高町なのはのIS学園見聞録外伝 我こそ、戦車道極めし者 作:ピロッチ
「あれ、角谷さん、冷泉さんは?」
「ああ、西住ちゃん、丁度良い所に!
今彼女から連絡があって、『お祖母ちゃんが入院したから見舞いに行く』と。」
「えっ?入院?」
アンツィオ戦の翌日、杏の口からみほの元に「あんこう号操縦手の麻子に
『祖母の久子が倒れた』と言う知らせが入った」という連絡があった。
「今は水戸中央病院に居るそうだ。ここは一つ、見舞いに行ってやってはどうだ?
茂武コーチも『そう言う事なら』と言って下さったんだ。」
「そうですね。なら、あんこう号の他の乗員も連れて行ってきます。」
そうして桃の言葉に甘える形で水戸中央病院に到着したあんこう号の乗員達だったが…
「もういいから帰りな!!」
病室の前まで来た所で、何が不満なのか久子が憤激していた。
「いつまでも病人扱いするんじゃないよ!
あたしの事はいいから学校行きな!遅刻なんかしたら許さないよ!!」
とても倒れたばかりの病人とは思えない程元気そうなのは気のせいだろうか?
恐らくは血圧の上がりすぎで倒れたのだろう。
「なんだいその顔?人の話ちゃんと聞いてのかい!
全くお前はいつも返事も愛想も無さ過ぎなんだよ!!」
「そんなに怒鳴ると血圧が上がる……。」
先に見舞いに来ていた麻子も辟易しながら落ち着かせようとしていた。
「…こんなに元気なら、お見舞いに行く必要無かったりしません?」
「いえ、折角来たんですから。ここは突撃です。」
「…五十鈴殿って結構肝座ってますよね。」「じゃあ行きましょう。失礼しまーす。」
みほが扉をノックして入室すると…
「あ、華!みぽりんにゆかりんも!」「皆…。」
部屋には先に来ていた沙織と麻子、そして入院した久子が居た。
やはりと言うか、何と言うか、とても入院したばかりとは思えない程元気そうだった。
「おや、どちら様だい?」「ど、どうも。冷泉さんの同級生です。」
「ああ、例の戦車道をやってるって…
おや?あんたひょっとして、記者会見でオリジナル流派を旗揚げしたとか言うあの…。」
「あ、あれ?御存知なんですか?はい、そうです。鬼皇流流祖家元の西住…西住みほです。」
どうやら、久子は孫が戦車道をやっていた事を今の今まで知らなかった様だ。
確かに麻子は極度の低血圧なので、モータースポーツの道に進むなどまるで思いつきもしない。
「私達、全国大会のベスト4に進出して、
次の相手は前回大会で優勝した青森のプラウダって所なんだって。」
「そうかい、そりゃ結構だ。で、そんな大事な時期に何だって
皆してぞろぞろとこんな所に来るんだい?」
沙織からベスト4進出の知らせを受けても、久子の反応は素っ気ない。
「そんなの、試合が終わった後お祖母が倒れたって連絡が来て、心配になってお見舞いに…。」
「どうせあんたを心配してくれたんだろ。…後でちゃんとお礼を言っときな。」
「………うん。」
「いやー、久子お婆ちゃんってば今朝まで意識が無かったんだけど、
目が覚めるなりこれなんだもん。」
沙織も久子が元気そうな様子に半分呆れていた。
あの調子なら、まず曾孫の顔を見て往生出来るだろう。
「兎に角寝てなんかいられないよ!明日には退院するからね!!」
「いやだから、まだ無理だってお医者さんが…」
「何言ってんだい!!こんな所で寝てなんていられないだよ!!」
「お祖母、皆の前だからそれ位に……」
「まあそう言う訳だから、あんた達もこんな所で油売ってないで、
戦車に油でも差したらどうだい?」
「はぁ…他の部員の人達がやってくれるみたいなんで。」
「お前もさっさと帰りな、どうせ皆さんの足を引っ張ってるだけだろうけどさ。」
「そうでもないですよ?操縦はチームでも一番ですし、
急斜面の逆落としも楽々こなしてますから。」
「戦車の操縦出来たって、お金には成らないだろう?防衛軍に入ったんならいざ知らず…。」
「そう?競技用戦車を作ってる会社のバイト社員として給料貰ってるんだけど…。」
「はえー、わざわざそんな物を作る会社があるのかい?そう言う時代なのかねぇ…。」
「世の中そんな物だよ。じゃあねお祖母、
決勝進出出来たらまた来るよ。…皆、帰ろう。」
「そ、そうですね。お元気そうですし、ここは帰りましょう。」
「そ、それじゃ、失礼しました。」「お、お大事に~。」
「はいはい。……あんな愛想のない子だけどね、よろしく。」
