人間の身でファミリアを作るのは間違っているだろうか   作:仙託びゟ

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 匿名で次回作もやってるので連載中みたいなスピードで投稿できませんが、番外編開始です。気長に楽しんでね。


番外編 派閥大戦
女神の憂鬱


 

 飛び散る脳漿、顔を濡らす血液、弾ける頭部。

 何も映さなくなった赤い瞳が自分の顔を映す。

 白い髪を赤く濡らして倒れ逝く、自分が伴侶(オーズ)と見初めた、たったひとりの少年。

 策を弄した。プライドなど捨てて、品性など唾を吐いて、すべてを敵に回す覚悟で手に入れた宝物が、いとも容易く手のひらから零れ落ちる。

 

 いや、それだけでは済まない。天界へ導かれたであろうあの魂は、自分が感情のままに送還したあの女神に弄ばれ……

 

「ッあ……」

 

 『神の力(アルカナム)』を使う。それは地上においての禁忌だ。それを縛ることで、神はこの地上に降り立っている。

 逆に言えば、『神の力』を使ってしまえば、すぐに天界へと送還され()ることができる。だから、彼女は天界にいるであろう彼の魂を掬い上げようと、天界へ戻るために『神の力』を使おうとして――

 

「ふざけんな、許すはずねぇだろ、そんな勝手」

 

 自らの眷属に、それを阻止された。

 気絶を狙った第一級冒険者の当て身に、全知零能の身では抗うことはできない。それを行ったのは、彼女の眷属で唯一彼女を利用するために讃える、彼女を一番に置かない、優しくも悲しい猫。

 彼が、勝手に彼女が天界に帰るなんてことを、許すはずがないのだ。

 そうしてこのタイムラグが、あの女神があの子の魂を持っていってしまうのに、きっと致命的な隙になる。

 意識が遠のく中で女神は思う。間違えたのだと。都市全てを巻き込むべきではなかった。いや、正確にはあの小人族だろう。かの派閥の長が気に入っている、彼と同じファミリアの団員の小人族の少女。

 それに手を出したから、敵と認定されたのだ。知っていたはずなのに、彼らに躊躇という言葉は存在しない。ただ後悔だけを抱いて、彼女の意識は闇に溶けていった。

 

 

 

 ガバと、勢いよく寝台から身を起こす。全身を伝う不愉快な冷や汗を疎みながら、女神――フレイヤは先ほどまで見ていた悪夢を頭から追い出そうとする。

 しかし、あの生々しい血の色と臭いがどうしても記憶から出ていかない。それは、ここ最近何度も起こっていることだった。

 ベル・クラネルを手に入れるために策を弄する。例えば、抗争を仕掛けて力付くで改宗させる。例えば、オラリオ全域を魅了して記憶を書き換える。例えば、例えば、例えば。

 

 そのすべての終着点で、自分はピュグマリオン・ファミリアと敵対し、ベル・クラネルが殺される。ならばとオッタルにベル・クラネルを護衛させれば、自分が送還させられる。

 オラリオの英雄とか、黒竜のための戦力とか、恐らくあの集団には関係ないのだ。ただあのリリルカ・アーデとかいうピュグマリオンのお気に入りに手を出すだけで、ピュグマリオンと敵対したと考えて、フレイヤが最も嫌がることをやってくる。

 

「(……いえ、落ち着きましょう。これは神の力でもなければ権能でさえない。ただの夢。悪夢に過ぎない。私が勝手にそうなるだろうと予想して、それが夢に現れているだけ……)」

 

 だけ、ではあるのだ。その夢に現れた可能性を、あり得ないと一蹴できないというだけで。

 

「(というか、リリルカ・アーデを傷つけたからって、リリルカ・アーデの想い人でもあるベルを殺すことで報復って、よく考えたらありえないわよね……)」

 

 そう、よく考えればそうなのだが、フレイヤの中で、それは一種のトラウマになっている出来事である。『煽り兎(チェシャ・バニー)』によるあの脅しは。

 

「……どうしろっていうのよ……もう……」

 

 フレイヤは枕に顔を埋める。フレイヤの不変であるはずの精神は、度重なるリアル過ぎるベルの死という悪夢の内容によって確実に摩耗していた。

 

「……可能性があるとすれば、リリルカ・アーデを味方に引き込むこと……魅了を使わずに」

 

 確か、リリルカはハーレム容認だったはずだ。ヘスティアに恩はあるだろうし、裏切ることへの抵抗はあるだろうが、側室の立場を約束すれば可能性はあるだろうか?

