なお相手もTS済みとする。
時系列的にはまひろが穂月姉妹とは会っていてあさひ達とは会っていないくらいです。
「う゛ぁ!」
とある休みの日の昼下がり。元男であり現在美少女、界隈ではTSFと呼ばれる身となっても相変わらず自堕落な生活を送っておられる我らが緒山まひろは唐突に狼狽した。
緒山家長男としての威厳と姿を取り戻す日々の中で、かつてないほど情けなく狼狽した。
忘れ去っていた過去が、思いもよらぬ時に顔を覗かせたのだ。
「……無視、はできないよな……」
愛用の椅子から身を投げて、広げっぱなしの布団でばたばたどすん。
ついでにクッションをぐにぐに。
現実逃避したとて変わるものではなく、しばらくしてからモニターを覗き直してもそこに映っているものは当然変わらない。そこにあるのは一通のメッセージ。
現れた過去とは今の少女ボディとなる前、男時代の引きこもる直前に由来するものである。
まひろには2年前の当時、とあるオンラインゲームで意気投合し仲良くなった所謂“ネッ友”という死語の存在がいた。
その人物はテキストチャットを通じて日常の些細な報告やバカ話に乗ってくれたり、大学受験の際には真剣に応援してくれたり、顔も声も知らないが当時のまひろにとっては心の支えであった一つである。
お互いネットマナーとして守るべき一線は守りつつの付き合いであったが、そこまで仲が良ければある種必然と言うべきか、自然な流れと言うべきか、本名や住所を明かさずともいつしかオフ会の約束が二人の間ではなされていた。
「オフ会、誤魔化すのは簡単だけどぉ……」
しかし当時のまひろは本人すら自覚できていないほど追い込まれていたのである。
優秀過ぎる妹への劣等感、兄としての立場。周囲の期待。視線。それらへ応えようとしてしまう性分……。
そして、心の支えとなりつつもネッ友からの応援がプレッシャーとなっていた実情。
あらゆるものを背負って挑んだ受験の結果が、2年という失われた月日である。
「お兄ちゃん?」
「んあ」
「もう、ごはんできたって呼んでるのに」
「……ちょっとタンマ」
誰も悪くない、自分がただ無力だったと認める他ない現実。それに圧し潰された過去を思い出してしまったまひろはみはりの顔を見る事なく適当にあしらって、背もたれへ深く沈みながら腕を組む。
その人物は当時、気を効かせて受験の結果がどうであれ折角だから会ってパーッてやろうという提案、つまりオフ会に誘ってくれていたのだ。
合格すれば祝い、駄目でもならばと複数の意味を込めたオフ会を。
心に余裕はなかったのは確か。
しかし受験が終われば何もかもひと段落だろう、こやつならばどんな結果であれ大丈夫だろう、と賛同していたまひろだったが──。
──当日、待ち合わせ場所へ向かうことはなかった。
それどころか何も言わず相手と連絡も絶ち、部屋からすら出ず、自分の殻に閉じこもってしまった。
長く深い付き合いであったその人物ともそれっきりで2年。最近
あるいは辛く苦しい当時に触れることを無意識に避けていたのかも知れない。
しかし今日。その過去が唐突に現れた。
新しく遊んでいたオンラインゲームにて、再会してしまった。
癖で以前からの名前や職業を選択し同じような楽しみ方である辻ヒールをしていたのが致命傷となり、もう誤魔化せる状況ではない。
「気にしてなさそうなのが申し訳ない~!」
相手方が名前やらなんやら変えていたために油断していた。
「まさか泳がされてたなんて……!」
アイテムボーナス目当てに誘われたギルドへ加入し、幾数日めにこれ。
まひろはたった今ようやくさりげなく答え合わせの会話をしていた事にも気が付き、もう観念するほかないもうだめだと天を仰ぐ。
