『この国の
……ああ、そりゃそうだろうなあ。この国に来た旅人は皆知りたがるんだよ。いいだろう、教えてあげよう。この国の夏祭りがどうして“ああ”なのか……。
昔、といっても俺の生まれるよりも遠い昔の話らしいんだが、この国はとてつもなく悪い国だったんだ。
街中ゴミは凄いし、弱い者いじめが横行してて、犯罪や賄賂も当たり前。たくさん建てられた武器工場からは、汚れた空気と汚れた水がわんさか垂れ流し。それでいて兵器だけは沢山あって、人殺しの道具以外は自分たちでは何も生み出せないものだから、他所の国に攻め込んで略奪なんかも繰り返していた。
そんな国だから他の国からは嫌われ者。だけど、当時の国民たちは武力に物を言わせて平気な顔、周りの諸外国からいくら嫌われてもまるで気にしなかった。
……まあ、そんな最悪な国だったから、きっと罰が当たったんだろうなあ。ある日のことだ、恐ろしい“怪獣”が俺たちの国にやって来た。
怪獣の名前は、ゴジラ。
……そう、旅人さんも噂に聞いたことくらいはあるだろう? あの世にも恐ろしい怪獣の王、ゴジラだ。あの巨大な、全てを薙ぎ倒す強大な力を持った水爆大怪獣が、何の前触れもなく現れたんだ。最初のうちは海の向こうで目撃されていたらしいんだが、まさか本当にこの国にやってくるなんて誰ひとり夢にも思っていなかった。
かくしてこの国に上陸したゴジラはまるで果てしない怒りをぶつけるかのように、国中を踏みつけ、破壊し、火の海へと変えていった。ビルは倒され、工場は踏み躙られ、放射熱線を撃てば街は一瞬で瓦礫の山。逃げ惑う人々、泣き叫ぶ声――もう、まさに『地獄絵図』って奴だったらしい。
国の連中はこの怪物を止めようと、いろいろとやってみたんだそうだ。
国が誇る最強の防衛軍が総力を結集し、最新鋭の兵器で挑んだ。我が国の威信にかけて、ってやつさ。この国は武力一辺倒で何でも押し通していたから、ここで負けたら面目が立たないとでも思ったんだろう。
だが、まるで歯が立たなかった。
ミサイルも戦車もまるで効果がない。メーサー戦車やメカゴジラも駄目だ。むしろ攻撃すればするほどゴジラは激昂し、怒り狂い、ますます凶暴になっていくようだった。
……もはやゴジラには、勝てない。国中の誰もが、絶望の渦に巻き込まれた頃のことだ。
そこに、一人の男が現れた。
そう、後に「英雄」と呼ばれることになる男だ。
その正体は今や誰も知らない。詳しい身元は勿論、名前さえ忘れられている。だけどその英雄的な行動だけは、今でも語り継がれている。英雄は、たった一人でゴジラに立ち向かうと言い出したんだ。武器もなく、ただ自らの体だけで――。
とにかくその英雄は政府や軍に頼らず、彼の知恵と勇気だけで独自にゴジラと向き合おうとした。そして熟慮の末、皆が考えもしなかった方法を試すことにしたんだ。
それが、あの“儀式”だ。
……“儀式”はいったいどうやって思いついたものだったのか、誰も知らない。もしかしたら、追い詰められた末の狂気の産物だったのかもしれない。
ゴジラの前に立った英雄は一糸まとわぬ全裸になり、逞しい自分の体を打ちのめしながら、街を破壊し続けるゴジラに向かって大声で祈りの言葉を叫び始めた。昼も夜も関係なく、彼はその動作を繰り返し続けたんだ。人々はその光景を恐怖と興味半分で見守っていた。何かが起こるのか、それともただのイカれた男の血迷った狂態で終わるのか――。
だが、驚くべきことにゴジラは少しずつ、だが確実に動きを変えていった。
ミサイルはもちろんメーサー光線ですら怯みもしなかった奴が、英雄の“儀式”を前にした途端に進行方向を変えやがったんだ。そんなゴジラの姿を前に、英雄はひたすら“儀式”を続けた。
そして、一週間も経った頃。
ついにゴジラは逃げだした。
とうとうゴジラは踵を返して尻尾を巻き、海へと逃げ出しやがった。その後ろ姿を、この国の連中はただ呆然と見送るしかなかった。
……科学的な理由は何にも、そして誰にも分からない。英雄の儀式に対してゴジラが何を感じたのか、英雄が放っていた異様な覇気や熱気を恐れたのか、それともただの気まぐれだったのか。
ただ一つ確かだったことは、英雄の“儀式”によってこの国は救われたという現実だけだ。以来、この国にゴジラがやってくることはなかった。
「……というわけで、そのとき英雄がやった“儀式”を、毎年恒例のゴジラ対策として今も受け継いで行なっている、というわけなのさ」
「なるほど!」
国の案内人が説明を終えると、話を聞いていたモトラド(注、二輪車。空を飛ばないものだけを指す)が言いました。
「それでこの国の夏のお祭りでは国民みんな揃って全裸になり、自分の尻を両手でバンバン叩きながら白目をむいて『びっくりするほどユートピア! びっくりするほどユートピア!』とハイテンションで連呼しながらベッドを昇り降りするんだね!」
モトラドの隣で、コートを纏った旅人も言いました。
「大切な伝統なんですね」
感心しているように見えるモトラドと旅人。そんな二人を「うんうん、そうだろう、そうだろう!」と満足げに眺めていた案内人は、続いて旅人に訊ねました。
「ところでどうだい旅人さん、あんたも一緒にやらな「結構です」
『キノの旅』の新アニメ版が観たいんですけど、アマプラにもネトフリにも全話観放題が入ってないんですよね。がっくり。キノの旅にたまにある、この手のナンセンスな話が好き。