レイサ*スター放浪記   作:GGenbuu

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【小話】「スーパースターとエトワール」

騒動から1週間。

『トリニティ内に突如として降った彗星、そしてそこから現れた謎の怪物』なんてクロノスの新聞社にとっては随分と美味でもあっただろう騒動は、一先ずは落ち着きを見せていた。

未だ騒動で荒れた場所に関しては修復が為されているが、民間の地域にはほとんど被害が出なかったこともあり、次第に鳴りを潜めるだろうとのことだ。

寧ろ、騒動で被害を受けたところから、各企業の不正な取引の契約書や、独自ルートで運び込まれた軍事品なども見つかったものだから、調べるほどにトリニティ内部の犯罪の巣窟に近づく情報が出てきて、調査班は困惑していたらしい。

そして、彼女はと言えば──

 

「そういえば、あれからレイスって、どうなってるんだろ?」

ある放課後。

放課後スイーツ部の4人は、トリニティの都内の公園にて、各々のお気に入りのアイスを頬張りながら話していた。

「あ、そのことなら、レイサちゃんから聞いたよ。何でも、ティーパーティーの人から、退院してすぐ呼ばれたんだって」

「ティーパーティーって・・・トリニティのトップだっけ・・・?よく分からんけど」

「うん、呼んだ人が、セイアさんって人らしいの」

いつも通りチョコミントアイスを持っているアイリが、ヨシミに答える。

「セイアって・・・百合園セイア、だったっけ?」

「まぁ、真相は挟まれたラングドシャのクリームの如く不明・・・」

一人だけソフトクリームを楽しんでいるナツが、バックグラウンドを色々考えてるのか、遠くの空をぼーっと見つめる。

「ふーん・・・ま、よくは分からないけど…あいつ、大丈夫かな・・・」

そんなふうに話していた時。

少し遠くの方から、小規模な爆発音と、散弾銃のような音が聞こえる。このキヴォトスなら日常ともいえる音だが、聞き覚えのあるようでやや違う音が混じっていた。

「あの音って・・・レイサの銃の音よね?」

「また、自警団頑張ってるんだろうね」

しかし、カズサの耳がそこでぴくりと動く。

「いや、リロードから再発射までの間隔が、宇沢にしては短い・・・やり合ったから分かる。多分、レイスの方だよ」

「え、そうなの?」

「・・・ふ~~~ん・・・」

「ほほぉ~~~~・・・」

「な、何・・・その生暖かい目は」

「別にぃ~~~?あんたがそんなにも宇沢のこと分かってたなんてねぇ~」

「杏山カズサさんも隅に置けませんなぁ」

「・・・なんか腹立つわね、あんたら」

「どうする?せっかくだし、行ってみる?私、ちょっと興味あるかも」

「そうね、上手くやれてる見に行きましょ!」

「うい、では行くとしますか」

「はぁ・・・ま、いっか。あいつを助けるって決めたのは私たちだしね」

 

 

その少し前。

「ふぅ・・・別世界では知り合いだったとはいえ、流石にセイアさんと話すのは骨が折れますね・・・しかし、この世界では、彼女は予知夢を既に失っているのはちょっと想定外でした」

そう言いながら、レイサ*スター──通称レイスは、スズミと共に帰宅途中にいた。因みに、現在はレイサと同居中らしい。

「予知夢・・・?」

「えぇ。基本的には、『神秘』と呼ばれる、謎の能力や力とでも言いましょうか。神秘の形は人によって変わってきます。私の場合は、使用回数の限られている消費型だったみたいでしたが、人によって変わってくるみたいです」

「成る程・・・神秘、ですか。彼女はそのようなものを・・・」

その答えを聞きながら、スズミは少し頷く。

「ところで・・・その格好については聞いても?」

そう聞かれて、レイスは自分の格好を見る。この世界の宇沢レイサが、カジュアルかつ動きやすい服装をしている点から見ると、非情にフォーマルな格好に近い。

白いシャツの上にネクタイ、そして執事服のような黒いロングテールコート。下は同じく黒を基調としたズボンと革靴。また、腰に掛けた武器も、色はシックなものとなっている。

