遺跡に五代さんを追う少し前のこと、
病院を後にした僕が向かう先は、夏目博士が向かった考古学関係の研究所だ。
「おっ、えっ、いっ一条君っっ?!」
「はい、一条です。ニコッ」
研究所に入ってすぐ目当ての博士を発見した。
「君怪我は!?具合は大丈夫なの?そんなはず無いよね?まさか」
おもむろににスマホで電話を駆け出す夏目博士。
「もしもし!?桜子!?あんた今病院?今目の前に一条君がいてねっ、そのまさかお化けとかじゃないよね?」
「あの博士…」
「なんかつぶやいてるの。」
「博士、話聞いてもらえません?」
「えっ、走って出て行った?そんなあの怪我でそんなまさか…ええ、わかった、はいはい。」
電話を切った博士は僕を見るなり手を合わせ
「南無阿弥陀物」
「いや、今の桜子との電話からして間違い無く僕生きてるでしょ?!」
「そのツッコミは間違いなく一条君だね。うんうん。でもホントに体大丈夫?傷と出血量からして君は普通なら重体か最悪死んでる。」
普通なら…
その言葉が少し心に刺さる感じがして少し後ろめたい気持ちになるが、普通ではないのは確かに確かなのだ。
「はい、病院からここまで走ってきましたから。」
身体に異常が無いか確認も兼ねて約10キロほど走って辿り着いた。
異常はなかった、いや本当の事を言うとあった。
正直走るのはあまり得意ではないし長距離をノンストップでけっこうなスピードで走るのは初めてだったにも関わらずほとんど息切れしなかった。
明らかに身体が少し強くなっている。
異常なほど正常以上なのだ。
「彼の言っていたとおりだよ…いったい何者なのだろうね…彼。」
彼。おそらく五代さんだ。
「彼…それで博士、僕はこの通りピンピンしてるわけですが」
「うん、超状現象だね、一条君。君はお化けなワケだ。」
「それもう飽きました。」
「あらっ。まぁ冗談はさておき、本当に大丈夫…なんだね…有り得ないことなんだけどなぁ。一条君だから大丈夫だって思っちゃうんだけどね。」
「怪我が早く治った理由…その事で話をしに来た訳なんですが。」
「聞かせてもらおうか。」
僕は遺跡で起きた事、恐らくだが霊石の事、自分の体の
変化、強化。そしてあの夢で見た五代さんの事、それらを博士に話すことにした。
「なるほど…彼の言っていた話と同じだね…普通じゃなくなる、戦う本能、身体の変化、強化、霊石…うん、さっぱりだ。」
僕は、でしょうね。と相づちを打つと同時に、
「で、さっきから話に出てくる彼ってのは僕を運んでくれた彼、五代さんですよね?」
「うん、そだよ。さっきまで此処にいたんだけど」
「さっきまで此処にいたんですか!?」
少し遅かったか。
「いたよ?んでね、彼が居るときあの遺跡を警察が取り締まるって電話があって、関係者以外立ち入り出来なくなるって連絡が入ってね。それで彼、足早に出て行ったよ。」
つまり遺跡に向かったわけか。
「ん?でも五代さんは何でここにいたんです?」
なぜ五代さんはこの研究所に居たのか?
「それはね、これを調べてほしいって持ってきたからだよ。」
博士は手元にあったアタッシュケースを開く。
「これは…何かの石版ですか…?」 アタッシュケースに入っていたのは、文字の刻まれた石版だった。
「この文字を解読してほしいって。」
古代の文字だろうか?
