バビル3世 颯爽登場   作:ひねもす@HAMELN

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#03 調

デュアランド・ラインに、筋骨隆々とした白人カップルが現れた。

 

一流ブランドの登山用具で完全武装。

いかにも秘境慣れしている風体で、しきりに写真や動画を撮っている。

アメリカ合衆国籍のパスポートと共にパキスタン政府発行の通行証も携帯しており、職業欄には探検家・著述家と記されていた。

女の名はヨーコ・マウンテン。

男はミッチー・サンシャイン。

そんな名前不自然だろうと文明国人なら思うところだが、僻地に来れば来るほど、アメリカ人であること以外は注目されないものだ。

 

実際、ジンナー国際空港へ着いてからここまで、アメリカ人だというだけで全てのチェックポイントをすみやかに通過させてもらえた。

街なかへ出ると物売りにつきまとわれることには閉口したが、大抵はノー!!と強めに拒絶すれば散ってくれる。グレート・アメリカ様の機嫌を損ねたらどんな目に遭わされるか、子供でもよく知っているのだ。

まだまだ教育が足りてないことは嘆かわしいが、それは自分たちの仕事ではないから、同じく合衆国から出張して来てやっている商売人か公務員にまかせよう。

ヨーコとミッチーはさっそく北へ向かった。目的はヨミという男に接触して、本国へ報告することだ。

 

それにしても未開の地だぜ。

人が住むような環境じゃあない。

空気はうまいといえばうまいような気もするが、俺たちはタバコを喫わないんでね。ありがたみは薄い。

湧き水が清らかだって?

上流で誰がションベンしてるかわからねえ、こんな生水飲めるかってんだ。

虫はたかってくるし、獣も多くてうざってえ。

ある程度の土地をドルで買い占めてハンティング・パークでも経営したら、アメリカ人観光客に喜ばれてこの国の内需拡大にも貢献してやれるかな。

しかし俺は住みたくねえから、物好きなやつに管理をまかせて、収益だけ受け取りながら郷里でのんびり過ごしたいぜ。

CIAのイヌやってる限りは、そんな老後も夢のまた夢なんだが。

 

女も男も、肚いせ混じりに好き勝手つぶやきながら険しい山を登る。

ポーターは雇っていない。いざという時は盾にできるが、その時まで維持しておくのが面倒だし、2人とも体力はありあまっているから余計な重荷はつけたくなかったのだ。

村人に出くわすと「ヨミ様にお会いしたいのです」とカタコトのパンジャブ語やウルドゥー語で説明する。

とにかく平和をアピールだ。そのうち誰かが引き合わせてくれるだろう、と呑気に構えていた。

戦闘は命じられていない。もっとも、禁止もされてないが。

自分たちの役目は偵察だけなのだ。だから余裕を見せていた。

 

しかし、あっちだよ、そっちへ進めと無駄足を踏ませられたり、危険な崖へ誘導されたりなどが重なって、テント暮らしも7日目を迎える頃になるとイライラも限界を超える。

とっととヨミに会って帰ろうぜ。

クソ土民ども、覚えてやがれ。

よくも俺たちをからかいやがって。帰り道でたっぷり仕返ししてやる。

おまえたちにはまだまだ教育が足りないのだ。グレート・アメリカ様がどれほどおそろしい存在であるか、血で贖って反省しやがれ。

この任務はハズレを引いたな。ヤレヤレ。

 

しかし2人は降りてこなかった。

どこかで遭難したのだろうか。

イスラマバードのアメリカ大使館はパキスタン警察と国軍まで動員させて捜索にあたらせたが、無秩序な目撃証言を集めるのが精一杯だった。

 

もともとデュアランド・ライン周辺では何が起きても藪の中なのだ。

住民たちは西洋人が大嫌いだが、イスラマバードやカーブルの首都政府へも信用など寄せていない。

地区担当させられている地元警察や役所は、調査したことにして、住民登録や地図・人口分布などのデータを適当に仕上げて中央へ提出する。

そんな実態が、100年以上も続いて、当たり前になっているという感じなのである。

こんな地域で横柄なアメリカ人が2名ばかり行方不明になったところで、そうかい御苦労様だねえ、とねぎらわれるくらいが関の山さ。

 

CIAは事を荒立てず、しかし大損失なので第2班を編制した。

今度は原住民との接触も禁じ、GPSと衛星通信によるラングレー本部との連絡をより密にさせて、ヨーコとミッチーが消息を絶ったポイント周辺から調査すべしと命じた。

エージェントたちはアフガニスタンのバグラム米空軍基地から深夜ヘリで飛び立ち、暗視装置もパラシュートも使わずに降下する。バビル2世からの輸血によってもたらされた超能力ありきの作戦だ。

ヨーコとミッチーも同じ能力を持っていたが、エマージェンシーを発することもなく失踪した。

そりゃ大騒ぎにもなるわけさ。

 

ところで、第2班も帰ってこなかった。

GPSの軌跡を解析すると、ひとりずつ引き離され、個別に動きを止め、その後すぐ地図上から消え去っている。

特別製の追跡装置なので、たとえ死体を焼いたり地中に埋めたりしても、よほど深くなければ場所の特定くらい可能なはずだった。

痕跡すら留めぬ敵の徹底ぶりに、CIA幹部たちは頭を抱える。

 

「アルカーイダの残党を発見したことにして、周辺一帯を空爆しちまいますか」

「誰か大統領にサインさせてくる役やりたい奴いるか?」

 

などの意見も飛び交ったが、ここで、モニタ越しに会議を眺めていたバビル2世からストップをかけられる。

 

「僕が行ってこよう。相手はヨミだ。イヌどもじゃ勝負にならない。

足手まといになるから応援はいらない。

追跡もやめてくれ。

もし僕が戻ってこなくても、おまえたち、気を抜くんじゃないよ。反米テロリズム勢力を完全にこの世から駆逐するまで、CIAに休息なんてゆるされないんだ。僕がいなくてもちゃんとやれているか、こっそり見ててやるから。

それでは少し長めのヴァカンスへ行ってくる。

オーヴァー」

 

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