「あ~。ちょっと会うだけなら……? でも見つかったら……!」
推定中学生女子と見知らぬ成人男性が街で会うなんて、相手が社会的に死ぬ! まひろの背後でどごーんと雷が落ちた。
まひろは男の弱さを知っている。幾ら事情と理由を弁明したとて社会というものは男に厳しいのだ。
「処刑……!?」
と、まひろは完全に暴走し脳内では親愛なるネッ友がギロチンで断罪される場面を想像してしまっているが、実際はそこまで行かないだろう。
たぶん。
「会って謝って、年齢詐称してた……で誤魔化せるかなぁ」
先日ゲームセンターで補導されかけたため多少警戒心が残っているものの、TS初期時点と比べて幾らか外出への恐怖は和らいでいる。そのためひとまず会う前提でまひろは設定を浮かべた。
自分は当時小学生で、受験自体は本当。有名中学とか言えば多分誤魔化せるんじゃないかとか、親にバレてゲームを止められたとか色々考える。
「が、ダメ……!」
仲が良いあまり最低限のラインを除いたありとあらゆる身の上を洗いざらい話してしまった覚えがあるし、どれを伝えてどれを伝えてないかも自分で把握できていない。適当な嘘を言った所で今更誤魔化せないのではと嘆く。
向こうが新しいゲームで見つけたネットネーム:マヒロが中身同じの同一人物と完全に確定させられてしまっているし、というかそれゆえオフ会を持ち出されているが故どうしようもない。
かくなる上は。
「みはりぃ~」
「やっと降りてきた」
一日だけでいいから元の姿へ戻してくれ──。
一途の願いを込めたお願いは、ばっさり断られた。
というか、無理って言われた。そんな都合のいい薬はないらしい。
一服盛っただけでまひろを美少女へ変える薬が存在するのに!?
「このままじゃあいつが処刑されちまうんだぁ~!」
「しょ、処刑ってどうしたの……」
「一日でいいからぁ~!」
「い、妹の胸で泣くな!」
食事を取りながらかくかくしかじか。
その一通りの説明を成した結果は……。
「いいじゃない。普通に会ってあげたら」
「全く無関係な女の子と成人男性が一緒にいてみろ。通報もんだぞー」
「親子とでも言っておけば?」
「そんな適当な! というか大体みはり、今の俺見て相手が目の色変えたらどうすんだよ」
「どうするって、そんな人と会うの?」
う、と言葉が詰まる。
そんな事するような性格の奴ではないと知っているとはいえ、自分で言っておきながら自信が無くなってきたのだ。
世の中人の心なんて分からない。幾らでも繕える。まひろは男の邪念邪心を知っていた。
「どうしても嫌なら実は女の子ですって今から教えて、親から止められたので会えませんとか」
「……なぁみはり」
食事の手を止めたまひろの顔は浮かない。
「男にはさ、筋ってモンがあるんだよ……」
別に男とか関係ないような、と言いたかったがみはりはやめた。
この一件はいつも優しく、引きこもってしまうまで長男としての自負を通してきた兄にここまで言わせるものなのだと。
まひろは2年間を部屋に閉じ籠って過ごしていたし大体かっこうつかないが、無責任でいい加減な人間なんかではない。
「……そしたら、駅前のハンバーガー屋さんならどうかな」
「はんばーがぁ?」
「かえでがそこでアルバイトしてるんだよ」
「なるほど。それなら、なんとか?」
会って何もせず解散とはならず、せめて一緒にお昼を食べて解散。
そうすれば相手も死なず、万が一の場合は止めてくれる人もいる。
「かえでちゃんがいるなら怖くて助けも呼べないって時に安心だな」
「うん、合ってるんだけど」
情けないことこの上ないのは“男”としていいの?
