貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します 作:ナロウ・ケイ
遠い昔の、とある場所。
おとぎ話の魔女は、みなしごの母であった。
「ほら、見て、かかさま、うさぎさんよ」
『…………』
可愛いサルヴァ。愛しのサルヴァ。
お前の命は長くない。
「うさぎさんが、ゆめの中で、よくしゃべるの」
『…………』
可愛いサルヴァ。愛しのサルヴァ。
せめて私の中で永らえて。
「ほら、うさぎさんが、目の前に――」
『…………』
目が乾いて、光を失っていく小さな少女。
どうせ死に逝くのであれば、私と一緒に、安らかに暮らせますように。
『…………そうね、サルヴァ。かかさまはいつも一緒にいますよ』
動かなくなった少女を弔って。
その少女の身体の中に、自らの臓器をごっそり移植した魔女は、以来、死の近い子供を引き取り続け、そして
おとぎ話の魔女の、始まりの日であった。
◇◇◇
「ククク……やりすぎたな、皇子、もはや命乞いだけではすまないようだな?」
「今更震えあがっても無駄かね?」
「手加減はないぞ、この
馬車から降りてきた半泣きの三人が、屋敷の門の前で、縮こまって何やらもごもご言っていた。
ぼさぼさピンク髪の毛+舌ピアスの厄介メンヘラっぽい少女が
この三人は大事なお客様である。
なので、お屋敷に来てもらったら、当主として庭まで出迎えに足を運ぶのは当然のことだった。そう、当然の礼儀なのだが。
「いや、目を合わせてくれよ」
「「「 ヒッ 」」」
どうやら相当怖がられているらしい。
「ククク、こいつは一本取られたな」
「何もしてないよ?」
本気で声が震えていた。詫びが入っている。若干可哀そうになってきた。
「はっ、皇子は怖いもの知らずのようだが――我々は違うのだよ」
「格の差を思い知ったかね」
「どうれ、お望みであらば、さらに媚び諂ってやろうじゃないか」
何か言ってた。
媚び諂われても困る。視界の端で、俺の護衛役にやってきたワヤが、心底頭を抱えていた。
「すまん、
「ああ、うん、別にいいよ」
三人まとめて力を合わせたら流石にワヤより断然強い。そんな実力者三人が、俺に本気で震えあがっている。
心当たりはあるようなないような、でも全然理解できないというか、正直まったく掴みどころがないというのが本音である。
元同僚の情けない姿を直視できないのか、ワヤは先ほどから渋い顔をしていた。元々は同じ四天王、
「確かに俺は、彼女たちの真名も、拠点も、どんな術式を使ってくるかも、一方的に把握しているからね。魔術師としては恐怖だろうね」
ぁ……という小さな声が後ろから聞こえた。
三人が、やはりそうなのか、とばかりに顔色をますます失ってしょぼくれていた。借りてきた猫よりひどい。可哀そうになってきた。
「ククク……家族を人質に取るとはな」
「取ってないよ!?」
何だかすごい曲解をされている気がする。
確かに名前も拠点も知っているという言葉は、深読みすればそうとも読み解けるが。なるほど、どうやら勝手に高度な駆け引きが行われていたらしい。
ワヤの大きな溜息が、何とも言えない懊悩を物語っていた。
「ククク、皇子は絶望を知らぬようだな……」
「よくその両目に焼き付けておくことだ……」
「人は、いとも簡単に心が折れるのだよ……」
「すまないけど後はワヤに任せていい? 念のためもう一人侍女を付けるからさ」
「はぁ……構わんが」
この分であれば俺がもてなすよりもワヤにぶん投げてしまったほうがいいかもしれない、と思い直した俺は、どこか適当な場所で切り上げることにした。
三人は明らかに安堵した表情を浮かべていた。これでいいのか
◇◇◇
「すまない、待たせた、他のお客様の案内に時間がかかってしまった」
「あ、え、あ、ああ、うん、大丈夫」
客人用の沐浴室にて、赤毛の少年が狼狽え気味に答えた。よく通る声だった。このオーベルという少年は、運命に愛されているかのような、どこか不思議な雰囲気を纏っている。
向こうは腰に布を巻いて隠していたが、まあ、それは些細なことであった。湯船の中で腰布を外すかどうかなんて細かいことを指摘しても意味がない。何せ世界が違うのだ。
俺は前世式なので腰布なんてものはしない。わ、わ、わァ、とよく分からない驚かれ方をされてしまったが、野蛮だっただろうか。
ともあれ、これでオーベルと一対一で密談ができる条件が整ったと言える。
沐浴をしようというのは一種の口実で、俺は少しだけでも情報を集めておきたかったのだ。
「何が狙いだ?」
「それ、僕の台詞だよ」
「?」
開口一番。
初っ端から嚙み合ってない。小さな精霊たちが、先ほどからきゃははと笑っているような気がする。
疑われているかもしれない、と俺は思い直して言葉を選んだ。
「ああ、すまない。まずは俺の思いと、君の思いを確認しないといけなかったな」
「……えっと、その、この場所でかな?」
「ああ、ここなら誰にも声を聴かれない」
「! え、ちょ、待って、どういう感じの
すっと身を引かれてしまった。驚かれている。
警戒心が高まったのを感じ取った俺は、先に腹を割るなら自分から、と考えて言葉を発した。
「そうだな、まずは俺の計画について話したほうがいいな。知っての通り俺は、天空城を作りたいと思っているんだ」
「あ、うん、ああ、そういう
この短いやり取りで、何か誤解が解けたらしい。
まだ全然何にも話していないのだが、どうやら一歩進んだようだった。
「天空城を浮遊させるためにも、莫大な魔力源が必要となる。つまり世界樹が必要なんだ。わかるか?」
「……ああ、なるほどね」
オーベルの瞳からすっと光が消える。
確認したいことはこれだった。
世界樹、もとい原罪の木の解放。原作【ナイツ オブ カルマ】では、その原罪の木の解放を積極的に行っていたのが邪教徒であり、選ぶルートによっては主人公側もそうだった。
この世界には、世界樹が存在する。そしてそれは、世界にうねる感情を集めて育つ。人の意志、願い、強い想いが魔力となるこの世界にて、大きくなりすぎた原罪を一度綺麗に滅ぼすもよし、その大いなる力を使って世界の在り方を歪めるもよし。より正確には、人にはそもそも感情なんてものは存在せず、『大いなる原初の意志』が分割して人の魂になった……という世界観らしいのだが、その辺はまあどうでもいい。
要するに、原罪の木は、人の感情を力に変換できるのだ。
「ねえ、ルーク。僕が原罪の木を焼き払いたいって言ったら?」
「阻止するよ、オーベル」
「⋯⋯そう」
剣呑な空気。
「そもそも原罪の木は、まだ暴走する時期じゃない。だから急いで焼き払う必要はない。そうだろ?」
「!
