ヒシケイジさえ居なければ   作:ハシダ シュンスケ

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やっぱり、二回行動です。


2011冬、石破 志雄の余談。

「いくぞっ、ケイジ――!!」

 

 2011年、11月。

 石破 志雄、職業騎手――

 

 現在位置、信楽ノーザンファーム、新設ウッドチップコース、ヒシケイジの鞍上。

 

 騎乗姿勢を取り、後方から迫る気配を感じる。

 互いに軽く流し、追われる調教――可能なら、ここでオルフェーヴルと競る機会が欲しい。

 

 残り五ハロンを過ぎた。

 

 そろそろオルフェーヴルが来るタイミングだ。

 

 ほらきた――背後から加速するオルフェーヴルを感じる。

 ヒシケイジも競り合いになるように徐々に加速を掛けようとした直後――

 

 ヒシケイジがおびえたのを感じた。

 無意識にコイツは、本気を出すのを怖がっている。

 

 よくない――

 

 俺は馬なりに、ヒシケイジを走らせる。

 

「おや」

「こりゃ何かあったか――?」

 

 生添騎手も何かを察したのか、すっとヒシケイジを抜き去る。

 こういうところで、気遣いが出来る人だ。

 

「では、またオルフェーヴルがノったときに――」

「ああ、そんな時が来ないことを祈るがな」

 

 その日の調教はあっさりと解散になった。

 妻と子は既に大阪のホテルにいて、明日までに合流する手はずになっている。

 

 それにしてもベビーシッターのサービスなんて生まれて初めて頼んだ。

 その辺の根回しもしてくれることに、感謝しかない。

 

「石破、説明できるか?」

「はい」

 

 石破 志雄がヒシケイジをスタッフに預けたところで、丁度おやっさんがやってくる。

 あまりいい知らせではないが、伝えなければ話にならない。

 

「ケイジが本気を出すのを怖がってます。無意識に前のレースのようにならないように気を使っているみたいです」

「そうか……ステッキを入れて、馬が不調を自覚する前に――軽く流したって感じか」

「正直、オルフェーヴルの仕上がりも前以上に感じました。これで有馬に勝つのは――」

 

 あれだけ頭を下げた手前、無理とは言わないが――

 

「あれだけのコトがあって、怪我がもう完治したってだけで十分だが……石破 志雄、策はあるか?」

 

 おやっさんの言葉に言葉が出ない。

 下手に伝えて、拗らせなくてよかったとみるべきか――

 

 だが、自覚していない問題を解決はできない。

 最終追い切りまで、一か月もない。

 

「ありません」

 

 ならば、正直に伝えるほかない。

 

「じゃあ、今から考えんとな。馬がやる気があるうちに、出来ることを考えるしかねぇ」

「はい」

 

 そうだ――ヒシケイジは戦う気でいる。

 無意識で恐れていても、俺達にできることはリスクを抑えることだけだ。

 

 結局ヒシケイジの斜行癖は治っていない。

 

 手札が悪くても、やるべきことをする以外に俺達に残された道はない。

 

(ならどうする――? 俺に何が出来る。あと一か月――)

 

 苦しい戦いになることは容易に想像が付く。

 華やかなグランプリへの空気の裏で、早山陣営もまた、苦しい戦いが始まっていた。

 

「とりあえず、タケさんに相談してみるか……飯の場で聞くの、気が引けるなぁ……」




誤字脱字、感想お待ちしております。
明日も1800投稿予定です。
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