とは敢えて言わなかった。
かわいそうだから。
「や、やってまいりました、この日っ」
「家を出る前から緊張してるねー」
「あと5分、いや10分くらいは、駅前集合ならまだ間に合う……っ!」
「うーん、重症」
流石に諸々全ての事情を明かすのはできないので、協力者のかえでへ伝えているのは嘘を交えた一部だ。
まずは身体が弱くて今まで療養云々といったこれからも使える汎用設定を用意。療養中に遊んでいたオンラインゲームで知り合った~という部分は隠さず、人見知りを直す訓練の一環として会わせられるならやってみようという事で決行となっている。
「……うし」
「おっ」
「このままじゃ前と一緒だ。行ってくる!」
「ふふ、行ってらっしゃい」
頑張ってね、お兄ちゃん。
その言葉を背に受け、諸々のセッティングも合わさりもう引けない。
まひろは雄々しく(本人談)一歩を踏み出した。
「わんわん!」
「うわぁあ、またお前かぁ~!」
近所の犬に吠えられ、逃げまどいながら。
で。
(待ち合わせの時間ぴったり。場所もよし)
なのに、まひろは肝心な事を忘れていた。
(相手の容姿が分からない……!)
無意識にお互い浮かれていたのか、お互いの目印というものを設定してなかった。
髪形や服装、示し合わせ等々をすっぱり全て伝えてない。せめてが駅前のここにあるベンチへ座って待っている程度の示し合わせ程度。
お相手のラフで雑ないつもの応答がここで仇となっている。
(この中から、俺から声を掛けろと……!?)
座って待ちながら、表面上笑顔のまま我らがまひろは戦慄する。相手に自分が少女姿であることを伝えていない以上、自身から動き声を掛けに行くしかないのだ。
現在同じようにベンチへ座っているのは数名。男女混合のいかにも一般人と言える普通な大人達に、まひろと同じように座って誰かを待っているらしい金髪少女がひとり。
時間を過ぎてなおどうしたものかと悩んで、まひろはひとまず座っていたベンチから離れ観察する。
他にベンチはない。あっても遠い。改札口は教えてあるし、駅を出てすぐと言われここ以外へ向かうなぞあり得ないゆえ待ち合わせ場所に狂いはない。
(あの金髪の子は違うよなぁ。明らかに外国人だし)
スカジャンを着たボーイッシュな明らかにネームドキャラな金髪少女をスルーし、まひろは推理を開始する。
これまでのテキストチャットでの会話からお相手は現在働いていてもおかしくない年齢。
ほぼ確実に男性。一人称は俺。気は回るが所々がさつ。いい加減で適当だけど
(ご老人、は休んでいるだけだろうし……男の大人はこの人だけ)
うろうろとゆっくり周囲を旋回しつつ、まひろ通り過ぎてます感を出しながら横目に一人ずつ確認。
スーツ姿でノートパソコンを叩いているこの男性はオフ会スタイルとは違いそうだけど、いやいやどうなんだ?
いつもゲーム上だとサブキャラはネタ装備や変態装備で固めてるし、ノリを重視するからこれくらいのドッキリ要素は仕組んでくるかもしれない。
もしかしてか?
いやいや。
まひろはちらちらと視線を向けながら──目が合ってしまった。
「どうしたんだい?」
「え……と」
ノートパソコンを置いて男性が立ち上がる。
少女となってからしばらく、家にずっといたからまひろは忘れていた。
身長差というモノを。見上げる形となる男性の姿が、こうも恐ろしく見えるものなのかと。
「もしかして君、迷子?」
「あ。あ、いや、その、ちがっ」
「大丈夫かい?」
「マヒロ、デス……!」
ぐるぐると目を回したまひろにとって、仕事を中断して親切に接してくれようとしている男性すら恐怖の対象であった。
男性は膝に手を置き中腰でなるべく目線を合わせ、威圧感を与えないようにしようとしてくれている。だがその行動すらパニック状態の
ショートした思考で絞り出した単語は、なんやかんやオフ会ということを忘れず何とか自身の名を伝えようとした結果であるもののお陰でもはや泣きそうな迷子としか捉えられていない。
「近くに交番があるから、そこでお話してみるかい?」
「ち、ちが……っ」
男性の目にまひろは迷子であることを受け入れられない子供のように映っただろう。
流石に手を繋いで案内というのは事案的に危ない事は向こうも分かっているようで、分かりやすく手で見える位置にある交番を指して提案してくれている。
しかしまひろにはもはや何も聴こえていないし見えていない。
このままだと先日補導された時のように破裂し、自室でリスポーンしてしまう。
せっかくのセッティングも台無しとなり、元の引きこもりへ逆戻りだ。
2年ぶりの再会とオフ会の誘いも再び無断キャンセル、何も変わらない。
今度こそ、外界との完全な縁切れ。社会復帰不可。
「あ、あああ……」
もう終わりだ。
脳内を様々な声が、自責が、闇がまひろの心を駆け巡り蝕んでいく。
やはり無理。そう思ったその時──
「──おいおいどうしたマヒロさんや」
「え」
困惑する男性と混乱するまひろの間へ、第三者の声がかかる。
子供のようなのに大人びたような、ちょっと不思議な少女の声。
(この子、さっきそこにいた……?)
