「万能計算機械が確かに一通りの数学的問題を解けそうだ、ということはいい。ただ、これをもっと強化できないか、という疑問が出るのはもっともだ」
ノヴァーク博士の言葉に、ケレメンは座って頷いた。
「
「……具体的な方法はありますか?」
ケレメンの質問に、ノヴァーク博士は頷いた。
「例えば本数をいくら増やそうとも、それを一本にまとめることが可能だ。そうだな、
「……では、同時並行の方は?」
「これについては同じような方法でやればいい。白の機械と黒の機械を用意して、それぞれを交互に一手番ずつ進めていくわけだ」
「ええと、そうだ。
「可能だ。これについてはちょっとした技が必要だがな」
(-2, +2) (-1, +2)→( 0, +2)→(+1, +2)→(+2, +2)
↑ ↑ ↓
(-2, +1) (-1, +1) ( 0, +1)→(+1, +1) (+2, +1)
↑ ↑ ↑ ↓ ↓
(-2, 0) (-1, 0) ( 0, 0) (+1, 0) (+2, 0)
↑ ↑ ↓ ↓
(-2, -1) (-1, -1)←( 0, -1)←(+1, -1) (+2, -1)
↑ ↓
(-2, -2)←(-1, -2)←( 0, -2)←(+1, -2)←(+2, -2)
「
ケレメンは中心から矢印を追いかけるように目で辿った。まずは上。そして右。すぐさま下。そして左へ。既に通った場所を二度通ることはなく、そしてどの場所の点であってもいつかは必ず通過することになる渦巻きだ。
「……そうなるのはわかりました。では、どうやって機械でそれを実現します?右と左にしか行けないはずなのに、追加で上と下の分も対応できるのですか?それに、いくつかの点は二次元の上では隣り合っていても
「そこは万能計算機械と同じ手口になる。ある種の住所を記号の前に置いて、それを探すようにすればいい。次の住所を探すための方法を機械に実装することはそう困難じゃない」
「……こういう証明を、ずっとしていくのですか?」
「今も継続中だ。ただ、そろそろある種の合意が得られそうな程度には、私の万能計算機械を超える
「……まともでない方法なら、あるかのような口ぶりですね」
「いくつかあるとも。私が作ったものでは
「何を予知するのですか?」
「その機械が停止するかどうか」
ノヴァーク博士の言葉に、ケレメンは少し黙って考えた。今まで作ってきた機械は相当複雑で、もし構築を少しでも誤れば、あるいは最初の
あるいは、永遠に動き続けることを目的とした機械もできるだろう。例えば無限に1を繰り返すような。もう少し実用的なものなら、素数を順番に書いていったり、あるいは円周率を終わることなく計算していくものもできるのだろうとケレメンは考えた。
具体的な方法には見当すらつかなかったが、おそらくノヴァーク博士に言えば自分の知らない定理を一つか二つどこからともなく持ち出してそのような機械を作れるだろう、と察しはつく。少なくとも、なにか便利な方法があるとは昔どこかで聞いた気はしていた。
「確かにわかりにくそうではありますが、つまりそれは……」
ケレメンはノヴァーク博士が以前に言った言葉を思い出していた。万能計算機械はあらゆる問題を解くことのできる機械ではない。それは他の
口を開きそうになったノヴァーク博士は、息を吐いて考えるケレメンを見た。
「
「その通り。厳密に言えば、どんな
「……証明は、できますか?」
「二通りの方法で。おそらく君に向いている方と、私の指導教官が使ったのと似た方法だ」
「どちらが難しいですか?」
ケレメンの言葉に、少しノヴァーク博士は唸った。
「前者は具体的に証明しろ、となると難しいな。専用の機械をきちんと設計する必要がある。後者はちょっとした集合論と
「まずは、前者をお願いできますか?多少抽象的でも構いません」
「わかった。ではまず、
「……はい」
先に作ってしまうのか、とケレメンはなんとなく論点先取りの気配と、どこかで似たような方法を知っているかのような既視感を覚えていた。
「では、性格の悪い
ケレメンはこれを聞いて、自分の未来を知って逆らおうとする予言者を想像した。物語では、たいていこういう試みは介入によって失敗するのであるが。
「……性格が悪いですね、とはいえ、作るのはそう難しくなさそうです」
停止状態の先に新しい状態を作ればいい。一瞬だけの眠りから覚めた機械は、今までのことをすべて忘れて目の前の数字だけを見る。そしてもしそれが1であれば、もしかしたら膨大な計算の途中経過が残っているかもしれない右側の文字列を全て1で上書きしながら進んでいくのだ。
「ところで、この性格の悪い
念を入れるように言ったノヴァーク博士に、ケレメンは頷き、ノヴァーク博士が何をしようとしているのかに気がついた。
「性格の悪い
「そうだ」
ノヴァーク博士は最高の悪戯を思いついたような笑顔を浮かべた。
「そうすると、奇妙なことが起こる。この機械は止まるだろうか?それとも、止まらないだろうか?」
「止まるとしたら、性格の悪い
機械は完全に決定的で、邪魔の入る余地はない。そのようなことをすれば矛盾が起こるのであれば、それは最初の前提──
「実際にはもう少し論理的に説明するのだがね。君にはこのぐらいがわかりやすくていいだろう」
ケレメンはふと、自分が持っていた既視感に気がついた。中等学校でやった2の平方根が二つの数の比で表せないことの証明──背理法によって、