お姉ちゃんがやってきたよ、ツルギ   作:ふぃーあ

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色々動くよ、ツルギ

 ざわつく講堂。正義実現委員会の集会は、手頃な講堂ひとつを借り受けて行うことになっている。今日は、普段よりもざわめきが強かった……それは、新たに入部するにも関わらず幹部待遇での入部となる、委員長と同じ姓を持った三年生……剣先ミナセの名が故である。

 

「静粛に……皆さん、ご機嫌よう」

「ハスミ副委員長! お疲れ様です!」

「「「お疲れ様です!」」」

 

 そのざわつきの所以からしても、静粛にと言っても無理があるだろうと理解していながら、言わずにはいられない。ハスミは実直な人間であった。

 

 彼女に挨拶の声がかかると、それを皮切りに統率された挨拶が飛び、場が先程よりもさざめくような声になる。ハスミが、先に入ってくる。これは極めて珍しいことだ。

 

 普段のハスミなら、ツルギと連れ立ってやってくることが多い。それは、彼女が正義実現委員会で最もツルギを理解している親友であり、副委員長・委員長という明確な双翼を担う間柄であるためだ。

 

 それ故に、ハスミが先に入ってくるということは『剣先ミナセ』の人となりもわかると、聡い正義実現委員会の者たちは形を持った噂話にさざめいたのである。

 

 そして、なんとなくみんなの中でイメージがまとまるかまとまらないか、と言ったタイミング。彼女にそれを意図したのか問えば、『さあ?』というであろうそのタイミングで、彼女は座に姿を見せた。

 

「……ごきげんよう」

「委員長! お疲れ様です!」

「ふふ……」

 

 ツルギが扉を開き、皆が頭を下げて追従する声の波の中を、背筋を伸ばして歩む小柄な彼女。小柄な……背筋を曲げたツルギと伸ばした彼女でおよそ同じだろうかと思う背丈ながら、凄まじい威圧を以て歩む彼女。

 

 ツルギがその有り様と形相で人を圧すならば、彼女……剣先ミナセはその立ち居振る舞いで人を圧す。

 

 辺りを見回す。各人の顔をしっかりと焼き付けるように睥睨し、改造制服の上から着た黒いコートを翻し、中央の壇上へ向かうその動きは、鷹揚、そして悠然。

 

「皆様、ごきげんよう」

 

 発される言葉は、『従え』と本能に告げる重い一言。それ故に、座は統一して声を発した。『お疲れ様です』……同僚の、新入部員に向ける言葉として、些か不適格であろうそれは、見守る幹部以外の全員がその言葉を選んだという事実でもって受け入れられた。

 

「常日頃、我が妹、ツルギがお世話になっています。姉の剣先ミナセです。この度、トリニティ総合学園へ編入し、3年生として正義実現委員会に加入致しました。少々の心得から、皆様の活動の支援統括を行って参りますので、どうぞよろしくお願いします」

 

 まず自己紹介を拍手でもって受け入れられた彼女は、そこで壇上からハスミを見つめた。ハスミは、そのまま貴女が語ってくださいとばかり見つめ返し、はぁ、と小さな嘆息を以て受け入れたミナセが再び声を出す。

 

「疑問をお持ちの方も居られると思います。『支援統括』とはなんぞやと。皆様のお持ちになっている正義を実現するべく、日々活動される皆さんの中にはこう考えられている方もおられるのではないでしょうか? 『手続が面倒』とか、『書類が苦手』とか。それらはあなた方が抱えねばならない正義実現のための一歩、そうしてあなた方は歩んできた」

 

 ですが、とミナセは笑った。口角をつりあげて笑う、ミナセの独特な笑みは多くの者の心を揺らす。

 

「私が来たからには、もうそんな手間は取らせません。現場に優れた者が現場に赴き、争い事が苦手な者は現場に出ずに裏から『正義を託す』。そのためのチーム構築を行うのです」

 

 そしてミナセは横を向き、イチカへと声をかける。

 

「仲正さん。資料を」

「了解ッス! ホワイトボード動かすッスよ〜、どいてくださいね」

 

 壇上に上げられたホワイトボードを回転させると、『新組織図』と書かれた表が目に飛び込む。同時に、ハスミによって正義実現委員会のグループモモトークに図表がアップロードされた。