そして、胸元には五つ星のブローチが、光沢を放ちながら付けられていた。一つの星から、短い弧を描くように四つの星が置かれており、形的には八分儀というものをイメージされているらしい。

──確かに、この世界の宇沢レイサを知っている人からすれば、全く逆の服装ともいえるのだろう。私は少し恥ずかしくなり、照れてしまう。

「これですか・・・ははは。まぁ私の趣味です。先生に『せっかくならこの世界で、思いっきり楽しむことを思い出そう』と言われたので、まずは形からということで」

「そうでしたか・・・すみません。私の知っているレイサさんとは、大分印象が違って見えるので」

「いえ、良いんです。こればっかりは仕方ないし、私が好きでやってることですから」

「はぁ・・・なんというか、元気なレイサさんを知っているだけに、これはこれで頭が混乱しますね」

「まぁ、でしょうね・・・おや?」

すると、少し先の方から、何やらもめごとのような声が聞こえる。可と思えば、硝子の割れるような音なども聞こえ、かなり物騒な印象を受ける。

「・・・行きますか、スズミさん」

「そうですね。どうやら、ひと悶着あったようです」

 

 

 

近づいてみると、どうやら時計店の品物を、ヘルメット団が強盗しようと動いていたようだった。既に大分運び込まれたらしく、ショーケースの中が大分空になっている。

「よし、これで全部だな・・・しかし、雇い主の要望とはいえ、これは流石にやばくないか?」

「いやぁ、仕方ないだろ。この前のイベント開催などで、大幅に資金を使っちまったらしいし。あっちはがっぽり払ってくれるっていうしな!…それに、別の所では銀行強盗とか起きてるって聞くし、大して変わらんだろ」

「でもよ、だったらこれを売り払った方が金になるんじゃないのか?そもそも、そいつって信用できんのか?」

「さぁな、まぁ上の指示だ。俺たちは動いてれば、一先ず晩飯には困らんだろ」

そんな感じで話しては、せっせと戦車に詰め込んでいる。見た感じ、ブラックマーケットの方から依頼を受けたようだった。

「・・・随分と数が多いですね。どうしますか?」

「そうですね・・・スズミさん、彼女たちの帰り道のルートの先回りってできますか?恐らく、ブラックマーケット方面に向かうと思うんです」

「えぇ、できるとは思いますが・・・」

「それなら──私を信じて、向こうで待って下さらないでしょうか。ここは、私一人で行けます」

「本当ですか?」

「ええ。私とて、幾つもの戦場を駆け抜けてきましたから。それに──今は、あなたという頼れる仲間もいますから」

「・・・!分かりました、では後ほど」

「えぇ、後ほど」

 

離脱したスズミを見送った後、レイスは足元に転がっていた石ころを一つ拾った。それを、指の間を伝って少し転がす。

丁度目の前では、回収の終わったヘルメット弾が、撤収しようとしていた先にいた生徒たちを、無理やりどかそうとしていたところだった。

「おら、どけどけ!邪魔だ!」

「あ、危ない・・・!」

その一人に、石ころを照準を合わせるように構え──ピンッ、と弾いた。

放たれた石ころは、まるで弾丸のように風を切る音を響かせながら飛んでいく。そして、団員の額の部分に、派手な衝撃音を立ててぶち当たった。

「うごがっ・・・!?」

当てられた団員は、数歩その場でよろめいた。

「な、一体誰だ・・・!?」

「誰だ、と言われたら・・・そうですね、名乗るのがここは礼儀ですね」

そういうと、彼女は隠れていた路地裏から、一歩ずつ足を踏みしめ、姿を現した。

首元のネクタイをただすように締め直し、革靴を合わせて姿勢を正す。かつてヒーローを夢見ていた少女は、全く違う装いでそこに立っていた。

「初めまして、私は宇沢レイサ・・・いえ、正しくはレイサ*スターなので、宇沢レイス、と呼びましょうか。して、皆様方はここで何を?」

「あぁ?なんか随分偉そうなやつが出てきたな・・・何って、ここにあるもんを回収しにきたんだよ!並んでるばかりで、一向に売れる気配がねぇから、俺たちが代わりに貰おうってんだ!」

