機動戦士ガンダム Battle of Earth 作:神谷萌
UC0087.1.22
西部太平洋上。
あらゆる戦場でモビルスーツが運用されるようになった昨今、ガルミア他、地球大気圏内で世界展開をする
1年戦争後、地球連邦軍は巨大空中プラットフォーム・ガルダ級を計画、
一時期、PMC界隈で注目されたのは、1年戦争時にジオン軍が運用した攻撃空母『ガウ』だ。1~2個小隊分のMS部隊を運べるということで、規模的には丁度いいと言った感じだ。
だが、1年戦争終戦時にジオン軍からの接収や鹵獲した連邦軍、そのしばらく後に連邦から払い下げを受けた各PMCの、ガウに対する評価は芳しいものではなかった。
理由はいくつかあるが、最大のものは燃費の悪さだ。
ジオンの大気圏内用固定翼機全般に言えることだが、スペースコロニー内でシミュレーションのみで設計された為、実際の地球大気圏内では主翼が生み出す揚力だけでは飛行に不足し、泥縄的にリフトジェットを取り付けて上昇力の足しにしていた。
この為、速度に関係なく推進剤の液体水素の消費が激しく、航続距離や運用コストの面で難があった。
この時点で、連邦と深く繋がっているテミス以外のPMCは、ジオン製のガウの運用は諦めた。
だが、ガウの規模がちょうどいいというニーズは実際に存在するわけで……そこでガウの改良が試みられてしまった。
早い話が、翼の揚力が不足して、全推進力の30%もリフトジェットに回しているから、推進剤の消耗が早いことが問題なのだから、これを解決すればいいわけで、
「…………プロペラでも回したら?」
──── などと、現在どこぞのジオン軍残党の副総帥をやっている人間が言い出してしまった。
結果、主翼の下に大口径ダクテッドファンを内蔵したスタブウィングを追加し、スタブウィングが発生させる揚力とダクテッドファンの推力によりリフトジェットを廃し、推進剤の消費率を劇的に改善した。これが超大型戦術輸送機ACA-01R『ガウ』である。
────……と……アナハイム・グラナダが造ったのはいいのだが、連邦軍が改めて採用する種の兵器ではなかったし、PMCに売るには運用実績が必要、ということで、只今絶賛実験台にされているのがガルミアなのであった。
「しかし……まぁ……言った通りにちょっとどころじゃない厄介事を持ち込んでくれたな……」
タブレットPCで情報を確認しながら、ショウはぼやくようにそう言った。
2週間ほど前 ────
「わざわざ持ってきてくださらなくても、資料だけ送っていただければよかったのに……」
わざわざ再訪問したカイに対して、ショウがそう言うと、
「電子情報だと漏洩が怖いし、郵送して検閲されるのが嫌だったんでね」
カイは、肩を竦めるようにしながら言う。
今までは連邦のお膝元でジオン公国後継者を名乗るようなマネをしていても、軍事的には連邦には害にはならなかったし、一部の過激なジオン残党と反目し合ってくれているので、そこに連邦とのコネクションも合わさってお目溢しされていた。
だが、先日、タラミスが堂々とティターンズとの
「…………本題に入ろうか」
カイが言う。
サザヤマ鉄工所・ブルックリン工場、事務棟のミーティングルーム。
室内にはカイと、ショウ、ヘルムフロリアだけがいる。
「彼女のフルネームはミハル・ラトキエ。出身地はベルファスト」
「ベルファスト!?」
ヘルムフロリアが、軽く驚愕した様子で、表情を険しくしながら問いかけるようにする、が、
「それって、どこですか!?」
と、ヘルムフロリアが言い、ショウとカイが脱力したようなリアクションを取る。
「ベルファストは……えっと……」
「北アイルランドだ」
ショウが、ヘルムフロリアの方を向きつつ、自分も記憶が怪しいような様子で言いかけると、その後ろからカイが即座に言った。
「…………それで、肉親は?」
カイの方を振り返って、ショウが訊ねる。
「残念ながら両親は詳細不明。ただ、調べられる限りでは、1年戦争で……ジオン軍の地上作戦が開始されて間もない頃に亡くなったようだな」
カイが、冷静な表情のまま、手に持ったメモを見ながらどこか淡々と言うと、
「ミハルがベルファストを離れた時点で、同居の家族は2人。弟のジル・ラトキエと、妹のキリー・ラトキエ」
「その2人は、ベルファストに?」
ヘルムフロリアが訊き返す。
すると、カイは首を横に振った。
「2人共すでにベルファストにはいない。先に妹のミリー・ラトキエだが、残念ながら現時点で行方は不明だ」
「!」
「そんな……」
ヘルムフロリアが、表情を曇らせて、無意識にカイの方へと寄ろうとしかけたが、ショウはそれを腕で制した。
ヘルムフロリアは、不思議そうにショウの表情を見た。
「…………?」
ショウが、やや険しい表情で黙ってカイに視線を向けていると、
「そう、
