–杏山カズサ視点--
「いましたね・・・見つけましたよ、杏山カズサァ!今日という今日こそ、化けの皮をはがしてやりますから、覚悟して下さいィ!」
「だから!あんたは!!いい加減!!!うちのメンツの冗談を覚えろ宇沢ァ!!!!」
これで今週何度目だろうか。
中学からの腐れ縁ともいうべき相手、宇沢レイサ。彼女は、またしても私に挑戦状を送りつけては、決闘をしかけてきた。
悪い奴ではない。寧ろ、心の底から熱血バカであり──それでいて、意外にも繊細な子だ。
だから扱いに困るし──はっきり言ってうっとうしい。それでいて、邪険にするのも気が悪いので、本当に厄介な存在だ。
「さぁ!行きますよ杏山カズサ!デュエル開始の宣言をしてください、放課後スイーツ部の偉大なる哲学者!」
「ふむ、よかろう。このブルーアーカイブ世界線の磯野、柚鳥ナツが仕切って見せよう。デュエル開始ィ!」
「いいぞー、行け行けナツ!・・・ところで磯野って誰よ!?」
「が、頑張れぇ~~~っ」
「あんたたちまとめて、後で覚えてなさいよ・・絶対シバいてやんだから・・・!」
それと、いつも一緒にいる、放課後スイーツ部の面々の、ナツ、ヨシミ、アイリ。大体のことなら意気統合して楽しくやれてる友達たちだけど、この件に関してはあまりそうはならない。なんなら、ヨシミとナツは流れに乗じて、宇沢レイサと一緒に面白がって茶化してくるから、溜まったものじゃない。
私の過去のことを想えば、それはそれでありがたいのかもしれないが──まぁはっきりいうと、後ほどよくキレる。
特にナツはシバく。絶対に。
だけど──その日は、違った。
真昼の空に──彗星が、降ったのだから。
「・・・何、あれ」
そう思ったの次の瞬間には、巨大な揺れが、私たちの地面を襲った。
「ななな、何ですかこれは!まさか杏山カズサ、あなたまた!?」
「んなわけないでしょうが熱血バカ!?空気を読みなさいな!」
「──遥か彼方からの到来。未知との遭遇──いや、違う。これは──既知?」
「ナツちゃん、いったいどうしたの?」
「──行けば分かる。それだけのことだ、アイリ」
「とりあえず、揺れの元へ!誰かに被害が出てるかも、急ごう!宇沢、あんたも!」
「・・・は!?はい、トリニティ自警団、宇沢レイサ、出動です!」
震源地につくと、そこには目を見張るほどの巨大なクレーターができていた。辺りには火の粉と煙が立ち、人々が右往左往と逃げまどっている。救護騎士団や自警団も出動する程の大騒動だ。
「さっきのやつが降ってきたってこと・・・?だけど、こう、流星が降った後って、街一つ滅ぶレベルって聞くけど・・・」
「被害は降るものの大きさによって分かれるはず。このレベルだと──」
ナツがそう、説明しようとして──震源地を見た私たちは、表情が固まった。
黒く小さな──人影。
何かが、いる。
全体の人影に、うっすらと、靄がかかってしまっている。ただ、左手に、どこか見慣れた形の銃っぽい物が見える。
その頭の上には、私たちと同じヘイローがあった。
黒く輝く、まるで滅びを告げる凶星のような。罅割れたそのヘイローは、私の目に刺さりそうなほどに、痛々しいものだった。
そして、何かの音が──歪な、コインが鳴るような音が、聞こえ。
ひび割れていたヘイローの罅が──また酷く、亀裂が大きくなった。
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次の瞬間には──影は、跡形もなく、消えていた。
その、少ない情報で。
私は──分かったことがあった。いや、分かってしまった。
色違いで罅割れたとはいえ、見慣れた形の星のヘイロー。
いつも見てるから知っている、銃の形状。
そして──左に銃を持つという共通点。普通の人は──右に持つからだ。
そして、私が嫌が応にも知っている、彼女もまた──左手に銃を持っている。
「──なんで、宇沢と、共通点が」
その後──トリニティは、混沌に包まれた。
