レイサ*スター放浪記   作:GGenbuu

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【5】

-全体視点-

 

「───杏山──カズ、サ」

 

人影の靄は消え、彼女の全貌が明らかになる。

そこにいたのは、杏山カズサの知る宇沢レイサの姿で──杏山カズサがよくは知らない、宇沢レイサのあり方だった。

 

いつもなら、二つにまとめているはずの後ろ髪は、そんな暇もなかったと言わんばかりのストレートに。

抱えられたショットガンの鮮やかな色合いは消え失せ、機能性に特化した、完全なる武装用の黒色に。

彼女の着る服の上には、私のと同じ──だけど、ぼろぼろに焦げたりほつれたりした、ジャージが羽織られ。

瞳にあった光は、ほとんど消え失せてしまい、今にも瞼が落ちてしまいそうなほどに、細目になっていた。

それでも──彼女は、宇沢レイサは笑顔だった。

 

あぁ、そういえば。

もう一つだけ、違うものが。

 

彼女の、凛々と輝いていたあのヘイローは──黒く澱んた星になってしまっていた。

それだけは、そのヘイローだけは──不可逆なことが、見て取れた。

 

「・・・ん。いるよ、ここに。先生も、ほら」

「うん。お帰り、レイサ」

「・・・・・・」

彼女は、静かに笑う。笑っているだけ。

それを見て──杏山カズサが、口を開く。

 

「──そういうところだよ、レイサ。隠しても、私には分かる」

「あんたの笑顔のその奥で──あんたが、本当は今にも泣きだしそうなことが」

 

それを聞いた瞬間──何かが、切れる音がした。

笑顔が、消える。

苦悶が、現れる。

慟哭が──溢れだす。

 

「・・・違う」

それは──彼女が、この世界の住人ではなかったということを証明する──そんな、声だった。

 

「違う、違う、違う、違うッ!!!違うんですよッ・・・!!!!!」

「貴方たちは、私の知っている人じゃないんです!!!私の知っている杏山カズサも、私の知っている先生も、私の知っているみんなも──もう──」

 

そこで、彼女の身体が、震えだす。がくりと、膝が折れる。

両手を地面について、彼女の視線が下がる。その下の地面に──ぽたり、ぽたりと。

何かが、零れ落ち始めた。

 

「みんな・・・みんなどこへ・・・行ってしまったんですか・・・・・・なんで私だけ連れて行ったんですか・・・・・・どうして──どうして私だけ置いて行って──置いていかせるんですか──」

 

「なんで、私の周りだけ──誰一人、救われないんですか」

 

 

 

そして──黒い凶星は──終わりを迎える。

 

 

ヘイローに入っていた罅がつながり──パキリと。

折れた。

折れて、しまった。

 

流浪の『アウストラリス』は、宇沢レイサは。

全ての力と神秘を使い果たし。

 

こと切れて、しまった。

 

「────あ────」

 

「・・・あ、あぁ・・・」

杏山カズサ。彼女の言葉は、その言葉は。確かに、その時放たれる必要のあった言葉だ。

彼女の固く閉じた笑顔の扉をこじ開ける、真に親しきものからの言葉の鍵。

間違ってはいない。鍵は確かに、固く閉ざされた箱を開けたのだ。

 

同時に──その脆い箱が、崩れ落ちてしまったとしても。

 

「宇沢・・・う、ざわ・・・」

亡骸を、抱き起こす。反応は、無い。

「お・・・起きてよ。私に、あんたを、殺させ、ないでよ・・・」

起きはしない。死人に口はない。不可逆性の力を取り戻せるのは、彼らのルールを破りでもする、強大な力か、知恵のみ。

「───レイサッッッッッ!!!!!!」

 

杏山カズサは──吠えた。

独りぼっちで臣下を救い続けた、孤独な騎士王。その成れの果てを抱えた獣は──吠えるしかなかった。

 

「──あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!」

 

 

「──カズサ」

そこで発せられた、大人の声。いつだって優しい、それでいて時に厳しい、彼の声。

先生と──後ろには、4人の人影。

 

「レイサ、ちゃん・・・」

「そんな・・・駄目だった、っていうの・・・?」

「──私は、終わってしまったのですか」

 

その3人の声に、カズサは亡骸を抱える。

何ができるというのだ──この死体に。

報われなどしなかった、この子に──

 

その時。

 

 

「先生───あれを、持っているのだろう?」

”あれ”。

ナツの発したその声に、彼女は振り返る。

先生は──”あれ”を、手に持っていた。

「カード・・・?」

「・・・今が、その時だろうと思ってね」

まさか──先生は、何か秘策を──

いや、このタイミングで出すということは──

「──駄目、先生。それを使ったら、先生が──」

「いや、生徒のためなら、僕は命を張れる。ここは、大人の僕の出番なんだ、カズサ──」

「先生ッ──」

 

 

「いや、先生。君は、何か勘違いをしていないか?」

 

──え?