と、カイがそう言った。
「それで? ジル・ラトキエについては? 情報があるんでしょう?」
ショウの方が、皮肉交じりな表情になって、言う。
「多分、それが先日、言っていた “厄介事” とセット、ってところなんでしょう?」
「さてね、ととぼけたいところだが……」
そう言って、カイは抱えていたファイルケースを、ショウに向かって差し出した。
「まぁ、そう言うワケってコト。とりあえず情報だけはこの中に入ってる。それを見て “厄介事” ととるかどうかはアンタ達次第だが ────」
ショウが手を伸ばすと、カイはじっとその目を見た。
「──── なかなか、ヘヴィだぞ」
「…………」
受け取ったショウは、怪訝そうな視線をカイに向けたまま、ファイルケースのマルタックを外して、中身を確認する。
ファイルケースの中には、数葉の書類と、メモリーカードが収められていた。
ショウはそれに目を通して ────────
「あぁ……マジかよ…………」
ショウは、脱力したような、うんざりしたようなリアクションをしながら、声を上げる。
ヘルムフロリアが覗こうとするが、ショウは、それを防ぐように、ファイルケースを上げた。
「本ッ当に厄介事を押し付けてくれましたね……」
「人聞きの悪いことを言うなぁ」
ショウの恨みがましい視線に対して、カイは両手を肩の高さに上げながら言う。
「善意の情報提供ってやつですよ」
「そーかなー……
ショウは、そう言って信用できないと言った様子の視線をカイに向けた。
「一体何が書いてあるのさ?」
「知りたい? 知って後悔しない?」
問い質してくるヘルムフロリアに対し、ショウは、わざとらしく困ったような表情を作りながら、訊ねるように言う。
「何言ってんだよ。ショウが巻き込まれるってのにオレは蚊帳の外って事はないだろー!」
UC0077、9月8日生まれにしてはやたら発達している、どこかちぐはぐさを感じさせるような艶かしさを持っているヘルムフロリアは、憤ったような視線をショウに向けて、抗議するように言う。
「それじゃ、はい」
そう言って、ショウはヘルムフロリアにファイルケースから書類だけを取り出して、渡した。
ヘルムフロリアは、それに目を通していくが、…………──
「これ、マ?」
と、なんとも言えない、不安と不快とを混ぜたような表情になって、ショウに訊ねた。
「俺に訊くなよ」
まずショウがそう言うと、そのショウと共に、ヘルムフロリアは、その表情のままで視線をカイに向けた。
「ニュースソースは明らかにできないが、信用はしてもらっていい。もし誤報だったらこの背広を今度から黒にしてもいいね」
カイは、どこまで真剣なのか、と言った様子で、そう言った。
「どうするの?」
ヘルムフロリアが、視線をショウに戻して訊ねる。すると、ショウも戯け混じりにも困惑したような表情になる。
「どうするって……なんもしない、とか、
「放置するだと!? それはあり得ん! 身内の窮地も救えなくて、何が正義か!! よい! 誰も行かぬというのなら、私が正面から取り戻してくる! 私のハイザックを運んでくれ! これは総帥命令である!!」
「目に浮かぶ……」
「だろ?」
ヘルムフロリアが目を手で覆って言うと、ショウも困った表情でそう言った。
「いっそ黙っとくとか?」
口元が笑っているようにも引き攣らせながら、ヘルムフロリアが提案するが、
「今日、カイさんが情報持ってきてる事自体はタラミスも知ってるんだぞ」
と、ショウが困った表情のまま言い返す。
「そこはほら、テキトーに誤魔化すとか……」
「それバレたらどうなると思う?」
「担がれる神輿という自覚はあったがよもやこのような大事に関して
「想像つく」
ハリセンを手にしながらゴミを見るような目を向けているタラミスと、その両側に、何故か刀剣類を研いでいるアルマと、
「『傀儡だからといって与えられる情報を鵜呑みにするな。自分なりの価値観を持て』爺さん達がそう育てたのは悪くないと思うけど、こう言うときには扱いづらいなぁ」
ショウもため息を
「シデンさんもそうなるって解って、ウチに持ち込んだんでしょう?」
「いや、そこまでおたくの事情は知らないよ」
カイは、両手両腕を軽く開いて見せながら、飄々とした様子でそう言った。
「どーだか」
胡散臭そうな表情をしながら、ショウは拗ねたように言った。
「で、どうすんの?」
ヘルムフロリアが、ショウに訊く。
「誰かにゃ行ってもらうしかないでしょう? ま、流石にタラミスに行かせるわけには行かないけどさ」
ショウは、そう言って、再度ため息を吐いた。
「地球連邦軍、ムラサメニュータイプ研究所……連邦は表向きニュータイプを否定しているから、研究所も存在自体極秘扱いなんだろうけど、流石に派手にやりすぎて連邦本体まで敵に回すことにならないようにしないとなぁ……」
