機動戦士ガンダム Battle of Earth 作:神谷萌
──── サザヤマ鉄工所ブルックリン工場、アッパー・ニューヨーク倉庫群への襲撃とほぼ同時刻。
『我々は貴艦の存在を把握している。直ちに浮上し、所属を告げよ。さもなくば然るべき処置を行う』
軽空母『ハーミース』。
元々は一年戦争直前、ペガサス級強襲揚陸艦の1隻として建造された。
建造中のルウム戦役後、航空機・航宙機の搭載力を増し、メガ粒子砲連装3機を装備、戦闘機と空母としては高火力を以って中小規模の敵拠点・艦隊を襲撃する……所謂 “V作戦” の裏で、既存兵器でジオンの戦力を削る事を目的とした構想を元にして、設計変更が行われた。
その為、左右前方の格納・発艦デッキブロックの延長、艦中央部ブロックの拡大と格納庫の設置、などが行われたが、完成の目処が立った時には同型の『ホワイトベース』がすでにMS母艦として戦果をあげていた。
結局、最終的にはモビルスーツ運用能力をもたせた軽空母として完成し、いくつかのジオン拠点の攻撃を行い、ア・バオア・クー攻略戦にも参加、ある程度の戦功を残した。
しかし、泥縄的な設計変更が祟って大気圏内の飛行特性に難が残ったり、後述する所謂 “初期ペガサス級” に共通する主推進機の不具合がより深刻だったりした。
この為、戦争終結後は、ジオン拠点の混乱もある程度収まったU.C.0080の末に、他の初期ペガサス級に先んじて除籍となり、処分の為武装撤去の後にアナハイム・エレクトロニクスの仲介でサザヤマトレーディングに所有権が移された。
ペガサス級は、軍公式には特殊任務艦『サラブレッド』から “改ペガサス級” とされているが、構造的には一年戦争中に工事が進められた『サラブレット』までが初期ペガサス級として、戦争中に一時工事が中断された『トロイホース』、戦況好転後の戦争終盤から戦後にかけて、ブロック構造の格納・発艦デッキの本格的な設計変更を伴う拡大と、主推進機の改設計が実施され『グレイファントム』として竣工した以降の艦と大別できる。
主推進機の問題と、格納庫兼用のクローズ式発艦デッキが小さいこと(後々、そもそもクローズ式発艦デッキの有用性そのものに疑問がつき、次級『アーガマ』では開放式となったのは広く知られているところである)、これらの問題から初期ペガサス級はU.C.0086までに大半が退役、それらをサザヤマトレーディングが処分先として引き受け、武装の全てと一部の内装品の撤去の後、ニューメキシコ州アラモゴードの南西の砂漠に儲けられた、サザヤマトレーディングのグループ企業である大型機械類廃棄・再利用会社、サザヤマ
一方、他のジオン残党軍やティターンズとの対立によりPMCとしての『ガルミア』発足に伴い、長距離モビルスーツ輸送手段として、『ハーミース』を、問題のあった大気圏内飛行能力と主推進機の問題について、『グレイファントム』以降のミノフスキー・クラフト装置の技術と、ジオンの推進機技術を取り入れて改修した上で、再活性化した。
連邦政府との取引との結果、また同時に、PMC『ガルミア』が都市を拠点とするためにビーム粒子を飛び散らせる事に躊躇いがあったこととから、レールガン主砲と火薬式副砲を搭載している。 ──── ──── 閑話休題。
その『ハーミース』は、フォン・ブラウン、グラナダのアナハイム各工場を回った後、ニューヤークに入港する予定だったが、その直前、ニューヨーク湾入口近くで、不審な潜水艦を発見していた。
ハーミースが地上を出発する時点で、ティターンズの活動がガルミアに向いているという情報はあったし、大西洋に降りた時点で、ブルックリンの本部から「より強く警戒せよ」との指示もあった。
ハーミースは、音響ブイを投下し、音波で浮上と所属の申告を求めていた。
通常、国家間戦争であれば、潜水艦など居場所を隠してナンボなので、その所在と所属を公開することはないし、その敵対側も問答無用で沈める。
しかし、PMCが、特に自身に危険もないのに連邦の正規部隊の潜水艦を撃沈しました、となると、流石にそれは連邦に戦争ふっかけるのと同義になってしまう。
困ったことに、海洋を主な活動場所にするジオン軍残党もいる。そして何よりも厄介なのは、ジオン軍の潜水艦である、ユーコン級、マッドアングラー級は、何れも連邦の攻撃型潜水艦VIII級、戦略型潜水艦ロックウッド級のコピーだということだ。初期の降下作戦中に拿捕されたVIII級、ロックウッド級そのものも多い。
この為、音響と磁気以外での探知方法がないに等しい潜水艦は、連邦型とジオン型の区別をつけることが極めて困難だった。
もっとも、相手がティターンズだとすれは、VIII級、ロックウッド級を使っているのが当然とも言えるが……────
「どうしますか?」
ハーミースのオペレーター長、日本人のサラリーマンと言われて違和感のない風体と雰囲気のアシャニ・モルディスが、切れ長の三白眼の美女…………に見える艦長、アンドリーナ・リスパーに訊ねる。
「ううん……」
『沈めていいぞ』
アンドリーナが、頬杖をついて逡巡しかけると、通信用ディスプレイにその顔が映し出されるとともに、ショウが不機嫌そうな表情でそう言った。