「そうそう、こっちは善意でやってるんだ!邪魔するってんなら、あんたが悪者だぜ?」

「善意・・・ですか。では、あなた方は誰かのために動いている、ということでよろしいのですね?」

「あぁ、そういうことだ!分かったら、そこをどきな、令嬢さん」

そうして、彼らは銃を構える。どかないなら、否が応でも無理やり、とでもいうのだろう。

「・・・はぁ。仕方がありませんね。『人のために動く』というのは、残念ながらあなた方が思っている以上に、遥かに困難で厳しい道です。それこそ、その時計を作った職人さん。それを売るために、店を立てた方。その人々に協力し、共に今でも汗を流す者たち。──あなた方は、それを踏みにじっている自覚はおありでしょうかね?」

目を閉じ、笑みは絶やさない。あくまで余裕を保っているその執事風の少女に、彼女たちは徐々に嫌気が増したのか、指をトリガーに掛けだす。

「とはいえ、あなた方がそれでも、というのなら。私を乗り越えてみることです。そうですね──」

懐から、懐中時計を取り出す。この時代の人間としては、大抵スマホを見るから時代錯誤にも見えるだろうけど──そんなことは気にしないでいい。

やりたいように楽しくやる。どうせなら──思うままの「カッコよさ」でいこう。それが、この世界に繋いでくれた人々への、私なりの応え方だ。

「1分あげましょう。その間、私は何も攻撃しません。撃つなりとびかかるなり、どうぞご自由に。──その後、私は動きますので」

「~~~~舐めてるぞこいつ!撃て!」

そういって、銃弾が放たれるが──掠りもしなかった。多少身を捩りながら、ある程度の弾丸は銃の側面で弾く。その一連の動作には、ほとんど隙もない。まぁ──場数が、文字通り違うのだろう。

「はぁ!?なんでそれで当たらないんだよ!?」

「さぁ、何故でしょうね──似た状況を、よく経験したからですかね」

「クソッ!いけ、いけっ!」

今度は、バットなどを持って、接近してくる。大きく振りかぶってくるそれを──やはり、するりと躱す。

元々、身体は身軽な方だ。かかってくる物騒な物たちを、ひらりはらりと受け流しながら、時計を確認する。

「──そろそろですね」

気づけば、1分はあっという間に立ち、残ったのは息をついた団員たちと、その真ん中に佇むレイスだった。

そして、肩に掛けていたショットガンをくるりと回し──正面の者たちに向けて、勢いよく発砲した。

散弾を食らった者たちは、衝撃で後ろへと吹き飛んでいく。驚いた彼らを前に、彼女は彼らにとってのチャンスタイムが切れたことを告げた。そうして、空に佇み、眺められていたその星は──流れを変える。

 

「・・・では、時間です。──お覚悟を」

 

 

そうして──そこから先は、彼女のターンが始まった。

この世界の宇沢レイサのやり方は、軽快に動き、先陣を駆け巡る、フランカーに近いような戦い方だ。

しかし、彼女の動きは──それとは逆。かかる火の粉を、さっさと振り払うように。或いは、火の粉同士がぶつかって自壊するかのように。

つまり、その場所の地形、人、物、状況を逆手に使いながら、自身の体力消費を極力避ける、余裕を持たせるやり方──即ち、カウンタースタイルだ。

 

飛んできた弾丸を避け、その奥にいた別の団員にその弾丸が当たるように誘導する。

大きく弧を描いたバットを銃で受け止め、その勢いを受け流す。

よろめいた体に、ショットガンの弾丸を2発。体を吹き飛ばしそうな程の反動を使って別の攻撃を避けつつ、別の敵にそのまま近づく。振り返りざまに、また2発。

他の弾丸は、近くにあった机を立て代わりにした後、それを蹴り飛ばして敵の不意を作る。

それをまともに食らった敵に近づき、再び2発。

飛んできた手榴弾はその場で掴み、逆に敵に投げ返す。慌てふためいたところを、見逃がさずに接近──

これを繰り返しながら、敵同士の同仕打ちや自滅を誘い、できた不意を見逃さずに撃っていく。

 

