ワートリ×ストレイドッグス   作:ささき96

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 わちゃわちゃ回




18.一言

 

01

 

ぽすん

 

葉子は背中で緊急脱出用のベッドに落ちたのを感じとる。

 緊急脱出した。ーー試合が終わったのだ。

しかし彼女はそのまま動きも起き上がりもせず、無表情のまま、ぼうっと天井を見つめていた。

 

今までで一番良い動きができた。

なのに、負けた。

 

「よ、葉子ちゃん、大丈夫?」

 

茫然自失といった様子で宙を見つめる葉子に、三浦がおそるおそる声をかける。

 

「……」

 

葉子は全く反応を示さない。

 香取隊の面々は顔を見合わせる。もしや泣いているのではないかと。

 三人はお互いの目を見て頷き合った。

 『慰めよう』と。

 

「ふ」

 

 唐突に葉子が声を上げる。三人は黙ったままじっとその様子を伺った。

 反応次第で対応を変えよう、と華がアイコンタクトする。

 三浦と若村はこくりと頷いた。

 泣いたら泣いたで、落ち込んだら落ち込んだで、それなりに違う対応になる。

 気分は爆弾処理班であった。

 

 がばり、と唐突に葉子は起き上がった。

 そして髪を振り乱したまま、こう言った。

 というか叫んだ。

 

 

「ふ、ふざけんなあーーー!!!!!」

 

 

 そのまま乱暴にドアを開けてランク戦ブースを飛び出す。

 外から心なしか大きな怒鳴り声が響いた。それを宥める低い声も。

 誰かを怒鳴りつけているようである。

 

 香取葉子は悲しんでいなかった。

 ただ怒り心頭で爆発寸前だったのである。 

 香取隊の面々は思わずほっと息を吐いた。

彼女が怒っているうちはまだ大丈夫だと、三人はわかっていたのだ。

 

 

 

 

 さて、香取葉子が向かった先はもちろん織田作之助の元である。

 香取葉子はそれはもう怒っていた。

 あの壁はなんだとかどうしてスコーピオンを使っているんだとか、なんでこっちの作戦全部知っているんだとか、怒りのまま織田作之助の胸ぐらを掴み、ランク戦ブースの中で怒鳴りつけたのである。

 

「まーまー、香取。落ち着きな〜」

「絶対チートしてる!ズルしてんでしょ!流石におかしい!」

「……」

 

なにも反論できない織田作之助であった。

迅悠一の予知が反則…ズルであることを自覚していたからである。

国近が葉子を羽交締めにして宥めていると、入り口近くで声がした。

 

「お、やっぱり揉めてるな。大丈夫か?」

「東さん」

 

東の姿を見て、香取はぴたりと動きを止める。ギリギリ歯を食いしばりながら、じっと織田作之助を睨んでいた。

 そんな香取に話しかける者がいた。

 

「はじめまして、香取ちゃん。おれは実力派エリートの迅悠一。織田作の友達ね。ぼんち揚食う?」

 

 迅悠一である。

 迅と東の二人は観戦後、揃ってランク戦ブースに来たのだ。

 葉子とはどうやら初対面だったようである。差し出されたぼんち揚の袋と迅の顔を見やり訝しげな顔をした。

 

「…ドーモ。香取葉子です」

 

 不機嫌そうな声で自己紹介をし返す。

 国近に羽交締めを解いてもらった葉子は、渋々と言った様子でぼんち揚の袋を受け取った。

 

「そんなに織田作を責めないであげて。悪いの大体おれだから」

 

 親指で自分を指す迅の姿に、葉子は首を傾げた。

 

「……は?どういうこと?」

「悪いねー、実は織田作に助言したの、俺なんだ」

「え?だから…?」

 

 葉子はさらに首を傾げる。助言したからなんだというのか、という顔である。

 迅悠一は、にこやかにこう言った。

 

「つまり、俺も未来が見えるってこと」

 

 一拍おいて、葉子は『はああ!?』と大声で叫んだ。

 当然の反応である。

 葉子は入隊したばかりだ。迅のサイドエフェクトのことを知らなかったのだろう。

 

「諸々説明はするから、とりあえずご飯食べに行かない?俺と東さんが奢るからさ」

「反省会も兼ねて飯に行こう。焼肉でいいか?」

 

 そういって、東はちらりとブースの外を見やる。野次馬がわらわらと集まってきたようである。

 

「国近も来るよな?」

「やった〜やきにく〜!」

 

 東が声をかけると、国近はぱっと笑顔になる。

 不服そうな葉子にすまんと手を合わせながら、織田作之助一行は焼肉屋へ向かうこととなった。

 

 

 

 

02

 

 

 

「カルビ5人前、タン塩4人前、ミノ3人前、ハラミ4人前。ご飯大盛り3個、中盛1つ、小盛り3つ、お願いします」

「あ、東さんギアラギアラ」

「忘れてた。ギアラ4人前も追加で」

「飲み物はいかがなさいますか?」

「あー、コーラが3つ、あとは…」

 