かくして、あんこう号の乗員達は中央病院を後にするのであった。
久子の見舞いの後、みほ達は他の部員と合流して次の試合会場へと向かう途上にあった。
「麻子さんのお婆さん、思ったより元気で良かったね。」
「そうですね。あれだけの寝ぼすけな冷泉殿がどうしても落第出来ない。
って言う気持ちが分かりました。」
「うん、私の両親は小学生の頃に事故に遭ってさ…
それ以来、私の家族はお祖母だけなんだ……。」
「そうだったんですか……。」
思えば、自分は祖母に縁切りされた報復で祖母から家族を奪おうとしている。
対する麻子は祖母以外の家族を亡くし、祖母と二人きりで生きてきた。
「(良く一緒にやって来れたなぁ…。何はともあれ、次に備えよう。)」
一方その頃熊本では…。
「…そうですか。これが、筆頭師範が伯父様から贈られてきたと言う『究極兵器』…。」
「確かに、コレを見せられてしまったら、西住流は確実にひっくり返りますね。」
現家元のりほが通院中、西住邸応接間にてしほと相対するのは黒森峰OGの大学生、
高校時代は西住流門下生では無かった真波だが、大学進学後は正式に入門し、
将来訪れるであろうまほ時代の重責を担う幹部候補として育て上げられている。
そして机の上には半世紀前に鬼籍に入った先代家元、りほの母、ちほの日記が置かれていた。
真波と瑠奈は今し方その中身を見せられ、血の気が引いていた。
「ええ。今の西住流ではみほ率いる鬼皇流に…
いや、家元後見人を名乗るあの女…高町なのはには敵わない。
次の試合で相対するは黒森峰の宿敵プラウダ高…もしもその試合でプラウダが大洗に敗れる…
それも、他校同様1両も倒せずに負けを喫する様な事が有れば、
その次の決勝で黒森峰は現在米国で訓練中のIS学園と合流した
みほ達と戦う事になるでしょう。…静岡の富士東演習場で。
そしてそうなった場合、待っているのは…。」
「ええ。あれは…正直規格外過ぎる。」「あんなん避ける所か、気付けもしないって!」
高校戦車道の全国大会決勝戦の舞台は静岡県駿東郡小山町の富士東演習場と決まっている。
なのはが対三千里農高戦で見せた超超長距離狙撃し放題だ。
そんな所で西住流の教えに倣い、真面に正面からぶつかれば…
「その後は言うまでも無いでしょう。
『高校全国大会で、全7試合をパーフェクト勝ちで初出場初優勝』
この快挙をみほが達成すれば、メディアは確実に取り上げる。そして、
『犠牲無くして勝利無し』をお題目にあの子への吊し上げを働いた家元や分家親族は
門下に出鱈目を吹き込み続けていた事が世間に明らかとなる。…この意味は分かりますね?」
「西住流の…終わり…。」「…マジかよ。じゃ、じゃあどうするんで?」
「その前に、こちらから家元を終わらせます。私は近日中に対鬼皇流の予備対策集会と称し、
師範と師範代の免状持ちを招集します。その場にて先代の日記を公表し、
その事実を以て現家元への引退勧告への署名を募り、
然る後、家元及びOGや親族も参加する本会議にて正式に引退を勧告し…
家元の座を私が奪います。」
「つまりクーデターを起こすと?」
「クーデターでは有りません。これは『自浄』です。」
「自浄。」「成程ね。さっきの予測通りになる前に家元を叩き出せば…」
「その通り。『家元の子世代が家元世代の旧弊と誤認を糺してこれを追い出した』
この様子を決勝戦開始前に世間に見せれば、これでまほが負けても
『実家の世代交代で流派その物が動揺していたから』と言い訳が立ち、
そもそもの発端の原因も『家元に孫を見る目が無かっただけ』と言う事に成り、
『西住流は旧世代が老害化してもしっかり自浄作用が働く流派なのだな、感心感心。』
と世間から評価され、流派の受ける傷は小さくなります。
何より、これで西住と鬼皇に共存の余地が出来る。みほもそう明言しています。
世間に見せる筋書きはこれで良い。」
「成る程…で、私達のやるべき事は…?」
「二人には、事が成るまでの護衛を頼みます。
何かあった場合は、女中頭の菊代共々私の乗車の乗員も担当して貰います。」
「謹んで、お引き受けしましょう。」「任せて下さい!」
「宜しい。2人には大会終了後は対鬼皇との他流試合にも
1輛ずつ率いて参加して貰います。映像だけでは分からない実体験で、
あの子の実力が何処までになったのか判別して貰いましょう。」
「「お任せ下さい!」」