もし私が、直前にプレイしていたゲームが「ブルーアーカイブ」でなかったならば。
私が異世界転生したことには気づけなかったかもしれない。
他人の頭上に浮かぶ輪が、私にその事実を気づかせてくれたのだ。
「なるほどね」
私は呟き、自分の頭の上に手を伸ばした。
やはり、実体はないが、存在している。
「ヘイロー」が。
突然ボロボロの廃墟で目覚めて、ドローンや機械人形に襲われて、相手の武器を奪ったりしながら逃げて、無我夢中で走っていたら、突然ビル街が現れて。
そこには、ヘイローを浮かべ銃を提げた美少女アバターと、運営NPCの機械と動物がいた。
私は中堅ゲーマーを自負しており、いろいろなゲームをかじっていた。
だから、わけのわからない状態に陥る状態の直前までログインしていたゲームと、人物の特徴が似ていなければ、一生私には、この世界のことはわからなかっただろう。
没入型VRゲーム時代というのは、ゲームが氾濫した時代だ。
AIの発達で、ゲーム制作会社は会社として存続する理由がなくなった。
自分のやりたいゲームを、自分の脳内で思い浮かばれば、専用のソフトが全てを完成させてくれる時代。
そんな時代に、大人数で組織立ってゲームを作成する企業形態は生き残れなかった。
ゲーム会社に限らない話ではあるが。
全自動でゲームが生み出される時代、次に必要とされたのは、AIとの対話能力。
つまりは、細部まで想像力を働かせる思考力だった。
なんだかんだで、「ゲーム制作者」は生き残れた。
人類全体が、創作活動に熱心だったわけではないのだ。
他人の上手な妄想に相乗りする権利として、ゲームという娯楽は存続した。
「ブルーアーカイブ」もそのひとつで、つまるところ私はこのゲームの大ファンとかではなく、他の人が産んだ世界をツーリングするのが趣味だっただけだ。
前世最後のツーリズムが、何故か人生ラストから地続きで転生になってしまっただけ。
不思議な縁もあったものだが、どうせ前世の私は与えられた生命維持権を使い果たす寸前だったのだ。新たな生を楽しむとしよう。
「さて」
状況は整理できた。私は学生だ。
生憎鏡はないが、声の高さや手足を見て、自分が運営側の動物やマシンではなく、アバターとしてプレイ側に立つ生徒であると確信している。
この世界を楽しむなら、どこかの学校に入学すべきだ。
学生生活シミュレーション「ブルアカ」は、学生として勉学に励み、スキルを鍛えて、生産職とかダンジョンとか楽しむ、一般的VRMMOだ。
ダンジョンに一般企業や銀行へのカチコミが含まれるのが独自色。
しかしまあ、第一歩とは難しいものである。
遺跡から逃げ出す時から気づいてたけど、私は今、全裸だ。
素っ裸。
機械兵士から奪った銃はバットみたいに使ってブッ壊したし、服なんて最初からなかった。
どうしたもんかな、これ。
「インベントリとか開けないかな。ステータスオープン……プロパティ……スタートボタン」
無駄だった。
ま、仕方ないよなぁ。
ブルアカはデータ上の世界という設定はあれど、データ側から数字を提供することは稀だった。
キヴォトスとは、サーバー上の電子生命体実験場。
プレイヤーは、そこに生み出される、学生という設定の数字。
世界は数字でできているが、数字側からそれを認識するのは興醒めだから、と、極力ステータスとかそういうのは省かれていた。
その辺の感覚は私にはわからん。製作者の趣味かな?
