千手最強の忍とうちは最強の忍は、個性と英雄が蔓延る世へと生まれ落ちる 作:天叢雲剣を捧げるスサノヲ
・長野県 魔獣の森 夜・
夜は。
まだ終わらない。
マスキュラーは敗れた。
マスタードも拘束された。
ムーンフィッシュも、暴走した黒影と爆豪、轟、障子たちによって戦闘不能へ追い込まれた。
薄紫色の毒霧は徐々に薄まり。
荼毘の蒼炎によって発生した森林火災も、ハーストハイム親衛財団の総力を挙げた消火・防火活動によって、その勢いを失いつつある。
緑谷出久によって洸汰は救われた。
B組も。
A組も。
3年生たちも。
教師たちも。
少しずつ。
少しずつ。
悪夢を押し返し始めていた。
――だが。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
森の最奥。
炎の届かない。
月明かりすら満足に差し込まない闇の中。
一つの小型通信機から。
ザザッ――。
という不快な雑音が響く。
その通信機を手にしていたのは。
荼毘だった。
近くには。
トガヒミコ。
スピナー。
マグネ。
トゥワイス。
Mr.コンプレス。
そして。
既に複数の戦場を巡り終えた開闢行動隊の残存メンバーたち。
荼毘が。
僅かに眉を動かす。
死柄木『……聞こえてるか。』
荼毘「聞こえてる。」
死柄木『随分と派手にやってるみたいだな。』
荼毘「そっちが送り込んだ面子だろ。」
トゥワイス「順調だぞ! 全然順調じゃねぇ!」
マグネ「マスキュラーもマスタードも落とされたみたいだけどねぇ。」
スピナー「ムーンフィッシュも戦闘不能らしい。」
トガヒミコ「出久君がマスキュラーさんを倒したんですよねぇ。素敵です。ますます血が欲しくなりました。」
荼毘「今はその話じゃない。」
死柄木『ああ。』
通信の向こう。
死柄木弔の声が。
一段。
低くなる。
死柄木『本来の目標を確認する。』
一同が。
静かになる。
死柄木『一人目。爆豪勝己。』
荼毘「予定通りだな。」
死柄木『あいつは、雄英の中でも分かりやすく歪んでる。勝利への執着。攻撃性。社会への苛立ち。ヒーロー側は、あれを才能って名前で囲ってるだけだ。』
スピナー「……ステインなら、どう見る。」
死柄木『知らねぇよ。俺はステインじゃない。』
死柄木『俺が欲しいと思った。それだけだ。』
Mr.コンプレス「なるほど。主演候補というわけだ。」
死柄木『そして二人目。常闇踏陰。』
トガヒミコ「鳥さんですね。」
死柄木『あの黒い個性。夜間じゃ出力が跳ね上がる。制御を失えば、プロでも簡単には止められない。』
荼毘「使い道はありそうだ。」
死柄木『ああ。』
死柄木『爆豪と常闇。そいつらを連れて来い。』
一瞬。
通信が途切れる。
しかし。
すぐに。
もう一度。
死柄木の声が聞こえた。
死柄木『……ただし。』
荼毘「何だ。」
死柄木『予定変更だ。』
荼毘「……。」
死柄木『千手柱間。』
トゥワイス「そっちも持って帰るのか!? 荷物多すぎるだろ!」
マグネ「冗談でしょ?」
死柄木『冗談じゃない。』
死柄木『先生が興味を持った。』
その言葉に。
荼毘の眼が細くなる。
死柄木『あれはただの生徒じゃない。木を生やす。傷が勝手に治る。巨大な木人を出す。大量の生命を同時に感じ取って、戦場全体を掌握する。』
死柄木『それに――』
通信機の向こうで。
何かを爪で掻くような音がした。
ガリ……ガリ……ガリ……。
死柄木『あいつは、何度壊しても立ち上がりそうな顔をしてる。』
死柄木『そういう奴はムカつく。』
死柄木『壊してみたくなる。』
荼毘「生け捕りか。」
死柄木『可能ならな。』
Mr.コンプレス「主演が三人となると、少々舞台袖が狭いな。」
死柄木『常闇は最悪諦めてもいい。』
死柄木『爆豪は絶対。』
死柄木『千手柱間は――取れるなら、爆豪以上の土産になる。』
通信が。
切れる。
プツン。
数秒。
誰も喋らなかった。
やがて。
Mr.コンプレスが。
大仰に帽子の鍔へ手を添える。
Mr.コンプレス「では。」
Mr.コンプレス「いよいよ、今夜の大一番と洒落込もうじゃないか。」
・魔獣の森 南東 避難路・
常闇踏陰の黒影は。
先ほどよりも遥かに小さくなっていた。
完全な通常状態ではない。
しかし。
少なくとも。
周囲の全てを無差別に破壊するほどの暴走状態からは抜け出している。
常闇本人は。
障子の肩を借り。
荒い息を吐きながら歩いていた。
その少し前。
轟。
爆豪。
そして。
上空を警戒するイーグルワゴン。
イーグルワゴン『常闇の兄ちゃん、意識はどうだ!!』
常闇「問題ない……と言いたいところだが……少々、消耗した。」
爆豪「少々どころじゃねぇだろ鳥頭。」
常闇「返す言葉もない。」
轟「施設まで、あとどれくらいだ。」
障子「直線なら700mほど。ただし火災区域を避けると、もう少しかかる。」
爆豪「チッ。」
イーグルワゴン『北側は毒が残ってる!! 西は火災!! 南へ回り込むのが安全だ!!』
爆豪「遠回りじゃねぇか。」
轟「安全を優先する。」
爆豪「分かってるわ。」
常闇「……爆豪。」
爆豪「あ?」
常闇「先ほどは助かった。」
爆豪「何度も言わせんな。謝る暇があるなら歩け。」
常闇「礼だ。」
爆豪「それもいらねぇ。」
イーグルワゴン『不器用だねぇ、爆豪の兄ちゃんは!!』
爆豪「黙れクソ鳥!!」
イーグルワゴン『元気じゃねぇか!!』
轟「爆豪は、怒鳴れる間は元気だ。」
爆豪「テメェも黙れ半分野郎!!」
障子「静かに。」
爆豪「あァ!?」
障子の複製腕が。
一斉に。
異なる方向へ向く。
木の葉。
炎。
遠方の戦闘。
親衛財団員の羽音。
その中に。
一つ。
妙に軽い。
コツ。
という音。
障子の眼が動く。
障子「上だ!」
爆豪「――!」
木の枝。
月光。
そこへ。
いつの間にか。
一人の男が立っていた。
黒いシルクハット。
仮面。
大仰な身振り。
Mr.コンプレス。
Mr.コンプレス「レディースエンドジェントルメーン。」
Mr.コンプレス「お疲れのところ、実に恐縮だ。」
轟「敵。」
爆豪「見りゃ分かる!!」
爆豪の掌が爆ぜる。
しかし。
Mr.コンプレスは。
慌てない。
Mr.コンプレス「そう焦るな。」
Mr.コンプレス「俺のショーは――」
その手が。
何かを摘まむ。
Mr.コンプレス「一瞬で終わる。」
パチンッ!!
爆豪「ッ!?」
常闇「――!」
二人の足元。
地面から。
煙幕。
いや。
小さな圧縮弾が弾ける。
ボンッ!!!!
障子「爆豪!! 常闇!!」
煙の中。
Mr.コンプレスが。
異様な身軽さで滑り込む。
その手が。
爆豪の肩へ。
そして。
常闇の腕へ。
触れた。
キュンッ!!
爆豪「――ッ!!」
常闇「な――」
二つの人体が。
一瞬にして。
消える。
代わりに。
Mr.コンプレスの掌へ。
二つ。
小さな球。
ビー玉のような物体が転がった。
Mr.コンプレス「2名様、ご案内。」
障子「返せ!!」
障子の巨大な腕が伸びる。
Mr.コンプレスは身を翻す。
Mr.コンプレス「返せ?そいつは無理な注文だな。おっと!」
轟「氷結!!」
バキバキバキバキバキッ!!!!
地面から。
巨大な氷柱が走る。
Mr.コンプレスの退路を塞ぐ。
Mr.コンプレス「おお、こいつは困った。」
だが。
次の瞬間。
ボオオオオオオオオオオオオオッ!!!!
蒼炎。
轟の氷を。
横から。
一気に焼き払う。
轟「ッ……!」
荼毘「遅ぇよ。」
爆豪と常闇を圧縮した二つの球が。
Mr.コンプレスの右手で転がる。
障子「二人を……!」
イーグルワゴン『返しやがれェェェェッ!!!!』
イーグルワゴンが。
一直線に急降下する。
荼毘「来るな。」
ボォッ!!!!
青い炎の壁。
イーグルワゴンは。
空中で翼を捻る。
イーグルワゴン『熱ッッッ!!』
炎を避け。
地面を滑る。
轟「障子。」
障子「ああ。」
轟と障子。
二人の眼が。
Mr.コンプレスの手元へ集まる。
二つ。
丸い球。
爆豪。
常闇。
その瞬間。
Mr.コンプレスの背後。
地面から。
細い氷の針が。
跳ね上がった。
Mr.コンプレス「ッ?」
轟「右手だ。」
Mr.コンプレスが反射的に右腕を上げる。
その一瞬。
障子の腕が。
横から伸びた。
バシィッ!!!!