 

「ナツ・・・?」

「別に、私は先生に、『カードを使え』とは言っていない。早とちりしないでもらいたいね」

「先生──カードなら、あるだろう?『番号』が」

「『番号』?」

「取引のための個人情報。そのものが持つという証明のための鍵。それは──一つの媒介たりえるのだよ」

「いいかい、先生、皆の集。これからするのは、『借入』でも、『決済』でも、『支払』でもない。これからするのは、神秘の返却要望──」

 

 

「『払戻』──キャッシュバック、だよ」

 

 

「最初に彼女を見た時、聞こえた音がある。アーケードゲームにおける掛け金。いつかは不足する、誰もが欲するリソース。──コインの音が、彼女からした」

「彼女の神秘とは、『再始動』──自らの身体をコインとした、ゲームのコンティニュー権限──彼女は、ありとあらゆる『世界』というゲームで、欲する体験を得るために、コインを消費し続けたのだろう」

 

「でも・・・それなら、レイサちゃんは、もうその力を使うお金なんて・・・」

「いや。取引とは、両者が納得して初めて為される。この場合は──片方が、納得などしていない。それでも彼女には、ゲームを続ける選択肢しか与えられていなかった」

「──ナツ、それはもしかして・・・『体験』かい?」

「流石だね、先生。そう、ゲームとは、『体験』を与える娯楽。求める体験がしっかりと果たされてこそ、そのゲームの価値は認められる。だが、彼女の続けたゲームに──彼女の求める体験など一ミリもなかった。そのゲームに、コインを支払うだけの価値はない。つまり──」

「納得がないから──神秘を使う取引が、成立しない──!」

 

「如何にも。この取引そのものが、一方的に不利なゲームを押し付けた、概念側による不正なものであった──故に、取引に使用したコインは、持ち主に返されるべきであると」

「彼女は、本当はちゃんと『世界』というゲームをプレイしている段階ではない。際限なくコインを消費したそのゲームは──ただの『体験版』。払う必要は本当は無かったんだ」

「だからこその──キャッシュバック・・・」

「なんというか…無茶苦茶な理論というか…ある意味暴論ね…」

 

「彼女の生きた世界の人々を否定するわけではないのだが──この宇沢レイサに至っては。そこに大事な思いこそ、記憶こそあれど。彼女が守りたかった人々はいれども。それは──その世界の中で、完結するはずだったものだった。

彼女は未だ──『人生』というゲームに、コインをインサートしていないのだ」

「だから。この「世界」というゲームに──彼女の、最初の神秘というコインを入れれば──」

「彼女の、この「世界」というゲームが、始まる──」

 

 

「ただし。これで神秘が帰ったからと言って、無事で終わるわけではない。神秘を使うたびに彼女が見てきた、世界の記憶。それが、神秘が返ってくるたびに、フラッシュバック──ぶり返すことになるだろう」

「・・・つまり」

「──これが、彼女自身にとっての、自分を賭けた一世一代のギャンブルゲーム。痛み、苦しみ、哀しみ、怒り──記憶からくる、激情の津波を、彼女が越えられるかの、命がけの綱渡りだ」

「その結果は、彼女次第ではあるがね。はぐれ者に終わるか──勝利して、世界に居場所を残すか」

「無論──それを手伝うのが、我々の役目であるとしても。結局は、彼女自身の戦いだ」

 

 

「これから、彼女にカードとコインを充てる。あとは、彼女の体が、勝手に払戻を始めるだろう。それが上手くいくかは──私にも不明だが」

「杏山カズサ。君は、その負担を彼女に強いる勇気があるかい?その先に彼女が行けるまで、その手を握り続ける覚悟があるかい?」

 

 

「────」

これだけ、頑張ってきて。必死に、抗い続けて。それもすべて──失敗して。

あと少し──それも、恐らくこれまでで一番の試練を、彼女に与える覚悟が、自分にあるのか。

ナツは──そう、言っている。

 

「──ある」

答えは、決まっていた。

 

 

「私を、幾重にも助けようとしたレイサが、このまま黙って楽に死なせるのが希望──なんて、私は納得できない。私は、私の『助けたい』というエゴのために──宇沢レイサを苦しめてでも、許されなくとも、最後まで救うために足掻きたい。その責任を、私は持つ」

「だから──これは私の独断だから──アンタたちに迷惑は──」

 

 

「ばっかじゃないの!?!?!?」

「!?」

「こんな大事な場面に、アンタ一人に任せて帰れっていうの!?こんなんで帰ったら、スイーツどころか飯もまともに食えないわよ!!」

「独りで責任抱え込まないでよね。あたしたちは──同じ部活の、仲間でしょ」

「・・・・・・」

「私も、ですよ。カズサちゃん」

「私にも、その責任、持たせてください。そういうのを一緒に持ってこそ、友達だもの」

「言い出しっぺの法則というものがある。言ったからには、私もその責務を果たさねばならない」

「アンタら・・・」

「杏山カズサ」

「うわっ・・・宇沢、あんた起きてたの・・・」

「私が私を助けるのに、理由なんていりません。そして、その責任は、今から奪い合いっ子です。──さぁ、挑戦状を受け取ってください、杏山カズサ!!!」

「こんなときまでそのテンションなのアンタァ!?」

「カズサ。僕も手伝うよ。大人の僕には──子供の選択を見守り、時に庇う責任が、あるからね。──信じよう、レイサを」

「・・・先生」

 

 

「~~~~~~あぁ~~~~もう!!!好きにして!!!なら行くわよ!覚悟は良いのよね、みんな!?」

「はい!」

「うむ」

「えぇ!」

「はいっ!」

「あぁ」

「頼むわよ、宇沢レイサ・・・・・・私たちの世界に、やってくるまで」

「アンタの手、離さないからね」

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