※本作品はpixivにも投稿しています
機密作業を実施中。
283プロの事務所の部屋にはそのような札がたまにドアノブに釣られている。要は「この部屋にアイドルが入るな」という警告文だ。
そんなことがあるのかと驚く者もいるかもしれないが、必要である。重要な個人面談や、ファンから送られてきた怪文書――もとい本人には見せられないし届けられない贈り物の仕分け・保管などアイドルには見せられない業務も存在するのだ。
だからそのような札が掛かっている時にアイドルは近づかない、密室である。密室なのだから……
「――はづき」
「はーい、なんですか~?」
――はづきがプロデューサーの膝の上に向き合って座ったとしても、プロデューサーが甘えるようにはづきの豊かな胸に顔を埋めても誰も当事者以外は分からないはずなのだ!
彼らがカップルであるというのはもう事務所全体に広がっている。発覚した時、事務所にどのような嵐が巻き起こったのかについてはここでは示さない。社長が二重の意味で泣いたということだけは記しておこう。
もちろんだが社長は機密作業をでっちあげていちゃついて良いという許可は出していない。2人は密室でファンレターの仕分け作業をしているときに、気分が高じていちゃついているのだ。密室なのだから誰にもバレないだろう……と、油断して乳繰り合っている。
問題は立札を掛けていたからといっても鍵が掛かっていない以上、密室ではないことだ。
誰かがのぞき見しようとすれば、容易にできる。
「あ~……」
「おー……」
「はぁ……」
「ぴぇ……」
今まさに、ノクチルの四人が出歯亀をしていた。
まるでトーテムポールのように上から雛菜、透、円香、小糸がドアの隙間から2人の情事を覗き見る。やはり非日常極まるアイドルであっても、女子高校生である彼女たちにとって「大人の恋愛」は興味と興奮の対象なのだろう。
最初に見つけたのは透である。いつものように日誌を提出しようとプロデューサーを探しているときに見つけたようだ。黙って頬を紅潮させながら覗き見る透を見つけて円香が見つけて、さらに雛菜と小糸が合流し……といった寸法だ。
四人の恋愛耐性はそこまで高くない。小糸は厳格な親と女子中学校に通ったレベルに見合った、雛菜は生々しいやりとりを嫌う程度の、円香は漫画とSNSによって生まれた男子中学生レベルの偏った耳年増である。意外にも一番高いのが透であり、これは映画で濡れ場を何度か見たからである。逆に言うと、そのレベルのものしかない。
「はぁ……最悪」
「――と言って、ガン見してるよね。樋口」
「うるさい」
と、ここで室内の二人――はづきがプロデューサーのシャツのボタンを上から外し始めた。
円香はすぐ下にあった小糸の顔を自身の手で覆い、彼女に目隠しをした。
「見、見えない……」
「小糸は見ちゃダメ」
「円香ちゃんも本当は見ちゃいけないよね……!」
小糸の抗議に耳を貸さずに、されど円香は室内の二人から目を逸らせない。そんな様子を見て雛菜が「円香先輩かわいい~」とからかった。
室内のはづきは晒されたプロデューサーの胸元にキスマークを付ける。お返しにと言わんばかりに彼女は自身のデコルテを晒すようにシャツをはだけ、彼にキスを促す。
「…………」
「よかったね。――いや、樋口としては期待外れか」
「うるさい。……そんなこと期待していないから」
彼女の弁明に「そーか、そーか」と透は適当に流した。
「でも、首にキスとかしないね~。こういう時の常識――というか、王道なのに~」
「さすがに首にキスマークが付いたまま出たら、バレるからじゃないかな……。『この二人、密室でいちゃついてたな』って」
「……ちなみに小糸ちゃんはキスマークの意味は分かる~?」
「分かるよ……!口紅のことでしょ……!」
「残念、ちがう」
考察を述べた小糸に追加の質問をすると、予想通りの誤答が返ってきた。
「小糸ちゃん、かわいいね」
「もー……!からかってるでしょ……!」