「若!」
アシャニが、オーバーリアクション気味に驚いた声を上げる。
「よろしいのですか?」
アンドリーナも、戸惑いの感情を隠さずに言う。
『もう逃げられねーっつってんのに籠城決め込んでる方が悪いんだ。ミサイルなんかぶっ放されて周辺に巻き添え出したら目も当てられねぇ。最悪連邦軍本隊だったら政治コネクションでなんとかしてもらう』
「解りました。ただ、最後にもう一度だけ勧告したいと思いますが……」
『それは構わない。ただ……』
「ただ?」
そこまで言うと、ショウがヘラヘラとした苦笑になった。
『とりあえずギャンでいいから応援寄越して。ちょっと手が足りないんだわ』
「了解です」
『そんじゃ、俺もちょっと手ェ離せなくなるから』
「了解」
そう言って、ブルックリン本部との通信が終了する。
アンドリーナは、艦長席のハンドセットを手に取る。
「ブルックリン本部から応援要請、誰かすぐに出せる?」
『1人、さっきからぶーたれてるのであります』
「了解。出していいわよ」
格納庫からの返答に、アンドリーナはそう返してから、ハンドセットを手にしたまま、アシャニの方に視線を向ける。
「この回線をブイの音響装置に繋いでくれる?」
「了解しました」
一方、ハーミースの右舷側発艦ハッチが開放される。
ツィマッド純正型ではシンプルなスラスターだったバックパックに、仰々しいものが取り付けられたギャンF型が、カタパルトに進む。
「ちぇーっ、せっかく積んでるんだから、使わせてくれてもいいのに、ハイザック」
『まだ「シュライク」装着の試験はやってないのです。諦めるのであります』
コクピットの中の、ノーマルスーツのヘルメットの下で、童顔の女性がぼやくように言うと、ハーミース整備班長、ミンミ・ジョンソンの更に幼い少女声が返ってくる。
パイロットは一年戦争当時、少女ばかりで編成されたジオンの特務隊にいた者だ。結成されたばかりの、当時の『E-Zeon』のジオン兵帰還事業によってサイド3へ帰還したが、元々軍入隊の原因が親との確執にある彼女は、程なくして、居場所を求めてサイド3でのE-Zeonシンパの活動に参加。と、言ってもたまにスピーチやっては帰りに鍋パ程度の緩いものだったが、PMCガルミアの発足時に、昔取った杵柄で応募し、採用されて再び北米大陸へと戻ってきた。
「近所の奥様方に評判のPMC」の立場は、彼女にとってとても居場所のいいものだったが ────
『出すでありますよー!』
発艦信号が赤から黄色の点滅に変わる。
ガイドLEDがカタパルト待機位置から前方開口部へ向かって点灯し、カタパルトが作動した。
一方 ────
『こちらはPrivate Military-service Company ガルミア 所属軽空母「ハーミース」。潜航中の潜水艦に告ぐ。現在、我が方の拠点、及び護衛対象が水中発の攻撃を受けている。貴艦がこの攻撃に関係なくば、直ちに浮上し、その所属を明らかにせよ。これは最後通告である!』
アンドリーナが、直接通告するが ────
「動く気配なしです」
アシャニが、渋い顔で言い、首を左右に振った。
「攻撃を許可します」
「はっ!」
やるせなさ気に、アンドリーナが頭を抱える仕種をしながら下令すると、それが対潜部隊に伝えられる。
ガルミアは、ジオン系を自称するものの、ハーミースがそうであるように、使えるものは純連邦型のものでも平気で使う。水中内格闘性能よりも、その汎用性を重視して導入された、RMS-179M『アクア・ジム』(ジムII型) 2機からなる対潜部隊が、VIII級潜水艦への攻撃を開始する ──── ────
「おもしれぇ、そっちからノコノコ出てきてくれるとはよぉ!」
地上 ──── サザヤマ鉄工所ブルックリン工場、アッパー・ニューヨーク倉庫。
右腕を切断されたズゴックのパイロットは、しかし、自身も色めき立ったのか、そう言って、今度は左腕をタラミスのハイザックに向ける
「消えろ! ジオンのガキが!!」
「貴様らのような輩に負けるかぁ!!」
その時には、タラミス機はズゴックに向かって突進してきていた。そのままタックルでズゴックを突き倒す。
「はっ!」
倒れ込んだズゴックの顔面に、タラミス機のヒートホークが叩きつけられた。
「っ!」
タラミスは、勝利の余韻に浸る間もなく、もう1機のズゴックを意識して、ハイザックに構えさせる、が。
「悪いけど、オレはタラミスのように “綺麗に戦う” 必要がないんでね」
タラミスがそれを視認した時には、ヘルムフロリアのハイザックが、すでにヒートホークでズゴックの頭部を潰していた。蹴飛ばして仰向けに倒すと、その股間にもヒートホークで一撃を入れる。
一段落ついたか、と思いきや、
ザバァッ、ザザァッ……
「あーら、団体さんのお着きみたい」
ヘルムフロリアが、軽口で言う。
先程、2体のズゴックが上がってきた岸壁から、さらに4体ほどのズゴック、それに2体ほどの、ティターンズのマークを付けたRMS-179Mが姿を表す。
緊張感のない言葉も一瞬、タラミスとヘルムフロリアのハイザックが、構え直す。
ドォンッ! ドォッ!