Mr.コンプレス「なっ!?」
球が。
一つ。
弾き飛ばされる。
障子「取った!!」
複製した掌が。
空中の球を掴む。
轟「どっちだ!?」
障子「分からない!」
Mr.コンプレス「返していただこう!」
荼毘「コンプレス、下がれ。」
蒼炎が。
再び走る。
轟が。
炎と障子の間へ氷壁を生み出す。
ズドォォォォォン!!!!
氷と炎。
白い水蒸気。
視界が消える。
障子は。
握った球を。
地面へ落とした。
カランッ。
そして。
解除。
ボンッ!!
黒い羽毛。
影。
倒れ込む人影。
障子「常闇!!」
常闇「ぐ……障子……。」
イーグルワゴン『常闇の兄ちゃんだ!!』
轟「一人取り戻した。」
荼毘「チッ。」
水蒸気の向こう。
Mr.コンプレスの掌には。
もう一つ。
爆豪勝己が圧縮された球。
Mr.コンプレス「危なかった。」
Mr.コンプレス「だが、主役の一人は確保した。」
轟「爆豪を返せ。」
Mr.コンプレス「それはできない相談だな。」
障子「なら取り返す。」
常闇「俺も……。」
障子「お前は動くな。」
常闇「しかし――」
障子「今度は俺たちが守る。」
常闇「……。」
イーグルワゴン『そうだ!! 常闇の兄ちゃんは戻ったばかりだ!!』
イーグルワゴン『ここは俺たちに任せ――』
その時。
ズズズズズズズズ……!!
地面が。
動いた。
・魔獣の森 西側・
マダラが。
足を止めた。
三巴写輪眼が。
木々の向こうを睨む。
ナオリも。
その横へ。
静かに降り立つ。
ナオリ『主様。』
マダラ「ああ。」
森の暗闇。
何もいない。
そう見える。
だが。
マダラの写輪眼には。
分かる。
空気が。
僅かに。
歪んでいる。
マダラ「出てこい。」
返事はない。
マダラ「3秒やる。」
1秒。
2秒。
3秒。
マダラ「……そうかよ。」
両眼。
赤。
勾玉が。
回転。
ギュルルルルルル……!!
永遠の万華鏡写輪眼。
複雑で。
禍々しく。
同時に美しい直巴の文様。
その瞬間。
木の陰。
隠れていた黒い影が。
初めて。
姿を晒す。
潜伏型脳無。
人間ほどの大きさ。
全身を煤のような黒い皮膚で覆い。
口はなく。
細長い頭部へ。
ただ一つ。
赤い観測眼だけが埋め込まれている。
マダラ「テメェか。」
潜伏型脳無の眼が輝く。
永遠の万華鏡写輪眼、最終観測開始。
ナオリ『主様!』
マダラ「動くな、ナオリ。」
潜伏型脳無。
その身体が。
木の幹へ沈む。
マダラ「逃がすか。」
須佐能乎。
深青色の肋骨。
腕。
ズオオオオオオッ!!!!
巨大なチャクラの手が。
木々の間へ伸びる。
だが。
潜伏型脳無が沈んだ地面から。
別のものが。
飛び出した。
ドゴォォォォォン!!!!
マダラ「……!」
須佐能乎の掌へ。
拳。
巨大な拳。
真正面から。
ぶつかった。
マダラの眼が。
細くなる。
灰色の皮膚。
異常に長い両腕。
首から肩へかけて。
何重もの筋肉。
眼球は存在せず。
頭部全体を白い硬質膜が覆っている。
そして。
須佐能乎へ殴りつけた腕が。
衝突の反動で。
半分ほど潰れているにもかかわらず。
グジュ……グジュグジュグジュ……!!
即座に。
再生していく。
マダラ「特殊脳無か。」
特殊脳無『オ……オオ……。』
マダラ「邪魔だ。」
須佐能乎の拳。
ドゴォォォォォォッ!!!!
特殊脳無が。
森の奥へ吹き飛ぶ。
木々を。
十本以上。
へし折る。
だが。
止まらない。
特殊脳無は。
四肢を地面へ突き立て。
そのまま。
猛獣のように。
再び突進してきた。
ナオリ『私が援護いたします。』
マダラ「いや。」
ナオリ『しかし――』
マダラ「テメェは上へ行け。」
ナオリ『……。』
マダラ「柱間と扉間を探せ。」
ナオリ『主様。』
マダラ「こいつの目的は俺を殺すことじゃねェ。」
須佐能乎と特殊脳無が。
再び激突する。
ドガァァァァァァン!!!!
マダラ「足止めだ。」
ナオリの眼が。
大きく開く。
マダラ「だったら。」
永遠の万華鏡写輪眼が。
潜伏型脳無の消えた方角へ向く。
マダラ「向こうで何か始める気だ。」
ナオリ『……承知いたしました。』
翼を広げる。
マダラ「ナオリ。」
ナオリ『はい。』
マダラ「柱間から眼を離すな。」
ナオリ『――はい!』
ナオリが。
夜空へ飛ぶ。
特殊脳無が。
再びマダラへ襲いかかる。
マダラ「チッ。」
須佐能乎。
第二形態。
深青色の巨人が。
森の木々より高く。
立ち上がった。
マダラ「テメェ如きに構ってる暇はねぇんだよ。」
・魔獣の森 北東区域・
扉間も。
同時刻。
異常を感じ取っていた。
拳藤。
鉄哲。
骨抜。
柳。
小森。
取蔭。
宍田。
その他B組生徒たちを。
親衛財団の救護班へ引き渡し。
自らは。
残った毒ガスの経路を確認していた。
拳藤「委員長。」
扉間「何だ。」
拳藤「私たちは大丈夫。あんたは他のところへ行って。」
鉄哲「そうだぜ扉間! こっちは俺らで何とかする!」
取蔭「アタシら、さっきまで助けられてばっかだったけど、もう動けるし。」
小森「私も胞子は出せるノコ。」
柳「扉間が全部やる方が、今日の訓練的にウラめしい。」
扉間「柳。ウラめしいの使い方がおかしくないか。」
柳「たぶん。」
骨抜「ここは任せてよ。」
宍田「我々も雄英ヒーロー科ですぞ!」
扉間は。
七人を見る。
昨日までなら。
自分が残った。
自分で片づけた。
しかし。
今日は違う。
扉間「……拳藤。」
拳藤「何?」
扉間「副委員長として、全員の指揮を任せる。」
拳藤「!了解…!」
扉間「鉄哲。無茶をするな。」
鉄哲「おう!」
扉間「その返事が最も信用ならん。」
鉄哲「何でだよ!?」
取蔭「日頃の行いじゃない?」
小森「鉄哲君、よく突っ込むノコ。」
柳「ウラめしく真っ直ぐ。」
鉄哲「お前ら酷くねぇか!?」
拳藤「行って、扉間。」
扉間「ああ。」
その時。
扉間の感知域へ。
一つ。
異物。
扉間「――伏せろ!!」
拳藤「え!?」
ズドォォォォォォォン!!!!
土煙。
地面。
粉砕。
巨大な人影。
もう一体。
特殊脳無。
こちらは。
全身へ。
幾重もの肉襞。
触手状の腕。
皮膚表面が。
まるで。
脱皮を繰り返すように。
絶えず剥がれ落ちていた。
扉間「全員、下がれ!」
鉄哲「でもよ!」
扉間「命令だ!!」
拳藤「鉄哲!」
鉄哲「……チッ!」
B組が。
後方へ下がる。
特殊脳無が。
地面を蹴る。
一瞬。
扉間の前。
扉間「速いな。」
拳。
扉間の身体を。
貫く。
だが。
ボンッ!!
影分身。
特殊脳無『……?』
背後。
扉間。
掌が。
特殊脳無の背中へ触れる。
扉間「印は付けた。」
飛雷神。
しかし。
転移しようとした瞬間。
特殊脳無の背中の皮膚が。
丸ごと。
ベリィッ!!
剥がれ落ちる。
地面へ。
扉間の術式ごと。
扉間「……表皮を捨てたか。」
拳藤「飛雷神対策!?」
扉間「偶然ではないな。」
特殊脳無『オオオオオオオッ!!』
触手。
6本。
8本。
10本。
木々を砕きながら。
扉間へ殺到する。
扉間「水遁・水陣壁!!」
ザバァァァァァァァァッ!!!!
何もない森。
そこへ。
大量の水が。
突然。
海嘯のように出現する。
巨大な水壁。
触手が。
叩きつけられる。
ドドドドドドドドッ!!!!
潜伏型脳無は。
遠くの木の上。
その全てを。
記録していた。
水遁・無水地帯発動精度、最終取得。
飛雷神術式対策時の術者再構築判断、取得。
影分身による欺瞞行動、取得。
扉間は。
一瞬。
視線だけを。
木の上へ向ける。
扉間「そこか。」
潜伏型脳無の眼が。
赤く光る。
千手扉間――観測完了。
扉間「逃がすと思うか。」
水断波。
超高圧の水流。
ズバァァァァァァァン!!!!