そんなやり取りをしているときだった。三人が目を逸らしているうちに室内ではプロデューサーとはづきが熱い視線を混ぜて――
「あっ」
「ん、どうしたの樋ぐ――おぉー……」
「やは~、二人キスしてる~」
「ぴぇぇえ……」
室内の二人はまず啄むような軽いキスを何度も行っていたが、次第に間隔が短くなりついには唇と唇がくっついたまま顔だけを動かし始めた。
廊下にいるノクチルからでは詳しく見えないが、あれは――
「……あの、これって」
「深いキス、じゃない?」
「やは~、ベロチューだ~」
「フレンチキス」
小糸の質問に透、雛菜、円香が順に答える。その回答に小糸が鳴き声を漏らす。
室内では最初ははづきの肩に手を置いていたプロデューサーだったが、時間が経つにつれきつく抱きしめはづきの頭をなでる。それに呼応してはづきも首に強く抱き着いた。
あまりにも深い、高校生にとってはあまりにも刺激的なキスにノクチルの四人は目を奪われていた。
廊下で熱に浮かされたように情事を見ていたノクチルだったが、比較的『そういう事』に耐性のある透が気づいた。
はづきの手がプロデューサーの手から胸をなぞってどんどん下に降りていく。
その手が股座で止まった時、透ははづきの意図を感じ取り、感嘆の声を上げた。
「みんな、見て。やばいよ」
「そんなの見れば分かるでしょ。誰がどう見たってフレンチキス――」
「そうじゃなくって」
すっかりディープキスに目を奪われている三人に透は告げる。
「はづきさんの手の――位置。見てよ」
「え?」
「………あ~」
「……?」
大人を気取って理解できていない円香と察しの良い雛菜、最後に何もわかっていない小糸が各々の声を出す。
「はづきさん、プロデューサーのベルトのところに手がある」
「え――は?……はぁ!?」
「ぴぇ!?」
ようやく事の重大さが理解できた二人に淡々と、しかしわかる人には興奮していることを隠さずに透が続ける。
「――始まるね」
「始まるって……」
「そりゃあ、セ――」
ガタガタッ
トーテムポールが崩れる。小糸と円香が体勢を崩し、巻き添えで透も倒れたのだ。
「いっ――たぁ」
「ぐっ……」
「う、重い……」
顎に円香の頭が当たった透、額にドアをぶつけた円香、二人の下敷きになった小糸がうめき声を出す。
まずいと思ったのもつかの間、薄く開いていたドアが開け放たれる。
「――……みなさん、お揃いで~」
「げっ」
服は整えられていたものの、髪は少し乱れ頬は紅潮したはづきが現れノクチルの四人は一斉に目をそらした。
*
「言いましたよね~、機密作業中の部屋には入ってはいけないって」
「「「「……はい」」」」
「入るな、ってなっている部屋を覗き見してはいけないんですよ~」
「「「「はい……」」」」
「どうして覗き見してたんですか~?」
「円香先輩が必死で見ていて面白そうだと思って……」
「透ちゃんが覗き見しているのが気になって……」
「浅倉に誘われて……」
「プロデューサーを探していたら、あの部屋ではづきさんがプロデューサーに跨っていちゃついてるのを見て……」
馬鹿正直に答えた透にプロデューサーとはづきが一斉にむせる。
「はづきさん、そこまでにしましょう……。流石に今回は私たちが悪いですって……!」
「そ、それはそうですが……」
説教、というよりも八つ当たりに近い事をするはづきをプロデューサーが止めようとしたが彼女は耳を真っ赤にさせてうつむく。どうやら「おっぱじめる」のを見られかけたのが相当恥ずかしいようだ。
「――こ、今回は機密作業中の部屋を覗き見していただけで」
「え、してませんでしたよね。機密作業」
「~~~~~っ、とにかく!」
透に痛いところを突かれたはづきは怒ったように話を打ち切る。
「反省文を書いてください。機密作業中の部屋に入ったことについて」
「えっ」
「え~!雛菜たち二人がいちゃいちゃしてるとこ見てただけなのに~!?」
一斉に文句が噴出するノクチルにはづきは耳を貸さない。
