ、そっか。」
こんな感じで大洗側は勝利の余韻に浸っている様で浸り切れていない状態だった。
一方、みほは何者かに声を掛けられる。
「おや、こんな所に居たので?」「あ、アナタはダージリンさん…。」
声を掛けたのは聖グロ側の隊長ダージリンだった。
「まさか1輛も倒せずにやられるとは…流石は鬼皇流の流祖家元と言った所かしら。
社会人リーグ優勝チームを完封したお手並み、見事と言う他ありませんでしたわ。
それにしても日本中の流派に宣戦布告した『茨城の魔人』がまほさんの妹で、
黒森峰の元副長だったとは…さぞ恐ろしい方だと思いましたが、随分控え目な方だったのね。」
「そうですね。ただこれでも前よりは自分に自信が持てる様になったんです。
私、こっちに転校するまでは『西住の子らしく』って躾られて、
自分でもそうするのが自分の為なんだって思ってたんですけど、ああ言う事があって
こっちに転校してから戦車道部の隊長を任されて、IS学園の人達と交流している内に、
『これが私なんだって自信を持って言えるなら、もう「西住の子」らしくなくったって良いや』
って思える様になって来て…
で、こうして鬼皇流を立てて日本中の流派に宣戦布告してからは
もう何と言うか『こんな事言ったら相手がどう思うかな』と言う事が気にならなくなって来て…
それからは実家から勘当宣言されるのも、本家筋を戦車道界から蹴り出して
実家の最大の敵認定されても、まあいいかで済ませられる位どうでも良くなったんです。
そんな事より自分の戦車道を磨いて、確立する事の方がずーっと大事ですから。
それに最初の試合の後、次期家元の母が自分が代替わりしたら
『勝つ事が全て』の方針を改めて、勘当も撤回して分家を許すって言ってくれて、
これで西住流とは共存の余地が出来るかも知れないと希望が見えて来たんです。」
「ええ、良く存じておりますとも。あんな物を見せられたのでは、そうせざるを得ませんわ。」
「…それって、最初に戦った三千里での5km狙撃一発KOの事ですよね?
IS学園側の隊長さんで私の後見人なんですけど、やっぱり、そんな物なんですか?」
「(高校生が高校生の後見人?)それはもう。
あの時実際に観戦致しましたが、アレを見て皆で震え上がりましたわ。
まあ、実際の試合場がここだったので杞憂に終わりましたが。」
「そうだったんですか。まあ、私も合同訓練で2対8なのに酷い目に遭わされましたから。
その日が初乗車だって言ってたんですけど、絶対嘘だと思います。
…相当鍛えてますよ。あの人。担任のブリュンヒルデ先生と同じ年なのに
高校生やってるって事は…もしかして…『本物』の経験者かも…。」
「本物…実戦の事ですね。…有り得そうなのが怖い所ね。
だとしたら、こんな結果も納得できますわ。」
「ああ、それと、IS学園繋がりでオルコットさんがお話があるそうです。ほら、あっちに。」
「……えっ?」
ダージリンがみほの指す方を見ると、IS学園の制服姿のセシリアが待ち構えていた。
「こ、これはこれはオルコット女伯!御自らの御出馬、誠にお疲れ様です。」
「態々御丁寧にどうも。ただ爵位はまだ継承しておりませんのでそこはお間違えなき様。
それはそうと…我が社が寄贈した車輌、大変御好評の様で何よりです。」
「そ、それはもう。A43の主機をミーティアに換装して投入車輌全て主砲と主機を統一した
新戦力のお陰で、般若騒動で強化された各校相手にも対抗できそうですわ。
OG会も多少は大人しくなったので、今後我が校の機甲科は風通しが良くなりそうです。
それもこれも、ミス・オルコットの御威光のお陰様です。」
「あ、あのダージリン様がペコペコしてる…。」
「こんな光景、今の車輌を寄贈して貰った時以来です。」
聖グロ側にとっては自分達の先祖のルーツの地で爵位を授かった大貴族の子。
ましてや、今装備している車輌の寄贈主ともあれば誰も頭が上がらないのは当然である。
「大変結構!それと、大洗タワーにいたそちら側の偵察要員の身柄をお返しするので、
お連れ帰りの程を。…ではボーデヴィッヒさん、例の人達をこちらへ。」
