海上のカンパニュラ   作:千里亭希遊

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78.閑話 - 蒼玉

----------------------------------- side : Ray & Hiro

 

 これらは、ルフィとケンジとじんぺーがフーシャ村を出発するより随分前のことである。

 

 

 

「赤髪と白ひげについては特段急ぐ必要がない」

「奴らが動く(・・)様子はねェし、カタギは襲わねェ、って評価だからな」

「対して、カイドウとビッグ・マムは……」

「本拠地の位置的にも、両者ラフテルへの行き方をある程度掴んでいる可能性すらある。ワノ国に至っては鎖国状態で内情が伺い知れない」

 

 ドレークが徐に、コトリ、コトリ、と悪魔の実を二つ、テーブルに並べた。

 

「一方はゾォン系でもう一方はパラミシア系だ。お前らが見た目で分かるかどうかはどうでもいいが、カイドウに近づくならゾォン系、ビッグ・マムならパラミシア系の能力を得るのが望ましいだろう」

 

 つまりは──

 

「お前らにとっては両方ハズレになる可能性すらあるが……それでも望むのであれば、選べ。おれが指定することはない。だがまあ、二人で話し合っても構わない」

 

 希望がなくとも海に嫌われる覚悟はあるのか? という問い。

 

 同時に、どちらを選ぼうと二人ともが、それぞれの地でそれなりの働きをするであろうという評価。

 

 少しの沈黙。

 

「……どうあれ、両者への潜入は必要なことです。僕たちの『用事』はついでみたいなものですよ」

 

 ふわりと微笑み──目は笑っていない──そう言うゼロ。

 

「ええ。見つけられたらラッキー、くらいなものです」

 

 ヒロが苦笑しながら言う。

 

 ──それ以前に、彼女がもうどこにもいない可能性だってゼロではない。

 彼ら二人は、捜し人が絶対生きていると盲信できる程度の世界にいなかった。

 ただし、小さな望みであれ捨ててはいけないことも知っているけれど。

 

 そして彼らの共通認識としては。

 

(……あいつが生きていたとして、そこにいたとして……戻ることを望んでいるかは、正直分からない)

 

 普通に考えれば、住む島を手酷く破壊された上に拉致されては、犯人に対して良い気はしない。するはずがない。

 

 しかし──対象はあの、お節介でお人好しなルリである。敵であろうが共に過ごす内に『いいヤツ』と判断したら、絶対に絆されるだろう。

 この世界における『海賊』には『いいヤツ』もいるのだと、彼らは既に知っている。だから尚更だった。

 そしてそもそもルリは、海兵でありながら海軍の『正義』には疑問を呈していた人間だ。

 今現在彼女本人の意思で留まっているのだとしたら──。

 

 彼らは、無理に連れ帰る理由を持ち合わせない。無事な姿を目の当たりにできればそれで及第点だ。

 

「……彼女という戦力が帰還するなら喜ばしいことではある。だから、そう意地を張るな」

 

 SWORD参謀のそんな言葉に、ゼロもヒロもぱちくりと目を瞬かせる。

 そしてどちらからともなく、小さく吹き出した。

 

「……オレたちへの激励として、それ以上の言葉はないのかもしれません、ね……」

「らしくないですよ、参謀」

 

 上司は憮然とした。

 

「ほんっとに可愛くねェよな、お前らは」

「可愛かったら任せて下さらなかったでしょう?」

「……」

 

 にこにこと似た笑顔を浮かべる二人に、上司の表情が更に険しくなった。そして特大のため息をひとつ。

 

「つくづくお前らが十五のガキとは思えんよ。Dr.ベガパンクあたりが若返りの薬を開発してた、とか言われた方がまだ信じられる」

「褒め言葉だと受け取っておきますね」

 

 二人はにこにこと微笑みつつも。

 

(そりゃあ……前に数十年生きてた記憶があるからなぁ……)

 

 それを足すなら、この場にいる誰よりも長いものなのかもしれなかった。

 親友たちと一緒にこの世界に生まれ落ちたのでなければ、個人の夢か妄想かと思ったかもしれない。そんな信じてもらえる訳もない話を、そうそう口外するつもりはない。

 

 ──そして、意思確認や雑談は程々に。

 

 ゼロとヒロはどちらからともなく頷き合い、テーブルに置かれた悪魔の実に手を伸ばす。示し合わせた訳でもなくお見合いにはならなかった。

 奇怪な見た目の果実の皮を、用意されていた果物ナイフで剥き、そして。

 

 咽そうなのを必死に飲み込む。

 聞きしに勝る不味さだった。

 しかし意地で平静を保つ。

 

「これは……本当に……不味い、ですね……」

 

 ポーカーフェイスの達人と評されて差し支えない二人ですら、表情に出る程のものだった。

 