各地で、例の黒い影が、移動しては特定の建物や設備の破壊を始めたのだ。ただ、ターゲットになってるのは主に企業の裏アジトや大きな抗争の場で、一般人の被害は極端に少なかった。まるで、居住区や学校を避けるかのように。
しかし、トリニティのトップのティーパーティーや、正義実現委員会がこの件を黙って見過ごすわけもなく。その場にいた者の証言や、救護騎士団などとの協力の元、件の黒い星のヘイローの影を、「アウストラリス」と呼称。鎮圧対象として認識し、人々の救助と撃破作戦の準備にかかっていた。
その中で、私たち放課後スイーツ部と宇沢レイサは──皆、妙な胸騒ぎに襲われていた。
「どういうことですか杏山カズサ・・・あの空からやってきた変な黒い奴が、私と同じ特徴って!?」
「あぁもう、私にも分かんないのよ!分かんないから──このまま、あいつが鎮圧されるのが、どうにももやもやするんだよ」
「・・・ふむ。偶然とは思えない、不可解な部分。未知とも既知とも言える、妙な感覚──そして、一般人に被害を出さないように務めているような謎の行動──」
「・・・うわ、珍しくナツがガチモードだ」
「いつも、こんな感じじゃなかったっけ、ナツちゃん・・・?」
そうして考え込んでいた中──ナツが「あっ」と声をあげる。
「これは──ロマンだ」
「こんな時まで何を言ってるのアンタは!?」
「どうどう。落ち着き給え。この場合のロマンとは──『理想』だよ」
「?」
「あの黒い影は、無造作に攻撃をせず、かといって標的がいないわけでもない。狙われてるのは、恐らく巨悪の根源──つまり、不安分子の根絶。いわば、世界という病人への抗体」
「抗体?でも、ナツちゃん、あの子は外から来たみたいだけど…」
「うむ。それも確かに。しかし、身体で作られる抗体とは別に──外から病原菌に介入する存在もいる」
「・・・薬、とか?」
「ビンゴ。彼の者は、『現実』という絶望に抗おうとした、『理想』という薬。正義の権化。『理想の体現者』にして、誰もが見上げる、星の成れの果てだよ」
「・・・いまいち言ってる意味が分からないけど、要は元々は『正義の味方』だったってこと?」
「ふむ、ヨシミにしては鋭い。トリニティ総合学園に10点追加」
「『しては』って何よ、『しては』って!!!」
そうして、彼女なりの仮説をたてたナツは、ヨシミにげんこつを食らった後にひっくり返った。
「・・・正義の、味方・・・?」
「うむ。杏山カズサ。君は至ったようだな、彼女の正体。外なる宇宙からやってきた、かつ我々の知っている彼女と類似した存在」
「──もう一人の、宇沢レイサ・・・?」
「わ、私がもう一人出現したと!?」
「なんか・・・複雑な話になってきちゃったね・・・」
「えぇ・・・というか、そんなオカルトみたいなことがホントに?」
「事実は小説より奇なり、だよ、ワトソン君」
「誰がワトソンよ!私はあんたの助手じゃないわよ!」
「そうか。ところで紅茶はまだかね?」
「出すかこのエセホームズ!!!」
「・・・話を戻そうか。つまり、あいつはこの世界に不時着してきた、別の世界の宇沢レイサで──この世界で言うところの、悪とも呼べる存在を、片っ端から倒しに行ってる。そんな感じ?」
「うむ。まとめ助かる」
「・・・で?こっからどうすりゃいいのよ・・・?」
「うーん・・・それほどまでに、悪いものを許せないってことは・・・よっぽどのことが、向こうであったとか?」
「例えば──そもそも、帰る世界そのものを、彼女は既に消失している」
「!?」
「・・・向こうが、滅んじゃったってこと・・・?」
「確証はない。が──無難ながら、思い当たるもので、上がるとすればこれだろう」
「・・・向こうの宇沢レイサだけが、この世界に来られたなら・・・」
そこで、真剣な面持ちで聞いていたレイサが、口を開く。
「・・・私なら、今度こそって思うでしょうね」
「レイサ・・・」
「私も、うっすらながら感じたんですよ。あれが私として──初めて見た時。なんだか、凄く寂しそうだなって。
