ワートリ×ストレイドッグス   作:ささき96

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テーマ: 弓場ちゃんと尖ってた王子



11.弟子入りと未来視たち

 

 

01

 

弓場隊の作戦室は混乱しきっていた。

腹を抱えて崩れ落ちる王子。

弓場さんの熱をはかる藤丸のの。

弓場さんを諌める神田。

私を説得する蔵内。

 

 しかし弓場さんと私の答えは変わらなかった。

 

「熱はないみてーだな…」

「弓場さん、弟子入りって!本気ですか!?」

「俺ァ本気だ」

「そ、そんないきなり頼んだら織田くんも困りますって!ね!」

「いや俺はかまわない」

「なんで?」

「正気か?」

 

散々な言われようである。

正気も正気だった。むしろ私は弓場さんが頭を下げてきたとき、『これか(・・・)』と思ったのだ。

 迅が言っていた、弟子入りで頭を下げてくる人物とは、弓場拓磨のことだったのだ、と。

だからすぐに弟子入りを受け入れることに決めた。

 

「弟子入りといっても、俺が弓場さんに教えられることがあるだろうか?」

「ああ。俺が教えてもらいたいのは、お前の拳銃射撃の腕だ」

 

弓場さんは、腰に手をやる。

すると腰にホルスターが装着され、二丁の拳銃が現れた。

 曰く、弓場さんは私と出水とのランク戦を見て、『シールドの間を縫うような射撃の技術』や『どんな姿勢からでも正確な急所の狙い撃ち』に感動したという。

 確かに拳銃での正確な射撃は、他の銃よりずっと難しい。反動も激しく、銃身も短いからだ。

 

「俺も使うのは二丁拳銃だ。織田には拳銃での正確な射撃と、速さを教えてもらいてェ。頼む!」

 

弓場さんはもう一度頭を下げた。

彼を宥めていた神田と蔵内も、本気だとわかったのか、顔色を伺うように私を見る。

 答えはもちろん決まっていた。

 

「俺も人に教えたことはほとんどないので、(つたな)いかもしれないが」

「かまわねェ。よろしく頼む」

 

がっと手を握られた。熱い手のひらから熱意が伝わってくる。

笑いの波から解放されたらしい王子が、涙を拭いながら立ち上がった。

 

「はー面白かった。クラウチ、カンダタ。君たちはオーダーのランク戦のログって見たことある?」

「いや、ないが」

「俺も見てない」

「じゃあオーダー。君ってどれくらい腕がいいの?見てみたいな」

「どれくらいと言われてもな…」

 

王子が疑問に思うのも当然だ。

しかし口で説明できるものでもない。ランク戦を積極的にやっているわけでもないので、数字で説明もできないだろう。

 

「そんなら訓練室にいれてやっから、実際に腕見たらいいだろうが」

 

ののさんが言った。妙案である。

彼女はすぐにデスクの前に座り、準備を始めてくれたので、私は慌ててトリオン体に換装した。

 

「入るのは弓場と織田だけでいいか?」

「ののさん、ぼくも入れて」

「じゃあ俺も入ります」

「俺も」

「おう。じゃあ全員な」

 

設定をし終えたのか、入っていいぞと声をかけられる。

私たちが中に入ると、そこは建物のない無機質な空間だった。前に迅と入った玉狛の訓練室のように、的がいくつか置かれていた。

 

「あの的を撃てばい…」

 

 

【背後から、トリオン体が刺された感覚がした。下を見ると、スコーピオンが胸から生えており、トリオン供給器官を破壊されていた。顔にばき、とヒビが入る感覚が走る】

 

 

唐突に流れてきた未来の映像。

 慌てて背中にシールドを張る。

するとガキン、とシールド越しにスコーピオンが弾かれる音がした。私は振り向きざまにスコーピオンが生えた腕を撃った。スコーピオンが割れ、相手の腕からトリオンが漏れる。

私は続けざまに相手の眉間にもう一発撃った。

眉間に撃った一発は、シールドで防がれる。

 

「へえ、やっぱりか」

「王子。いきなり後ろから襲うのはやめてくれ。驚いた」

 

瞬く間に王子の腕が治る。

訓練室ではトリオン消費はないらしい。

 

