ヒシケイジさえ居なければ   作:ハシダ シュンスケ

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誤脱報告、感想ありがとうございます。

(12/11:2/2)


2013春の天皇賞(本馬場入場)

◆◇◆

 

『一枠一番ディープインパクト産駒初の天皇賞参戦です、トーセンラー、今度は息子で栄冠を』

『平成の盾男は日本のタケ!!』

 

 ウフフ、思えばトーセンラー。

 お前と走ったのは京都記念の時からだったね。

 

 前走は……厳しいレースだった。

 ゴールドシップもそういえば早仕掛けをするタイプだったかな。

 

 負けられないね――ヒシケイジの大逃げも、追い切り馬のペースに乗らないように走ろう。

 

(ユタカ!! ユタカ!! ユタカ!! ユタカ!! ユタカ!! ユタカ!!)

 

『会場から、ユタカコールが湧き上がっております』

 

「ウフフ、今日は体の調子もいいよ。トーセンラー、頑張ろうね、トーセンラー!!」

 

『一枠二番、枠・先行・人気薄、揃った波乱の合言葉。サトノシュレンと雪 秀明(ゆき ひであき)

 

 サトノシュレンはやる気だ、元から逃げれる馬ではある。

 まだ若いが走りの中で研がれて来た意欲のあるいい馬だ。

 

 重賞に勝つということは難しい。

 如何にいい馬を当てられるかということだけではない。

 

(いいぞ、今日は――俺も乗って行けそうだ)

 

『二枠三番、砂で高めたスタミナ武器に得意の淀で逆転を。阪神大賞典二着のデスペラード、鞍上 真中 裕(まなか ゆう)です』

 

 デスペラード初めての騎乗だ。

 僕に回ってきた時から、今日は――ケイジと戦える機会だと思っていた。

 

 あの日、ショウナンマイティに出来なかったことをお前は――いや。

 

『デスペラード、頑張ろうな」

 

『二枠四番、三年前の勝ち馬が返り咲きへと虎視眈々、ベテラン9歳 ジャガーメイル、沙希 啓人(サキ ケイト)!!』

 

 沙希 啓人と申します。

 前走は馬と一緒にヒシケイジが面白過ぎて見ていたら、ヴィルシーナにコースを潰されました。

 

 今日、ジャガーメイルに乗せてもらったのは、俺がそれだけ期待されているからだと思っています。

 

 いい馬に乗れるのは楽しい。

 詩依さんに聞いた感じ、ジャガーメイルは矢張り長距離向きだわな。

 

「前走が振るわなかったって、年だからって、ナメられたかないわな――」

「ブヒ!!」

 

『三枠五番、四年前の勝ち馬も返り咲きへと虎視眈々』

『こちらは10歳 マイネルキッツ、桜花賞ジョッキー、クリスティアーノ・ディムロス!!』

 

 去年ぶりに参戦できた日本競馬のRA短期免許、日々楽しい刺激をもらっています。

 

 桜花賞でアユサンに乗れたのは幸運でした。

 

 兄との叩き合いなんて、イタリアに帰った時のいい土産話です。

 今日のレースも葦毛の凱旋門賞馬とやれるとか、我ながら運がいい。

 

「|Meinerkits, sei un cavallo che può andare?《マイネルキッツ、お前は行ける馬か?⦆」

 

『三枠六番、今日の葦毛対決に異議あり、勝負付けはこれからだ』

『豪駿と怪物に待ったをかける漆黒の怪物 フェノーメノ、パートナーは海老名 政義(えびな まさよし)

 

 フェノーメノが震えている。

 

 怯えているわけではない――今日の彼は勝ちに来ているのだ。

 良い馬だ。去年の春から見ていた一頭だった。

 

 武者震い、良いだろう。

 今日は――良いレースをする日だ。

 

「いいぞ、フェノーメノ。お前の凄さをみせてやろう」

 

『四枠七番、13戦連続3着以内、安定感抜群のアドマイヤラクティ、相性抜群の磐田 家康(いわた いえやす)と共に』

 

 ヒシケイジ、思えばお前との戦いに固執し過ぎていたのかもしれない。

 

 ドバイターフでは、ジェンティルドンナにいい走りをさせてやれた。

 ジャパンカップでも――あるいは、いや。

 

 過去のレースを考えても仕方はない。

 

「“最善を尽くす”それだけだな。アドマイヤラクティ――ヒシケイジ、勝負だ!!」

 

『四枠八番、白い怪物が今日も繰り出す問答無用のロングスパート、いざ新たなる芦毛伝説へ、ゴールドシップと打田博士』

 

 シップが何時になく静かだ。

 こういう時は何をやらかす合図でもある。

 

 思えばヒシケイジ、あの馬にはだいぶ良くしてもらった。

 いや、悪くもしてもらった、ヴィルシーナはいい例だ。

 

 騎手のカンとして、あの馬には何かがあるに違いない。

 我々が思いもよらない数奇な――何かがあるのだろう。

 

 重要なことは、出し切ることか――

 

「ゴールドシップ、お前はどう思う? このレース……」

 

『五枠九番、京都は7戦5連対、お母さんはマラソンランナー、波乱を呼ぶか、ユニバーサルバンク、 蒲田 優雅(かまた ゆうが)の騎乗です』

 

 はぁ、今日も豪駿がデカい顔してるなぁ……。

 ユニバーサルバンクもあんまり期待されてないことは分かっているみたいだ。

 

「それでも、期待されてなくても走らなきゃだよね……」

「ヒヒィ~~~~~~~~~~ッ!!」

 

 あれ、思ったよりも――

 手ごたえがいい。これは行けるかも……

 

『五枠十番、初タイトルの思い出の地で意気高らかに関白宣言 メイショウカンパク、富士田 銀司(ふじた ぎんじ)