それと、彼女の使う「シューティング☆スター」改め「インプレグナブル★コメット」は、かなり特殊な形状のダブルバレル式ショットガンだ。

グリップより後ろからマガジン7発、チャンバー1発の8発×2の計16発を込められる、ショットガンの中でもかなり多めの装弾数を持つ。

逆にいうと、リロードの時間がネックとも言えるが──そこはもう、慣れた手つきである。空になった弾倉に散弾を込め直した彼女は、手の白手袋をはめ直しながら、大元の戦車に近づいていく。

「さて──では、次のダンスのお相手は?」

「ひっ…なんだこいつ!? チッ、ほら急げ!撤収だ撤収!」

残された彼女らは、戦車を慌てて運転しながら一目散に逃げていく。が、それを無理に追おうとはせず、レイスは電話をかけ始めた。

「もしもし、スズミさん。予定通り、そちらにいきましたよ。

あと、そうですね。せっかくですし、彼女にも連絡を」

 

その後、ヘルメット団の戦車と残党は、ブラックマーケットへ向かう道中の、かなり大きめの橋の上を渡っていた。

「急げ、ここから先はトリニティの管轄外だ!」

しかし──布陣は既に組まれていた。突如、彼女らの前に、1発の手榴弾が投げ込まれ──目を潰す程の、瞬い閃光を放った。

「これは、閃光弾…!?」

「…あ、ぐぇっ…!?」

「がはっ!?」

そうして、彼女らが再び視界を取り戻した時には──一部倒れた団員と、その奥に立つ2人の人物がいた。

「レイスさんの言う通りでしたね、やはりここを通りましたか」

「しかも橋のど真ん中!どこにも逃げ場などありませんよ!」

前もってきていた守月スズミと、連絡を受けてきていた宇沢レイサである。

「クソッ…まさかひょっとして誘い込まれたか!?各なる上は──」

すると、戦車の中からひょっこりと出てきた団員が、手榴弾を片手に、重たそうに抱えたケースを見せつけてきた。

「いいのか!?私たちを戦車ごと倒そうとすれば、こいつらも一緒に──」

だが、その箱は──突如差した黒い影と一緒に、瞬く間に消えた。

「失礼、隣が空いていたもので」

「なっ…!?」

ボスと思わしき女が、箱の消えた手元をあっけらかんと見つめた先には、時計の入った箱を回収し、中身を確認するレイスの姿があった。

「確かに物品回収っと…2人とも、待機して下さって感謝します」

「いえ、こちらこそ。おかげで、制圧しやすい人数になっていました」

「急に呼ばれた時は驚きましたけどね!まぁ、活躍の舞台と思えば、寧ろ好機ですから」

そうして、3人が集合した前で、例のヘルメット団はといえば、全くのノーマークだった謎の集団に計画を阻止されたことで、完全に狼狽えていた。

「な、なんだお前ら...!正義実現委員会でも、救護騎士団でもないぞ…!誰なんだいったい!?」

「ん?あの方、何か言ってますよ?」

「我々が誰かと聞いてるようです」

「成る程、であれば──」

そこで3人は、各々のポーズを取る。

宇沢レイサは、自分を親指でさしながら、胸を張るように。

守月スズミは、銃を構えながら、警戒を続けるように。

宇沢レイスは、手を胸と背中に当て、少し会釈するように。

彼女達は、あえてそう名乗った。

「「「私たちは、トリニティ自警団です(!)」」」

 

 