勿論、ちょっと私としても混乱してまして・・・あれが私と言われても何が何やら」
「そりゃ、当の本人が一番困惑するだろうねぇ・・・だ、大丈夫なの?」
「え、えぇ・・・一応は、まぁ・・・」
「相変わらず強いね、あんたは・・・で、ということは、あいつが落ち着くためには──」
目を閉じていたナツは、うっすらと瞼を上げながら、どこか独り言みたく呟く。
「…孤独に戦うヒーローなど、どこの世界にもいない。必ず、協力者が必要なのだ。しかし、彼女は今や孤高に暴走しているも同然。目を醒まさせるには、最も親しき者の声とビンタが必要だろう」
そこで、残りの四人が、全員じっと私の顔を見る。まるで、そんなの一人しかいないだろう、とさも当然のように。
「・・・ちょっと。なんでそこで私を見るの!?」
「おっと、失礼。先生の存在もあったから、君だけとは限らんけどね」
「まぁでも、一番付き合い長いのアンタでしょ」
「だよね。レイサちゃんも、カズサちゃんの声なら返ってこられる自信、あるんじゃないかな?」
「はい!そのとーり!杏山カズサがいるところに、この宇沢レイサありです!地球の果てまで行ってもついていってやりますよ!」
「一生粘着する気かアンタは!!!」
思わずキレ気味に突っ込んでしまったが──ナツの仮説を元にするなら、つまり彼女を戻せるのは私ということだ。なんという因果か、と私はイライラする心を頭を掻きながら押さえつける。
「はぁ、ほんとめんどい・・・めんどいけど・・・あぁ~~~もうッ!仕方ない!やればいいんでしょ、やれば!」
「はい!もう一人の私を、救いに行きましょう!いざっ!」
「いくぞ~~~~うぉ~~~~!」
「良いわね、面白くなってきたわね!」
「成る程、これがツンデレか。これが・・・真実の愛・・・!」
「ナツゥ!あんたあとで必ずシバくから!!!」
その後、全員で外へと飛び出し、『彼女』がいる場所に向けて走り出した。そこで、ふと思い出したことがあり、私はスマートフォンを手に取った。
「・・・あ。ごめん、みんな!先行ってて!私、一つやっておかないといけないことがあるから!」
「はぁ!?何があるってんのよこのタイミングで!?」
「・・・彼、か」
「うん。すぐ追いつくから、お願い」
「・・・分かった。任せて、カズサちゃん!」
「・・・ありがと」
「では、時間稼ぎはこの私が!ちゃんと来てくださいよ、杏山カズサ──伝説の、キャスパ──」
「分かったから早く行けって!」
「・・・ハァ。その前に、急いで電話しないと・・・あ、もしもし──」
『やぁ、カズサ。聞こえているよ。そろそろ来ると思ってた』
「どうも、先生。・・・もしかして、先生も、気づいてたりする?」
『・・・少し遅れてしまったけどね。不甲斐ないばかりだよ。今、救護騎士団のミネ団長と、自警団のスズミに連絡を取って、一旦彼女への攻撃を辞めてもらったところだよ」
「・・・ありがとう、ございます。流石、対応が早いですね・・・」
『危うく、大事な生徒を失うところだったからね。正直、僕も必至だよ』
「・・・ナツが言うには、私の力が必要みたいなんですけど・・・はは、どうでしょうかね。私にできるか・・・正直、確証が無いんです」
『・・・そうかい?』
「えぇ・・・過去に蓋をして、閉じ込めようとするほど、私って、芯の底がホントはきっと弱いから」
『・・・成る程。カズサ──でも、今の君は、蓋をしていないだろう?』
「・・・!」
『子供の成長っていうのはね。僕ら大人が思っている以上に、早いものなのさ。だからカズサ──今の君なら、きっと大丈夫。僕も一緒に行くから、一緒にレイサを連れて帰ろう』
「うん──ありがとうございます、先生」
杏山カズサは、そうして先生との会話をすませると、スマートフォンをポケットにしまい、先に行った者たちの後を追うために走り始めた。
「さて、連絡はしたし、あとは時間の問題──頼むよ、みんな。私が来るまで、持ち応えさせてよね」