「それじゃ、俺は失礼させてもらいますか」
カイが、そう言って帰り支度を始めた。
「こんな形ですが、情報料は幾ばくかでもお支払いしましょうか?」
ショウが不貞腐れたような様子と口調で言う。するとカイは、一瞬だけ足を止めて、
「ジャーナリストが、誌面にならない原稿でカネを貰うわけには行かないんでね」
と、それだけ言って、その場を立ち去った。
──────── 現在。
「さて、そろそろ発進ポイントか」
ショウが、ワールド
「まだ日本列島も見えてないけど?」
ガウの、カーゴルームの窓から並んで下方を見ていた2人のうち、ヘルムフロリアが振り返って、そう問いかける。
「最初から日本上空に乗り付けられるか。いくらなんでも乱暴すぎる」
ショウが、いくらか呆れたようにそう言う。
「初っ端ミノフスキー粒子じゃ敵対しますって言ってるようなもんだし」
「ふーん……」
ヘルムフロリアが鼻を鳴らすような声を出すと、ショウはカーゴルームの後部の方へと歩いていってしまった。
「ね、ね」
窓の外を見ていたもう1人、アルマが、ヘルムフロリアに声をかける。
「ヘルムフロリアは、なんで今回、ついてきたの?」
「えっ?」
問われて、ヘルムフロリアは驚いたような声を出し、アルマを振り返った。
「やっぱ、
「いやまぁ」
アルマに言われて、ヘルムフロリアは後頭部を掻くような仕種をしながら、苦笑する。
「それもあるんですが……それよりタラミスの方が……────」
「連邦軍のニュータイプ研究所だ。本当なら私自身が行って、この姿を見せつけてやりたいところだが、ショウがどうしてもと止めるから今回は諦めよう。そのかわり、せめてお前は行って来い」
「──── ってことで、とにかく行ってこいと」
「ふーん……」
「そう言うアルマさんは、なんで志願されたんです?」
目をぱちっと見開いた表情になって、ヘルムフロリアがアルマに訊き返す。
「え? あ、うん…………」
問われたアルマは、一旦、視線を這わせるようにそらしたが、すぐにヘルムフロリアに戻す。
「ちょっと……昔の思い出がね」
「昔……」
湿っぽい口調で言うアルマに、ヘルムフロリアは、一瞬、キョトン、とする。
「一年戦争の頃の話ですか?」
ヘルムフロリアは、少しだけ眉を
「あなた……タラミスもそうだけど、本当にUC0077の生まれなの? 今年10歳に人間になる子どもの勘の良さじゃ……────」
冗談めかして苦笑しながら言いかけたアルマだったが、ハッとしたような表情になり、ヘルムフロリアの顔を凝視した。
「気味が悪いのよ、あの子……いつも人の頭の中を覗いてるみたいで」
「あー…………」
自身を凝視してくるアルマに、ヘルムフロリアが苦笑した。
「まぁ、多分……
「そう…………」
アルマは、顔の緊張を
「私の場合か、うん、一年戦争の頃の話なんだけど、直接私の話じゃないんだよね」
と、照れ隠しの苦笑交じりになってそう言った。
「当時の戦友、と言ったところですか」
「そう。だからさ、弟とか妹とか、ほっとけなくて……ね」
アルマが、少しだけ寂しそうな、穏やかな笑顔で言ったところで、
ググッ……
ガウが明らかに減速した。
「そう言えば、あの人達、って、なんなの?」
「ライアン隊の方々ですか?」
「そう ────」
「準備できました。若」
「うん」
PMCガルミア、ライアン・ザレック。
MS乗りとは異なる、しかし妙に鋭い雰囲気を持つ彼が、ショウにそう声をかけた。
ガウのカーゴルームには、3機のハイザックと1機の旧ザクSCの他に、『ジュニアアンクル』輸送ヘリが搭載されていた。『ファットアンクル』のスケールダウン型である、汎用輸送ヘリである。
「モビルスーツも積んじゃいるが、これを出すようになったらこっちの敗けだ」
「承知しておりますとも」
険しい表情で言うショウに、ライアンは、笑顔で、しかしどこか緊張した雰囲気をまといながら、そう言った。
「よし、任せたぞ」
ショウは、ライアンにそう言ってから、手に持っていた機内通信用のマイクを口元に向ける。
「ヘリ発艦用意!」
ライアンがヘリに乗り込んだ、その様子をヘルムフロリアとアルマが見ていた。
「なんか、
「まぁ……色々、ありますから」
アルマの言葉に、ヘルムフロリアが苦笑しながら言う。
ガウの後部ゲートが開く。
「発艦!」
ビーッ
ブザーとともに、後部ゲート上部の赤い信号灯が、黄色の点滅に変わる。
滑るように後部ゲートから吐き出されたジュニアアンクルは、ダクテッドファン・ローターを広げて自ら飛行する。
具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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