現れたのはベンチに座っていた外国人風な金髪の子だ。
まひろは混乱の中、それくらいだけ理解した。
「お友達かい?」
「そゆわけです。すんません迷惑かけて」
「君、お友達が見つかってよかったね」
「ほらマヒロ、お相手さん困っちょるから」
「ああ、うん……」
迷子に間違えられ、違うと言えず、オフ会は失敗。
更に見知らぬ女の子にまた助けられ……。
「アイデンティティの消失だぁ~~!」
「うおっ、びっくりした」
思わず叫んでいた。
件の少女の隣で。おっちゃんがぎりぎり離れた所で。
自分の中の誇り高く頼れる男像が崩れたが為。
「あ、ご、ごめん。助けてもらったのに」
「いいのいいの。持ちつ持たれつ世の定めよ」
「かっこいい……」
まひろを助け、今も前を歩く少女からは漢を感じた。
出かける度になんやかんやで詰み、助けてもらって惚れてしまう。それがまひろというチョロイ生命体。
「んで気を取り直し。バーガー屋ってどれ? 土地勘なくて全く分からん」
「バーガー、えっと、あっち」
「あー……。もしかしてあれ? オレの知らんバーガーショップだなぁ」
(……ん?)
抜け感ある少し伸びた金髪に赤いスカジャンとショートパンツ。
ヤンめでボーイッシュな印象を受けつつも、顔立ちとストッキングから少女だとまひろは判断していたが……。
(一人称、オレ? もしかして、可愛いけど男?)
余裕が出てきてそんな的外れなことに気を取られていた。
もっと気にすることがあろうに。
なぜこの少女が「マヒロだったのか」と言ったのか。
なぜこの少女は連れ立って駅近くのハンバーガー屋を目指し探したのか。
「いらっしゃいませー」
「あ、かえでちゃん」
「やっほーまひろちゃん。そっちは……」
店員をしていたかえでが首を傾げながら応対し、そこでようやくまひろも気がついた。
この人物の正体に。その衝撃の正体に。
「あら、マヒロの知り合い? なら自己紹介だな。オレの名前はリコ」
──そう、この人物こそがまひろと待ち合わせをしていた存在。
「こいつとはゲームで知り合った仲だぜ」
この少女こそが、まひろとは昔からの仲の人物だったのだ。
・・・・・
「えっと……まじ?」
「マジマジ。まぁ、積もる話はありそうだが」
とりあえず注文のセットを受け取り、空いている席へ着く。
諸々の事情を説明する前にやる事があるとまひろのネッ友──リコはジュースを手に立ち上がり叫んだ。
「
紙コップで乾杯ぽすん。
大声で集まった視線にまひろは耐えつつ、ぢうーっとジュースを飲みながら相手を観察する。
見た目は完全に女の子。てっぺんから毛先まで綺麗な一色の金髪は地毛であることを示し、顔立ちも日本人どころか現実味すら薄く感じるほど整っている。もはやゲーム内でよく見たリコのキャラクターアバターがそのまま現れたかのようにも感じるほどだ。
しかしここは現実。目の前でかえでとも喋り、名乗った存在を否定できない。
代行や入れ替わりを疑おうにも砕けた口調はいつもの通りで、態度や距離の取り方も想像通り。
セリフと態度を切り抜けばいつもの相手なのに、その外観と声が想像と全く違うためまひろは表面上落ち着きつつ内心混乱を続ける。
(どういうことなんだ?)