陸上に上がろうとしたズゴック2機が、海上、というか河川上側に弾き飛ばされたかと思うと、分解しながら水面に落ちていった。
「よーし……俺の腕でも当たるっちゃ当たるか……」
スコープを覗きながら、ショウが呟く。
荷役所の前、ハイザック2機の後ろに、大きな筒が着いているバックパックを背負っている旧ザク 2機が、MS用レール・スナイパーカノンを構えている。
MS-05QL『
「よーし……」
ショウが次のターゲットに照準を合わせようとしようとした時、
『ミサイルだ! 撃った!!』
「なっ!?」
アシャニの言葉で、通信に飛び込んできた。
旧ザクを反射的に見上げさせる。非全周型のモニターの中に、ほとんどまっすぐ落下してくるかのように、1発のミサイルが飛んでくる。
「くそっ!?」
もう1機の旧ザク
「だ、誰だ! ダメだ、入ってくるな!」
旧ザクSCのコクピットで、バムロが声を上げる。
照準リングの近くに、
バムロの声に反して、ギャンは的確にミサイルを追って飛翔する。翼の角度を変えて更に加速し、ミサイルに追いすがる。
「無茶だ! そんなの!!」
「た ────────」
ヘルムフロリアと、ギャンのパイロットの声はほぼ同時だった。
ギャンはヒートサーベルを一閃、ミサイルの弾頭を切り裂く。その直後に可変角翼を翻すように向きを変え、ダクテッドファンの推進力を、ミサイルの軌道から離れる方向へ向ける。
直後、
ドォン……ッ
爆発、と言っても本来の威力を発揮したようには見えない、火薬にしてはゆっくりと燃えた後、燃え殻が分解しながら落ちていった。
「はっ!?」
我に返ったショウが、旧ザクSCをティターンズのMSが上陸してきた方へと向ける。
ジュバッ
そこでは、アクア・ジムの腰部を、ハイザックがヒートホークで上下に切断したところだった。それ以外のモビルスーツも、解体された状態で路面や海面に転がっていた。
「ふんづかまえろ!! 1人も逃がすな!!」
サザヤマ鉄工所の従業員用作業着を着た、20人弱ばかりの男達が、ハリセンを手に、タラミスがつくったMSの残骸に向かって駆けてくる。MSから脱出したパイロット達が、 ──── 何人かは拳銃を抜こうとしたものの、従業員達の数と気迫に圧され、慌てて逃げ出した。
「あれ、本当にティターンズ? 一応、連邦内のエリートなんでしょ?」
ショウの旧ザクSCの近くで、片膝を曲げて屈んだハイザックから、ヘルムフロリアが、通信越しに言いながら、そのコクピットハッチから姿を見せた。
「ティターンズもピンキリなんだろ……」
ショウも、旧ザクSCのコクピットから出つつ、脱力したようにそう言った。
トラックヤードに、ダクテッドファン付ティルトウィング・空中機動用バックパック、通称『シュライク』を背負った、ギャンが着陸している。
そこへ、旧ザクSCの1機が歩いていって、ギャンの目前で片膝を曲げて、手をコクピットハッチのところに当てるようにする。そして、コクピットハッチから、バムロが姿を見せた。
「今回は、一年戦争の同窓会ですかな?」
バムロが声をかけると、同じようにしてギャンのコクピットから姿を見せた、女性パイロットが、ヘルメットを脱いで、バムロに笑顔を向ける。
「アルマ・シュティルナー少尉。お久しぶりです。無茶をやる性格は若い頃のままのようで」
「あー…………自分ではそうでもないと思ってるんですが、久々の実戦で、必要以上に血が騒いじゃいましたかね……」
バムロに言われて、アルマは決まり悪そうに、頬を掻く仕種をしながら、そう言った。
「いえいえ、少尉達の奮戦がなければ、私達もブルックリンまで来れたかどうか……」
バムロがそう言いかけたところで、
『聞いてくれ、我が志を同じくする有志諸君!!』
と、タラミスの声が響いてきた。