 フレイヤとしては独占欲がある。例えばリューならばベルをシェアしてもいいかとは思っていたが、リリルカの魂は()()()()()()()()()()()のようでフレイヤの食指は動かない。できればそんな相手にベルを譲ることはしたくないが……背に腹は代えられない。

 問題はどうやってベルを手に入れるかだ。今までの言動を見る限り、ベルは確実にロキ・ファミリアの『剣姫』に惚れている。それは、ハーレムが目標だなどと嘯いているにもかかわらず、明らかに秋波を送っている周囲の女性が眼中にない時点で確定だ。

 

 さて、ここで思い出してほしいのだが、基本的にフレイヤという女神は謀略に適性がない。根本的に箱入り娘であるし、策謀は概ね『魅了』によるゴリ押し。

 多くの男を虜にしてきたのも、手練手管でもなんでもなくその美貌によるものだけである。下手をすれば、ベルやアイズ並に恋愛経験がないのだ。

 しかし、彼女はなんとか辿り着いた。「一番敵に回しちゃいけないところに相談すれば敵に回しようがないのでは?」と。

 

 

 

「と、言うことなのよ」

 

「昨今で一番どうでもいい割にめんどくせぇ案件持ってきやがったぴょんこの逆処女ビ◯チ」

 

 オッタルによって拉致られてきたチェレンを前にフレイヤは事情を説明する。この辺りはピュグマリオン・ファミリアの性質をある意味しっかり理解できていると言えよう。

 ピュグマリオン・ファミリアはピュグマリオンやピュグマリオンのお気に入りに手を出すと災厄の如く怒り出すが、何故かガラテア以外の団員相手だとそのハードルが著しく上がる。さらに言えば何故かチェレン相手だとさらに上がる。極論チェレン相手なら無事に返せば特に何も言ってこない。

 そのチェレン本人が一番ネジが外れているのだが、戦闘力自体はそれほど高くない。攫ってくるだけならオッタルをけしかければ割と簡単である。

 

「で、私がベルを手に入れるにはどうすればいいと思う?」

 

「まず根本的に自分の価値観を見直さないと人間と結ばれるのは不可能だってことに気づいたほうがいいと思うぴょん」

 

 バッサリいった。周囲の幹部が若干殺気立つ。特にアレンとヘイズがヤバい。

 ちなみにここには幹部陣+ヘイズが揃っている状況だ。チェレンにとって完全にアウェイだが、実力だけならチェレンはオッタル、ヘディンに次いで3番目、Lv6の中では遠隔でピュグマリオンのバフを受け取れる分最も強い状況である。ガリバー兄弟が連携を組めばチェレンを上回るのだが、ガリバー兄弟の司令塔であるアルフリッグがなんか看過している雰囲気なのでそうはならないだろう。

 何を隠そう、このアルフリッグ自身が神との価値観の違いで苦しみ、最近ようやく飲み込んだ男だからだ。

 

 アルフリッグたちガリバー兄弟は、ドワーフの親方に搾取されていた時に、フレイヤが親方と交わることによって解放されたという過去を持つ。自分のせいで女神が穢れたのだとずっと思い悩んできた。

 しかし、よくよく今までを振り返ってみればこの女神、普通に親方よりばっちいやつらとヤッてるのである。恐らくは自分たちが知るより前、天界でも。

 もちろんそれで恩が薄れるわけではないし、フレイヤ自身も気にしている素振りがなかったのだから自分たちが勝手に大袈裟に捉えていただけなのだが……いや大袈裟に捉えるだろこれは。

 いや、しかしそもそも女神とは偉大なものなので価値観が違うのは当たり前のことだ。女神の価値観は自分たち下界の民では計り知れないものなのだ。それはそれとして、それって下界の民と付き合うには致命的ですよね。そう考えることができるだけの冷静さと常識がアルフリッグにはあった。

 

