「ただいま~」
書類の整理に追われ、その声に気付いた時、時計を見ると18時を過ぎていた。
声の主は桜子だった。
「おかえり、桜子。」
僕は書類片手に顔だけ桜子に 向けた。
「ただいま~、何その書類?凄い量ね…」
「あぁ、コレ?」
栄水遺跡の調査書類だよ、何それ?えーと…
こんな他愛のない会話が僕は本当に嬉しかった。
クウガになってから覚悟していた、普通の日々からの離脱。
五代さんがいなければ、桜子や博士、みんなに…もし出会っていなければ…僕はきっともっと辛い戦いになってたはずだ。
生身も入れれば、グロンギと戦ったのは四回だ。
そしてクウガとして戦った実戦はそのうち二回。
これだけなのに…数日前までこれだけ身体が悲鳴をあげるほど辛かったってことは…あちらの世界での五代さんの戦いはどれだけ辛かったのだろうか…とか考えてしまう。
「あら、桜子おかえり。」
「あっ、おかえりー桜子ちゃん。」
研究室の奥から夏目博士と五代さんが現れる。
「ただいま~」
桜子は書類から手を離し、2人に駆け寄る。
「一条君、それ終わった?」
夏目博士が僕の方を見て書類を指差す。
「はい、もう纏め終わります。あの博士、この研究書類…もうちょっと個人的に調べたいので僕に預からせてもらえませんか?」
「あぁ、良いよ?来月学会に発表になるからそれまでなら。」
「あれ?そんなに期限が有ったのに何で今日中に?」
「あぁ、それはね。一条君、君は明日から一週間、有給だからだよ。今日中にそれを終わらせれば君の仕事は約一週間無いからね~」
「はい?何ですそれ?有給?僕が?言いましたっけ?」
僕は呆然と問う。
「それさ!実は、俺が頼んだんだ。勝手なことしてごめん。」
五代さんが頭を下げる。
「エッ?ちょっと五代さんやめてくださいよ、でも何で僕が有給?」
「その…一緒に調べないかい?あの遺跡…えっと栄水遺跡だっけ?そこで住み込みで調査したいんだけど…よかったら…」
夏目博士が続
「今日、小田…こほんっ、輝ちゃんに調査依頼と協力を要請しといたから、荷物や機材やらはうちのを使いなさい。」
「あり…ありがとうございます!」
五代さんと博士に気を使わせてしまった僕はただお礼しか言えない。
「じゃあ明日から2人で特訓もかねて行こうか!」
特訓とか聞こえたけど気のせいであってください。
「とりあえず今日はうちの家に泊まりなさい、その方が遺跡も近いし。」
「えっでも着替えやら何も…」
「それは大丈夫!カオル君が仕事している間、君の家に一度戻って荷造りして持ってきたから!」
五代さんはキメ顔でそう言った。
「そうなんですか!すみません…じゃあとりあえず博士の家に…」
そこで桜子が声をあげる。
「ちょっと待って!」
「うちに来るなら…その…夕飯、私が作るから!」
ガタッ!(僕の逃げる足の音)
ガシッ!(たぶんグロンギよりも強い力の桜子に捕まれた音)
「どこ行くのカオル…(笑)?」
「…世界を救いに…」
桜子に料理はやらせたくない。本当に大変な事になる、いや本当に。
「じゃあ俺も手伝うよ桜子ちゃん!こう見えて料理得意なんだ!」
「ほんとですか!?じゃあ何にしましょう?」
「そうだね~うーん」
五代さんが手伝うなら安全だ、大丈夫だきっと。
たぶん…いや絶対…
ふと横を見ると青ざめた顔で出前のチラシを読み漁る博士が居た…愛娘の料理の被害者第一号…ちなみに僕は未確認だがおそらく四号らしい、未確認四号…
あと二人の犠牲者のご冥福をお祈りします。
その後結局、五代さんの活躍で夕飯は無事済み、とても満足したものとなった。
五代さんの機転で桜子はとりあえずご飯を炊く作業、それと皿洗いに担当され難を逃れた、僕達が。
当の桜子は不満そうだったが五代さんの料理を口にすると途端に笑顔になり機嫌は元通り、良かった、本当に良かった!
