貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
「へいへい、そこの兄さん! アタシたちが面倒見てやろうかーい?」
「へへへ! この辺の新人探索者の面倒はなぁ、ヒルデガルドの姉御が見てやるって暗黙の了解になってるんだぜぇ〜?」
「お上品なお坊ちゃまにゃ、【絡み酒のヒルダ】のしつこさはちょっと早いかもなァ! ぎゃはは!」
「おいてめっ、アホっ、名前を出すなら【鎌鼬のヒルダ】の方にしとけっ!」
べろべろに酔っぱらった愉快な三人組が、最近探索者ギルドを大いにかき回している若造に一発かまそうと絡んできたのはつい最近のこと。
なんでもこの若造、大量に魔蛙を討伐して、魔力鞄の素材を大量に持ち込んできたという。それなりの実力はあるに違いない。見た目もいいのに、将来有望な若い男である。他にも聞くところによると、未登録迷宮を踏破したとか、実は皇族の血筋だとか、そんな突飛な噂も流れてきたが、流石にそれらは出まかせというものであろう。魔力鞄の話は、実際に革職人や染物職人や宝飾職人が忙しそうにしているので事実の裏取りが出来ているが、それ以外は裏取りが出来ていない。物好きが酒の肴に冗談を吹かしているだけだ……と、少し頭の回る探索者たちは常識的に判断していた。とはいえ、いくら噂に誇張が入っているとはいえ、火のない所に煙は立たぬもの。この青年の探索者としての素質は疑いようがない。
少し補足すると、【鎌鼬のヒルダ】は、若い頃から十年以上探索者稼業を続けている実力者である。
貢献度はB級探索者の上位。つまり幻想獣の討伐隊など、国の斡旋する【大災厄案件】の一員に選ばれるほどの探索者。
その一方で、ヒルデガルドは顔のいい男に目がなかった。筋金入りの面食い。金ならいくらでも稼げるので、金遣いがとにかく荒い。なので件の青年のことを「ふん、
「そんなんだから姉ちゃん結婚できねーんだよ」とは、妹のリディル(※妹は自分より頭がいいので探索者学校に行かせた*1)の言葉である。
(この男、絶対にひん剥いてやる……!)
さてどうやってこの男を部屋に連れ込んでやろうか、とヒルデガルドが内心で舌なめずりをしていたその最中。
件の青年はというと。
「え、面倒見てくれるんですか? 丁度よかった!」
あっけらかんと、そんなことを言って距離を詰めて。
「実は、美味しいお酒飲みたかったんですよね」
誘っているのではないかと勘違いしそうな、そんな妖艶な笑みを浮かべて。
「探索者の皆さんがよく集まって、美味しいお酒もたくさん飲めて、賭け事とかも遊べるような……そんな酒場を教えてくれませんか?」
ヒルデガルドの見間違いでなければ、その目は獲物を見つけた猛禽類の目によく似ていて。
この青年に声を掛けたのは間違いだっただろうか、と。そんな嫌な予感が彼女の脳裏によぎったのだった。
◇◇◇
《花園》への報告書
案件:ルーク殿下の護衛案件について
内容:
1.護衛対象の状況
健康状態:毒殺や暗殺未遂への警戒を徹底しており、食事には毎回「毒味」を実施し安全を確保。健康状態に問題は見られず。
心理状態:常に命を狙われる緊張状態にあるが、精神的な負担の兆候は見られず。
2. 日常の警備方針
皇子が移動する際は迷宮内外問わず、必ず随行し、不審者の接近を未然に防止。
周囲の人間の会話は《蝙蝠》が全てを記録し、皇子に悪意を持つ者や不審な動きをする人物がいないかを警戒。
また小休憩や睡眠の際は、《蜘蛛》が不可視の糸を周囲に張り巡らして不審者の接近を物理的に感知。
3. 特記事項
不審者の記録:特になし
その他の問題:探索者ギルドにて、泥酔した探索者たちに遭遇。こちらから一緒に食事を申し入れ、酒宴を実施。その後は機密事項につき厳秘とする。
4. 今後の対応と提案
護衛体制の強化:現段階では、警戒水準を引き上げるほどの高難度迷宮への挑戦は行われていない。今後、現体制での警護対応には限界が見込まれるため、四英傑との連携強化を提案。
────-以下、情報取扱注意事項────-
5.厳秘事項(閲覧には機密権限Aが必要)
皇子が潜入を行った酒場は、上位探索者たちが
皇子の行動記録は以下の通り。
①酒場に入るなり『俺と飲み比べしようじゃないか!』と大声で宣言。
②数札で勝負して負けたら一杯飲み干す、という賭け事を開催。
