何らかのケアレスミスで投稿設定か吹き飛んでしまいました。
久方ぶりの休みでチェックが遅れてしまい申し訳ございませんでした。
明日は問題なく1800に投稿される予定です。
引き続き、ヒシケイジさえ居なければをお楽しみ下さい。
『あぁ突き上げるような大歓声、おそらく大半は豪駿と暴君の競い合いを期待したファンの大歓声でしょう』
2012年4月28日、京都競馬場11R。
奇数枠のヒシケイジはゆっくりとゲートに収まった。
ヒルノダムールがゲート入りを嫌がる中で、しばしの間が俺と石破 志雄の間に生まれた。
『春の天皇賞レコードはディープインパクトが記録した1分13秒4(正しくは3分13秒4)ですが』
「ケイジ」
偶数枠の馬がゲートに収まる中、石破志雄が口を開いた。
俺は、ピンと耳を立てて、相棒の言葉を待つ。
『果たして、春のグランプリホースと後輩三冠馬は、その記録を塗り替えるか』
「先行、合図したら逃げでいく」
「ブヒッ」
簡潔な指示は、俺に言っているのかあるいは自分に言い聞かせているのか――
どちらでもいい。俺と石破 志雄は手綱でつながっている。
『今ゆっくりとオルフェーヴルがゲートに収まります――』
全馬ゲートイン、一瞬の静寂――
『200秒の後、私たちはどんな衝撃を受けるのか! さぁ天皇賞・春、スタートしました!!』
ガシャンと音が響き、ヒシケイジのトモが瞬時に推進力を産み出す。
直後に、稲妻が走った。
ヒシケイジの中殿筋、半腱様筋、大腿二頭筋が脈動し、隣の馬より一馬身早く、ヒシケイジが前に出る。
「――うおッ!!」
隣にいたトウカイトリックの騎手が、俺の脚に驚く。
『両端ともに、綺麗に出ました』
ぐんぐんと――俺はテンを取りにかかる。
普段通りの王道の競馬が、俺の持ち味だ。
『さぁ一番左のピンクの帽子にご注目ください、内に行った、生添賢治、前に壁を作りました』
今日はプレッシャーを感じない。
オルフェーヴルは普段通り、後ろで競馬をする気らしい。
『三コーナーの坂までにオルフェーヴルは下がって後方に位置しました』
いいぜ、前みたいなレースはごめんだ。
前に前に出る――俺を追ってきた馬は三頭だ。
『最内枠は白地に青が映えるヒシケイジ、前よりの競馬は予定通りか――』
いいぞ来い、来いと語り掛けるように――
淀の坂を上りながら、ヒシケイジは加速する。
『そして二番手に大逃げ宣言をしていましたゴールデンハインド、ビートブラックが続く』
馬場が素晴らしくいい今日のレースだ。
俺の一歩一歩がしっかりと地面に伝わっているのを感じる。
『そしてその後ろに怖いナムラクレセントです』
だったらもう、遠慮なく行く!!
俺がぐっと加速すると――二頭が、俺に付いてくる。
『少し離れましたユニバーサルバンク それからトウカイトリック』
いいぞ、テンションが上がってきた。
ヒシケイジは脚の使い方は冷静に、共に走る馬に意識を向ける。
黄に黒縦縞,赤袖黄一本輪のゴールデンハインド!!
水色,赤十字襷,赤袖水色一本輪のビートブラック!!
『外からケイアイドウソジン、その後ろからトーセンジョーダンです』
ヒシケイジは真っ先に坂を下り、向こう正面へと向かっていく。
『インコースからギュスターヴクライ、その後ろです、13番フェイトフルウォー』
最内枠を通って、加速。
今日の石破 志雄と柵の距離、10センチメートル!!
『インコースからモンテクリスエス』
しっかりと加速する背後には、ぴったりと二頭が付いてくる。
背後からかかるプレッシャーはゴールデンハインド!!
