お姉ちゃんがやってきたよ、ツルギ   作:ふぃーあ

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転入成功だよ、ツルギ

 茶会が開かれる、緑豊かな庭。青空を望める白のテラスに置かれた席。そこには、茶会を囲みながらも、同じ方向に目線をやる三人の少女たちがいた。

 

「ティーパーティーの皆様におかれましてはお元気でなにより。留学生として参りました。これからお世話になりますね」

 

 黒に金の細工の施されたトランクを傍らに置き、恭しく言葉と共に一礼する。身長は150cmほどもあるか、ないか。そのような少女が、三人の少女……トリニティ総合学園生徒会『ティーパーティー』に参画した各派閥を代表する三人の目線を一身に集めていた。

 

「えぇ。どうぞよろしくお願いいたします……ところで、事前に提出いただいたこちらの書類……全て真実ですか?」

 

 そう紅茶の入ったカップを傾けて一息ついてから、口を開いた少女は、すました顔のようでいながらため息をつきたい気持ちでいっぱいになっていた。

 

「ふふ……はい。そちらに記されていることはすべて、嘘偽りのない私の事柄……今までをむしろ偽っていたのです。この時のために」

 

 ナギサは頭を抱えたくなる気持ちを抑えて、少女にそれでも役目を果たすべく言葉をどうにか続けた。

 

「そう、ですか……では、セイアさん」

「分かっているよ、ナギサ。さて、まずは君に歓迎の言葉を。ようこそ、トリニティ総合学園へ。学び、信じ、時に友と語らい、後輩や隣人を愛し、より良い一年を過ごして欲しいと思うよ」

 

 その言葉を聞いているのかいないのか、セイアには判別がつかなかった。こちらを見据えていることには間違いがないが、その瞳は今を見ていないような気がすると。

 

「ありがとうございます。百合園様」

「なんか……似合わないね?」

「やっと口を開いたと思ったらそれかい? ミカ」

 

 己の『勘』が囁いている。セイアはその感覚を自分の中に刻みつけておくことにした。それはそれとして、自分に様付けが似合わないと開口一番に言い放った考え無しには言い返しておくのである。

 

「固いよね、二人とも。私は聖園ミカ、気軽にミカでいいよ? 一応『同い年』なんだし☆」

「そういう訳にも参りませんよ、聖園様。体裁というものもあるでしょう?」

「ここでそういうの気にするのは頭でっかちのナギちゃんだ……むごっ!」

 

 ここで初めて、飄々とした感を纏わせていた少女が目を軽く見開いた。そこには、軽い手首のスナップだけでミカの口へ小さめとはいえロールケーキを叩き込んだ鬼がいたからである。

 

「……どうか、お気になさらず」

「無理が、あるとは思いませんか。桐藤様」

「……お気に、なさらず……!」

「……そう、ですか。かしこまりました……」

 

 もごもごとロールケーキを咀嚼しているミカを後目に、セイアが呆れ顔をちらと見せながらも、そこで初めて少女に手番を振る。

 

「それでは、改めて自己紹介してもらうとしようか?」

 

 口を開かんとする少女は、トランクと同じ、黒地の制服。改造が既に施され、これまたトランクと同じように金の細工がされている。その上からさらに明るめの黒の、足元まで裾の届くロングコートを羽織り、腰元をベルトで留めていた。

 

「ご存知かとは思いますが……今までの生にては『夢路ミナセ』。今は名を改め『剣先』の姓を名乗ることになりましたので『剣先ミナセ』となります。妹が、お世話になっていること。今になりましたが、感謝致します」

 

 自分は剣先ツルギの姉である。婉曲しつつそう言い放ったミナセは、穏やかに微笑んだ。その手に、数分後ティーパーティーから生徒証が手渡され、ミナセはその場を辞したのである。

 

 そして、その次の日。

 

「……」

「……」

 

 向かい合う二人の生徒が、トリニティの治安維持組織たる『正義実現委員会』の本部、その前で見つめ合っているという奇妙な状態が出来上がっていた。

 

「どういう状況なんすか、これ……なんか知りませんか? ハスミ先輩」

「イチカ……私にも、わかりません。ツルギがあのまま動かないのも初めてで……」

 

 片方は、剣先ツルギ。正義実現委員会の委員長その人。であれば、もう片方はと言うと……

 

「ふふ……」

「……見覚えないっすね……あの人」

 