「トリニティ自警『団』!?たった3人でか!?」

「正確には、まだ他にも人がいるんですけどね!」

「まぁ、始まりは結成しようと思ってできたものではありませんし…」

「でも、せっかくなので名乗っておきましょうか。それと──後ろにご注意を」

「…?あっ!?」

残されたヘルメット団が振り返ると、後ろからは正義実現委員会のイチカと、彼女の後輩たちがやってきていた。

「騒ぎを聞きつけて来てみれば、なんかもう終わりかけっすね…あとはこっちが引き受けるっすよ〜」

「正義実現委員会まで来ちまったのか!?」

「あとは、大人しくする方が賢明だと思いますが・・・」

そうスズミが言った瞬間。

戦車の主砲が──ゆっくりと動き始めた。それは、特定のだれかを狙ったものというよりは、彼らの進行方向の先一体を狙ったような、当ての無いものだった。

「クソッ、こうなりゃヤケだ──道を開けろォ!」

「ッ!強行突破する気ですよ!?懲りないですね…!」

そうして構えられた主砲から、巨大な砲弾が続けざまに発射される。

その砲弾に誰かが当たることは無かったが──別のところに、ダメージは入っていた。

突如、橋が揺れ始める。ピキピキとヒビが入り始め、足場が不安定になっていく。

「な…これは!?」

「この橋、さては相当経年劣化していたんじゃありませんか!?」

「まずいっすよ、橋が!一旦退避を…」

とイチカが言ったところで──橋は、崩れ落ち始めた。

 

「うおおおわあああああぁぁぁ!?」

混乱を引き起こした、戦車を含むヘルメット団は、真っ先に橋と一緒に落ちていった。

 

「一先ず橋の先端へ!急いで!」

だが、そうして走った先でも──誘発的に引き起こされた、橋の瓦解が起きていた。

そこには、戻れずに取り残された、正義実現委員会の後輩達が、3名ほど今にも落ちそうになっていた。

 

「あれは…レイサ、スズミさん、お願いできますか!」

「えぇ、任せてくださいッ!」

「分かりました!」

3人はそこで、各方向に素早く分かれた。

そして、そのまま落ちるはずだった彼女達を、それぞれの方法で受け止めた。

 

 

レイサは手を引き、岸近くでしがみついていた子を、そこからしっかりと掴んで引き上げた。

「大丈夫ですか、この手に捕まってください!」

「あ、あなたは…?」

「宇沢レイサ、トリニティのスーパースターです!これでもう、大丈夫ですよッ!」

 

取り残されて分断されたところにいた子は、スズミが即座に背中におぶり、閃光の如く離脱する。

「ここはすぐに崩れます。しっかり捕まって!」

「わ、分かりました…!」

 

落ちかけていた子の元へはレイスが跳び、両手で体を抱え込んでキャッチすると、そのまま川辺へと着地した。

「失礼、お嬢さん。お怪我はありませんか?」

「は、はい…!大丈夫です!」

「それは何よりです。では、上へ行きましょうか」

 

 

3人が岸に到達したと同時に、橋は一部を残してガラガラと崩壊した。

下に落ちていたヘルメット団のメンバーは、何とか破片にしがみついており、あとは委員会による回収を待つのみだった。

 

「3人とも、ありがとっす...! すみません、後輩達を助けてもらって…」

「いえ、こちらこそ間に合ってよかったです」

救い出された3人は、すぐさまイチカに駆け寄って、怖かったと言わんばかりに泣き出してしまい、イチカによしよしと慰められていた。

一部始終を見ていた他の正義実現委員会の子達は、羨望と憧れのような眼差しで、ザワザワと3人の自警団を見ていた。

「す、凄い身のこなし…! 誰なんだろう、あの人たち…」

「確か、あの2人は、『トリニティのスーパースター』と『トリニティの走る閃光弾』って呼ばれたような…」

「そ、そうなんだ…!あれ、でも片方は自称って聞いてるよ?」

「そうなの?でも、実際凄かったし…本当かも」

「じゃあ、あの人は…?なんか、凄い凛々しい感じ…星みたい」

「星…じゃあ…トリニティの『エトワール』とか、かな?」

「エトワール…!いいかも…」

特に、目を惹きやすい姿をしていたレイスの元に、多くの子達が囲い始めた。

当人のレイスはといえば、泣いていた子を励ますように、目線を合わせながら話しているところだった。

 

 

