「電気羊ってなんだろうな……」
日曜の昼下がり。駅前のベンチに座る三人の少年の内、一番右端に座る角刈りの少年が唐突にそんな事を呟いた。
「……は?」
「何言ってんの?」
背の低い少年は呆れた目を隣に座る角刈りの少年へ向け、糸目の少年は背の低い少年を挟んで、戸惑いながらも聞き返す。
「いやな。この前妹が小難しい本を読んでたんだけどよお……。そのタイトルに電気羊って書いてたんだよ」
「それってもしかして『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』って言う奴?」
「おう、それそれ!そのアンドロイドは電気羊の夢を見ないって奴だ!」
糸目の少年が上げたタイトルに反応する角刈りの少年。しかし、復唱したタイトルは少し……いや、かなり間違っていた。
「それじゃあ、別の作品になってるよ……」
「あり?間違えてたか?」
「相変わらずお前は馬鹿なんだな」
糸目の少年に間違いを指摘され、角刈りの少年は恥ずかしそうに後頭部を掻く。背の低い少年はその姿に溜息を吐く。
「まあ小説のタイトルはどうでもいいのよ。電気羊が何かって話なんだから」
「あー、そういえばそんな話だったな」
「ごめん、忘れてた」
角刈りの少年が話を戻そうとすると、他二人は冷めた様子でそう言う。
「酷いなお前!?」
「まあ、お前が脱線したせいだし、俺たちは悪くない」
角刈りの少年に対して、謝罪を入れる背の低い少年。しかし、その姿は大して悪びれていないのがありありと分かる。
「それで?電気羊はなんだと思うの?」
糸目の少年がそう問いかけると、角刈りの少年は「おっと、また話が逸れてた」と言うと、キメ顔を作って人差し指をピンと立てた。
「ずばり、俺はメリープなんじゃないかと思うんだよ!」
「無いな」
「無いね」
「即否定しやがった!?」
ショックを受ける角刈りの少年に向け、二人はさらに追い討ちをかける。
「メリープがアンドロイドは電気羊の夢を見るか?を元ネタにした。なんていうからね」
「そもそも、メリープが初登場したポケットモンスター金・銀はアンドロイドは電気羊の夢を見るか?よりも後に発売されてるからな」
「まじかよ……」
自信があった自身の予想を否定され、しょんぼりと項垂れる角刈りの少年。そして少しだけ顔を上げた状態で恨めしそうな声色で聞き返す。
「ならよお……。電気羊ってのは何なんだよ……」
「俺も詳しくないけどなあ……。まあ、ざっくり言えば人工生物だな」
「ちょっと違うかもしれないけど、AIBOみたいなものだと思えばいいよ」
二人の言葉に「AIBOみたいな奴なのか……」と呟きを溢す角刈りの少年。
と、急に着信音が響く。角刈りの少年の懐からだ。「悪い悪い」とすぐさま携帯を取り出し画面を確認する。
「げっ!妹からだ」
画面を確認するなり、うんざりとした顔になる角刈りの少年に「どうかしたのか」と糸目の少年が尋ねると、
「もう時間だってよ」
と携帯の画面を見せる。
「あー……もうそんな時間かー」
「もう少し此処に居たかったんだけどねー」
背の低い少年は空を見上げ、糸目の少年は少し残念そうにそうこぼす。
「んじゃ、行くか」
「早くいかないと怒られちゃうからね」
二人は立ち上がると少し歩いてベンチの方に振り返る。
「んじゃ、またお盆の時期に顔を出すわ」
「それじゃ、また」
遠ざかって行く二人の影、花が一輪だけ生けられた瓶が寂し気に見送っていた。
まあ、これだけです。