「良いですか~、今回の問題は『機密作業中の部屋に入ったこと』であり別に私怨で反省文を書けと言ってる訳では――」
「……してませんでしたよね」
「とにかく!建前を無視して規則を破ったことが問題なので~……」
いつもよりも平静さに欠けた様子ではづきが強引にしめくくった。
*
「そこまでしなくても良かったのでは?」
「だって……恥ずかしいから。ノクチルの皆さんにあんな――色んなことをしたりされたりしてるところ見られて恥ずかしかったので」
「……はづきは恥ずかしがり屋だなぁ」
「あっ――ん………」
*
事務所に来ました。いつものように日誌を出すためです。
探してもプロデューサーがいなかったので探していると、きみつ作業をしている部屋にいると思いました。
中をのぞいてみるとプロデューサーがいました。はづきさんも一緒です。何をしてるのかなと見てるとはづきさんはプロデューサーの上に座りました。対面座位という奴です。
はづきさんがプロデューサーの頭を胸ではさんで、プロデューサーは気持ちよさそうでした。
二人がいちゃいちゃしていたのを樋口と小糸ちゃんと雛菜で見ていました。
はづきさんは積極的でプロデューサーにキスマークを付けたり深いキスをしたりしてました。はづきさんがベルトに手をかけたときに樋口が暴れてのぞき見がばれました。のぞき見したことを怒られました。
本当に申し訳ありません。
*
三日後。283プロの共用スペース。
「みんな、反省文書けた?」
「うい~」
「書いた」
「書いたよ~」
ノクチルの四人は反省文を提出するために事務所に来ていた。内容はさておき、400文字程度の反省文を書くのは高校生にとってわけない。
しかし事務所にははづきもプロデューサーもいない。
「今回も『機密作業中』?」
「いや、なんだか外回りみたい」
円香の言葉に透が答えた。指さした所には退勤表が貼られている。
「でもはづきさんも横暴だよね~。自分たちも悪いのにまさか雛菜たちに反省文を書かせるなんて~」
「まぁ良いんじゃない?」
雛菜の言葉に透は答える。
「はづきさんもさ、あんなに『出来る人』なんだけど乙女――というか普通の人っぽい行動するんだって分かったからさ」
透にとっても意外だったのである。事務員としての彼女は本当に異常なほどよくできる人間なのだが、恋愛になるとあんなに自己を顧みない無計画な行動をするとは。
初めてはづきの人間的な部分を見れた気がする――。透はそう考えているのだ。
「それで……どうする? 待つ? それとも机の上に置いとく?」
「うーん、期限はまだあるし一回持って帰っても――」
「……ねぇ」
反省文をどうするかについて相談し始める円香と小糸に透は呼びかけた。
その表情はまるで悪戯を思いついた子供のようで――
「まずはさ、添削してもらわない?」
「え~! 添削って反省文を~? 雛菜やだ~」
「添削って言っても、誰に見せればいいのかな……。大学生の人とか……」
「でも今日、他のアイドルが事務所に来る?」
「そうじゃなくってさ」
透は笑顔で爆弾の点火を促す。
「見せに行こうよ。この事務所の、一番偉い人に」
*
「………確かに私は事務員とプロデューサーが付き合うことに対して何も言わなかった。お前たちも子供ではない。だから常識ぐらいは持ち合わせていると思ったのだが」
「「はい……」」
「事務所でいちゃついてアイドルに覗き見られたなど、聞いたことがないのだが」
「「すみません……」」
やはりというか、このカップルが事務所でいちゃついていたということを社長は知らなかった。
最初こそ透の反省文(未満のなにか)の出来に顔をしかめていたのだが、内容を理解するにつれて彼は事務所で行われていたことに理解したらしい。外回りから帰ってきた彼らが待っていたのは、社長の説教だった。
「確かに機密作業中の部屋を覗き見したのは良くない。しかし同じぐらいには良くないことをした人間に何も無いというのは問題だと感じるが」