「なにやってんだァ王子ィ!」

 

王子の後頭部に弓場の拳が振り下ろされる激しい音が響いた。痛覚を切っていたのか、王子は痛がる様子はない。

 他の二人も慌てた様子で王子を羽交締めにし、訓練室の隅(スコーピオンの間合いの外)まで引きずっていった。

 

「どうしたんだ王子。いきなり」

「乱心か?どうした?」

「いやー、ちょっと気になっちゃってね」

 

 解放された王子が後頭部を押さえながら蔵内と神田に微笑む。

そして突然私を奇襲したとは思えない、穏やかな様子でこう言った。

 

「オーダー、やっぱり君、サイドエフェクトをもってるよね?」

「ハア!?」

 

弓場さんが声を上げる。

私にサイドエフェクトがあることは、別に隠していることではなかった。

しかし積極的に言っていることでもなかったので、気づかれたことに少々驚いた。

 

「どういうことだァ王子ィ」

「いえ、実は弓場さんにオーダーとの取次を頼まれたあと、オーダーの個人戦ログを見てみたんですよ」

 

そのログを見るに、と王子は続ける。

 

「オーダーには、奇襲が通用しない。背後からのものも、上下左右からのものも。そして普通の攻撃も、事前にどこに来るか分かってて動いている感じがした。

ーー勿論、素で奇襲に鋭いって人はいる。でもオーダーは、ただ鋭いってだけじゃ説明できないくらい、全部に気づいていた」

「それだけではサイドエフェクトを持っている根拠にはならないだろう」

 

 蔵内が冷静に言う。

 攻撃の見切りに秀でた人ーー例えば太刀川のような人物もいる。『攻撃に全て気づいていた』、それだけでは、サイドエフェクトを使っている根拠にはならない。

しかし、それは戦いの中での話だ。

 

「そう。確信は持てなかった。オーダーがただの天才って線もある。

 だから今仕掛けてみたんだよ。もし、戦いの瞬間でもなんでもない何気ないタイミングでの奇襲にも反応できるなら、それはもう、サイドエフェクトしかないんじゃないかな?と考えた」

 

さながら探偵のようである。

しかし彼の推理は合っていた。

私は隠していることでもないので、素直に白状した。

 

「お前の推理通りだ。俺にはサイドエフェクトがある」

 

 私は、少し間を置いてこう言った。

 

「俺には少し先の未来が見える」

「ハァ!?迅みてぇにか!?」

 

弓場さんは迅のことを知っているらしい。

誤解されても困るので、慌てて訂正しておく。

 

「いや、俺に見えるのはたった数秒だ。さっき王子の奇襲に気がついたのも、次の数秒で王子にスコーピオンで刺される未来が見えたからだ」

 

サイドエフェクトのことがバレているのであれば、私が師匠になるに当たって懸念していた点を言っておく必要があった。

 

「弓場さん、俺はこのサイドエフェクトを使って戦ってきた。ボーダーでの俺の戦闘スタイルは、未来予知を前提にしたものになる」

 

 私は、戦闘中に来る奇襲、次にくる攻撃、そういった未来を見てから、次にどんなことをするか決めている。

 迅の言葉を借りるなら、後出しジャンケンをしている。

 しかし弓場さんにそれを伝授することは、もちろんできない。

 

「だから弓場さんに俺から教えられることは、そう多くないんだ。……それでも構わないか?」

「構わねェ」

 

弓場さんは鋭い声で言った。

 

「さっき言っただろ。俺がテメェに教えてもらいてえのは、お前の速く正確な拳銃射撃だ。そりゃテメェのサイドエフェクトじゃなく、テメェの腕で(・・・・・・)磨き上げてきたもんだろうが。未来予知があろうと無かろうと、関係ねェ」

「……。そうか、よかった」

 

 思わず口角が上がる。

私なんかが師匠になれるのだろうかという不安が少し和らいだ気がした。

 私が師匠のはずなのに、なぜか弟子に慰められてしまった。

 

 

 

「それにしても、数秒先の未来が見えるって、どんな感じなんだい?」

「映像が降ってくる感じだな。さっきのだと、背中からスコーピオンで刺された映像が見えた」

「へえ〜」

 