木々が。
一直線に切断される。
しかし。
潜伏型脳無は。
既に。
いない。
扉間「チッ……!」
特殊脳無が。
再び迫る。
扉間「邪魔をするな!!」
・三年生待機区域 南側救護路・
ミトは。
倒れている生徒へ。
封印札を貼っていた。
ミト「呼吸を合わせてください。吸って――吐いて。」
塩崎「は、はい……。」
ミト「大丈夫です。毒の進行は止めました。救護班がすぐに来ます。」
背後。
金剛封鎖が。
崩れかけた大木を支えている。
通形は。
透過。
倒壊した岩の内側へ潜り。
3名の生徒を。
順番に抱えて救出していた。
通形「うずまきさん! こっちは終わった!」
ミト「ありがとうございます、ミリオ。」
天喰は。
巨大な蛸の触手。
甲殻。
翼。
複数の特徴を発現し。
負傷者を支えている。
天喰「うずまきさん……この子、右脚が……。」
ミト「環、そのまま固定してください。今、処置します。」
波動は。
空中。
波動の螺旋を。
細く。
細く。
調整しながら。
残留毒ガスを。
上空へ押し上げる。
波動「ミトちゃん! こっちはもう薄いよ!」
ミト「ねじれ。そのままお願いします。急に出力を上げないでください。」
波動「うん!」
九喇嘛は。
ミトの肩。
毛を逆立て。
森の一点を。
睨み続けていた。
九喇嘛『まだいる。』
ミト「はい。」
九喇嘛『近いぞ。』
ミト「分かっております。」
九喇嘛『ミト、分かってる割に落ち着きすぎだ。』
ミト「焦って術式を乱す方が危険です。」
九喇嘛『……そこは昔から変わらねェな。』
ミトの指が。
1枚。
封印札を弾く。
札が。
木へ貼り付く。
八卦。
術式。
一瞬だけ。
周囲の空間へ。
網目状の封印紋が。
走る。
キィィィィィィン……!!
波動「わぁ……!」
天喰「何か……引っかかった?」
ミト「いいえ。」
ミト「ですが。」
ミトの瞳が。
鋭くなる。
ミト「逃げる瞬間に、術式へ触れました。」
遥か。
森の上。
潜伏型脳無。
その黒い足首へ。
ほんの一瞬。
八卦封印の紋が浮かび。
直後。
焼き切れる。
うずまきミト――封印式構造、最終照合。
金剛封鎖、九尾チャクラ反応、八卦系統術式――観測完了。
対象3名――総合収集完了。
赤い眼。
消灯。
潜伏型脳無は。
音もなく。
完全に。
森から消えた。
九喇嘛『……消えやがった。』
ミト「はい。」
通形「うずまきさん。今の敵は?」
ミト「撤退しました。」
天喰「追わなくて……いいの?」
ミト「追いません。」
波動「どうして? 捕まえなくていいの?」
ミト「今は負傷者がおります。」
ミト「そして、あの敵は追わせることまで計算している可能性があります。」
九喇嘛『だが、嫌なもんは持っていかれたぞ。』
ミト「……はい。」
通形「何を?」
ミトは。
自らの掌へ残る。
八卦の術式を見る。
ミト「私たちの術です。」
沈黙。
ねじれの顔からも。
普段の好奇心に満ちた笑顔が。
僅かに消える。
波動「……それ、かなり嫌だね。」
ミト「はい。」
ミト「非常に危険です。」
・魔獣の森 中央南側・
柱間の周囲。
木。
木。
木。
しかし。
それは。
敵を押し潰すための森林ではない。
炎を遮る。
木壁。
負傷者を運ぶ。
木製担架。
崩れた地面を支える。
根。
避難路を示す。
細い蔓。
そして。
逃げ遅れた生徒たちを。
一時的に守る。
木造シェルター。
柱間「木遁・四柱家の術!」
ズズズズズズズズズ……!!
地面から。
木造家屋が。
一瞬で。
立ち上がる。
八百万「建物を……一瞬で……!」
耳郎「驚いてる場合じゃないよ、ヤオモモ!」
八百万「はい!」
麗日「負傷者、こっち!」
蛙吹「煙を吸った人から中へ。ケロ。」
峰田「オイラのもぎもぎ、入口に貼っとくぞ! 敵が来たら足止め出来る!」
柱間「頼んだぞ、峰田!」
峰田「お、おう!」
耳郎が。
イヤホンジャックを地面へ差し込む。
耳郎「右から来る! 二人……いや、増えた!?」
八百万「増えた?」
耳郎「足音が同じ……分身みたい!」
直後。
森から。
二人。
四人。
八人。
トゥワイスの複製体。
トゥワイスたち『見つけたァ!! 見失ったァ!!』
麗日「来た!」
柱間「皆、下がれ!」
トゥワイスたちが。
一斉に突っ込む。
柱間は。
掌を。
地面へ。
柱間「木遁・皆布袋の術!!」
ドドドドドドドドドドドドッ!!!!
巨大な木の腕。
1本。
2本。
5本。
10本。
地面から突き出し。
襲いかかる分身体たちだけを。
次々と。
掴み取る。
トゥワイスA「捕まった!」
トゥワイスB「自由だ!!」
トゥワイスC「どっちなんだよ俺!!」
柱間「本体ではないな。」
ギュッ!!
木の掌が。
力を調整して。
分身のみを拘束。
消滅。
ボボボボボンッ!!
耳郎「速……!」
八百万「それでも、周囲の木々も私たちも傷つけておりません……。」
麗日「柱間君!」
柱間「どうした!」
麗日「左側の木が倒れる!」
柱間「うむ!」
一本の木が。
炎によって根元から折れる。
その真下。
避難中の生徒二人。
柱間が。
振り向く。
間に合わない。
――否。
背中から。
木の腕。
柱間「木遁・剛力千手!!」
ドンッ!!
十数本の木腕。
倒木を。
空中で支える。
柱間「お茶子!」
麗日「分かった!」
麗日が。
倒木へ触れる。
麗日「無重力!!」
重さ。
消失。
柱間の木腕が。
軽くなった倒木を。
安全な方向へ移動させる。
麗日「よし!」
蛙吹「二人とも無事よ。ケロ。」
柱間「よかったぞ!」
八百万「柱間さん、後方から熱源です!」
耳郎「青い炎!」
柱間が。
振り向く。
炎。
蒼。
迫る。
荼毘ではない。
彼が別地点から。
広くばら撒いた炎が。
森を伝い。
こちらへ到達したもの。
柱間「樹界壁!」
ズドドドドドドドッ!!!!
分厚い樹木の壁。
炎を受ける。
焦げる。
燃える。
しかし。
その後ろ。
生徒たちには。
届かない。
柱間「八百万!」
八百万「はい! 消火器を創造します!」
耳郎「ウチも火の回り込みを探す!」
蛙吹「私も水源を探すわ。ケロ。」
麗日「私は倒木を浮かせる!」
峰田「オイラは……!」
柱間「峰田は避難路を守れ!」
峰田「任せろ!!」
その瞬間。
柱間は。
気づいた。
誰も。
自分へ。
"全部やってくれ"
とは言っていない。
皆。
自分たちで。
動いている。
今日。
相澤に。
散々。
叩き込まれたこと。
柱間の口元へ。
僅かな笑み。
柱間「……うむ。」
だが。
その笑みは。
すぐに。
消える。
遠方。
マダラ。
戦闘。
扉間。
戦闘。
ミト。
警戒。
そして。
もう一つ。
爆豪の。
気配が。
急に。
消えた。
柱間「……爆豪?」
・魔獣の森 中央避難路・
Mr.コンプレスは。
撤退を始めていた。
右手。
爆豪の球。
その前へ。
轟。
障子。
イーグルワゴン。
そして。
救出された常闇。
荼毘が。
蒼炎を纏う。
トガヒミコ。
スピナー。
マグネ。
トゥワイス。
残存開闢行動隊が。
森の各方向から。
合流し始める。
轟「逃がさない。」
荼毘「逃げるさ。」
轟「爆豪を置いていけ。」
Mr.コンプレス「せっかく俺が華麗に拝借した役者だ。」
Mr.コンプレス「返却はご遠慮願おう。」
障子「なら取り戻す。」
常闇「……俺も戦う。」
轟「常闇。」
常闇「黒影はまだ不安定だ。だが、何も出来ないほどではない。」
イーグルワゴン『無茶するな常闇の兄ちゃん!!』
常闇「爆豪を奪われたまま退く方が、後悔する。」
轟「……分かった。」
爆豪を取り戻す。
轟の右半身。
氷。
左半身。
炎。
障子の複製腕。
常闇の黒影。
イーグルワゴンの翼。
全員が。
構える。
その時。
森。
左右。
木々が。
一斉に。
伸びた。
ズドドドドドドドドドドドドドッ!!!!
