貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
◇◇◇
死にかけている子どもたちを保護している、銀髪の少女がいた。
その少女は自らを教祖と名乗り、各地を旅して回っていた。
「…………あら、
銀髪の少女は、空を見上げて呟いた。
その日は、とある一人の子供が、栄養失調と止まらない下痢に耐えられずに命を落とし、その魂が兎の魔物へと作り変えられている途中だった。やせ細った遺体は、銀髪の少女に抱かれて、ゆっくりと少女に吸収されつつある。その幼い子が安らかに眠ることを祈る人は、誰もいなかった。銀髪の少女以外は。
「ククク……我々が世界に撒いた
「左様。もう我々には、迷宮を暴走させるつもりはないというのに……念入りなことだ」
「皇子も全くお人好しなことだ……」
三人の幹部たちは、予言の書を広げながら、その記述内容が書き換わっていることを確認し、安堵の溜息を吐いていた。各地にばら撒かれた
「……我々の計画は、終わったのですね」
銀髪の少女は、どこか胸にちくりと来る小さな痛みを堪えるような面持ちになっていた。
あの皇子は、
同じ超越者の立場にいる、死を看取り続けてきた教祖の少女は、あの皇子から、自分と似たような形容のし難い危うさを感じ取っている。少女は、死別のない『永遠の夢の世界』を作ろうとした。
──あの皇子のように、自分も、『自分の信じる正しいこと』を世界に突きつけて、世界を変えたかった。
そんな気持ちがないと言えば、嘘になる。
教祖の少女は、瞳を閉じて、少しだけ思いを馳せた。
「……人間、そう簡単に生き方は変えられませんね」
人生はままならないものですね、と。
銀髪の少女は、息を引き取った可哀想な子供を抱きしめながら、呟いた。これからも銀髪の少女は、こういった子供に手を差し伸べ続けるつもりだった。今までそうやって生きてきたのだから、変えるつもりはない。
ただ、世界を無理に作り変えることをやめて、別のやり方を模索し始めただけ。
「……また会いましょう、皇子。私は貴方が羨ましいですよ」
何百年とかけて作り上げてきた夢の世界を崩壊させられた相手だというのに。
一度は死闘を繰り広げた間柄だが、銀髪の少女は、不思議とあの皇子を憎んでいなかった。
あの皇子に心酔するものたちが続出するのも無理のない話である、と彼女は思った。確かにあの生き様には、強く憧れるものがあった。
◇◇◇
「え────ーっと、話を総合すると、皇子は常人の何倍も精力増強されている*1ってことですのね……?」
「拙者、興奮してきたでござる」
「アホ女の考えた夢小説じゃねーか!」
「エッッッッ」
空飛ぶ領地と化した、新たなるジャヴァリの地にて。
先行して地上に降りた皇子たち一行にやや遅れて、英傑たち四人も地上に降りようと準備を進めていたところに、衝撃的すぎる情報が入ってきたのだった。
どうやって他人の精力の強さなんて測っているのか、見てもないくせに、等と野暮なことを質問する輩はいなかった。
噂好きの元情報屋、怪傑少女のリコッタが情報を総合したところ、そうなったという。
一説によると、確か殿下は多数の天恵を同時に与えられたと聞く。そのせいで、一般人よりもはるかに精力が底上げされている……という眉唾物の噂が一時流れていた。
「でも根拠はあるッスよ! 鼻の利く亜人族たちに取材して、殿下から
「ん──、でも普人族って、亜人族から見たら発情期の考え方がないといいますか、万年発情期の色欲狂いみたいに見られてるわけですわよね? 殿下の精力が強いとかそういう結論を出すのは早いのではなくて?」
強く主張するリコッタに、英雄エイルは指摘した。極めて妥当な指摘である。例えば亜人族基準で考えた時、彼ら亜人族には発情期という盛りのつく時期が存在するが、その一方で普人族たちはそんなものがなくても雄雌いつでも性行為が出来るという、ちょっと信じられない生態の存在なのだ。
だからこそ大陸にかなり広く繁栄し、
「……普人族の比にならない発情香らしいッス」
「嘘くせー」
思わず賢者キルケが口を挟んだ。
この情報が流れた時、『殿下は天使派』の侍女たち*2は号泣し、『殿下は悪魔派』の拗らせ連中*3はどよめいたという。他にも、『若のためなら死ねる派*4』とか『神の代弁者派*5』とか『ガチ恋厄介勢*6』がいるが、まさに悲喜交交だったという。
「何か聞くところによると、領地が空を飛ぶ前と飛び始めてからで、発情香が飛躍的に跳ね上がったんスよねー。一説によると、殿下は色欲の世界樹と契約したんじゃないかとか何とか」
「まッ、え、誠にござるか!?」
ぎょっとするような情報。
四人の英傑たちは目を見合わせた。
かねてより想い人と結ばれた殿下は、毎朝毎夜のように新妻と甘い日々を過ごしていると聞く。確かに盛んだなあと周りの者たちは思っていた。
だが今の情報を加味すると全然違う。『色欲の世界樹と契約』という怪しい情報をどう捉えるべきかは分からないが、色欲がとんでもなく底上げされそうなようにしか聞こえない。となると本当は、何十人も女を抱かないと収まりがつかないのではないか。殿下は無理をしているのではないか──。
「え……ロナさん死ぬのではなくて?」
「事は火急にござる……!」
「純愛とか言ってる場合じゃねーぞ皇子!」
「これは神の導きでは!? ですよね!? 漲ってきました!」
こうしてはいられない、と四人は慌てふためいた。
そういえば、死人が出るかもしれないという話がちらほらと噂されていたが、『色欲の世界樹と契約』とかいう新たな噂を加味したら、事態の深刻さは急を要する。
多分、その話は最近出たばかりである。領地が空を飛び始めたのが少し前なので、『色欲の世界樹と契約』という情報はまだ織り込まれていないはず。
「いや落ち着け……冷静になれ……一日に何十回も魔石浄化してたら死ぬが、一日に何十回抱いてるだけなら死なないから大丈夫か、うん」
「キルケ落ち着いて、一日何十回も抱いてたらそれはそれで死にますわよ」
ただでさえ皇子は、宝石竜の生まれ変わり*7*8とか囁かれている人外である。顔がいいので皆は騙されているが、あの皇子は『何百年と生き続け、憂鬱の世界樹と契約さえも交わし、あともう少しで世界を塗り替えられた化け物のような魔女』と真っ向勝負でいい戦いを繰り広げていた*9。つまり普通の人間と比べるよりも
──地上に降りるのを急がねば。
四人は決意を固くした。
なおこれは余談であるが、ルーク皇子がラネールやカマソッソを同行させながらも、微塵も手を出してないので「何で手を出してないんだよ!」と四人して詰め寄った、そんな奇妙な一幕があったという。
ルーク皇子「俺のほうが正しいのでは?」