 【床からスコーピオンが生えてきて、足を刺し貫かれる】のが見えたため、私はひょいと避けて王子の右足を撃った。

 予想していたのか、右足にシールドを張りながら、王子は目を輝かせた。

 

「お〜、本当に見えるんだ」

「王子ィ。テメェ人様(ひとさま)のサイドエフェクトで遊んでんじゃねェ!」

 

青筋を立てた弓場さんが王子の首根っこを捕まえて退出させた。

神田と蔵内が軽く頭を下げてくる。

 

「すまん。悪気はないんだ、好奇心旺盛なだけで」

「ごめんね、本当に」

「かまわない。面白い奴だな」

 

弓場さんだけが訓練室に戻ってきてから、私は早速、拙いながらも指導を始めた。

 

 

 

 

 

02

 

 翌日、私はあらかじめ迅悠一と昼食を一緒にする約束をしてあった。

三門第一高校は屋上を解放しているため、晴れの日の昼休みには学生が集まる。

 私と迅もそのなかの一員だった。

 迅は防衛任務や暗躍とやらで高校にいないことも多いが、今日はいるらしい。1週間も前に取り付けた約束だった。

 

「弓場ちゃんのこと弟子にしたって?」

「ああ。迅さんの助言通りにな」

「ありがとね。助かったよ」

「…まさか出水とのランク戦から弓場さんの弟子入りに繋がるとは思わなかった」

 

5本先取にしろという指示も、思えばそこにつながっていたのかもしれない。

試合前の『未来はいい方向に進んでいる』という迅の発言は、この未来に進むためだったのだろうか。

 

「弓場ちゃん、いい奴だっただろ」

「ああ。年下で、しかも(つたな)い俺の指導をきちんと聞いてくれる。俺が上手く説明できないところも噛み砕いて理解してくれる。…いい人だな」

「あはは、弓場ちゃんはそういう人だから。義理人情に厚いっていうか、筋通す人なんだよね。顔は険しいけど」

 

そういえば迅と弓場さんは同い年だった、と思い出す。

 迅といい弓場さんといい、ボーダーには大人びた子供が多い気がする。

いや、近界民の大規模侵攻や、ボーダーの環境が、彼らを大人にさせたのだろうか。

 

「…改めて聞くけど、お前、俺の指示に従うことに否やはないのか?」

 

唐突とも思えるタイミングで、迅は言った。

私は少し驚いて迅を振り返る。

迅は顔を俯かせていて、表情が窺えなかった。

 

「今更言うことじゃないけど、俺は玉狛支部所属で、言ってしまえば親近界民派だ。だけどお前の両親は、トリオン兵に…」

 

「否やはない。俺が決めたことだ」

 

いつも飄々と、大人びた様子で予言を下してくるこの男が、私にははじめて年相応の子供に見えた。

 

「それに未来なんか見えていても、間に合わないことばかりだ。ーー俺はそれを嫌というほど知っているから」

 

両親のことも、子供達のことも、かつての友人のことも、その他にも、とにかく沢山のことがこぼれ落ちた。

 5秒先が見える私も、ずっと先のことが見える迅も結局は、見えない人間と変わらないのだと思うことがある。

 あのときああしておけば、こうしておけばと、自身の選択を後悔してばかりでーー苦しんで、足掻いて生きていくしかないのだ。

 

「俺は、次こそは間に合わないなんてことがないように、お前と戦うことを決めた。

 迅が未来を見て、やれと言ったことは、意味のあることだ。だからお前が見た未来を、俺がそう(・・)なるように実行する。

ーーそれが『一緒に戦う』ってことじゃないのか?」

 

 迅は、自分ならもっと救えたのではないかと、自分のせいで犠牲者が増えたのだと、いつも考えているのだろう。

 それは彼自身の取捨選択の結果で、間違っていない部分もあるのかもしれない。しかしどんな人間も、常に取捨選択をする。

 それは未来が見えていようといまいと、なんの間違いもないことだと思う。

 

「……そうだった。おれが一緒に戦おうって言ったんだった」

 

迅は顔を上げる。

口にはうっすらと笑みが浮かんでいた。

 