荼毘「……!」
スピナー「何だ!?」
Mr.コンプレス「これは……。」
木。
木。
木。
巨大な樹木が。
開闢行動隊と。
雄英生たちの間へ。
壁のように。
出現する。
その上。
一人。
立つ。
長い。
黒髪。
額当てはない。
赤い道着のような見た目の動きやすい普段着。
しかし。
その姿に纏う圧は。
15歳の少年のものではない。
柱間。
千手柱間。
柱間「そこまでぞ。」
轟「千手!」
障子「千手!」
常闇「千手……。」
イーグルワゴン『柱間の旦那!!』
荼毘が。
柱間を。
見上げる。
荼毘「噂の木男か。」
柱間「その手にあるものを返してもらうぞ。」
Mr.コンプレス「これか?」
爆豪を封じた球。
柱間の瞳。
鋭くなる。
柱間「爆豪を返せ。」
Mr.コンプレス「困ったな。」
Mr.コンプレス「この子は今夜の大事な戦利品なんだ。」
柱間「人を物のように呼ぶでない。」
柱間のチャクラ。
木々。
震える。
トガヒミコ「あっ……。」
トゥワイス「ヤバいぞ!! 全然怖くない!!」
マグネ「これ、本当に高校1年生なの?」
スピナー「……洒落にならない。」
荼毘「落ち着け。」
荼毘は。
胸元から。
通信機を取り出す。
荼毘「ちょうどいい。」
柱間「何がだ。」
荼毘「お前と話したい奴がいる。」
通信機。
地面へ。
投げる。
柱間の前。
カラン……。
雑音。
そして。
声。
死柄木『聞こえるか、千手柱間。』
轟「!……敵連合の。」
柱間「お前、まさか死柄木か。」
死柄木『今のところはな。』
柱間「爆豪を返せ。」
死柄木『嫌だ。』
柱間「……。」
死柄木『即答で悪いな。そいつは俺が欲しい。』
柱間「人は、誰かの所有物ではないぞ。」
死柄木『ヒーローみたいなこと言うな。』
柱間「俺はヒーロー科の生徒ぞ。」
死柄木『だからムカつく。』
死柄木『お前らはいつもそうだ。守る。助ける。平和。笑顔。』
死柄木『気持ち悪いんだよ。』
柱間「……。」
死柄木『けどさ。』
死柄木『俺にも取引くらいは出来る。』
柱間の瞳が。
僅かに。
動く。
轟「千手。聞くな。」
荼毘「黙ってろ。」
轟「……。」
死柄木『爆豪は連れていく。』
柱間「なら取引にならぬ。」
死柄木『最後まで聞け。』
死柄木『常闇は諦める。』
常闇「……!」
死柄木『開闢行動隊も撤退させる。これ以上、森にいる雄英生を追わない。教師も追わない。』
死柄木『炎も毒も、これ以上広げない。』
柱間「条件は。」
死柄木『お前だ。』
轟「千手!」
障子「駄目だ!」
イーグルワゴン『柱間の旦那!!』
柱間は。
動かない。
死柄木『千手柱間。お前が自分から来い。』
死柄木『そうしたら、今夜は終わりにしてやる。』
荼毘「聞こえたな。」
柱間「……。」
轟「千手、応じる必要はない。」
障子「俺たちで爆豪を取り戻す。」
常闇「俺も戦える。」
イーグルワゴン『俺が空から掻っ攫う!! ナオリさんもハーストハイムも来る!!』
柱間「……。」
死柄木『どうした。』
死柄木『仲間を守るんだろ?』
死柄木『だったら簡単じゃないか。』
死柄木『自分一人と、ここにいる何十人か。』
死柄木『比べるまでもないだろ。』
柱間の脳裏。
浮かぶ。
今日。
相澤に。
聞かれた。
規制線。
独断行動。
二次災害。
一人を救うために。
全体を危険へ晒してはならない。
そして。
732番の苗木。
1本だけに囚われるな。
全体を見ながら。
一つ一つを見る。
柱間は。
眼を閉じる。
木の根。
地中。
森全体。
生徒たち。
負傷者。
教師。
親衛財団。
マダラ。
扉間。
ミト。
緑谷。
そして。
目の前。
爆豪。
一つ一つ。
全て。
違う。
全て。
命。
そして。
誰一人。
捨てて良い命など。
ない。
柱間が。
眼を開く。
柱間「断る。」
死柄木『……あ?』
荼毘の眉が。
僅かに動く。
柱間「その条件では応じぬ。」
轟「……千手。」
死柄木『なら戦うか?』
柱間「違う。」
柱間「俺からも条件を出す。」
死柄木『……。』
柱間「まず。」
柱間「常闇には二度と手を出すな。」
常闇「千手……!」
柱間「此処にいる全生徒。教師。プッシーキャッツ。3年生。親衛財団。そして森の動物たち。」
柱間「これ以上、一切傷つけぬと約束せよ。」
荼毘「随分と多いな。」
柱間「まだある。」
荼毘「……。」
柱間「炎を止めろ。」
柱間「毒を広げるな。」
柱間「撤退時に、倒れている者を攻撃するな。」
柱間「そして。」
柱間の眼が。
Mr.コンプレスの掌。
爆豪へ向く。
柱間「爆豪を返せ。」
死柄木『最後だけ無理だ。』
柱間「ならば――」
死柄木『そこは譲らない。』
柱間「……。」
死柄木『爆豪は俺が欲しい。』
死柄木『お前も欲しい。』
死柄木『それ以外は諦めてやる。』
柱間「……卑怯者め。」
死柄木『ヴィランに何を期待してる。』
柱間「……。」
轟「千手。」
柱間「轟。」
轟「……。」
柱間「皆を頼む。」
轟の瞳が。
大きく。
見開かれる。
轟「駄目だ。」
柱間「……。」
轟「その言い方は駄目だ。」
障子「千手、俺も反対だ。」
常闇「俺のためならば、不要だ。」
イーグルワゴン『柱間の旦那!! 馬鹿な真似はやめろ!!』
柱間「俺は。」
柱間「皆を信じておる。」
イーグルワゴン『だからって――!』
柱間「イーグルワゴン。」
イーグルワゴン『……!』
柱間「緑谷と洸汰を助けてくれたな。」
イーグルワゴン『今それを言うな!!』
柱間「感謝しておるぞ。」
イーグルワゴン『やめろ!! まるで最後みてぇに言うな!!』
柱間「最後にはせぬ。」
柱間が。
笑う。
いつもの。
少し間の抜けた。
それでいて。
誰よりも。
強い。
笑顔。
柱間「必ず帰る。」
その足元。
誰にも。
見えない。
土の中。
1本。
細い根が。
伸びる。
分岐。
一つ。
二つ。
三つ。
小石ほどの。
種。
木遁・木分身の術――派生。
送信木。
一粒。
地中から。
荼毘の靴裏へ。
付着。
もう一粒。
Mr.コンプレスの外套の裾。
縫い目へ。
潜り込む。
さらに。
三粒。
森の地中。
根から根へ。
異常な速度で。
走る。
一粒。
マダラへ。
一粒。
扉間へ。
一粒。
ミトへ。
そして。
柱間自身の。
赤い道着のような見た目の動きやすい普段着の襟。
内側。
さらに。
一粒。
誰も。
気づかない。
写輪眼を。
持つ。
一人を除いて。
柱間「……。」
死柄木『決めたか。』
柱間「一つ確認する。」
死柄木『何だ。』
柱間「俺が行けば。」
柱間「今、この瞬間から。」
柱間「常闇を追わぬ。」
柱間「他の生徒を攫わぬ。」
柱間「此処にいる者たちへ、一切攻撃を加えぬ。」
柱間「開闢行動隊を全員撤退させる。」
柱間「約束するな?」
数秒。
沈黙。
死柄木『……いい。』
荼毘「死柄木。」
死柄木『構わない。』
死柄木『そいつ一人で釣り合う。』
死柄木『爆豪と千手。』
死柄木『二人持って帰れば十分だ。』
柱間「……ならば。」
一歩。
柱間が。
前へ。
轟「千手!!」
柱間「来るな!」
轟の足が。
止まる。
柱間「此処で戦えば。」
柱間「爆豪がどうなるかも分からぬ。」
轟「……!」
柱間「皆も巻き込まれる。」
障子「だが!」
柱間「頼む。」
その声。
静か。
しかし。
強い。
柱間「今は。」
柱間「俺を信じてくれ。」
常闇「……千手。」
イーグルワゴン『……旦那。』
柱間が。
荼毘たちの側へ。
歩く。
一歩。
二歩。
三歩。
Mr.コンプレスが。
僅かに身構える。
柱間「心配せずとも抵抗はせぬ。」
荼毘「信用出来るかよ。」
柱間「ならば、お前たちが俺を縛ればよい。」
マグネ「ずいぶん余裕ね。」
柱間「余裕などない。」
柱間の眼が。
真っ直ぐ。
爆豪の球へ。
柱間「友を攫われておるのだ。」
Mr.コンプレス「友、か。」
柱間「うむ。」
柱間「爆豪も。」
柱間「轟も。」
柱間「常闇も。」
柱間「障子も。」
柱間「皆。」
柱間「俺の大切な仲間ぞ。」
荼毘「……ヒーロー科ってのは面倒くせぇな。」
柱間「お前たちよりは、遥かに良い。」
・魔獣の森 西側・
ドゴォォォォォォォォン!!!!
特殊脳無の巨体が。
地面へ。
叩きつけられる。
須佐能乎。
第三形態。
深青色の鎧武者。
全高。
約30m。
森の中で。
巨大な双剣を。
交差。
特殊脳無の再生した腕を。
切断する。
ズバァァァァァン!!!!