加速し外から、俺を抜こうと首を突っ込んでくる。
『ウインバリアシオン クレスコグランド ジャガーメイル、そしてヒルノダムール』
その時、石破 志雄は合図をするように手綱を引いた。
『そしてオルフェーヴルはここにいました』
そうだ、俺は何だ、逃げ馬だ。
逃げ合う覚悟が俺にはある――脚はまだまだ十分残っている。
『この金色のタテガミを靡かせて坂を下り切りますオルフェーヴル、後ろから三頭目』
ヒシケイジは長い長いコーナーを下りながら加速する。
ゴールデンハインドは一歩も引かない。
坂を下りきって向こう正面、俺達逃げ馬にスタンドの歓声が沸き上がる。
『さらにはコスモロビンがいて、最後方追走は一頭、オレンジの帽子ローズキングダムが殿』
砂煙を上げながら、俺は先頭を譲らないままに前に前に駆け抜ける。
『こういった大勢で18頭が正面スタンド前に掛かります』
ずらっと長い馬群、先頭集団までは2馬身――さぁ石破志雄、状況は整ったぞ。
『さぁ前の1000m、前半をどれくらいのペースで行くんでしょうか』
――パシィ!!
俺が、相棒に意識を向けた瞬間――相棒の鞭が合図で入る。
『59秒――ヒシケイジお得意のハイペース、このままレースは、レースは流れています』
徐々に、徐々に調子を上げるように俺は前に前に抜けていく。
ゴールデンハインドとの加速勝負は、変わらず続いている――
『大歓声は鳴りやまない、縦長になった。十八頭、全馬にこの大歓声を、この大歓声が伝わっていることでしょう』
だが、俺のペースが徐々に上がる中で、ゴールデンハインドの気配が揺らぐ。
迫るコーナー、当然、テンは譲らない。最内を通り――
『これから第1コーナーから第2コーナーに掛かります、先頭はヒシケイジ、ゴールデンハインド下がっていく』
俺の脳内に、スパークが溜まっていく。
『そしてその後ろケイアイドウソジンがいて、フェイトフルウォーがいて、まだ見えません』
そして、まるで走馬灯のように人間の顔が浮かぶ。
『オレンジの帽子がいて、それからその後ろ、ここにいましたオルフェーヴルです、後ろから三頭目を追走しています』
綾部オーナー、見に来ているのだろうか。
雅秀社長に俺は夢を見せられるのか。
『さぁこれからポプラ並木も声援を送る向こう流しに入っていきます いやぁハラハラするレースです』
脳内にスパークが走った直後、俺は手っ取り早い方法を選び――淀の芝の上を飛んだ。
『向こう流しに入って先頭はヒシケイジ――ヒシケイジ、飛んだ!! みるみる差が付く二馬身差のリード』
スタンドにいる誰もが、ライブビューイングにいる誰もが、全国のモニターを見る誰もが――
「ギョロ、早ッ」
「大逃げ、試金石か……」
「石破くんも考えた……菊花賞、あれだけのスパートが出来るならば、確かに大逃げの後にロングスパートの余裕はある」
ヒシケイジの勝利をにわかに、にわかに確信した。
『二番手の位置――ビートブラック、牙山は早くも手が動いている! 三番手大きく離れましたナムラクレセント。これが単独の三番手』
やってしまうのか――やれてしまうのか。
あの走りは一体どれだけ続くのか――
『その後ろがもう10馬身以上切れています。7番のユニバーサルバンク、そしてケイアイドウソジン』
悠々と駆け抜けるヒシケイジの体は、むしろどんどん軽くなっていく。
足が動く、後ろから感じるプレッシャーに負けないように走る、走る、走る――
『内からトウカイトリック その後方です。トーセンジョーダンがいて、ギュスターヴクライがいて――』
心臓の鼓動が高鳴っていく。
苦痛なんて当に感じていない。
『その後ろからフェイトフルウォー モンテクリスエス さらにはトウカイパラダイスがいました』
ゆっくりと、ゆっくりとでいい――
思考をクリアにして、単純な目的を定めて走る。
ビートブラックが追ってくる――必死の追走、この馬にはきっと後がない。
「喰らい付けッ、ビートブラック!!」
『インコースからジャガーメイルがいる それからウインバリアシオンです。そしてヒルノダムール』
「ケイジ、加速だ」
俺の目的は、コイツに抜かれないこと――
いや、違う。
漠然と、それでいて、もっとしっかりとした何かの片鱗がある。
この期に及んで、俺は何を求めている――?
走る、走る、走る、走る――
登る、登る、登る、登っていく――
『その外側にクレスコグランド インコース、コスモロビン――』
「嘘だ、なんでッ……」
俺の後ろから、ビートブラックが徐々に引き離されていく。
坂を上る合間も、加速していく俺の耳に悲痛な声が響く中――ヒシケイジはたった一頭で、淀の坂の頂にたどり着いていた。
誤字脱字、感想お待ちしております。
明日も1800投稿予定です。