③序盤、わざと負けを繰り返して酔ったふりをした皇子が『なあ……追加で金を賭けるのはどうだ? 負けたら俺が服を脱ぐから』と提案。
④以後、皇子が数札で勝利を積み重ねる*2。酒場内にいた探索者全員(十六名)から手持ち資金を接収、相手が全裸になるまで資金を巻き上げ、全員を酔い潰して終了。
⑤睡眠中に窒息事故があってはいけないため、酒場の二階の宿泊部屋を借りて全員で雑魚寝。
なお、酔いつぶれた全裸の探索者たちと二階で一緒に寝ていた皇子は、酒場関係者ならび数名の情報屋たちに
判断に悩んだが、情報擾乱には有効と判断し、《蜘蛛》《蝙蝠》の両名の裁量によりこのままとした。
6.護衛対象による申し送り事項(閲覧には機密権限Aが必要)
特定の侍女と魔石浄化を行ったので、その声が一階まで聞こえて誤解を生んだ恐れがあるとのこと。
◇◇◇
「皇子たちと合流したかと思ったら、腕利き探索者たちを全員酔い潰して裸にひん剥いて抱いたとかどうとか、そんなとんでもねー噂が流れてますわよね!?」
「いや、抱いてはないよ」
「酔い潰して全裸にひん剥いたところも否定してほしかったですわね」
英傑たち四人が合流した頃には、もう色々遅かった。
へへっ、あの坊や調子に乗ってるらしいじゃねえか、ちょっと痛い目見てもらおうじゃねえの──とばかりに皇子にちょっかいをかけようとした探索者たちが、軒並み返り討ちにあった、というのが今回の顛末らしい。
しかも皇子曰く「この手口は二度目」らしい。完全に味を占めている。二度もやるな。と、四人は流石に探索者たちに同情した。
「経験上さ、舐めてかかってくる奴らは、変に実力で叩きのめすより、酒で潰して金を巻き上げる方が効率いいんだよな。これ豆知識な」
「一生役に立たないカスの豆知識ですわね」
「いや……これ私使えそうです! 戦闘能力に乏しい私でも使えそうな処世術では!?」
「可能性を感じている輩がここに一人居てござるな」
「カスの聖女にカスの豆知識吹き込んでもなあ」
鋼の胃袋と鋼の肝臓を持つ酒カス聖女だけは、いいことを聞いたとばかりに高揚していたが、他の三人はドン引きしていた。
こんなのは破天荒というものである。人間関係のお困りごとに巻き込まれないため、酔い潰してひん剥きましょう、という解決策を出されているようなものだ。処世術とはそうではない。角が立たないように丸く収めるのが処世術というものであって、これは顔がいい美男子が好き勝手してるだけである。
そもそも、経験上、と皇子が語るのもおかしな話である。そんな経験をする皇子がいてたまるかというのが普通の感想というものだった。
「でもこの金で、魔法の鞄も魔石もたっぷり調達できそうなんだよね」
「そんなことしなくても、皇子は金には困ってないのにさあ……」
「いやいや、金に困っている腕利き探索者十六名を作り出すことに旨味があるんだって」
「人の心とかないんか?」
聞けば聞くほど酷すぎる話だった。もちろん舐めてかかる探索者も悪いのだが、皇子のそれは、顔の良さを利用して相手の下心をくすぐって誘っているのでかなり質が悪い。この美男子を酒で酔い潰したら……! という期待を煽るだけ煽って、逆に相手を酒で潰すという悪辣な手口。引っかかる奴らが続出するのも無理はなかった。
「まあ、これで俺に借金をしたせいで、俺の言うことを聞かなくちゃいけなくなった腕利き探索者がたくさんできたわけだ」
まだ探索者証明証すらもらっていない、暫定E級探索者が、B級C級の腕利き探索者たちの弱みを握ってこき使おうとしている──。
これが皇子流のやり方らしい。
舐められたら殺す、という言い回しがあるが、皇子のやり方は半分それに近い。もちろん、皇家の血筋を振りかざして死罪だの何だの喚き散らす盆暗貴族とは訳が違う。皇子は、別に舐められてもいいと思っているし、利用できそうだから相手の侮りを利用しているだけだし、血筋は最後の切り札に使うためにあまり大っぴらに喧伝しないだけ。
「まあ、皆から巻き上げたお金はきちんと返すさ。俺は俺のために働いてくれる奴らにきちんと報いる人間だからな」
にやりと笑った皇子は、さてこれからどうやって迷宮を踏破してやろうかと思案に耽っていた。それはさながら、盤上でどう駒を動かそうか楽しんでいるような、そんな様子に見えた。
なろう系あるある「先輩探索者に絡まれるやつ」ですね。