彼女は──始まりの場所へと至る。
記憶という宇宙の中を、孤独に、独りぼっちに。
やがて──心の公転周期を乗り越え──彼らの元へ。
その星の遥か上空、大気圏よりももっと上の、暗い世界で──宇沢レイサは、目を覚ます。
「ここは・・・?
──あ──」
奇跡とは。
何も、限られた場所だけで起きるものではない。
予測のつかない場所で、予測がつかない状態で起こるからこそ──それは、奇跡と呼ばれる。
「杏山カズサ────先生───」
彼女が、誰よりも、何よりも。
会いたかった2人が──そこに、いてくれた。
その星という『世界』が──最後に見せてくれた、奇跡だった。
「やっ、宇沢。久しぶり」
「やぁ、レイサ」
「・・・う──うぁ──うわあああぁぁぁぁんッ!!!!」
その2人に彼女は──親を見つけた、迷子の子供のように──駆け寄り、抱き着く。
「うあぁ・・・ああ・・・カズ、サ・・・せん、せい・・・・・・ごめん・・・ごめん、なさい・・・・・・私、わた、し・・・い、いっぱい、いっぱい間違え、て・・・失敗して・・・」
ボロボロと、零れる涙は、止まるところなど知る由もない。
会いたかった人の胸の中で。腕の中で。
彼女は嗚咽に胸を詰まらせながら、ひたすら泣きじゃくった。
そこにいたのは、スーパースターでも、ヒーローでもない。
──誰かに甘えたくて仕方がなかった、寂しい寂しい、女の子だった。
「・・・はは。そういう、本音がやっといえるようになったんだね。
──見てたよ、宇沢。カッコよかったよ、ヒーローみたいで」
「うん、そうだね。──そして、ごめんね、レイサ。私の『お願い』は、いつからか『約束』になって、『呪い』となって──君を、苦しめて、終わりのない旅につかせてしまった。本当に──ごめんね」
「・・・先生は、わ、悪くないんです・・・わ、私がもっと、で、出来てたらって──そう、思ったら──もう、止まらなくて──止まれなくて」
「・・・そうだね。あんたはそういう奴だったしね。でも、良いんだよ。何も悪くないどころか──あんたは確かに、私たちを救ってくれたんだから」
「────ッ!!!!うぁあ、ああ、あああああああああああ・・・・・・」
そうして暫く、少女は、大事な人との抱擁を過ごす。
そう───誰にだって。
ヒーローは──いるはずなのだ。
「──それにしても。綺麗だね」
「あぁ、まるで魔法の宙の中にいるみたいだ。今この時にレイサと会えたのは、幸運だったね」
「・・・えぇ。私もそう思います」
そうして、散々泣きじゃくった少女は、晴れやかな顔で宇宙を見る。
さっきまで真っ暗だったその世界に、星々が奇跡の祝福と言わんばかりに、灯りを灯す。
オーロラと天の川が流れ、流星が願いを叶えに出かけ、月はただ静かに見守る。
まさに、独り頑張り続けた彼女への──一つの、ご褒美のような贈り物。
彼女を生んだ星からの、大事な人と共に送るプレゼントだった。
「・・・そろそろですね」
「・・・行くのかい?」
「えぇ。私を呼んでくれてる、友達と恩師の声がしますから。あの世界の『人間』として、私は生きないといけません」
「…そっか。まぁ、有り体な言葉だけど──行ってらっしゃい」
「うん。行っておいで、レイサ」
「・・・はい!」
「──宇沢」
「・・・なんでしょう?」
「これから、宇沢は宇沢の人生を始めるんだ。だからさ──あんたが幸せになれるなら、私たちのことを引きずらなくたっていい。私たちはそれでもいい。私たちは、あんたが助けようとしてくれたことを、確かに覚えているから。
だから──自分自身の為に生きなよ。私達の──スーパースター」
「そうだね──大丈夫。レイサは、君が思っているよりずっと強い。私がよく知ってる。
たった独りで、いろんな世界を出会いと別れを繰り返しながら、歩いてきたんだ──みんなでだって、きっと行けるよ」
「・・・正直、忘れたくても忘れられないでしょうけど。気持ちだけ、受け取っておきます」
「でも、無理はもうしません。これからは、ちゃんと皆に助けてもらえる、私になります。だから──見ていてください、2人とも」
「分かったよ、ちゃんと見てるよ。あんたが見えなくなっても──ここから、見てるから」
「それじゃ──バイバイ、宇沢」
「元気でね、レイサ」
「・・・はい!宇沢レイサ、行ってきます!」
さぁ、それでは。
醒めない悪夢の、その先の。
数多の奇跡が集う、最終地点。
私たちの、ランデブーポイントにて。
───彼女たちの『世界』の話を、続けよう。