特殊脳無『オオオオオッ!!』
マダラ「しつけぇ。」
その時。
足元。
コトン。
小さな。
種。
マダラの写輪眼が。
一瞬で。
それを捉える。
マダラ「……。」
普通の種。
そう見える。
だが。
写輪眼には。
分かる。
チャクラ。
木遁。
細胞。
そして。
柱間。
マダラの顔から。
表情が。
消える。
種子から。
微弱な。
チャクラ信号。
言葉ではない。
だが。
何十年。
何百回。
何千回。
互いの術を。
見て。
戦い。
読み合った二人には。
十分。
――俺は、生きておる。
――爆豪も、生きておる。
――今は皆を守れ。
――追うでない。
マダラ「……。」
特殊脳無が。
迫る。
マダラは。
見ない。
須佐能乎の腕が。
横から。
特殊脳無の頭部を。
掴む。
マダラ「……柱間。」
ミシィ……!!
須佐能乎の指。
締まる。
特殊脳無の頭部。
硬質膜。
軋む。
マダラ「テメェ……。」
声。
低い。
激昂ではない。
怒鳴らない。
だからこそ。
怖い。
マダラ「また。」
ミシミシミシミシ……!!
マダラ「一人で。」
ベキッ!!
マダラ「背負いやがったな。」
グシャァァァァァッ!!!!
特殊脳無の頭部が。
須佐能乎の掌の中で。
粉砕される。
それでも。
再生。
始まる。
マダラの永遠の万華鏡写輪眼が。
さらに。
赤く。
輝く。
マダラ「ナオリ。」
通信。
ナオリ『主様!』
マダラ「柱間の場所へ向かえ。」
ナオリ『既に向かっております!』
マダラ「急げ。」
ナオリ『はい!』
マダラの声。
震えていない。
怒鳴っていない。
しかし。
ナオリは。
知っている。
今。
マダラは。
怒っている。
これまで見た中でも。
恐らく。
最も。
静かに。
最も。
深く。
・魔獣の森 北東区域・
扉間の足元にも。
種。
一粒。
水の中を。
流れてきた。
扉間は。
一目で。
理解する。
扉間「兄者……。」
拳藤「扉間?」
鉄哲「どうした!?」
扉間は。
種へ。
指を。
触れる。
木遁。
リアルタイムリンク。
兄者が。
何処かへ。
移動している。
敵と。
共に。
扉間「……馬鹿者が。」
拳藤「え?」
扉間「兄者が。」
扉間の拳。
強く。
握られる。
扉間「敵へ、自ら身を差し出した。」
鉄哲「何だと!?」
拳藤「どういうこと!?」
扉間「取引だ。」
扉間「俺たちと生徒を守るために。」
拳藤「そんな……。」
特殊脳無が。
咆哮。
扉間へ。
突っ込む。
扉間の眼が。
冷える。
扉間「……貴様が。」
水。
周囲。
一斉に。
持ち上がる。
扉間「貴様が俺を此処へ釘付けにしたせいで。」
影分身。
三体。
ボンッ!! ボンッ!! ボンッ!!
四方向。
扉間。
分身。
結界。
四赤陽陣。
ズオオオオオオオオオッ!!!!
赤い。
巨大な。
結界。
特殊脳無を。
完全に。
閉じ込める。
鉄哲「うおっ!?」
拳藤「何、この結界……!」
扉間「後で説明する。」
特殊脳無が。
結界へ。
突撃。
ドゴォォォン!!!!
跳ね返る。
扉間「今は。」
扉間の声が。
低く。
なる。
扉間「1秒でも早く。」
扉間「兄者を追う。」
・3年生救護区域・
ミトの掌。
そこへ。
一粒。
小さな。
種子。
落ちる。
ミト「……。」
九喇嘛『柱間だ。』
ミト「はい。」
ミトは。
種子を。
両手で。
包む。
瞳を。
閉じる。
ほんの僅か。
柱間のチャクラ。
温かい。
昔から。
変わらない。
生命そのもののような。
気配。
しかし。
遠ざかっている。
ミト「柱間様……。」
波動「ミトちゃん?」
通形「うずまきさん。」
天喰「何か……あった?」
ミトは。
眼を。
開く。
ミト「柱間様が、敵との取引に応じました。」
通形「え?」
波動「取引?」
ミト「ご自身と引き換えに、生徒たちへの攻撃を止めさせるつもりです。」
天喰「そんな……。」
波動「止めないと!」
ミト「はい。」
ミトが。
立つ。
金剛封鎖。
黄金の鎖が。
大地へ突き刺さる。
ミト「ミリオ。」
通形「うん!」
ミト「救護班の指揮をお願いします。」
通形「うずまきさんは?」
ミト「柱間様のもとへ向かいます。」
波動「私も行く!」
天喰「俺も……。」
ミト「ねじれ。環。」
二人が。
止まる。
ミト「此処の負傷者をお願いします。」
波動「でも……!」
ミト「お願いします。」
その声。
純粋な敬語。
静か。
しかし。
強い。
波動「……分かった。」
天喰「うずまきさん……必ず連れて帰って。」
ミト「はい。」
九喇嘛『行くぞ、ミト。』
ミト「はい、九喇嘛。」
黄金色のチャクラ。
ミトの身体を。
薄く。
包む。
ミト「柱間様。」
ミト「今度は、勝手に一人で決めさせません。」
・魔獣の森 中央避難路・
荼毘たちの前。
柱間が。
立っている。
そして。
森の奥から。
新たな異変。
黒。
霧。
地面。
木々の間。
何もなかった空間が。
ゆっくりと。
捻じれる。
ズズズズズズズズズ……!!
轟「……ワープゲート?」
障子「!黒霧か。」
黒い靄。
黄色い光。
その中央から。
男。
黒霧。
黒霧「皆さん。」
黒霧「迎えに参りました。」
荼毘「遅ぇ。」
黒霧「申し訳ありません。」
トガヒミコ「黒霧さん!」
トゥワイス「帰れるぞ! 帰れないぞ!」
スピナー「撤退か。」
黒霧「死柄木弔の指示です。」
黒霧の視線が。
柱間へ。
向く。
黒霧「……こちらの少年が。」
荼毘「ああ。」
荼毘「自分から来た。」
黒霧「なるほど。」
黒霧「では、約束通り。」
黒霧のワープゲートが。
広がる。
柱間は。
一歩。
前へ。
その時。
轟が。
氷を。
出そうとする。
柱間「轟!!」
轟「……!」
柱間「手を出すな!」
轟「だが!」
柱間「爆豪が向こうの手にある!」
轟の拳が。
震える。
柱間「頼む。」
轟「……千手。」
Mr.コンプレスが。
爆豪の球を。
胸元へ。
仕舞う。
Mr.コンプレス「賢明だ。」
その瞬間。
障子の眼が。
動く。
Mr.コンプレス。
左右。
腰。
袖。
手。
常闇の球は。
もうない。
確かに。
救出した。
障子「常闇はいる。」
轟「ああ。」
常闇「……俺は此処だ。」
ギリギリ。
一人は。
取り返した。
だが。
爆豪。
まだ。
向こう。
柱間が。
黒霧のゲート。
直前へ。
進む。
イーグルワゴン『柱間の旦那ァ!!』
柱間「イーグルワゴン。」
イーグルワゴン『やっぱり駄目だ!!』
翼。
広げる。
しかし。
荼毘の掌。
蒼炎。
柱間「来るな!」
イーグルワゴン『ッ……!!』
柱間「これは俺が選んだ!」
イーグルワゴン『だからってよォ!!』
柱間「皆を頼むぞ。」
イーグルワゴン『……ッ。』
柱間「ナオリにも。」
柱間「ハーストハイムにも。」
柱間「心配するなと伝えてくれ。」
イーグルワゴン『自分で言えよ!!』
柱間「……。」
イーグルワゴン『帰ってきて、自分で言いやがれ!!』
柱間の顔へ。
小さな。
笑み。
柱間「うむ。」
柱間「必ず。」
その時。
上空。
遠く。
羽ばたき。
ナオリ。
ナオリ『主様ァァァァァ!!』
柱間が。
振り返る。
ナオリ。
だが。
遠い。
あと。
数100m。
柱間「ナオリ!」
ナオリ『お待ちください!!』
黒霧「時間です。」
柱間「……。」
柱間は。
ほんの一瞬。
空を。
見上げる。
その目。
ナオリの遥か向こう。
さらに。
森。
何処かにいる。
マダラ。
扉間。
ミト。
そして。
全ての仲間へ。
向けるように。
柱間「すまぬ。」
一歩。
黒霧へ。
入る。
ナオリ『主様!!』
イーグルワゴン『柱間の旦那ァァァァァァァァッ!!!!』
黒霧「撤収します。」
荼毘「行くぞ。」
トガヒミコ「ばいばーい。あと、出久君にもよろしく言っておいてください。」
スピナー「……。」
マグネ「じゃあね。」
トゥワイス「撤退だ! 突撃だ!」
Mr.コンプレス「それでは皆様。」
Mr.コンプレスは。
シルクハットへ。
手。
Mr.コンプレス「今宵のショーは、これにて閉幕。」
轟「待て!!」
氷。
伸びる。
しかし。
蒼炎。
遮る。
ボオオオオオオオオッ!!!!