 

 ヘッ、前走でどんなムードだったか――まだ覚えている奴もいるだろうに。

 とはいえ――漢、富士田。

 

 こういう馬だからこそ、燃える“技巧派”や。

 理想の走りは去年の京都大賞典――コイツはまだ終わっちゃいねぇ

 

「言われてるで、メイショウカンパク!! 気張ってみせろや!!」

 

『六枠十一番、今日はこの馬を応援に来たファンも大勢います』

『芦毛伝説だけじゃないもう一つの伝説ここにあり 8年連続出走のトウカイトリック、西村 幸次(にしむら こうじ)です』

 

 トウカイトリックいい馬だね。

 素直で、ちょっと年は喰っているがまだまだ走ろうという気概を感じる。

 

 フリーになって、いいレースはしてきているつもりだが――

 まだ燃え尽きるつもりはない、調子を上げて、今日からもっといいレースをしよう!!

 

「信頼に答えよう、トウカイトリック」

「ヒヒヒン」

 

『六枠十二番、五日前、星になった母に春の盾を捧げます』

『思い出の12番ゲートから エアグルーヴの仔・フォゲッタブル、鞍上はワンダー・龍神です』

 

 生枝さんの願いで回ってきたテン乗りの馬。

 仕上げてくれたとはいえ、直近の結果を見ても不利なことは変わらない。

 

 いや、逆か――言われた通り、俺のスタイルを期待されている。

 

「なら、俺は丁度いいかもな……」

 

 叩いてでも、何をしてでもコイツを持って行ってやる――それが今日の俺のレースだ。

 

『七枠十三番、昨年ジャパンカップの熱狂をもう一度、セン馬のレッドカドー、ジルドレ・モスの手綱です』

 

 ジャパンカップ、あの日――俺達の全てが打ち砕かれた。

 ヒシケイジ、あれほどの馬が今――どこにいるだろうか。

 

 連中はフランケルにご執心のようだが、ケイジならフランケルと走っても勝っていた。

 この前の大阪杯の光景を見れば、そうに違いないと断言すらできる。

 

 去年から、乗ってきたレッドカドーお前はどうだ。

 お前はセン馬だ。幾ら走ろうとお前の血は残らない。

 

「|Mais le nom restera. Courez aussi fort que possible sur ce gazon ! !《だが、名は残るぞ。このターフを全力で走るのだ!!⦆」

 

『七枠十四番、葦毛は長距離に強い!! 今や誰もが信じるその言葉は、白銀の豪駿から!!』

 

「ケイジ!! ケイジ!! ケイジ!! ケイジ!! ケイジ!! ケイジ!!」

「イシバ!! イシバ!! イシバ!! イシバ!! イシバ!! イシバ!!」

 

 うるせぇ~、あまりにも、うるさすぎる。

 

 青葉賞の時は、テンケイが逆にギアが入ったからよかったが――

 ま、ケイジに限って、走らなくなるイメージは浮かばない。

 

「とりあえず、先行策いくか、雪さんあたり逃げるだろうし」

「ブヒ」

「出来る限り、前よりで他の馬が来るようならペースに乗る」

「ブヒ?」

「あー、まず……基本、お前より早く逃げる馬は居ないだろ。ロングスパートで来るなら脚を残したいんだよ」

「ブヒ!!」

 

 ケイジが首肯するってことは、ま、分かってる合図だ。

 

「俺は、ゴールドシップに脚を残さない状況が怖い」

「ブヒ!!」

「お前、分かるだろ去年の冬からずっとだ――ずっとアイツはお前に勝ちたかったんだ」

「ブヒ……」

 

 そうだ、ゴールドシップは俺達にとってのオルフェーヴルだ。

 この前のヴィルシーナだってお前をずっと意識していた――だからアレだけ走れたんだ。

 

「ま、お前が負けるとは思ってないが、今日もオーナー、見に来てるんだよ」

「ブヒッ!?」

「普通の競馬、やろうぜ」

「ブヒ~~~~~」

 

『八枠十五番、復帰明けでも意気揚々、不利枠を覆せるかビートブラック、牙山 俊一(きばやま しゅんいち)の手綱です』

 

 ビートブラック、見えているか、あの馬だ――

 ヒシケイジ、アイツこそがお前のライバルだ。

 

 辛い戦いになるだろうぜ。

 分かってる、アイツは強いんだ。

 

 だが、前に走って追い付けなかったからと言って――今日行けないなんてことはない。

 

「喰らい付いてやろうぜ!! ビートブラック!!」

 

『八枠十六番、三冠馬にも土付けた現役最強セン馬です、重賞3勝・レッドデイヴィス、西村 弓一(にしむら きゅういち)

 

 いやぁ~、またヒシケイジか……前のレースでは……

 フローを馬に伝えようとして、失敗しちゃったんだっけ。

 

 それでも――チャレンジだ。

 そう、丁度いい感じのチャレンジが、いい感じの目標が必要なんだ。

 

「レッドデイヴィス、そうなるとこのレースで君はいいフローに入れるんじゃないか?」

 

『八枠十七番、海外で磨いた脚で、今こそGⅠの頂に!! ギュスターヴクライは伏名 久一(ふくな きゅういち)!!』

 

 ギュスターヴクライとは、去年以来の付き合いとなる。

 

 ステイヤーズステークスでは悔しい走りになった。

 ドバイゴールドカップでは、いい走りが出来た。

 

 出来る馬なはずなんだ――

 前に立つ、豪駿という壁さえなければ――

 

「だが、ギュスターヴクライ。不利な戦いだろうと、我々は挑まねばならない」




誤字脱字、感想お待ちしております。
明日も1800投稿予定です。
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