 

「見にくいでしょうし、モモトーク画面の図表を参照することも認めます。それでは、具体的な話をしましょう」

 

 ミナセはその後、多くの内容を語り、そして説明を密にして、新部門の長としての面目を施したと言って良い。

 

 簡潔に話した内容をまとめると、こうだ。

 

 ひとつ。裏方部門をまとめてミナセの管轄下に置く。

 

 ふたつ。そのためにチームを再編成するので、後日チーム所属者はミナセと面談がある。

 

 みっつ。実働部隊に関しては、手続がより簡単になり、手持ちのスマートフォンからの手続もフォームを経由して可能となる。

 

 業務内容の変更を伴うと言えど、名目は『全所属生徒の負担の軽減』である。ミナセの管轄下に入ることによって今まで個々別に行われていた裏方業務も簡略化されるとあらば、裏方の生徒も反対なし。

 

 満場の同意を以て、剣先ミナセは『正義実現委員会参謀部門長』の肩書きを手に入れたのである。

 

 そこから2週間の間、ミナセは仕事に凄まじい速度で取り組み、改革を進めていった。

 

「これは……そちらの業務と連携してしまいましょうか。一括で手続できた方がいい」

「弾薬の補給はインターネットフォームでも申請可能にしましょう。こちらでフォームは用意しますので、手書き書類はなるべく減らす方向で進めてください」

「ローカル環境に独立したPCから作戦の雛形にアクセス可能にしました。どのような際に用いるか、も簡単に紐付けてありますよ」

 

 かくして正義実現委員会の事務をあっさりと楽な仕事にしてしまったミナセは、さらに遺失物や没収品の管理にも手を伸ばす。

 

「ナンバーとアイテム名、拾得や没収の日にちを使ってファイリングしますよ! 終わったら一応印刷かけて紙でも置いておきますか。あんまり好きなやりかたではないですけれど」

 

 さらに2週間経つ頃にもなると、誰もが頼る裏方のボスとして君臨するようになっていたミナセはその名を学内に轟かせていた。

 

 改革を推し進める鉄か鋼のごとき意思、ありとあらゆる謀略を用いて当初の目的を達成する柔軟性、裏方としての圧倒的な『質』の高さ。

 

 ミナセは、今代の正義実現委員会を『トリニティ史に残る優れた組織』へと変えつつあったのである。

 

 また、その戦闘能力も大いに話題になることとなる。箝口令が敷かれたミナセの実力はしかし、『剣先ツルギにもあるいは匹敵しうるモノ』として流布され、広まり、定着しつつある。

 

 人の口を塞ぐことは極めて難しいことを、ミナセ当人もよく知っていたが、打つ手はさして思いつかなかったのである。もちろん最低限の一手……『噂の方面を切り替える』という手は打っていたが。

 

 ツルギとの模擬戦の結果を『互角に撃ち合ったものの敗北』としたりなど、細やかな部分に手を回す彼女の顔は誰がいつ見ても歪むことがなかったそうである。

 

 そんなわけで、ミナセが馴染んだ……というより、ミナセが辺りの環境を染め上げたころ。ティーパーティーの面々……というよりは桐藤ナギサは胃の痛みを抑えることに必死であった。

 

 元より、正義実現委員会との会合は副委員長……羽川ハスミとのやり取りであってもそれなりには苦労をしていたのだが、そこでミナセの正義実現委員会入りである。

 

「はぁー……」

「辛そうじゃないか、ナギサ」

「辛いに決まってます、ミナセさんが正義実現委員会に入ったのがこうも厄介になるとは……本当に強かなのですよ、あの方!」

「きちんと理由付けするだけじゃなくて我々にとってのメリットまで提示して予算の増額を申し立ててくるあたり、手馴れているなとは思うが……」

 

 ナギサは深い溜息をついた。それはこの後の予定……『正義実現委員会との定例会』があるからこそ。

 

「……しんどぃ、です」

「私はなにもしてやれない……非力ですまない」

「ミカさぁん……」

「ミカはシャーレに出向して今アビドス砂漠に出現する大型の機械を破壊する総力戦に出ているよ?」

「そうでした……」

 

 かくして、剣先ミナセを迎えたトリニティでは、新たなる日常が広がっていくのである。

 

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