黒霧。
縮む。
最後。
柱間の顔。
見える。
そして。
完全に。
消える。
シュウウウウウウウウ……。
静寂。
森。
炎。
遠く。
サイレン。
残ったのは。
雄英生。
教師。
親衛財団。
そして。
空っぽになった。
場所。
ナオリが。
そこへ。
着地する。
ナオリ『……主様?』
返事。
ない。
ナオリ『主様。』
何度。
呼んでも。
いない。
イーグルワゴンは。
帽子を。
強く。
押さえた。
轟。
拳。
握る。
障子。
眼を。
閉じる。
常闇。
俯く。
そして。
数十秒後。
森の向こう。
深青色の光。
ズドォォォォォォォォン!!!!
特殊脳無が。
遥か上空へ。
吹き飛ばされる。
マダラが。
来る。
須佐能乎を。
解除しながら。
地面へ。
着地。
マダラ「柱間。」
誰も。
答えない。
マダラ「……何処だ。」
ナオリ『主様は……。』
ナオリの声。
震える。
ナオリ『敵と共に……。』
マダラ「分かってる。」
轟「うちは。」
マダラ「爆豪は。」
轟「……取られた。」
マダラ「常闇。」
常闇「俺は……障子たちが取り戻してくれた。」
マダラ「そうか。」
その直後。
シュンッ!!
扉間。
転移。
扉間「兄者は!?」
沈黙。
扉間の顔が。
変わる。
ミトも。
黄金のチャクラを纏い。
木々を越え。
到着。
ミト「柱間様……。」
誰も。
言わない。
言えない。
だが。
全員。
分かる。
柱間。
いない。
爆豪。
いない。
二人。
奪われた。
マダラは。
掌。
開く。
そこ。
送信木。
小さな種。
まだ。
生きている。
マダラ「……。」
扉間「兄者の送信木か。」
ミト「私のところにも届きました。」
マダラ「ああ。」
写輪眼。
種を見る。
細胞。
繋がり。
まだ。
切れていない。
マダラ「柱間は生きてる。」
轟「分かるのか。」
マダラ「こいつが繋がってる。」
扉間「敵側にも忍ばせた可能性が高い。」
マダラ「二つ。」
扉間「分かるのか。」
マダラ「一つは炎野郎。」
マダラ「もう一つは、爆豪を丸めた野郎だ。」
障子「追えるのか!?」
マダラ「……今は。」
送信木。
微かな。
信号。
しかし。
急に。
ブツッ……。
弱くなる。
マダラ「……チッ。」
扉間「空間遮断か。」
ミト「あるいは、結界。」
マダラ「完全には切れてねェ。」
マダラの声。
冷たい。
マダラ「なら追える。」
扉間「マダラ。」
マダラ「あ?」
扉間「今すぐ追うな。」
マダラの写輪眼。
扉間へ。
向く。
空気。
凍る。
マダラ「……何だと。」
扉間「兄者自身が、追うなと送ってきた。」
マダラ「知るか。」
扉間「残った生徒の安全確認が終わっていない。」
マダラ「知るかと言った。」
扉間「ラグドールも見つかっていない!」
その言葉。
マダラの眼が。
止まる。
ナオリ『……ラグドール様が?』
マンダレイの声が。
テレパス。
届く。
震えている。
マンダレイ『全員……聞いて……!』
マンダレイ『ラグドールが……いない……!』
虎『何処にもいない!!』
マンダレイ『サーチも……反応しないの……!』
ミト「……!」
扉間「まだ終わっていない。」
マダラ「……。」
扉間「兄者を追うなら。」
扉間「まず、兄者が守った者を全員守り切ってからだ。」
沈黙。
長い。
長い。
沈黙。
マダラは。
眼を。
閉じる。
そして。
写輪眼を。
解除。
マダラ「……分かった。」
声。
静か。
あまりにも。
静か。
イーグルワゴンが。
何も言えない。
ナオリも。
何も言えない。
マダラ「だが。」
マダラの眼。
再び。
開く。
赤ではない。
黒。
それでも。
その奥。
火山。
噴火寸前。
マダラ「一人残らず。」
マダラ「連れ戻す。」
扉間「……当然だ。」
ミト「はい。」
マダラ「爆豪も。」
マダラ「柱間も。」
マダラ「ラグドールも。」
マダラ「全員だ。」
・林間合宿施設 臨時救護所・
数十分後。
合宿施設は。
完全に。
災害救護拠点へ変貌していた。
親衛財団。
教師。
3年生。
動ける生徒。
全員が。
救助へ。
回っている。
ハーストハイム『第一救護区、負傷者12名!! 第二救護区、毒ガス吸入者九名!! 森林火災区域より追加搬送3名!!』
親衛財団員『了解!!』
イーグルワゴン『呼吸器系を最優先だ!! 緑谷の甘ちゃんは両腕を完全固定!! 絶対に動かすな!!』
緑谷「でも……柱間君と爆豪君が……。」
イーグルワゴン『だから動くなって言ってんだろうが!!』
緑谷「……ッ。」
洸汰「お前、馬鹿なのか。」
緑谷「洸汰君……。」
洸汰「その腕で何が出来んだよ。」
緑谷「……。」
洸汰「治してから行けよ。」
緑谷「……うん。」
少し離れた場所。
ピクシーボブ。
頭部。
包帯。
意識なし。
虎が。
その手を。
握っている。
ミトが。
掌仙術。
緑色の光。
頭部へ。
慎重に。
当てる。
ミト「頭蓋骨の損傷は抑えられています。ですが、脳への衝撃が大きいです。」
虎「助かるのか。」
ミト「現時点では断言できません。」
虎「……。」
ミト「ですが。」
ミトの掌。
光。
強くなる。
ミト「絶対に諦めません。」
虎「……頼む。」
相澤が。
駆け込む。
相澤「虎さん。」
虎「イレイザー。」
相澤「ピクシーボブさんの状態は。」
ミト「重傷です。頭部への衝撃が非常に大きいですが、生命反応は維持しております。」
相澤「…そうか。助かった、うずまき。」
相澤は。
虎へ。
頭を。
僅かに下げる。
相澤「申し訳ありません。こちらの警戒不足です。」
虎「今それを言うな。」
相澤「……はい。」
マンダレイが。
走ってくる。
顔。
青い。
マンダレイ「ラグドールが……。」
相澤「まだ見つかりませんか。」
マンダレイ「何処にも……。」
相澤「最後に確認された場所は?」
マンダレイ「中央東側。サーチで敵を探していた。その後……反応が途絶えた。」
相澤「分かりました。」
相澤「捜索班を組みます。」
マンダレイ「私も――」
相澤「マンダレイさん。」
マンダレイ「……。」
相澤「あなたは此処でテレパスを維持してください。」
マンダレイ「でも!」
相澤「お願いします。」
その声。
敬語。
だが。
教師として。
強い。
相澤「今、この場で全員へ指示を届けられるのは、あなたです。」
マンダレイ「……。」
相澤「ラグドールさんを見つけるためにも。」
相澤「此処にいてください。」
マンダレイ「……分かった。」
・林間合宿施設 外部通信室・
電話。
通信。
警察回線。
ヒーロー公安委員会回線。
複数。
同時。
鳴る。
塚内直正警部。
警察署。
雄英。
プロヒーローの事務所。
日本各地。
一斉に。
緊急連絡が。
走り始める。
・東京都 港区 リューキュウ事務所・
深夜。
それでも。
事務所には。
まだ明かりがついていた。
巨大モニター。
事件情報。
夜間パトロール班の報告。
その中央。
竜間龍子。
ドラグーンヒーロー。
リューキュウ。
隣。
銀色の髪。
口元を覆うくの一の如き大きなマスク。
特殊工作員やスパイのような濃色のヒーローコスチューム。
抹茶色のマフラーのようなサポートアイテム
クールな佇まいの。
リューキュウのサイドキック1。
そして。
道化師を思わせる。
オフショルダー型の衣装。
一見無表情。
しかし。
眼差しには柔らかな明るさを持つ。
リューキュウのサイドキック2。
電話。
鳴る。
リューキュウのサイドキック1「リューキュウ。雄英高校より緊急回線です。」
リューキュウ「繋いで。」
リューキュウのサイドキック1「はい。」
モニター。
相澤。
顔。
疲労。
煤。
血。
リューキュウの表情が。
僅かに。
変わる。
リューキュウ「イレイザーヘッド。」
相澤『夜分に申し訳ありません、リューキュウ。』
リューキュウ「構わないわ。何があったの?」
相澤『林間合宿地が敵連合の襲撃を受けました。』
リューキュウ「……。」
相澤『生徒複数名が負傷。ピクシーボブさんが頭部へ重傷。ラグドールさんが行方不明です。』
リューキュウ「ねじれとミトは?」
相澤『無事です。救護活動中です。』
リューキュウ「……そう。」
ほんの。
一瞬。
安堵。
しかし。
相澤の沈黙。
リューキュウは。
察する。
リューキュウ「まだ、あるのね。」
相澤『はい。』
相澤『爆豪勝己と――』
相澤『エンデヴァー事務所にて、職場体験を行っていたうちはマダラの親友、千手柱間が拉致されました。職場体験の時、うちはマダラをリューキュウ事務所へ招いていたあなたは既にご存知だと思いますが。』
リューキュウ「……。」
数秒。
無音。
リューキュウのサイドキック2の眼が。