「さあこっちだ、もう少し歩いたらお味方の隊長の前に出るから手を離すなよ。」
セシリアがラウラに声を掛けると、アイマスクで目隠した聖グロ側の偵察役の女生徒3名が
ラウラに手を引かれてダージリンの前に連れて来られる所だった。
「はい到ちゃーく!では、もうアイマスクを取っても良いぞ。」
ラウラの声で偵察要員がアイマスクを取るや否や、3人揃ってダージリンに泣き付いた。
「「「ひーん、ダージリン様ー!」」」
「全く…3人も居て何も出来ずに纏めて捕まるとは、何をしていたんですの?(怒」
「すいません~!首筋に何かが当たったと思ったら何故か眠ってて、
目が覚めたら目隠しと猿轡までされて、縛られてたんですー!」
「ふん、運と相手が悪かったな。いかな戦車道部員とて現役の陸軍士官をどうこうは出来まい。
これに懲りたら我等相手に乗員を下車させて何かさせるなど考えない事だ。」
「え?」「ちょっ…。」「………………はい?」
「んん?何かおかしな事を言ったか?」
「…………ま、まさか本当に現役軍人を参加させていたとは…。」
「噂には聞いて居ましたわ。よくもまあ連盟がお許しに成った物ですね。」
「ま、まあ確かに私は現役の陸軍士官だが、安心するが良い。
私は特殊部隊畑で戦車は素人なんだ。」
「「「(…そう言う問題じゃないんだけどなぁ。)」」」
「まあまあグロリアーナの皆さん。こう言う時こそ、
ブリテンに伝わるこの格言を思い出しましょう。
『
「…………………。」
こうして、Dグループ最終戦、大洗・IS連合対聖グロリアーナの試合は、
聖グロ側にとって勝ち所かお株まで奪われる散々な結果に終わったのであった。
そして、双方の撤収準備が完了した所でみほ達に千冬が声を掛けた。
「諸君、1位通過おめでとう。諸君等には一旦学園艦に集合して貰う。明日の夜に
後援会の再建祝いと決勝トーナメントの壮行会を兼ねた宴会がホテルであるとの事だ。」
「「「「「おお~!」」」」」
「当然我々IS学園の者も招待されているとの事なので、
翌日は共に勝利と更なる躍進を祝おうではないか。」
千冬から告げられた再建祝い兼壮行会の知らせに一同が感嘆の声を上げる。
かくして、大洗・IS学園連合一行は学園艦へと向かうのであった。
一方その頃熊本の西住家では…
「おーいしほ、君宛に荷物だって!」
「私宛に?」
「ああ。菊池左近次って人から、こんな小包が届いたんだが…」
常夫から左近次の名でしほ宛に届いた小包を渡されるしほ。
この2人は20年前に自殺したしほの父の葬儀以来顔を合わせて居なかった。
「左近次伯父様が?まあ懐かしい、この20年名前すら聞いた事も無かったのに、
どういう風の吹き回しでしょう?」
「左近次伯父様?」
「父の兄です。ほら、私の両親は常夫さんがここに婿入りする前に離婚していて…
伯父様とは20年前に死んだ父の葬儀以来、ずっと会っていなかったのです。」
「ああ、そうか。…何を送って来たのかな?」
「兎に角開けてみましょう。」
そして、しほが自室で小包を開けてみると…
「こ、これは?!」「日記帳?」
中から現れたのは1冊の古い日記帳。その表紙に書かれた名前は「西住ちほ」。
「西住…ちほ?親戚か誰かかな?」
「私が生まれる前に亡くなった祖母です。何故祖母の日記を伯父様が…?」
「んん?何か紙が…」
小包にはしほの祖母、ちほの日記帳と共に左近次の字で
「自宅を掃除中に見付けたので、本家に返す事にした。
誕生日プレゼントと思って受け取って欲しい。」という旨のメッセージが添えられていた。
「ああ、そうだった。今日は私の誕生日…。伯父様、覚えていて下さったのですね。」
「そうだね。この日記は夜にゆっくり読むと良いよ。」
「そうさせて貰いましょう。」
その夜、しほは夕食後自室で祖母の日記を読み耽っていた。そして…
「は…はははっ!…はははははははっ!やった、これで…これで西住流は救われる!
待っているが良い老いぼれ共…これで皆纏めて叩き出し、
西住流は私の代で有るべき姿を取り戻すだろう!…ははははははははははははははっ!」
この日、しほが本懐を遂げんが為の究極兵器が遂に彼女の手中に収まってしまった。