まさしく圧巻だった。降り注ぐ剣は街に拡がる蟲を滅したのだろう。辺りに感じていた嫌な気配も消えた。
そして英雄王は気分を良くしたのか更に速度を国道を走る。少しでもバランスを崩せば大事故になってしまうであろうバイクを巧みにあやつり、10分程度で到着した間桐の屋敷。
街では消えた気配も流石にここには残っており、心なしか焦っている印象をうける
「ところでシンジよ。お前は魔術を使えるのか?」
バイクから降り、震える足をどうにかしようとバイクに手を付いている僕に英雄王は訪ねてくる。正直に言うのは悔しいが、こいつに嘘をつくのは得策ではない。仕方ないけど本当のことを言葉にする
「いいや、使えないね。魔力はあるみたいだけど使い方がわからないよ」
「ふむ…なるほどな。一度試しにコードキャストを唱えてみるのはどうだ?」
「まあ、いいけど」
こいつは一体何を考えているんだ。コードキャストは端末内の礼装を媒介に発動する魔術だ。そんなものを唱えても何も起こらないだろうに…まあ仕方ない
「『view_map()』」
そう呟くと同時に頭の中に入り込む情報…これは、あの電子世界で体験した魔術だった
辺り一帯の情報が頭のなかに映し出される。間桐の屋敷の全貌が、地下への入り口が、地下でうごめいている蟲が、蟲の集団の中で倒れている桜が、そして何故か苦い顔をしている祖父が全て目にとれた
「これは…」
「やはりな。発動出来たようだな」
「でも、僕は礼装なんて一つも!」
「そのポケットに入っている物を見てみろ」
英雄王は視線だけこちらへ向けてそう呟く。ポケット?何も僕は入れていなかった筈だけど…
しかし、足の感覚が無いため気付かなかったが確かにそこには入っていた。
【あの携帯端末が】
「どうして、これが…」
「先程教会を出る前に我が入れておいたのだ。感謝しろよ?我が物を贈るなど滅多に無いことだ」
視線を間桐の屋敷に向けた英雄王は悠然と語る。さすがは王であると言ったところか。王の覇気が溢れでているのがわかる。
「でも、何故この世界に端末があるんだ?」
「我の蔵は全ての原典を内包している。そのような人が作ったものなどあるにきまっているだろう」
なんというとんでもない宝具なのだろう。確か、【王の財宝】という名の宝具だったか
?まさかここまでの物だとは思わなかった。あいつが何でもないように言ってたから凄いものだとは思わなかったぞ
まあいい。端末の電源を付けて情報を確認する。
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間桐慎二
Master Level 1
MP 280/300
スキルポイント 0
経験値 0
EQUIP ALL
サーヴァント Unknown
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ちょっとまてよ。レベルが1になってるのは別にいいんだけどさ。
なんで礼装全装備なんだよ。チートとかまじありえないんですけど
「この我が設定したのだ。まあただ全てのコードキャストが使えるだけで、ステータス強化はどうにもならなかったのだがな」
本当にこの英雄王はとんでもないやつだな。よくこんな奴のマスターをしてたな。あいつは
「まあいい。本当はこんなのは嫌なんだけど、あるものは使わせてもらうよ。」
「では、蹂躙と行こうか。」
「ああ、地下への入り口はわかるか?」
「無論、貴様が案内しろ
。特別に我の前を歩くのを許可しよう」
本当に普通に言えないのか、こいつは
まあ、いいんだけどね。こんなに上手く事が運ぶなんて流石の僕だってことすら言えないよ
「じゃあ、ついてきてくれ」
◇
暗い世界だった
もうどれくらいの時間が立ったのだろうか
時間間隔が狂いそうな部屋で蟲に侵されて、体内に巣食われて
感情など、とっくに薄れて
ただ客観的に見ている私がいる
ああ、今日も犯されるのか。そう他人ごとのように思えてしまう
救いなどあるわけがないと知っていた
助けなんかくるはずがないとわかっていた
それでも、その日はお祖父様の様子がおかしかった
何か焦っているようでしきりに蟲に指示をとばす。その度にさらに焦っていく
体内の蟲達も様子がおかしい。いったい何が始まるというのか
そんな疑問をもったまま倒れ伏す私の耳に、すさまじい音が入ってきた
何かを破壊するような音。その音はどんどん大きくなり、近づいてくるのがわかる。それと比例してお祖父様の顔色は悪くなっていく。まるで、何かを恐れているかのように…
そして、音が途切れたと思った
瞬間、部屋の入口が爆音と共にふきとんだ。
崩れたドアの向こう側には2人の男がいた。背の高い金髪の外国人と…この家に住む義理の兄
それを見たお祖父様は兄に怒号をあげた。
"何故貴様がこんなことを!"
"儂が育ててやった恩を忘れたか!"
まるで何かを紛らわすかのように吼えるお祖父様を見て酷く滑稽のように思えた。兄はそんなお祖父様を気にも止めずに高笑いをする
"いつからお前は自分が強者だって思っていた?"
"いつから自分は死なないと思っていた?"
"化け物になってまで生きながらえるなんてナンセンスだよ。それが僕の祖父だなんて考えられないね"
初めて見た時では考えられないような口調で話す兄、その言葉が紡がれる度に顔を怒りで歪ませていくお祖父様
”貴様!”
"自分の安全が保証されている戦いしか出来ないなんて、2流ゲーマーだね。1流ゲーマーならもっと自分を護るための戦略を考えるんだよ"
兄へ向かう蟲達を剣が貫く
金髪の男の後ろに現れる無数の剣にお祖父様は顔を恐怖で染めていく
"何故じゃ!儂は間桐の繁栄のため、全てを犠牲にしてでも間桐のために!"
"喋るな、雑種。王の前であるぞ"
"何故貴様がでしゃばる!ギルガメッシュ!"
お祖父様に剣が突き刺さる。お祖父様はうめき声をあげて地面に這いつくばっていた。お祖父様はいつも私をこんな目で見ていたのだろうか。そうならば、すごく滑稽だったんだ
"儂が、どうしてこんな目に"
"貴様は手を出してはいけない物に手を出したのだ。あやつが守り通そうとした存在にな"
"ぐぅぅぅ"
"塵と消えよ"
お祖父様だけでなく、周りの蟲にも剣は突き刺さる。それを見た兄の笑顔は少し歪であった
そして、金髪の男がこっちに近づいてくる光景を最後に、私の意識は途切れた