アイテムはちゃんとバッグに入れて持ち運ばないといけない。重いものは車とかに乗せないといけない。
プレイヤー同士の連絡手段はスマホだし、
「あ、スマホ」
そうだ、ブルアカってそういう変な拘りがあるゲームだった。
アバターの外見変更は美容院、スキンはアパレルショップ、名前変更は行政地区の役割を果たすD.U.まで赴かないといけない。
メニュー関連の操作は、スマホで一括管理。
私は素っ裸。
「自分の名前すら不明なのか……」
スマホなんて当然持ってない。
これ、ヴァルキューレに保護してもらうしかないのかなぁ。
でもなぁ、あそこで伸ばせるスキル、対人戦闘メインなんだよなぁ。
やはり私は、前世でもメインで通っていた大耀農学校へ行きたい。
あそこは、農業スキルとビームスキル、それらに付随して必要になる関連スキルをかなり効率よく上げられるんだ。
名前もわからん独り身なれば、食料の自給自足は急務だし、ビーム技は実弾と比べてコスパは悪いがリソースが自己完結できて火力調整も楽。
前世でのソロプレイから重宝してたけど、本当に大耀農は孤独の味方だ。
だから、地図とか欲しいし、D.U.行って身分証明とかはしたいんだが……服がね。
このままだと破廉恥罪で逮捕だ。
「おい、テメェ」
「そこの全裸」
言い忘れてたけど、現在地は路地裏。
スケバンロールプレイヤーのメッカである。
長居し過ぎたなぁ。
「有り金寄越せ。……金持ってるか? 大丈夫か?」
「誰かにひん剥かれたか? おい」
振り返れば、ヘルメットアバターの二人組。
ここって街中だよな? PvP禁止エリアじゃね?
なんでそんな場所で、顔を隠す真似を……いや。
ここは現実のキヴォトスだから、ヘルメットに深い意味はないのかも。
そして、PvP禁止エリアなんてのも当然、無い。
「私らの住んでる公園に来るか?」
「なあ、なんとか言えよ、おい」
「こら、怖がらせんな」
申し出はありがたいが……ホームレスかぁ。
どういう治安してるんだ、リアルキヴォトス。
間違った受け答えで怒らせたらハチの巣だろうし、私の現在レベルとか確認できないから耐えられるか怪しいし。
ふたりの手に収まっているアサルトライフルを眺めながら、どう答えたものか考える。
でも、多分悪い子ではないんだろうさ。心配してくれてるし。
「心配してくれてありがとう。服さえあれば大丈夫」
「うわ、喋った」
「いや喋りくらいするだろ」
「何か、長いカーテンとかでもこの際いいんだけど。人前に出れる布、持ってない?」
「いやカーテンでは人前には出れねぇだろ」
「確かに」
「納得するなら、あんま遠慮すんなよ。ノリノリヘルメット団はそんなにワルじゃねぇから」
「それ私らから言っていいのか?」
「……変なギルド名」
「? ぎるど?」
「いや独り言」
「そうかい。ま、古い制服でよければ、一着やるよ」
「改造してあるから、かっけぇアップリケもついてるぜ!」
「それは楽しみだ」
私は、ヘルメット二人組についていくことにした。
何をするにしても、服は必要だからな。
美少女アバターは着せてナンボである。
~☆~
デカい虎が描かれた改造制服を着た私に、ヘルメットAが言った。
「よし、これで身ぐるみ剥がせるな! 金を出せ!」
「いや本末転倒じゃねーか!」
ヘルメットBに思いっきり殴られるヘルメットA。ノリで生きてるのかこいつら? ああ、ノリノリヘルメット団ってそういう……。
「金はない。でも、すぐに食糧生産ができるようになる予定だから、その時はお礼するよ」
「礼ねぇ。その時に連絡取れるとは限らねーぞ?」
「住処を転々としている?」
「まあ、マッポは怖いし。ここも不法占拠だからな」
「……指名手配とかされてるなら、私が今から警察に駆け込めば、懸賞金とか出るかな?」
「テメェ恩を仇で!」
「いやしないよ。制服をありがとう」
「いいってことよ」
「帰り道には気をつけろよ!」
手を振って別れる。
いい気分になるタイプのヤンキーだったな。
「お互い、達者でね」
さて、まずは現在地の確認だ!
~☆~
「えっ」
私の知ってるブルーアーカイブじゃない。
どこだよ、トリニティ自治区って。
先の展開を思いつき次第、続きを書きます。
現状、予定は未定です。