と考えて、自身の小さな両手が視界に入る。
もしかして、リコは自分と同じように……?
乾杯から二拍三拍、思考の海で沈黙したまひろに代わってリコが声をかける。
「にしても2年ちょい経ってるのか? どうだ、そっちはなんかあった?」
「え、いや。ずっと家にいたから何にも」
「そなの?」
「ええと、自宅療養でさ」
「あら、病気してたの」
「そんな感じ」
情報整理が追い付かないあまりボロを出しそうになりつつ、事前に決めていた設定に沿って言葉を選ぶ。
もしここで同じように一服盛られた被害者同士ならもっと話が弾みそうなものだとまひろは考えているが、そんな薬があっちこっちにあっていい訳がないと流石に分かっている。それとリコが素の姿でいるなら外した時がまずいのも。
ネットで再開した時の向こうのように、もっと探りを入れなければ……!
と考えて、そんな器用なこと自分にはできないとまひろは悲しんだ。南無。
思惑がありつつも、会話を続けるためひとまず無難に言葉を返す。
「えっと、リコの方はどう?」
「んー、まぁ色々あったけど……」
「けど?」
「諸々片付いて暇を出されたよ。そんなタイミングでマヒロと再会できたのはホント僥倖さね」
お互いジュースとハンバーガーを小さな口でほおばり咀嚼タイム。
自然な流れの沈黙が訪れた瞬間、そこでついにまひろはこのオフ会での最大の目的を思い出した。
(い、いつ謝ればいいんだ……!?)
チャットと現実の会話は全く違う。どこでどう切り出せばいいのか、他人と顔を合わせての会話に2年のブランクがあるがゆえ大いに頭を悩ませる。
まひろがぐるぐる頭を回して考え、咀嚼が終わっても会話が続かない不自然な沈黙へ切り替わったその時。
飄々としていたリコが真面目な顔となり、頭を下げた。
「すまん」
「え」
「事故にあったとはいえ、2年前に無断でオフ会へ行けなかったのは本当に悪かった」
そしてもう一度、申し訳ないと謝罪。
あまりにも唐突の展開に、まひろは困惑するしかなかった。
「あ、えっと、事故って」
「言い訳じゃないが色々あって。お陰で連絡も取れず待ち合わせ場所にも行けず……」
「待って!」
それ以上の言葉を止める。
もしかしてだ。
「オ、私が行かなかったのって、もしかしてリコは知らない?」
「……え、そうなの?」
「ああ。私も、その、色々あって……」
受験に失敗した、心が折れた、引きこもった──。
色々あってに含まれた言葉をリコは無理に引き出そうとはしなかった。
代わりにポテトをその小さい口にぶち込む。
「むごぉ!」
「よし分かった。人間誰しも言えない事の一つ二つあるもんさ。別に言いたくなきゃ言わなきゃいい」
「リ、リコさん……!」
「よせやい」
リコは照れたように一度横を向き、
「それにしてもだ」
話題を変えた。
「マヒロが思ったより若くてオラおでれぇたぞ」
お前が言うな選手権第一位の貫録を放ちながら。
「そりゃあ、おまえこそ」
「ふふ。散々言ってたろ? オレは美少女で最強なんだぜ」
「最強かはともかく、マジでその通りなのムカつくー」
「お陰で助かったろ」
「そりゃあ、まぁ。気が楽っていうか」
ポテトをもぐもぐ。ハンバーガーもぐもぐ。あーだこーだ。
気の抜けたまひろはどっかりと姿勢悪く座り直し、まるで家にいるかのようにくつろぐ。
身内ではないが他人とも言えない。チャットではなく直接話しているのにいつもの距離感そのまま。
