レイサ*スター放浪記   作:GGenbuu

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【6】

彼女たちから、少し離れたところにて。

ミネとスズミが抑えていた暴動も、ひとしきり収まり始めたところだった。『アウストラリス』から放たれていた攻撃や黒い稲光が、急に勢いを弱めたのだ。それを見た住人達も、次第に安心し始めた──まぁ、一部の例外は『救護』されたとして。

「どうやら・・・向こうはうまくいったのでしょうか」

「いえ、油断は禁物。ここで終わるほど、彼女の抱えるものが小さかったとは思えません」

「確かに、そうですね」

「──スズミさん。ここは私のみで充分です」

「──行っても、よろしいのですか?」

「暴動も大分鎮静化され、あとは我々救護騎士団のみで対処できるでしょう。これは私の勘ですが──彼女の心の闇を切除するには、あなたもまた必要でしょう」

「・・・そうですか。であれば、止まるわけには行きませんね」

「・・・あとは、お願いいたします!」

「委細、承知いたしました。幸運を」

 

 

そして、肝心のその場所では。

たった一人、この世界に流れ着いた星の子を助けるために──手を組んだ者たちがいた。

「じゃ・・・いくよ」

カズサの声に、残りの者たちは、目を合わせて頷く。

 

大人のカードと、一枚のコイン。

私たちにとっては、とっくに慣れ切ってる、コインとカードのインサート。

それをするかのように──倒れて眠る、かの世界からの来訪者の手に。

その二つを、静かにそっと当てた。

 

瞬間。

彼女の体が──ビクッ、と痙攣する。

 

「!?」

「───ゲホッ、ハッ、ハァッ、ハァッ・・・」

「やった・・・息を吹き返したわよ!」

「・・・ここは──」

「・・・あんたが流れ着いた、終着駅だよ」

「──ははっ。そうですか、ここが終わり──なら、随分と夢見心地の良い終わりですね──」

「あぁ、終わりとは言ったけど」

「・・・?」

「あんたは今から、その駅を降りて──この世界を、歩き始める。死ぬとかって訳じゃなくて──私たちの世界の、住人になるんだ」

「──え・・・?」

 

一瞬、困惑したレイサ──改め、レイサ*スターは──目線をそらし、諦めたように笑う。

「・・・無理、ですね。その運賃を──私は一枚も持っていませんし。無駄に続けたゲームに、全部使っちゃって。それができるための余裕なんて、もう──」

「いいや、宇沢レイサ。君が続けたそのゲームは、無駄などではない。君は、理不尽なゲームを続けた先に──我々の元にたどり着けたのだ」

「・・・あなたは確か──ナツさん」

「覚えていてくれて嬉しい限りだ、マイフレンド。君は優しいからね──今まで、自分が何かすることで、世界が変わるということはそうないと分かっていたうえで──それでも止まれなかったんだろう」

「・・・えぇ。大切な人が、黙って死ぬなんて。私には、到底耐えられませんでしたから」

「だが、だからこそ。そうした積み重ねを経てきた君に。こうして、私たちが気づくことができた。君の望みが叶うかもしれない、最後の世界にたどり着けたんだ」

「だとしたら──たどり着くまでの過程が、あまりにも残酷ですね」

「だろうね。全く、概念が擬人化した暁には、我々でロールケーキ一か月の刑に処する所だよ」

「なんで刑のチョイスがそれなのよ!?」

「あはは・・・や、レイサちゃん。久しぶりだね」

「ヨシミさん、アイリさん・・・」

「元気して・・・ううん、そうだったら、こうはなっていないものね。・・・大丈夫、私たちを信じて」

「・・・一体、どういうことでしょうか」

「宇沢レイサ。今から、君の運賃のためにも──君が不正に搾取された、全てのコインをキャッシュバックする」

「・・・!?」

「私たちは、今からあんたを助ける。助けるけど──すんごく辛い目に合う。死ぬ方がマシかも、ってレベルかも。それでも、私たちは、あんたを助けたいっていうエゴを押し通す。──恨んでも、構わないから」

「・・・!ま、待ってください!む、無理です・・・耐えられるわけ、ないじゃない、ですか・・・とっくに私はもう、死んでてもおかしくないのに。これ以上、生きてたくないほどに──諦めてたのに」