犠牲者が出なくて。
味がやばいのではなく、すべてがやばいのだから。
時計が22時を回る頃、リビングで昔の写真のアルバムを皆で見ていた。
特に僕と桜子、輝ちゃんが3人で遊んでいる写真が多かった。
その中には僕と僕の両親と博士そして桜子が集まって映っている物もあった。
「この人たちがカオル君の?」
「はい。両親です。」
「これは驚いたなぁ…」
「何がです?」
五代さんの呟きの意図がつかめない、桜子と博士もどうしたの?という感じ。
五代さんは続ける。
「いやー、カオル君のお母さん確か、みのりさんだっけ?俺の妹にそっくりなんだよ、びっくりだ。ちなみに俺の妹の名前もみのりって言うんだ。」
「…それは又…びっくり飛び越えて…何でしょう唖然?」
僕はただそう応えるしかなかった。
やはりこの世界は五代さんの居た世界と似て非なる世界のようだ、それも限りなく近い環境の。
「みのり、元気にしてるかな…?」
五代さんは写真の僕の母親を身ながらつぶやく。
「あっ、ごめんなさい!しんみりしちゃって!」
五代さんはすぐさま笑顔で謝る。
「良いの良いの。写真はそういう時のための物なんだから。」
博士が五代さんの肩をたたきながら言う。
五代さんはただ笑顔で頷く。
「そうだ、ずっと気になってたんですけど…その、実加さんの旦那さん…は?良かったら聞かせてもらえませんか?」
五代さんが博士に問う。
「あっ、ああそうか。言ってなかったっけ?私の旦那はね、えーと写真写真。」
博士はアルバムを漁る。
「あった!こいつこいつ!」
昔聞いたことがある、桜子の父親であり博士の旦那に(なる予定だった)人。
本名、葛城喜多郎 元古代文明研究組織教授。
古代文字研究の会議で博士と出会い、その後二人の間に桜子が生まれる。
桜子が一歳を迎える直前に急にどこかの世界へ旅立ち消息不明に。
それから20年以上も連絡が付かず今に至る。
博士も桜子もあまり気にしていないらしく、もう別にどうでも良い人らしい。よって夏目博士は旦那さんの姓を名乗らず、自分の姓で今までやってきた。
と、博士が五代さんに説明。
「何か…実加さん、本当に強いですね!」
「そう?まぁ、一時期でもこいつを愛しちゃったからねー、まっ私は桜子が居れば良いからさ。どこほっつき歩いてるんだか。旅が好きだったのよ、こいつはさ…」
写真の旦那さんにデコピンをしたかと思えば、さっと写真をしまう博士。
「さっ!お風呂入ってきなさい若い衆!私は最後で良いから。」
「じゃあ桜子、一緒に入ろうか?」
と、冗談混じりで僕が桜子を誘うと、
「んっ、えっ!?…うん……。じゃあ…」
えっ、あれ、ちょっと違う、予想と違う反応で僕の調子が狂いそうだ。
「じょ、冗談冗談、桜子冗談だから!」
その様子を博士と五代さんが見ていて一言ずつくれた言葉は、
「あのさー、もうさー、あんたたち早く結ばれろよー。」
「俺も…思うよ。二人はお似合いだよ。挙式には呼んでね?」
桜子は顔を真っ赤にして固まっている。
そして僕はといえば、僕もまた顔を真っ赤にして固まっていた。
すんません、何か…すんません━━━━━━━━━━。
桜子は幼稚園の先生という設定ですがなかなかストーリーに絡めにくいです、何かいい方法無いかな…