バムロとアルマ、ショウとヘルムフロリア、ティターンズ仕様のノーマルスーツ姿の敵パイロットをハリセンでどつき回しながら縛り上げていた従業員達が、声の方を向く。
ヘッドセットをワイヤレスマイクに設定して外部スピーカーを使いつつ、胸元に添えられたハイザックの手に立ったタラミスが、公式で7歳の誕生日をたった今迎えたとは思えない風格漂う風貌で、少女に似合わない厳しい表情で、堂々とした様子で立っている。
ハイザックの背後を、標識灯を点灯させたハーミースが、アッパー・ニューヨークに入港するため、ゆっくりと通過していく。
『ティターンズは我々に対し、ついに実力行使に踏み切ってきた! しかも、モビルスーツやミサイルなど、周辺住民や、思想の上で我が「ガルミア」と同一にしていない者を巻き込む形でだ! 最早、これ以上は、我々も座して相手の攻撃を待つ段階ではない!』
タラミスは、それこそ少女の顔には似つかわしくない種の怒りを、露わにする。
『準備期間は終わった! U.C.0086 12月26日! 我ら「ガルミア」は、政治結社として、PMCとして、何より我が父、ガルマ・ザビの意思を継ぐ者として! ティターンズに宣戦を布告する!!』
数時間後 ──── サイド7、グリーンノア1。
「失敗しただと!?」
特殊サングラスをかけた男が、報告を聞いて、激昂の声を上げた。
「は、も、申し訳ありません。市街地に被害が出かねない強行作戦で、しかも貴重な水中型モビ……ルスー……」
報告に来た男、ダンテ・リスパー大尉がそう言っている間にも、大柄なサングラス男はつかつかとダンテの側まで歩み寄ってくると、いきなり右腕を振るい、強烈にダンテを殴り飛ばした。
「そんなことはどうでもいい! 問題はタラミス・ザビ・エッシェンバッハの始末に失敗したということだ!!」
激昂した勢いそのまま、大男 ──── バスク・オム大佐は声を荒げた。
「ザビ家の子女……──── ミネバ・ザビの行方が未だに確たる情報がないのも不愉快だが、地上にあってジオニズムを標榜する連中の象徴など、今この瞬間も存在を許してはならんのだ!!」
「は、は……」
殴られた勢いで倒れ込みかけたところから、姿勢を直したダンテは、反射的に曖昧な声を出しかけたが、
「し、しかし、最近はブレックス准将の不穏な動きだけではなく、他の地上の反乱分子のネットワーク化が進行しており……────」
と、説明する。
ダンテの説明通り、ティターンズは地上でも連邦政府の強制移民を含む強権的な政策の象徴となり、これに対抗するため、後にカラバと呼ばれる反連邦組織ネットワークが形成されつつあり、これがそれなりの軍事力をもつようになる公算が大きかった。
ただ、カラバに参加する組織はジオンとの親和性が低く、ガルミアを含めた、ジオン公国の残党勢力とは距離をとっている。
「むぅ……それはそうだな」
再激昂するかと、ダンテは身構えたが、バスクは納得の声を出した。
「ティターンズから専従の戦力を着けられない代わりに、貴君にガルミア排除に必要な部隊を現地で抽出し、編成し、指揮する権限を用意しよう」
バスクは、我ながら妙案を思いついた、というように、口元で笑って、言う。
「そんな事が可能なのですか?」
ダンテが聞き返す。
「問題ない。ジャミトフ閣下がすぐ裁可してくださるだろう」
そこまで言って、バスクは、急に、表情を憤怒に歪ませる。ダンテは身構えたが、その矛先は彼ではなかった。
「たとえアースノイドであろうと! いや! アースノイドであればこそ! ジオンの、ザビ家の信奉者などあってはならん! そんなものは! 根絶やしにせねばならんのだ!!」
U.C.でこういう、悪ふざけ混じりのノリってどうなんですかね……
(C.E.だと、若い世代が多いこともあってわりとしっくり来るんですが)