「──甘ったれたこと言うなァ!!!」

「!?」

「宇沢ァ!?」

 

「あなたは私、宇沢レイサですよ!?みんなを明るく照らし、世の迷える人々の道標とならん者!トリニティのスーパースターなんですよ!?それが何ですか、このありさまは!!!」

「・・・何が分かるんですか、あなたに・・・!?私が、一体、どれだけの世界で失敗して、失敗して、失敗して──みんな死んでしまって。同じ状況で、あなたは立てるとでも言えるんですか!?」

「無理ですッ!!!」

「「ハァッ!?」」

「いや独りでそんなことできたら、そんなの神様ですよ!?人間じゃないですよ!?無理に決まってるでしょうが!!!」

「そう、独りなら無理です──独りなら」

「・・・!」

「そう、独りで無理なら、2人になれば良い。2人でも無理なら3人。3人で無理なら4人。なんなら──世界中の人々でも」

「それでも──駄目だったら」

「そうですね・・・その時は。他の世界とも、タッグを組んじゃいましょう!!!」

「!?!?」

「いえ、大真面目な話です。世界を旅して、ここまでやってきたあなたがいるのなら──別の世界とのコネクションが、できている可能性は大いにあるんです!それを繫げば、良いじゃないですか」

「・・・そんな、無茶苦茶な、現実的じゃない理想論で変わるなら──」

「理想を語らずして、何がヒーローですかァ!!!ヒーローっていうのはですね。──泥臭く、醜く、それでも諦めずに、最後まで足掻くものでしょうが!!」

「─────ははっ。あなたは──ホント、カッコいいですね」

「何を今更。それに──例え、実を結ばなかったとしても。例え、救われずじまいだったとしても──彼女たちは覚えているはずです。たった独りで、救おうと、前に進むことをやめなかった、孤高に戦ってきたヒーローのことを」

「・・・え?」

「全く──あなたは、私より、ずっとずっと、カッコよく見えてるのに。それに本人が気づいてないなんて、とんだお馬鹿さんですね」

「ば、馬鹿とは何ですか・・・!?」

「そんなんだから、こんなところまで独りでやってきちゃったんですよ、ア〇さんマークの引っ越し屋のおっちゃんじゃあるまいし!!!バーカバーカ!!!」

「・・・この・・・!!!」

「やめんか!!!収拾がつかんわ!!!」

何故か煽りだしたこちら側のレイサを、ヨシミが拳骨で止める。どうしてこうなるのか。

 

「・・・そうですね。その世界の私たちも、きっとあなたの助けを聞きたかったはずです」

「・・・スズミさん」

「向こうが上手く行きそうだったので、こちらに来ました。恐らく、私が必要になると。」

「・・・お久しぶりですね」

「えぇ。随分と長く、走ってこられたようですね。独りで続けてきたのは、正直、幾つか叱らないといけないところですが──まずは、ここまでお疲れさまでした」

「・・・あなたほど、上手くはいきませんでしたけどね。恥ずかしい限りです」

「いえ、立派だと思いますよ。同じ自警団として、こんなに誇らしい人がいること。とても、嬉しいです」

「・・・ははっ」

 

「そうだね。・・・うん、心配しないで、レイサ」

「・・・この世界の先生、ですね」

「そうだね。でも──これからは、君にとっても先生だ」

「・・・ごめんなさい。いくつも、いくつも渡った世界で、最後として──あなたを、守れたことは無かった。私が、不甲斐ないばかりに──」

「・・・そうだね。

いいかい、レイサ。確かに、君には欠点が無いとは言えない。

周りの声に耳を傾けるのに、少し時間がかかったり。逆に、周りに自分の思いを伝えるのが苦手だったり。──実は、かなりナイーブだったりね」

「・・・手厳しいですね」

「先生だからね。叱るところは叱らないといけないから。

だけど──数多の世界で、救うことは出来なかったというけれど──きっと、それは君がいたから、まだ救いがあったと、僕は信じてるよ。何も、助けられるだけが、救いではないからね」