僅かに。
見開かれる。
リューキュウのサイドキック1「嘘……!マダラ君がいつも言っていたあの柱間君が…!」
リューキュウ「マダラ君は。」
相澤『無事です。』
リューキュウ「……そう。」
リューキュウは。
眼を。
閉じる。
そして。
開く。
動揺。
消す。
だが。
声。
少しだけ。
低い。
リューキュウ「状況を全て送って。」
相澤『分かりました。』
リューキュウ「私たちはすぐに出られるよう準備するわ。」
相澤『ありがとうございます。』
リューキュウ「イレイザーヘッド。」
相澤『はい。』
リューキュウ「マダラ君を、一人にしないで。」
相澤「……承知しました。」
通信。
切れる。
リューキュウは。
数秒。
何も言わない。
リューキュウのサイドキック2「リューキュウさん。」
リューキュウ「大丈夫よ。」
リューキュウのサイドキック2「……はい。」
リューキュウ「でも。」
リューキュウ「マダラ君は、もっと大丈夫ではないでしょうね。」
リューキュウのサイドキック1「出動準備を開始します。」
リューキュウ「お願い。」
リューキュウは。
自らが持つあのスリットの入ったワインレッドの気高きチャイナドレス式のヒーローコスチューム。
留め具を。
締め直す。
リューキュウ「柱間君も。」
リューキュウ「爆豪君も。」
リューキュウ「ラグドールも。」
リューキュウ「必ず連れ戻すわよ。」
・東京都 エンデヴァー事務所・
夜。
東京都。
高層ビルの如き巨大なプロヒーローの事務所。
緊急通信。
エンデヴァーは。
立ったまま。
報告を聞いていた。
背後。
バーニン。
黄緑色の燃える髪。
オニマー。
角のような突起を持つ金属製ヘッドギア。
胸元へ大きく走る白いX字装備。
キドウ。
顔の大部分を包帯状の装備で覆った。
無駄のない立ち姿。
エンデヴァー「……もう一度言え。」
職員「雄英林間合宿地へ敵連合が襲撃。」
職員「爆豪勝己、千手柱間2名が拉致。」
エンデヴァー「!あの千手が。」
バーニン「マジかよ……!」
オニマー「救援要請は?」
職員「警察と雄英が連携中です。」
キドウ「位置情報は。」
職員「現在解析中。」
エンデヴァーの炎。
大きく。
揺れる。
エンデヴァー「俺たちも出る。」
バーニン「了解!」
オニマー「準備します!」
キドウ「車両を回す。」
エンデヴァー「警察の指示を待て。」
バーニン「え?」
エンデヴァー「勝手に突っ込めば、人質が死ぬ。」
エンデヴァーの拳。
握る。
エンデヴァー「千手なら。」
一瞬。
職場体験のあの時。
あの轟家の家庭内でも敢えて空気を読まずに豪快に笑い、長らく氷のように冷め切っていた轟家の空気を一瞬で温かくし、そしてエンデヴァー自身への専属カウンセラーみたいなことも自然とやってのけたお人好し過ぎるあの15歳の少年。
千手柱間。
思い出す。
エンデヴァー「それくらい分かって、自分から行ったはずだ。」
バーニン「……。」
エンデヴァー「だから。」
エンデヴァー「こちらも頭を冷やして動く。」
炎を纏う男が。
そう言った。
エンデヴァー「…千手、勝手に一人で背負うなど、師匠であるこの俺が許さんぞ。」
・福岡県 ホークス事務所・
ホークスは。
電話を。
耳へ。
当てたまま。
窓辺に。
立っていた。
背後。
赤い翼。
静か。
ホークス「はい。」
塚内『林間合宿地の件は聞いているな。』
ホークス「今、全部確認しました。」
塚内『千手柱間、爆豪勝己が拉致。ラグドールが行方不明。』
ホークス「……扉間君は。」
塚内『無事だ。』
ホークス「そっすか。」
僅かな。
間。
ホークス「無事でも。」
ホークス「今頃、自分のせいにしてるでしょうけどね。」
塚内『……だろうな。』
ホークス「俺、東京向かいます。」
塚内『正式な要請を出す。』
ホークス「了解。」
ホークスは。
電話を切る。
一枚。
赤い羽根。
窓辺。
浮く。
ホークス「扉間君。」
ホークス「そういう顔してんだろうなぁ。」
羽根。
全て。
広がる。
ホークス「しゃーない。」
ホークス「今度は俺ら大人の番か。」
・日本各地 プロヒーロー緊急連絡網・
ベストジーニスト。
ベストジーニスト「若き繊維が二本、敵に奪われたか。」
ベストジーニスト「ならば、乱れた織り目を正すのが我々の仕事だ。」
エッジショット。
エッジショット「敵連合……再び動いたか。」
エッジショット「俺は警察の指示に従い、潜入経路を洗う。」
クラスト。
クラスト「学生を攫うなど……!」
クラスト「私の盾が必要なら、何処へでも向かう!」
ウォッシュ。
ウォッシュ「ウォッシュ……!」
職員「出動準備、完了です!」
ヨロイムシャ。
ヨロイムシャ「若者を戦の道具にするとは、愚かな。」
ヨロイムシャ「儂も召集に応じよう。」
ギャングオルカ。
ギャングオルカ「俺の事務所にも資料を回せ。」
ギャングオルカ「沿岸、地下、港湾。逃走経路になり得る場所を全部洗う。」
シンリンカムイ。
シンリンカムイ「Mt.レディ。」
Mt.レディ「はい、先輩。」
シンリンカムイ「警察から要請が来るまでは待機だ。」
Mt.レディ「分かってます。」
Mt.レディ「だけど……」
Mt.レディ「子供を攫って逃げるなんて、絶対許さない…!」
シンリンカムイ「同感だ、Mt.レディ。」
デステゴロ。
デステゴロ「俺たちは搬送ルートを確保する。」
デステゴロ「戦うだけがヒーローじゃねぇ。」
マニュアル。
マニュアル「僕は負傷者受け入れの応援に回ります。」
マニュアル「水が必要なら、現場でも使える。」
ファットガム。
ファットガム「学生攫うとか、ほんま胸糞悪いで。」
ファットガム「俺もいつでも動けるようにしとく。警察から連絡来たら即出るで。」
サー・ナイトアイ
バブルガール「サー、雄英から緊急情報です。」
サー・ナイトアイ「確認している。」
センチピーダー「救出作戦へ参加する可能性がありますか。」
サー・ナイトアイ「ある。」
サー・ナイトアイ「ただし。」
サー・ナイトアイ「感情だけで動くべき局面ではない。」
バブルガール「はい。」
サー・ナイトアイ「情報を集める。」
サー・ナイトアイ「誘拐事件は、初動で焦った側が人質を危険へ晒す。」
・林間合宿施設 仮設指揮室 深夜・
午前零時を。
大きく。
回った頃。
仮設指揮室。
相澤。
ブラドキング。
ミッドナイト。
パワーローダー。
マンダレイ。
虎。
そして。
警察。
通信画面。
塚内直正。
さらに。
根津。
オールマイト。
プレゼント・マイク。
13号。
雄英側の主要教員。
3年生代表。
ミリオ。
環。
ねじれ。
ミト。
そして。
マダラ。
扉間。
ナオリ。
イーグルワゴン。
ハーストハイム。
全員。
そこにいた。
一人。
いない。
柱間。
もう一人。
いない。
爆豪。
そして。
ラグドール。
塚内『まず、現状を整理する。』
モニター。
地図。
塚内『敵連合開闢行動隊による襲撃。逮捕確認はマスキュラー、マスタード、ムーンフィッシュ。』
塚内『その他の構成員は、黒霧のワープゲートにより撤退した可能性が高い。』
塚内『拉致が確認された生徒は二名。』
塚内『1年A組、爆豪勝己。』
塚内『1年A組、千手柱間。』
マダラの指。
机。
僅かに。
動く。
塚内『さらに、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ所属、ラグドールが現在も行方不明。』
マンダレイ「……。」
虎「……。」
塚内『負傷者多数。中でもピクシーボブさんは頭部へ重傷。』
相澤「現在、生命反応は安定しています。」
ミト「応急処置は完了しました。医療機関へ搬送後、精密検査が必要です。」
塚内『分かった。』
塚内『次。』
地図。
森。
複数の。
赤点。
塚内『現場では、通常の敵連合構成員とは別に、複数の特殊脳無が確認されている。』
扉間「俺とマダラを分断する目的の個体だ。」
塚内『根拠は?』
扉間「殺意が薄い。」
相澤「……殺意が薄い?」
扉間「俺たちを倒そうとしていなかった。」
マダラ「ただ時間を食わせたかっただけだ。」
扉間「さらに、潜伏型の個体がいた。」
根津『君たちの技術を観察していた個体だね。』
ミト「はい。」
ミト「私の封印術式へ一度接触しております。」
九喇嘛『アイツは戦う気なんざ最初から無かった。』
九喇嘛『見ることだけが目的だった。』
オールマイト「つまり。」
オールマイトの顔。
険しい。
オールマイト「今回の襲撃には。」
オールマイト「生徒拉致とは別の目的があった可能性がある。」
扉間「高い。」