「悪い、年下に愚痴っちゃうなんて、格好悪いな」

「かまわない。いつでも愚痴ってくれ」

「織田作って懐広すぎじゃない?実は留年してて大人だったりしない?」

「どうだろうな」

 

きっと、この子供の気持ちを真に理解することは誰にもできない。私にできるのは、せめて孤独にならないよう、隣に立つことだと、そう思った。

 

 

 

「おーい迅!」

「?」

 

そんなことを考えていると、屋上の入り口から声がした。

振り返ると、黒髪を真ん中で分けた男が迅に手を振っていた。どこかで見覚えのある顔だ。

 

「迅、友達か?」

「ああ。嵐山だよ。嵐山隊の隊長の」

「ボーダーのひとか」

 

嵐山と呼ばれた人は、たったか走ってこちらに寄ってくる。

 

「迅、根付さんが呼んでたぞ。連絡したのに返信がないって」

「あ、未来だけ見て返すの忘れてた」

 

迅は端末をポケットから出して、ポチポチ返信を始める。どうやら彼は根付さんとやらの急ぎの用を伝えに来たらしい。

 

「あれ、君は?」

 

嵐山は私を見て言った。

 

「織田作之助です。ボーダーで銃手をしています」

「俺は嵐山准。嵐山隊で隊長をしている」

 

爽やかな男だった。今までに会ったことのないタイプだ。握手を求められたので、私は手を差し出して応じた。

 

「そうか。君が噂の、迅の弟子か!」

「いやいや、弟子じゃないよ。教えたのハウンドとバイパーくらいだし」

 

迅が端末から顔を上げて苦笑する。

やはり弟子ではないよな、と私はひとり納得していた。

 

「弟子じゃないのか?玉狛に入り浸ってるというから、てっきり本当に弟子かと…」

「うーん、弟子っていうか、先輩後輩?暗躍仲間?……織田作はどう思う?」

 

迅がこちらに顔を向ける。

私は首を傾げた。

 

「俺は、迅とは友達だと思っているが」

「……友達?」

 

 違うのか?と尋ねると、迅は一瞬面食らった顔をした。

 しかし、その後なぜか吹き出すように笑い出した。

 なぜ笑い出したのか意味がわからずに困惑していると、嵐山さんが声をかけてきた。

 

「友達か。仲がいいんだな」

「ああ」

「俺とも仲良くなってくれると嬉しい。同じ高校だし、わからないことがあったらなんでも聞いてくれ」

「ありがとうございます」

 

嵐山はそれだけ言うと、笑っている迅に、『それじゃ俺は午後から防衛任務だから』と声をかけ、名前の通り嵐のように去っていった。

 

「ははは、前言撤回。織田作って結構子供っぽいとこあるね」

「なんだ、俺とお前は友達じゃないのか?」

「いや、友達だよ」

 

友達らしい。

迅は目尻に涙を滲ませて笑う。

よほど私の発言が面白かったらしい。

 

「面と向かって言ってくれるのが嬉しかったんだ」

 

確かに、この年になると友達だと面と向かって言うことはないかもしれない。

なんとなく友人なんだろうなと、曖昧な関係が多いのも確かだ。

皆気恥ずかしいのだろう。

 

「わかった。これからは迅さんの友達だと周りにアピールするようにする」

「いや、そういうことじゃないから」

 

そういうことじゃないらしい。

 

「あといい加減、さん(づけ)いらないよ。迅でいい」

「いいのか?年上なのに」

「お前、太刀川さんは呼び捨ててるだろ?」

「そうだった。忘れていた」

「大丈夫大丈夫。小南なんか初対面から呼び捨てだから」

 

 そんな会話をしながら、昼休みが更けていく。

 少し強くなった日差しに、私たちは春の終わりを感じていた。

 耳を澄ますと、警戒区域から爆撃音が響いてくる。

 ーー今も戦いの最中だとは思えないくらい、穏やかな昼休みだった。

 

 





迅って原作だと一人で病んでそうなのでここで回復させておきたかった。

織田作的には、高校生ってみんな子供にしか見えないんじゃないかな。だから敬語苦手なんだと思う
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