「・・・何も、できずに、無駄に終わったとしても・・・?」

「うん。君は確かに──ありとあらゆる世界の。どこかの誰かにとっては──まぎれもなく、ヒーローだったんだよ」

「────そう、ですか。先生が、そう仰られるなら。そう、考えることにしましょう」

「それがいいよ。君というヒーローにも──救いは、必要だ」

 

 

 

 

 

「・・・分かり、ました。杏山カズサ──信じて、良いんですね・・・?どうなっても、知りませんよ?」

「うん、信じて。というか、アンタに迷惑かけられるのは、慣れっこだからね」

「はは・・・・・・いつも、私がすみませんね」

「・・・いいよ。あとは、帰ってから続けよう。スイーツでも、食べながらさ」

「・・・はい」

 

「では、改めて──恥ずかしながら、お願いを聞いて下さい。

──どうか、私を助けて下さい。私の──ヒーローたち」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

そうして、レイサ*スターが目を閉じ、集中し始める。彼女の手に持ったカードとコインが光り始める。同時に、黒い星が嘶き始める。

キャッシュバックが──締結された。

 

「見て、ヘイローの罅が・・・少しずつ修復されて言ってるわよ!?」

「まずは上々。向こうも、この取引を呑んだようだね」

「頑張って・・・!」

 

しかし──それは、同時に彼女にとっての、永遠にして一瞬の、地獄の時間の開始を告げる、鐘の音でもあった。

 

「あ・・・あ・・・あぁ・・・あああああああああああああっ!!!!!!!」

黒星のヘイローが、バグったかのように揺れ始める。同時に、彼女が頭を押さえて絶叫を始める。うなされ、泣き叫び、転がりまわる。

 

「いや、いやだいやだ、いやだぁ──杏山カズサ──起きて、起きてくださいッ、また私を置いていくんですか・・・また私は助けられなかったんですか──う、うぁああ、ああああああああああ」

「・・・始まったが──思った以上にスピードが、早い・・・!?」

そうして、ナツがレイサに近寄った。その顔には、明らかに今までとは違う焦りが見えた。

「ナツ、レイサは!? 今どうなっているんだ!?」

「キャッシュバックが始まって、神秘の返還は始まったが──長い時間をかけることなく、ダムの放水の如く凄まじい勢いで、記憶を送り込んできている!」

 

「!?」

 

「せんせ、先生、先生ッ──駄目です、行っちゃ駄目、行かないで、側にいてください、そっちに行っちゃ──あぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!なんで、なんでなんでなんでなんで─────」

「クソッ、容赦がなさすぎるわよ!?こっちの都合なんか知らんってこと!?」

「ひ、酷い・・・」

「何か、私たちにできないんですか!?ただ、私が苦しむのを、見てるしかないんですか!?」

「この試練を乗り越えるためには、彼女一人で歩かなければ。我々が彼女の記憶に介入すれば、脳にダメージが入るだろう。

かといってここでやめれば──永久に、記憶の牢獄に捕われる」

「・・・なんて、非情な」

 

「・・・レイサッッッ!!!」

その時、カズサが彼女の手を握る。

「記憶に干渉しなければ良いんでしょ!?なら──外から、呼びかけ続ければいい!!!」

「「「「「!!!」」」」」

「宇沢・・・ここに、いるよ。あんたが帰ってくるまで、私たちはここにいる。だから信じて、私たちを!あんたは───トリニティのスーパースター、宇沢レイサ!!!私の──『友達』でしょ!?」

それを見て、他の者たちも彼女の手を握り、声をかける。未だ開けない夜空に、独りぼっちの少女を一人にさせまいと叫ぶ、道標とならん合唱が響き渡る。

「レイサ!戻ってきなさい、あたしたちが待っているから!!!」

「頑張れ、頑張れレイサちゃんッ!!!」

「宇沢レイサ。戻って来たまえ、ここが、君の世界だ」

「レイサさん、あと少しです!どうか、どうか!」

「レイサ、僕らがついてる!大丈夫!信じるんだ!」

「宇沢レイサ、あなたは私!!!乗り越えてください、スーパースター!!!」

「「「「「「「レイサッ!!!!!」」」」」」」

 

「う、うぁあ、ああああああああああああ───────ッ」

 

 

長い永い、二度と戻らない者たちとの別れの濁流に揉まれながら。

彼女の意識の舞台は──夢の中へ移る。

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