 改造制服に袖を通したその姿。小さな背丈からは考えられないほどの威圧感を笑みから放つ異様な姿は、一度見れば忘れられないものである。

 

「ぁ……の」

「ん? なんだい、ツルギ」

「その、目、口ぶり。……姉、さん?」

 

 その言葉に周りの誰もが驚愕し、あることないことを囁き出す中で、ミナセは嬉しそうにこう答えた。

 

「その通りだよ、ツルギ。何もしてやれなかった愚かな姉だ」

「……キヒヒッ……姉さんは、悪くない……」

「ツルギ……私は、ツルギの力になってやりたくてやってきたんだ。どうか私にも、ツルギの手伝いをさせて欲しい」

 

 そう言って、ミナセはツルギを抱きしめたのである。

 

 

 

 伝わる。鼓動が、愛しき妹の心音が。この音を、聴きたかったのだと私は錯覚しかけていた。

 

 私は剣先ミナセ。大人の不貞で生まれた「あるはずのない娘」……そして、ツルギ……本流の「あるべき娘」の、姉。

 

 私はツルギのスペアとして育てられた。ツルギに何かあれば、私が代わりに当主に立つ。ツルギがもし無事に育てば、私は用無し、根無し草。どこへでも行け、旅に出ろと。そういう生き方を用意されていた。

 

 もちろん、ツルギがそんなこと知るはずがない……というか、私がそういうことをすべて遮断してしまった。

 

 ツルギには、自分を大切にしてほしかった。例え、どんな生まれであろうとも、妹は妹だった。大切な、たいせつな人。だから、無駄に心を割かれないでほしかった。私などに生命のリソースを割り振ってほしくはなかった。当時の幼い私には、それが想像の限界だった。

 

 だから、いざ中学入学の際にいよいよ私に用がなくなって……まあ、ツルギがあまりにも独特な育ち方をしたからスペアが利かなくなったのもあるけれど。

 

 私に用がなくなって、旅立つことになったあの日、表向き「留学で家から出る」という理由だけ、お手伝いさん経由で伝えたのにも関わらずツルギは酷く取り乱してしまった。

 

 結局私は「姉らしいことなどなにもしていないな」と、少しだけ大人になった頭で考えてしまったそれだけを未練に、剣先の当主から与えられた幾ばくかの生活に困らない程度の金と事前に選んでおいた家の鍵だけを持って歩み出したのだ。

 

 いつか、如何なる手を使ってでもツルギの元へ。私はそう考えるようになっていた。私が要らないくらい、ツルギが成長しているならそれはそれでいい。私はツルギの知らぬ陰から、ツルギを支えよう。

 

 けれど、もしツルギがなにか、苦労しているようなら。それを取り払ってあげたかった。姉として、一人の大切な人を持つ者として。

 

「ずいぶん、大きくなったね。ツルギ……」

「変わら、ない。……姉さん」

 

 もう一度剣先の名を得ることを承諾させる。それがツルギの元に辿り着く前提だった。だから、私は色々と無茶をして。それが祟って、成長は控えめだった。

 

 ツルギの、自分より10cm前後高い位置にある頭を撫でて、私は成し遂げたことの実感を得ていた。

 

 しばらくそうしてから、私はツルギの囁きを聞いた。それは、私の問の返答。

 

「姉さんが……もし、望むなら。正義実現委員会に、入って欲しい」

「もちろんだよ、ツルギ。私が直接聞いたツルギのお願いを断ったことはない」

「もう……どこにも、行かないで」

「もちろんだ、あぁ……もちろんだよ」

 

 ぎゅっと、改めて最後に強く抱擁して離す。周りの声がやっと聴こえるようになって、私はこう告げる。

 

「皆様、教育課程の方は順調ですか? お時間は?」

「やばっ!?」「行かなきゃっ!」

「あぁもう、後で絶対教えてくれますよね?!」

 

 ぱたぱたと生徒たちが時間に気付いて走り去る。ツルギが顔を真赤に染め上げていたが、姉妹なのに何を気にしているのやら。

 

「さて」

 

 くるりとターンして、ツルギと同じような制服を着た生徒たちに向き直り。

 

「本日付けで入部予定。3年生、剣先ミナセです。どうぞよろしくお願いいたします、ね?」

 

 そこにいた者たちが、改めて驚きの絶叫を上げたのは言うまでもありませんね……耳が痛いんですよ、あなた方の叫びは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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