気兼ねない友達という存在がここまで安らぐものとはと、まひろは内心感動していた。
「──んでさぁ、リコのこともっと大人で男でって思ってたからさぁ」
「あらそりゃ残念。もっとびっくりするかと思ったのに」
「色々あって適応力は鍛えられたからな」
「ふぅん。それじゃコレは?」
リコは片手にハンバーガーを持ち視線を正面へ向けながら、空いた手の親指でくいっと仕切り越しの席を指す。
「なぁに?」
かわいらしく首を傾げそちらを向くまひろ。
当然仕切りで向こう側は見えないのですぐ視線を戻すと、リコは駅前から一定距離とだけ簡潔に告げた。
それが何者かに追跡されているという事を察せないまひろではない。
この場にいるのは少女ふたり。万が一に備えてかえでが付近で待機しているとはいえ、レジのやり取りで知り合いと判明している以上対策されるかも知れない。
リコは至って冷静に留めているが、まひろは自身の迂闊さに青ざめた。
しばらく沈黙が続き……リコはくくくと笑って手を振る。
まるで大丈夫さと言いたげに。
「さっきの店員さんといい、愛されてんなぁ。ははっ」
「はえ? ……って、まさかっ!」
がばっと立ち上がったまひろがその相手を確認する。
そんなことしそうな奴がひとりいた。
「みはり~~」
「あはは、気になっちゃって」
「保護者かお前はっ!」
(関係は分からんが、保護者じゃないのか?)
ジュースを飲みながら心の内でリコは突っ込んだ。
ちょっと脅し過ぎたという反省の色はそこにない。
「折角ならお前もこっちこいって」
「ちょ、今日は知らない人と会話する練習だって」
「下手すりゃリコは今までで一番語り合った人だからもういいんだって」
「チャットだけらしいけど」
「一番包み隠さずに喋れてたのはリコだけだよ……」
「あっ……」
直接伝えられたことはないが、まひろが重圧に耐えていた事を察しているのは恐らくリコのみ。
そういう点では一番包み隠さずを知っているのはリコで合っているやも知れぬが、距離を縮めるのが早すぎやしないかまひろよ。
「ま、まぁ。マヒロが放っておけない末っ子というのはわかったが」
「リコ!?」
いじられたまひろのツッコミを華麗にスルーし、リコは席へ着いたみはりへ目を向ける。
「結局こちらはどちらさん?」
「姉のみはりです」
「自称姉だ」
今までのゲーム内で語られたまひろの情報は自身が兄で妹がいるということ。
目の前には姉妹なのに、姉を自称呼ばわりする光景。
迂闊が過ぎて矛盾と意味不明が重なり突っ込みどころ満載だ。
リコはそれを分かりつつ結論を出した。
「つまり略して自称みはりか」
「混ざってるし略せてないし、というか自称じゃないよ!?」
「聞いての通り、オレは究極最強の大天使リコ様だ」
「無視!?」
結局まひろの隣にみはりが並び、姉妹(?)のやり取りを見ながらリコが対面で微笑む。
今日のオフ会は成功だな、そう確信して。
●緒山まひろ(ネットネーム:マヒロ)
第4話でマヒロという名前を使っていたのでマヒロ表記。
本名同じって言わなきゃ大丈夫と本人は思ってそう。
●八神リコ(ネットネーム:リコ)
金髪美少女のオリキャラ。がさつで雑でラフな人。
本名同じって言わなきゃ大丈夫と本人は思ってそう。
なぜか美少女の身をしているものの理由は現段階で不明。
というわけで、前書きにも書いた通り三人称視点の練習でした。
読んでくれた人はありがとう、そしてありがとう!!
評価と感謝もよろしくね!!!