 同じくその辺り冷静に考えられているのが我らが師匠(マスター)、ヘディンである。なにせ、彼は女神の幸福のためならば女神相手に厳しさを向けられる男である。

 というか、フレイヤ・ファミリアの誰よりも現実を見ていた。なんなら「ベルが女神のものになることはまずないな」と思っているので、この中では唯一の「盛大に失恋して吹っ切れてもらおう」派である。

 

 一方、すべてにイライラしているのはこの男、アレンである。というかこの猫、以前も言ったがここ数ヶ月常にイライラしている。

 気に入らない団長がLv8になり水をあけられ、いけ好かない同僚がLv7になった上に副団長の座を奪われ、自分が切り捨てたものを抱えたままのし上がってきたやつもLv7になり、さらには女神に気に入られているだけの雑魚だと思っていた新人は自分がかつて10年以上かけて得た力をわずか数ヶ月で手に入れて自分のすぐ後ろであるLv5まで迫ってきている。

 もはや、何もかも気に入らないのである。

 

 話を戻そう。チェレンからのツッコミを食らってスッと眼を細くするフレイヤ。そりゃ真っ向から否定されれば気に入らないものはあるだろう。しかし、チェレンはその程度で物怖じする性格はしていない。

 

「お前が今までやってきたように、コレクションかペットでも飼う感覚でベルが欲しいって言ってるならそのままやってりゃいいぴょん。でも伴侶にしたいって言うなら、少なくとも愛玩と恋愛の違いも分かってないようじゃ可能性すらないぴょん」

 

「……愛の女神に愛が何かを説くというの? 人形風情が?」

 

「実際わかってねーだろ。知ったかぶってんじゃねぇよ。そもそも、お前が司ってんのは愛情じゃなくて愛欲だろうが」

 

 そう、そこが大きなすれ違いの根本にある。

 現代人の思う『愛』とはすなわち『精神的な愛』が主流であるが、フレイヤという神が信仰された時代は違う。彼女が司る愛は肉体的な愛、それが主流だった時代、土地なのだ。

 愛する者が死んで涙と共に供養したり、自分以外の愛を慈しみ奇跡で命を与えた逸話の残るアフロディーテや、ひとりの男に執拗につきまとっては愛を強請りテロを引き起こしたイシュタルとの大きな相違点。彼女には、精神的な愛の逸話が少なすぎる。

 それは我々の神話と異なる世界線である彼女も然程変わらない。彼女の愛はひどく稚拙だ。いや、訂正しよう。神が人に向ける愛としては、非常に標準的だ。そう、愛の女神であるにもかかわらず、()()()()()()()()()()

 

「自分が寵愛を向ければ皆が皆幸せだという考えを改めろ。お前が寵愛を向けて喜ぶのは、お前に恩義を向けているか、お前の(ツラ)と体に惹かれてるやつだけだ。ていうか、あーしらのことを『人形風情』とか言ってるような神格のやつをベルが好きになると思う? お前が愛したいベルはそんなやつを好きになるような性格してる?」

 

「ぐっ……」

 

「まぁまずないだろうな」

 

「ヘディン!?」

 

 フレイヤが半ば悲鳴のような叫びとともにヘディンを見た。フレイヤと同じくらいに信じられないという顔でヘディンを見ているのがヘイズとガリバー弟3人、あとヘグニ。お前それ言っちゃうのかよという顔で見ているアルフリッグとアレン。額を押さえて天を仰いだフレイヤの背後にいるオッタル。そして「あっ、言っちゃった」という顔で口を押さえるヘディン。彼はかなりベルに絆されていた*1

 しかしそこは知将ヘディン。すぐさま頭を切り替えるとフレイヤに物申す立場にシフトした。

 

「そもそも、我々の誰一人としてあなたに対して恋愛的な思慕を抱いていないのに、我々と同じような愛し方でなんとかしようとするのは無理があるでしょう」

 

「うぐっ……」

 

「そもそも、あなたはフレイヤとして愚兎(ぐさぎ)とほとんど関わってないではないですか。あなたがベルと関わったのはあなたからの一方的な施しか試練、あるいはあの町娘としてでしょう。そんな相手から好きとか言われても困惑するだけですよ」

 

「な、ならいっそシルとして……」

 