見たことのない文字が刻まれた石版を見つめていると、意識が少し遠のき、2人の怪物が殴り合う姿が見えた。独りは笑い独りは涙を流しながら、両者血反吐を吐き続けながら。そして両者ともに倒れ…青空が…
すると、声が聞こえた。
「ちょっと一条君大丈夫?」
その声で我に戻った僕を心配そうに見つめる博士。
「大丈夫ですよ、そんな見つめないで下さい、恥ずかしいです。」
「はいはい、そういうことは桜子に言ってあげなさい。」
「言いませんよ?!」
「冗談。それでこの石版は私が預かることにしたのさ。それから」
と、博士はアタッシュケースからもう一つ何かを取り出す。
「これは…何です?」
「五代っていう彼が言うには、霊石のかけらなんだって。」
これを聞いた瞬間はっとする僕。間違いない、これは僕が霊石を落としたときにかけた部分だ。
「これを一条君に渡してくれって。はい。」
と手渡され、僕はそれを受け取り、ポケットにしまう。
「それから伝言も有るよ、全く私は伝言板かってのよ。えっと一条君へ…君は君に出きることをすればいい、他は俺に任せて。だって。意味わかんないね。」
いや、確信した。君に出きること、俺は逃げようとした。それが出きること。他は任せて、つまり他にも怪物がいてそいつらは任せてってことだ。
「博士、五代さんは遺跡に向かったんですね?」
「うんおそらくね。」
「行ってきます!」
僕は再び走り出す。もちろん遺跡に。
「えっ一条君?!」
博士の声も入らないほど僕は必死だった。
任せろ?そんなのは嫌だ、あんな怖い思いを独りで抱えるなんて辛い、きっと辛い。だから行かなきゃ。
僕は逃げようとした、でも今は、今の気持ちは。戦う。ただそれだけだ。
走る僕の脳裏に浮かぶのは先程の石版を見た時に浮かんだ、血反吐を吐きながら涙を流し戦う五代さんの姿で、
遺跡付近に辿り着き、彼=五代さんのその姿を見つけたとき、
彼は曇り空を見つめ一条さんとつぶやいた。
「俺が戦うですか?クウガ…いや、五代さん。」
その時の五代さんの顔は少し悲しそうだった…
そして今に至る。
「助けてくれてありがとうございます五代さん。」 「怪我はもう治ったんだね、良かった。」
五代さんは僕を見つめ笑顔で答えてくれた。 「どうして…そんな笑顔で居られるんですか?泣きながら戦ってまで痛みをこらえてまで…そんなことをしてまでどうして…」 五代さんは空を見上げながら
「みんなの笑顔を見たいからだよ、ただそれだけ。笑顔を守りたいってだけじゃなくて。ただ自分がやりたいからやってる感じかな。」 「また、変身するんですか?戦うんですか?そのために?」 「うん、俺がただやりたいことだから。だから君はここに来るべきじゃないよ。君のやることはこれじゃない。君の答えは正しかった。それでいいんだよ。」 「僕は…最初は確かに逃げようと思いました、だけど気を失ってる間夢を見たんです。それでそんな大それた理由はないですけど…戦おうって決めて。」 「夢?」 「五代さんが戦ってる夢です。血反吐を吐きながら涙を流しながら戦ってる姿を、そしてそれを見守る人達を。」 「そうか…」 「あんな辛い戦いを独りで抱えるなんて無理ですよ。」 「そう…だね。でも俺は独りじゃなかった。みんなが居てくれた。」 「だからたぶん僕もやりたいんです、あなたと同じ。でもあんな風に涙を流しながら戦うあなたの姿は見たくない、確かに…戦うわけだから…怖いですよ。でも、」
「うん。」 「やろうって…今また思いました。今のあなたの哀しそうな顔…それこそ違いますよ。僕は五代さんの笑顔が見たいから。五代さんは笑顔が似合いますよ。」
「…本当に似てるなぁ。名前、一条君だよね。」 「僕は一条カオルです、よろしく」
「名前が一緒なんてぐうぜんにも程があるな…」 「えっ?」 「俺が昔一緒に戦った刑事さんがいてね。その人も一条薫って名前なんだ。あっ、俺は五代、五代雄介よろしくね。」
と笑顔で答えてくれた。その時の空は先程までの雲が嘘のように青く澄み渡っていた。