「⋯⋯やっぱり、か」
あえて俺はカマをかけた。
原作知識を知らないと分からないはずの、史実の情報。原罪の木の暴走。それをオーベルは、知っているかのような反応を見せた。
この言葉選びに反応したということは。間違いなくオーベルは、
この世界の、今後の歴史に準ずる何かを。
「そうだ。まだ猶予は半年以上あるんだ。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。あー、うん、そっか⋯⋯」
原作の史実から照らし合わせて考えたら、暴走はまだまだ先。俺の完璧な計算によるとまだ猶予が残っている。
急に不安そうな顔になったオーベルが気になったが、俺はそのまま話を続けた。
「オーベル。お前は歴史を知ってるな?」
「答えられない。僕は君に
「……なるほど」
小さな精霊たちがくすくすと笑うのが聞こえる。
こういうとき、大抵何か重要な情報が隠されていることが多い。多いのだが、それを上手く引き出すにはどうすればいいのか、俺には思いつかない。
今わかったのは、オーベルが
(…………俺と、同じ?)
果たして本当にそうだろうか、と一抹の疑問が脳裏をよぎったが、何か訊く前にオーベルが俺の口を塞いだ。
「しっ、静かに」
「?」
剣よ、と小さく唱えたオーベルの手元には、いつの間にか光る剣が出現していた。
俺はとっさに飛びのいた。剣は空を切った。
「……ほら、ルーク。君は油断しすぎだよ」
「オーベル……?」
「今、もし僕が本気で、丸腰の君を羽交い絞めにして人質に取ったら、どうなってたと思う?」
「…………」
空を切ったはずの剣は、湯の中に潜んでいた靄を切り裂いていた。
そこには、ぎゃあぎゃあ、とのた打ち回るウサギの魔獣がいた。見覚えのある見た目である。少し前、ロナの悪夢の中に誘ってきた例の魔獣にそっくりである。きっと同種の魔物なのだろう。
繰り返しになるが、このウサギ型の魔獣を含む、あらゆる精霊種族は、位相の異なる世界に住まう、物理的な干渉が困難な高次元の存在にあたる。それをこのオーベルは光の剣で薙ぎ払ったのだ。
一体どこからその剣を持ってきたのか――という疑問を抱く暇などなかった。知識のある俺だけは、すぐに理解できてしまった。こいつ、
「害獣、君の主人に伝えておけ。妙な真似は許さない、僕は一人でも戦うとね」
『…………っ』
「返事は?」
『…………ぐ、ぅ』
返事は、ない。
沈黙の後に、ウサギの魔獣は突如大きく膨らんだ。すわ何事か、と俺が身構えた途端、オーベルが「危ない!」と俺に覆いかぶさってきた。
一瞬判断が遅れてしまった。
ウサギの魔獣は破裂した。血しぶきがあたり一面に飛び散った。怪我はない。完全に嫌がらせのような幕引けだった。
「おっ……ほ」
「ちょ」
一難去って何とやら。
今回はオーベルに助けられたと言っても過言ではなかった。
だが、ちょっと最後がしまらなかった。
不幸なことに、俺を庇おうとした物の弾みで、俺の膝にオーベルの股が直撃してしまっていた。というか風呂場で床が濡れていたので足が滑ったのだろう。全体重がみしりと。
俺のほうが背筋に寒気が走ったぐらいである。
怖い。同じ男として同情する瞬間である――。
「え、あれ、
「…………っ、ふ、ぅ」
同じ男として――?
違う、と俺は理解した。
真っ赤な顔をしたオーベルが、脂汗を浮かべながら悶絶している。
その最中、俺は急に情報が処理できなくなって固まってしまった。
「オーベル、お前…………!」
「…………は、ぁ、ふ」
ひゅう、ひゅう、と余裕のない呼吸を繰り返すオーベルに、俺は思わず問いかけることを止められなかった。
「お前、男の振りして混浴しに来たのか……?」
「その理解は不名誉だ! ……ぉぐっ」
痛みと羞恥で半泣きのオーベルが、絞り出すように怒鳴るという器用な真似を見せた。
俺はまだ頭の中で、理解が半分追いついていなかった。
ルーク「女の子じゃないって言ったじゃん!」
精霊たち「そういう契約をしたんだもん」
https://syosetu.org/novel/354969/75.html
>世界を記す石碑と契約し、【世界樹:虚飾】の守り人になったオーベリアは、女として命を産む権利を制約の代償に捧げて、幾度も寂しい旅を繰り返した。