根津「忍術、チャクラ、封印術のデータ収集。」
マダラ「……。」
相澤「うちは。」
マダラ「何だ。」
相澤「お前は何処まで見られた。」
マダラ「写輪眼。」
マダラ「須佐能乎。」
マダラ「火遁。」
マダラ「細かい制御。」
マダラ「俺が気づいてねェ間も含めりゃあ、もっとだ。」
扉間「俺は飛雷神、水遁、影分身。」
ミト「私は金剛封鎖、八卦系統の封印術、九喇嘛のチャクラ反応を観測された可能性があります。」
プレゼント・マイク「……最悪じゃねぇか。」
13号「それが何処へ送られたか分かりませんね。」
根津「だからこそ、今は追跡を慎重に行う。」
マダラ「追跡なら出来る。」
全員。
マダラへ。
向く。
マダラが。
掌。
開く。
送信木。
種。
一粒。
塚内『それは?』
扉間「兄者の木分身の派生だ。」
扉間「送信木。」
ミト「種子状に変化させた木分身です。」
マダラ「柱間は敵二人に付けてる。」
塚内『!位置が分かるのかい!?』
マダラ「大まかには。」
マダラ「だが、途中で信号が弱くなった。」
扉間「時空間結界か、電波ではないエネルギー遮断。」
根津「敵も、何らかの対策拠点を用意していると見るべきだね。」
塚内『送信木の情報を警察側にも共有できるかい?』
マダラ「出来る範囲ならな。」
扉間「俺が術式を変換して座標情報へ落とす。」
塚内『助かる。』
その時。
オールマイトが。
マダラを見る。
オールマイト「うちは少年。」
マダラ「あ?」
オールマイト「……今すぐ飛び出したいだろう。」
マダラ「当たり前だ。」
オールマイト「私もだ。」
沈黙。
オールマイトの拳。
震えている。
オールマイト「爆豪少年も。」
オールマイト「千手少年も。」
オールマイト「私の教え子だ。」
オールマイト「今すぐにでも、敵の拠点へ殴り込みたい。」
マダラ「なら行くぞ。」
塚内『待ってくれ、うちは君。』
マダラ「……。」
塚内『人質が二人いる。』
マダラ「知ってる。」
塚内『だからこそだ。』
塚内『警察が敵の所在を確定させる。』
塚内『確定した瞬間。』
塚内『俺たちが正規の救出作戦を組む。』
マダラの眼。
塚内。
見る。
塚内『君たちの力が必要になるかもしれない。』
塚内『だが、今は待ってくれないか?』
マダラ「……。」
長い。
沈黙。
そして。
マダラ「三つ。」
塚内『何?』
マダラ「条件がある。」
相澤「うちは。」
マダラ「一つ。」
マダラ「柱間と爆豪の居場所が分かったら、俺にも知らせろ。」
塚内『!当然だ。』
マダラ「二つ。」
マダラ「救出作戦に俺を入れろ。」
相澤「……。」
塚内『学生を正式な警察作戦へ参加させるのは――』
マダラ「柱間の送信木を一番正確に読めるのは俺だ。」
塚内「……。」
マダラ「三つ。」
塚内『……言ってくれ。』
マダラの声。
静か。
低い。
そして。
凄まじく。
重い。
マダラ「絶対に。」
マダラ「手遅れにするな。」
誰も。
即答出来ない。
マダラ「俺は。」
マダラ「柱間が自分から行ったことに腹を立ててる。」
マダラ「敵にも腹が立ってる。」
マダラ「止められなかった自分にも腹が立ってる。」
扉間「……。」
マダラ「だが。」
拳。
握る。
マダラ「一番ムカつくのは。」
マダラ「このまま何も出来ねぇまま。」
マダラ「柱間か爆豪が傷つくことだ。」
相澤「……。」
マダラ「だから。」
マダラ「手遅れにするな。」
塚内『……ああ、約束するよ。』
マダラ「……。」
扉間が。
眼を。
伏せる。
扉間「俺の責任でもある。」
拳藤「扉間。」
扉間「俺が。」
扉間「特殊脳無の存在をもっと早く看破していれば。」
扉間「飛雷神の制限を――」
拳藤「違う。」
扉間「……。」
拳藤「それは違う。」
扉間「拳藤。」
拳藤「今日あんたが来なかったら、B組の誰かが毒ガスで死んでたかもしれない。」
鉄哲「そうだぜ。」
骨抜「扉間は俺たちを助けた。」
取蔭「アタシもそう思う。」
小森「委員長が全部の場所にいるなんて無理ノコ。」
柳「全部救えなかったから自分のせいっていうのは、かなりウラめしい。」
宍田「我々は委員長に救われましたぞ。」
扉間「……。」
拳藤「扉間、あんたのお兄さんを連れ戻すのは、これから。」
拳藤「反省はその後でも出来る。」
扉間は。
長い。
沈黙。
そして。
小さく。
息。
吐く。
扉間「……そうだな。」
ホークスなら。
恐らく。
同じことを言った。
そんな気がした。
ミトは。
送信木。
掌へ。
包み。
静かに。
見る。
波動「ミトちゃん。」
ミト「はい。」
波動「大丈夫?」
ミト「大丈夫です。」
九喇嘛『嘘つけ。』
ミト「九喇嘛。」
九喇嘛『大丈夫な奴は、種を潰しそうなほど握らねぇ。』
ミト「……。」
ミリオ「うずまきさん。」
天喰「無理しなくていいと思う……。」
ミト「……ありがとうございます。」
ミトの指。
少し。
緩む。
ミト「心配しております。」
ミト「非常に。」
波動「うん。」
ミト「ですが。」
ミト「柱間様は、必ず帰ってきます。」
九喇嘛『当然だ。あの柱間のバカだぞ?絶対帰って来るに決まってんだろうが。』
ミト「はい。」
九喇嘛『兎に角、あのお人好しバカが、勝手に死ねると思うな。』
九喇嘛『儂も。マダラも。扉間も。ミト、お前も。』
九喇嘛『許すわけねェだろ。』
ミトの口元。
ほんの少し。
笑う。
ミト「はい。」
根津が。
全員を。
見渡す。
根津「今夜は。」
根津「我々が、大きく後手へ回った。」
誰も。
否定しない。
根津「だからこそ。」
根津「次は、こちらが先に動く。」
塚内『警察は敵連合の拠点特定を最優先する。』
根津「雄英は全生徒の安全確保。」
相澤「保護者への説明も必要です。」
オールマイト「そして。」
オールマイトが。
立つ。
平和の象徴として。
幾度となく。
人々の前へ。
立った男。
オールマイト「奪われた二人を。」
オールマイト「必ず。」
オールマイト「取り戻す。」
マダラが。
送信木を。
握る。
その種から。
本当に。
微かに。
ほんの。
一瞬。
柱間の。
チャクラ。
感じる。
生きている。
遠い。
だが。
確かに。
生きている。
マダラ「待ってろ。」
誰へ。
言ったのか。
全員。
分かっている。
マダラ「柱間。」
マダラ「爆豪。」
赤い写輪眼。
静かに。
開く。
マダラ「必ず、連れ戻してやる。」
そして。
同じ頃。
誰も知らない場所。
暗い。
敵連合の拠点。
黒霧のワープゲートから。
二人。
少年が。
運び込まれていた。
一人。
怒りに満ちた。
爆豪勝己。
もう一人。
静かに。
周囲を観察する。
千手柱間。
柱間の襟元。
小さな。
種子。
誰にも。
気づかれず。
脈打つ。
コト……。
柱間の眼が。
僅かに。
細くなる。
柱間「……。」
爆豪「ストレート長髪。」
柱間「爆豪。」
爆豪「何でテメェまで来やがった。」
柱間「……。」
爆豪「俺を助けるためとか言ったらぶっ殺すぞ。」
柱間の口元。
僅かに。
笑う。
柱間「生憎。」
柱間「お前一人のためではないぞ。」
爆豪「あァ?」
柱間「皆を守るためだ。」
爆豪「……チッ。」
柱間「それに。」
爆豪「何だ。」
柱間「俺たちは。」
柱間「まだ負けておらぬ。」
爆豪の眼。
柱間。
見る。
柱間の襟。
その奥。
送信木。
小さく。
震える。
遥か彼方。
マダラ。
扉間。
ミト。
三人の掌。
同時に。
三つの種子が。
ほんの僅か。
脈打った。
――繋がっている。
――まだ、終わってはいない。
林間合宿三日目――敵連合は、爆豪勝己と千手柱間を奪った。
だが、千手柱間もまた、敵の懐へ一本の“根”を伸ばしていた。
そして――神野の悪夢へと続く反撃の種は、既に静かに芽吹き始めていた。
ということで、第五十三話でした。如何でしたでしょうか?文字数が24000文字ちょっとという途方もない文字数となってしまいましたが、それでもご愛読して頂けるなら大変執筆した甲斐があります!あと、林間合宿編の執筆、意外と結構疲れました笑。
さて、次話の第五十四話についてですが、次話からはついに作者が特に力を入れて執筆したがっていた、神野の悪夢編がスタート致しますので、楽しみにしてお待ちください!
また、お気に入り登録や質問、評価も是非お待ちしておりますが、特に感想を、無理にとは言いませんが、時間があれば頂けると、作者の小説制作のやる気向上などへと変わりますので、よろしければ是非よろしくお願いします!ですが、理不尽な誹謗中傷などの行為は流石にやる気やモチベーションが下がりますのでそれらは御法度です。何卒ご理解よろしくお願いします!では、第五十四話にて!