貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
◇◇◇
とある日。魔石の浄化を受けてみたいと言われたので、それを英傑四人に施したら。
「ちょっ、こ、これは、んひぃ、遠慮ってものが! 遠慮ってものがあるでしょう!?」
英雄エイルに半泣きで詰め寄られた。
凄い食いかかりだった。もちろん実際には、そんな口調ではなく、
『ちょ゛っ…………、こぉぉぉ゛っ!? れ……えぇはぁ……あ゛っ……遠゛慮……っ……っ! て゛も、……お゛っ、のっがあ……ぁっ! 遠……慮゛っ……て……ものっがああっあああるで……しょうぅぉっ゛!?』
……というぐらいには声がくぐもっていたが。
「一応客人だし、罪人の三倍程度に抑えたんだけどね」
「客人に罪人の三倍……?」
弁明したら、それが弁明になっていなかった。何言ってるのか分からない、みたいな感じで怖がられてしまった。改めて少し考えたら、当たり前のことであった。
そもそも基準がおかしかったのだ。五十倍ぐらいをロナに、二十倍ぐらいをラネールとカマソッソに、十倍ぐらいをワヤにこなしてもらっているせいで、平常の感覚がかなりずれてしまったかも知れない。当然だが、罪人が泣いて叫ぶ基準は、人一人が本気で詫びを入れる強度。迂闊に三倍にしてはいけなかった。
何か私悪いことしました? とばかりに半べそになっている英傑たち四人をみると、流石にやりすぎたかと罪悪感が湧いてくる。
「誠にルーク殿は、罪作りな殿方にござる……っ♡」
前言撤回。剣聖イオリは妙にしっとりした声音で伏し目がちに文句を言っているが、「気持ちが隠しきれてないぞ」とキルケに突っ込まれていた。息が荒いし、目が蕩けている。上手くは言えないが、もっと
「お、お前さぁ……こんなことを毎晩やってんのかよ……」
「まあ……毎日魔石を食べる必要があるからな」
「毎日魔石を食べる必要なくね」
正論だった。賢者キルケの言葉にぐうの音もでない。
毎日魔石を食べたいのは、俺が少しでも日々強くなりたいからという願望に他ならない。一人だけ、「くっ、主殿が毎日お求めとあらば……付き従うが定めにござる……っ」とか歯を食いしばって震えている
一方、その傍らで。
「今更、泣きそうですわ……」
「泣いてはだめです、私もちょっと心が痛いですけど……そういうものです」
「幼馴染の皇子様に指輪もらって浮かれてた*1のが恥ずかしいですわ……」
英雄エイルと聖人アナスタシアが晴れない顔をしてへたり込んでいる。
長年片思いをしていた幼馴染を寝取られた事実を改めて噛みしめているような、そもそも昔から並び立ってもいなかったことに今更気づいてしまったかのような、例えるならそんな雰囲気だろうか。正直、彼女たちの好意には薄々気付いていたが、あーはいはい男女比の極端な世界観だからね、程度に思っていた。初恋を拗らせてるとは思ってもいなかった。
「……私、人とは違う特別な運命を与えられて、そのまま舞い上がって……きっと何でも思い通りになる人生を歩むんだって思ってましたわ」
「あーもう! ルーク皇子、お情けで私たちと一発お恵みくださいませんか!?」
「ちょっ」
聖人にあるまじき衝撃発言。言うなり、聖人アナスタシアはすごい勢いで頭を叩かれていた。流石にこの発言は度を越えたのか、俺の背後に侍っていたラネールとカマソッソが聖人アナスタシアを組み伏せて抑え込んでいた。彼女は「さ、先っちょだけで大丈夫です!」と意味の分からないことを言ってたが、こんな発言に俺はどう答えればいいのだろうか。
「や、あの、俺、妻がいるんで……そういうのは全部間に合ってて……」
「えっ、でも獅子の雄は一日何十回と交尾するんですよ!? 大丈夫ですか!?」
「俺を一体何だと思ってるんだ」
これが貞操観念逆転世界か、と思わず俺は慄いた。
白状すると、確かにちょっと辛い。確かに俺は、複数の
配偶者を増やすには最低すぎる理由だと思う。血族の繁栄が最大の責務とされる大貴族としては申し分ない素質なのかもしれないが。
「魔石の浄化に協力してくれたらそれだけでも大助かりなんだ」
「いやおかしいですよね!? 伴侶を大事にしたいと言いながら他の女を滅茶苦茶にするのは大丈夫で、でも本当は皇子もお預けでお辛いって、そんなの解決策は一つじゃないですか!?」
この聖職者、無敵すぎる。下半身ばかり見ながら力説してる最低の聖職者だったが、発言に一点の曇りもない。本心を全く偽っていない。聖職者の本心がそれでいいのかという疑問はさておき、やはり彼女の本質は、他者の救いのために真摯になれることなのだ。*3
「で、でも! 皇子も私たちの乱れっぷりを見てちょっと
「そこまでにしておけよアホ聖人」
賢者キルケがこめかみを鷲掴みにして発言を遮ってくれた。正直助かった。こいつら全員顔がいい女ばかりなので、魔石浄化の際に無反応を貫くのが色々と辛かったのだ。
「……殿下、そろそろ魔石のお食事のお時間です」
「そうか、そんな時間か」
場の空気が辛くなってきたところで、背後からそっと、ロナが助け舟を出してくれた。乗るしかない。渡りに舟とはこのことである。
これは席を外さないといけないな、とわざとらしく冗談を飛ばして場を後にする。もちろん、魔石の食事なんてそんな用事はない。
英傑たち四人の怪訝そうな表情に見送られながらも、俺は我が右腕のロナに着いていった。
「……」
前を歩くロナは、分かりやすく落ち着きがなかった。先ほどの会話に思うところがあったのだろう。
「……彼女たちとの魔石浄化は、いかがでしたか?」
「協力してくれていい子だなとは思ったよ。まだまだ満足じゃないけどね」
「……そうですか」
言うなり、足を止めて。
振り返ったロナは、すっと細まった目のままで。
「では、満ち足りない殿下のために少しだけ」
宿の部屋に戻りましょうか、と彼女は俺の耳元で囁いた。俺は少し背後を振り返ってから、ゆっくりと頷いた。
※この後たくさん魔石を食べました
ゴブリン王の洞窟で掘れた魔石がたくさんありますからね