 上司たちは何を思ったのかふっと笑い、

 

「さて、試してみるか」

「そうですね」

 

 広さに余裕のある部屋だったためその場であれやこれや想定してみる二人。

 

 そして。

 

 ぽんっ、とゼロの姿が金銀の毛並みを持つ狐に変じた。天井にも届こうという巨躯が窮屈そうに丸まっている。更に、尻尾が九本もあった。

 

『!?』

 

 空色の目を丸くしているのが見て取れた。

 そして。

 

「……!」

 

 ヒロの右手に、『前』で愛用していた拳銃が出現していた。──この世界では見たことのない型だ。彼は少しの焦りを憶える。

 

「ふむ。レイはゾォン系だ。イヌイヌの実 幻獣種 モデル荼枳尼天(ダキニてん)。つまりヒロミツがパラミシア系。モシャモシャの実だ──しかし何だそれは、銃、か……? 正確に覚えている物なら模写……再現できる、という能力らしいんだが」

 

 ドレークの問いにヒロはどう答えたものかと悩む。

 しかしいくら彼にプロの潜入捜査官だった経験があるとはいえ、ドレークを嘘が通じる相手だとは思っていない。

 

「分かり、ません……何なんでしょうか、これ……」

 

 呆然としているのは嘘ではない。

 しっかりと手に馴染むそれを、ヒロは眉間に皺を寄せながら見つめた。

 

「……まあ、悪魔の実の能力は未知数な所があるからな。それにまだ慣れているはずもない」

 

 小首を傾げながらも、不慣れ故の不完全の可能性を考えてくれたようだ。

 

「きちんとモノにできるよう精進致します……!」

 

 敬礼して彼は言う。

 ドレークは薄く苦笑した。

 

「頑張れ」

 

 他方ゼロは居心地悪そうに自身の身体を眺めていた。

 

 ヒロは好奇心半分、焦りを隠したさ半分で歩み寄り、もふりと前足を撫でてみた。

 

『グルルル……』

 

 ヒロの所業に不機嫌そうに喉を鳴らしつつ困惑するゼロ。

 自身はすっかり狐らしい。

 ゾォン系の可能性は充分に想定していたはずなのに、それでも動揺が隠せない。

 

「人型に戻るか、せめて人獣型にならなければ目立ちすぎるな。頑張れ」

 

 初っ端から形態変化の制御を要求され、ゼロは少しだけ緊張する。

 しかし乗り越えてみせる気概はしっかりあった。

 

 様々に感覚を探っていく。

 そして。

 

 耳と尻尾だけ残る元の体型に──人獣型への変化に成功した、ものの。

 

「……まだ目立ちますね」

 

 ミンク族にしては人族要素が多すぎる。

 分かる者には一発で、能力者だ、と手の内を悟られるだろう。

 

 再び感覚を探り。

 

 ようやく人型に戻れた時、ゼロは心から安堵した。

 

 思わず、にぎにぎと拳を握って自分の動きと感覚を確認する。

 ……実を食べる以前よりも少し、犬歯が発達しているような気がした。

 

 ふぅ、と彼は一息つく。

 

「……これが、悪魔の実の能力者になる、ということ……これからどう鍛えられるものか、ワクワクしてきました」

 

 そんなゼロの様子にヒロがふっと笑う。

 

「オレもだ」

 

 この世界にないものも模写できてしまうのは、要らぬ関心を呼んでしまいそうで、慎重にならねばと戒めもしながら。

 

「さて、これで行き先も決まった訳だ……それを想定して、鍛錬に励め」

「ハッ」

 

 二人はビシッと敬礼して答えた。

 

 

 

 三ヶ月程後、ゼロはドレークと共に海賊を装ってカイドウに近付く作戦に加わる。

 ヒロは料理の腕を活かしてパティシエの素性を用意し、その他一般人として潜入する幾人かと共に万国(トットランド)を目指した。

 

 しかし。

 

 ヒロたちのチームが乗った民間の船が万国(トットランド)目前にして消息を経った可能性が持ち上がる。

 

「……嘘、だろう……?」

 

 ゼロの脳裏に、前世でヒロを喪ったと思った日がフラッシュバックした。

 

 

 

 ……それでも、あの頃と、同様に。

 ゼロは、ギリ、と強く拳を握りしめる。







76話で狐さんが「もう二人いないかもしれない」と思い浮かべてたのはこのせいです。

降谷さん(ゼロ)はパズルゲームの百鬼夜行シリーズで九尾の金狐をやってまして、九尾被りはぬるりとお許しください…。
荼枳尼天は天女とか金銀の狐とかのようで、狐の方のイメージです。金髪と銀髪みたいな色合い。
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