「「はい……」」
社長室で二人が直立で社長に叱られているのを、同じ部屋のソファに座って眺める。
「透ちゃん、これを狙って社長に反省文見せたの?」
「透先輩、策士~!」
小糸と雛菜が透に驚く。それを聞いて彼女は「いやぁ」と煮え切らない反応を見せた。
「樋口、樋口」
「何?」
「ふふっ、イエー」
親指を立てる彼女につられ困惑した顔で親指を立てる円香に透は乾杯するかのようにサムズアップをやさしくぶつけた。
*
この度は事務所内で恋愛行為を行い申し訳ありませんでした。
機密作業であるファンレターの仕分けが終了したので即刻退室するべきであったのですが、私の気が緩みプロデューサーを誘惑し情事にふけってしまいました。密室だという認識があったので、誰も見ていないから多少は遊んでも良いだろうと気が緩んであのような大胆なことをしてしまったという訳です。
ノクチルの皆さんが覗き見していることに気づいていなければ、事務所でしてはいけないことを行ってしまっていたと思います。それほどあの時は気が緩んでいました。
今後は事務所内ではプロデューサーとは恋愛関係である以前に仕事仲間であり、また事務所はアイドルの皆さんを支えるための仕事場であるという認識を強めて事務所内で業務時間内は恋愛行為を行わない事と気を緩まずに節度を持った関係を事務所では維持することを誓う所存です。
以下はノクチルの合同なのにPはづを書いてしまったため、寄稿者反省文集の1つとして寄稿したものです。
私は本合作においてノクチルを主題にした作品であるにもかかわらず濃厚なPはづを展開してしまったことを心より謝罪いたします。
なぜ私がこんな作品を提出したのかというと、私は普段Pはづの長編作品を執筆しておりなんでもPはづにしてしまいやすくなっていたということに加えてPixivでPはづの作品数が少ないことに憤りを感じていた事もあって今回のような蛮行を実行しました。私の作品内におけるPはづは「アイドル達の失恋」というテーマもあるためあまりにも沈鬱としており、2人をいちゃつかせるということが中々できないため「いちゃついているPはづを見たい!」という私の欲望が暴走した結果であります。
だいたいPixivにおいてPはづの作品数が少なすぎるのが問題なんですよ。ssだと58作品、イラストは11で漫画は46……つまり115作しか投稿されていません(2024年5月24日現在の調査)。これは少なすぎます。はづきさん主役のジムシャニだって連載中なのに……(まぁあの作品はPとはづきさんの絡みが少なすぎるんですが……)。公式のPとはづきの絡みを展開したコヒーレントもあるのに……。シャニアニでP・はづ・社長の飲み会の様子も描写されて、シャニソンのOurSTREAMではづきさんが頻繁に見られるはずなのに……(私は音ゲー苦手なんでシャニソンやってませんけど)。
ssは定期的に私以外の作者さんが投稿し、イラスト・マンガもある人が定期的に更新してくれるとはいえ……115作という数字はかなり少ないためどうにかしてPはづブームを作りたいといろいろ考えていたら本合作の募集を見つけました。そしてジムシャニでノクチルがはづきさんの超人具合にドン引きするというエピソードと反省文という合作のテーマを結び付けた結果「Pはづをノクチルにのぞき見される」という本作が生み出されました。
「ノクチルのこと本気で描写する気あった?」って訊かれると答えに困るような作品を作ってしまい若干気後れしていたところ、作者も反省文を書けるという企画が挙がっていたため急遽、この反省文を書くと決めて今に至ります。ちなみに今は大学の講義中です。……これも反省しないといけませんね。
最後になりますがこのようなPはづを前提としたノクチルの作品を提出してしまい申し訳ありませんでした。深いキスもさせちゃったし……。主催者様はきっと困惑したはずです。本当に申し訳ありませんでした。Pはづの供給が増えない限り、またやります。