「それでも『剣姫』には敵わないでしょうね。生死をともにした『黒い灰被り(ブラック・アッシュ)』がすぐ近くであれほど秋波を送っていてもダメ、愚兎の好みド真ん中の『疾風』がアプローチしてもダメなんですから」

 

「ちょっと待ちなさい。『疾風』が好みってどういうことかしら?」

 

「金髪のエルフが好みだそうですよ」

 

 少しも掠っていなかった。アレンは心中で少し笑ったが顔には出さなかった。

 

「まぁでも確かにシルとしての接し方のほうが百倍ベル・クラネルの印象はいいと思いますけど……それにアレは神として接した瞬間に恋愛対象から外すタイプだそうなのでフレイヤ様ではまず可能性はないかと……」

 

「アルフリッグ!!?」

 

「いやなんでそんなこと知ってんだ愚兄お前」

 

「飲み会で『黒い灰被り』に聞いた」

 

 なお、飲み会は小人族専門店での定期開催であり、参加者はアルフリッグの他にピュグマリオン・ファミリアのメリー、ロキ・ファミリアのフィン、ヘスティア・ファミリアのリリルカ、ヘルメス・ファミリアのメリル、ミアハ・ファミリアのナッセン、アフロディーテ・ファミリアのメアリがレギュラーで、たまにハトホル・ファミリアのヘルガとピュグマリオン・ファミリアのリリーフィア。リリルカは基本的に牛乳とか飲んでる。

 

 まさかの複数の幹部から(料理について以外で)フレイヤへの批判が飛んだことに、もはや白目を剥いて気絶しているヘイズ。フレイヤを批判した兄を処しにかかるが秒でノされる弟たち。場が混沌としてきた。

 

「じゃあもうどうすればいいのよ……」

 

「ぶっちゃけ正妻になるのは『剣姫』が死ぬか『剣姫』が他とくっつくくらいしか可能性ないと思ったほうがいいぴょん。そんで『剣姫』自身も最近ベルのこと気になってるからそっちは諦めるぴょん。その辺りはリリっちも同じ考えだから、基本的にアホエルフ以外はハーレム狙いぴょん。酒場の店員なら出会った順番的にはかなり早期だからそこそこの位置でいけんじゃねーのかぴょん?」

 

 そこまで言われても未だ未練たらたらなフレイヤを見て、ヘディンは考える。これはいっそ、一度当たって砕けたほうがいいなと。

 かねてより考えてはいた。そして今のオラリオならいけるだろうと感じたプランを、ついに実行に移すことにした。

 

「フレイヤ様。それならば今まで通りでいいのです。手に入らないならば、奪うのみです」

 

「ヘディン……?」

 

「『煽り兎』、『黒い灰被り』に手を出さなければピュグマリオン・ファミリアは手を出してこないのだな?」

 

「あー……まぁ、うん。十中八九?」

 

「ならば、これをヘスティア・ファミリアへ。こちらは『ギルド』へ配達依頼したい。これはヘスティア・ファミリアへ送るものの写しだ、()()()()()()()()()()()()()()()()()隠す必要もないだろう」

 

 チェレンが、ヘディンから手渡された2通の手紙とその写しを受け取り、写しに目を通す。そして、そのおおよその意図を察知したチェレンは、引き攣った笑みで「……マジで?」と呟いた。

 

 数分後、ヘスティア・ファミリアへと手紙が届く。それは、宣戦布告の果し状。フレイヤ・ファミリアからの『戦争遊戯』の誘い。

 条件は、フレイヤ・ファミリアVSヘスティア・ファミリア及び味方するファミリアからの助っ人。ただしロキ・ファミリアとピュグマリオン・ファミリアからはひとりずつのみ助っ人が可能で他からは無制限。ルールは『神探し(ハイド・アンド・シーク)』。

 フレイヤ・ファミリアが勝てば、ヘスティア・ファミリア団長、ベル・クラネルはフレイヤ・ファミリアへ移籍。

 対戦を拒否するようならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()との脅迫付きで。

*1
自覚はないし絶対に否定するが。




 前までアニメでやってた部分、ド地雷なので全パスで失礼します。17巻だけはマジで申し訳ないけど読んでないんです。過呼吸になるんで。
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