「なんだか、騒がしいですね?」

「い、いきなりこう、好意的に注目を浴びるのは、若干緊張しますね…」

「そういうところは繊細だからね、あんた」

「はは、そうですね──ゑ!?来てたんですか、杏山カズサァ!?」

少し離れたところからレイスを見ていた2人の元に、放課後スイーツ部の面々がやって来ていた。

「やっ、レイサ。一部始終、見てたわよ?」

「うん、カッコよかった。なんか、いいチームワークに見えてたよ」

「そうでしたか?あの場面では、特に示し合わせたりはしていませんでしたが…」

「阿吽の呼吸というやつじゃないかね~」

「成る程…!私たちもついに、その領域に到達しましたか!」

「そこらへんにしといて。あんま褒めると、こいつ調子乗るから…」

 

「それにしても、もう1人の私は人気ですね…あの事態の後にも関わらず、もうあの子達にエレガントに接してますよ」

レイスを見てみれば、泣いていた子にはハンカチを差し出し、他の子達からの質問にも一つ一つ丁寧に答えている。その一連の動作は、誰に対しても礼儀正しい、紳士淑女のそれに近かった。

「うーん…何と言うか、あそこまで一貫した振る舞いだともはやプロね…」

「良いですね…私もいつかあんな風にカッコよくなれば!」

「──いや、あんたはそのままでいいから…」と、カズサはやれやれと言った感じで宥める。それを見て、そこにいた3人がカズサの方を振り向いた。

「え?そうなんですか?」

「へぇ…つまり、今の宇沢レイサをあんたも気に入ってるってことかしら?」

「やはり、愛か…」

「そこ!余計なこと言わない!」

「ふふ…でも、充実してそうでよかった。そうでしょ、カズサちゃん?」

「まぁ…そりゃそう、だけど…なんかあいつがあんなにも人気だと・・・少し複雑というか・・・」

 

 

「あの…レイスさん、でしょうか?」

「えぇ、どうしましたか?」

「あの…前に私、あなたが黒い耳の女性の方に、何か紙の包みを渡してるのを見たのですが…」

「あぁ…あれは挑戦状です」

「挑戦状?」

「私から彼女への、一種の申し出みたいなものです。ある意味、ファンレターにも近いかもですね」

「そ、そうなんですか…あ、あの」

「はい?」

 

「わ、私も…その挑戦状、貰ってみたいです!」

「!?」

「はい!?」

「え!?」

「いや挑戦状ってそういうもんじゃないけど!?」

「ふむ…一種の招待状──或いは、手紙と受けとったとか」

「んなわけあるか!?どうしてそうなった!?」

 

 

「…!わ、私も…なんか気になる!」「そ、そうかも…」

と言った感じで、何故か彼女の『挑戦状』をもらいたいと、集まった子達がレイスにおねだりを始めた。

「そうですか…?」

それを聞いて、きょとんとするレイスだったが──目を閉じ、顔を振る。

そして、ウインクするように片目だけ開け、杏山カズサのに視線を向ける。ぎょっとしたカズサを見ながら、人差し指を口先に当てた。

「残念ですが、これはあげられません。失礼ながら──」

 

「これを渡す相手はただ1人、彼女と決めているもので」

 

「ーーーーッ!?」

そして、視線の先を見た彼女達は何かを察したのか、顔を赤面させながらきゃあきゃあと騒ぎ始めた。それを宥めつつも、イチカは「甘酸っぱいっすね〜」と見守っていた。

 

そして当人達はと言うと──

「あらあら〜…カズサ、ご指名入ったわよ!」

「うわぁ…なんか凄い…」

「一度決めた相手は離さない。繋がれたパピコは最初から最後まで2セット…」

「あ、私もいますからね、杏山カズサ!挑戦状いりますか!?」

「いるかこのバカ2名がァァァァ!!!」

 

そうして赤面してその場を脱兎のごとく逃げ出したカズサと、彼女を追って走り出した面々を見ながら。

 

トリニティの新たな異名──『トリニティのエトワール』こと宇沢レイスは、一人微笑むのだった。

 

「この先も、よろしくお願いしますね。杏山カズサ?」

 

Fin.

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