 試合が終わってすぐ、私たちは鈴鳴近くの焼肉屋『寿寿苑』に訪れていた。

 総勢8人の大所帯であったが、予約はしてあったらしい(迅の手によるものだった)、すぐに席に着くことができた。

 しかし男子学生が4人も集まると、それはもう壮観である。頼んだ肉が秒で消えていくのだから。

そのため女子3人(華、葉子、国近)には固まってゆっくり食べてもらい、その隣に麓郎と雄太、私、東さん、迅が並ぶような形になった。

 

「食べ放題だから、気にせず沢山頼んでいいからな」

「はい。ありがとうございます」

 

 華がトングで肉をひっくり返しながら答える。

 私はといえば、大盛りのご飯を前に、迅が勝手によそってくるカルビとタン塩を消費するだけの機械となっていた。

 

「葉子、それまだ早い」

「え、牛だし平気じゃない?」

「この肉噛みきれない〜」

「はい、水あるよ」

 

迅がお冷を渡すと、国近はしばらく咀嚼したあと水でぐいっと肉を飲み込んだ。

 

「華。焼いてばかりだろう。俺が焼こう」

「いえ。自分のタイミングで焼きたいので」

 

 どうやら焼き加減にこだわりがあるらしい。焼肉奉行というやつだろうか。

 

「今日はよくやったな。ほぼ作戦通りに動けていたし、想定外の出来事にも対応ができていた。今までの試合の中で一番の動きだったと思うぞ」

 

 東が香取隊の面々に声をかける。

 ここ数日面倒を見ていたからだろう、声に労いが感じられた。

 

「…でも、負けちゃいましたし」

 

 葉子は声に悔しさを滲ませ、大きくため息をつく。

 私は思わず首を傾げた。

 

「負けた? 相打ちだっただろう」

「はあ?」

 

 葉子はじろりとこちらを睨みつける。どうやらまだ不機嫌が持続しているようである。

 

「勝たなきゃ負けなの!勝たないと織田作はチームに入んないんだから!」

「葉子。大声上げないの」

「……」

 

 葉子は華に注意され、渋々と言った様子でジュースを啜る。

 東さんは苦笑して若村と三浦に目を向けた。

 

「三浦と若村も。作戦上の役割をきちんと遂げていた。よく頑張ったな」

「あ、ありがとうございます」

「ただ、やっぱり相手が予想外の動きをしてきたときの対応に一拍遅れがあるな。例えば香取を撃破されそうになったとき。鉛弾を防がれたあと。織田はそういう一瞬の隙もついてくる。勝つつもりなら、気をつけないとな」

「は、はい!」

 

 三浦も若村もまだまだ未熟だが、自分を作戦上の駒として上手く使えていたように思う。

 三浦は葉子との連携を強めながらも守ることに徹していたし、若村はエースを囮に罠を仕掛けたり奇襲したりと、今までとはまた違った動きができていた。

 

「そういえば、香取隊の二回目の作戦を考えたのって、東さんですか〜?」

「ああ、それか」

 

 国近の質問は、実際私も気になっていた。

 建物をメテオラで爆発させ、葉子を私に助けさせる。それが作戦のうちだったのか、それとも葉子のアドリブの結果なのか、私には判断がつかなかった。

 結果的にはうまくいったわけだが、私が葉子を助けない可能性もあっただろう。

 

 東さんは隠すつもりがないらしく、すぐに解説をはじめてくれた。

 

「実をいうと、あの作戦は半分賭けみたいなものだったんだ」

「賭け、ですか」

「そもそもあれは、メインの作戦がうまく行かなかったときのための、予備の作戦だ。

 それに『織田に香取を助けさせる』という作戦内容でもなかった」

「そうなんですか?」

「ああ。織田は香取を助けるだろうと思っていたことも確かだけどな」

 

 東はギアラを鉄板に載せながら続ける。

 

「あの作戦の肝は、香取が織田に【近づく】こと。そしてその隙を作ることだ。避けられない、防げない状態下で鉛弾を当てることが、最終的な目標だった」

 

 言われてみれば、香取隊はずっと、私に鉛弾を命中させることを作戦の肝にしていたように思う。

 若村しかり、葉子しかり。戦闘員の3分の2が鉛弾を装備している隊はなかなかいないだろう。

 

「メテオラが爆発すれば、その未来を見て織田は逃げ出そうとする。香取は、織田が【動いたあと】に動く。織田が動かない限り香取は動かないから、おそらく織田には『香取が負傷する未来』が見えるわけだ」

「うわ…」

 

 迅が珍しくドン引きした声を出した。

 かくいう私も、内心東さんの頭脳に驚嘆していた。どんな未来を見るかを予測する人物がいるとは思わなかったからである。

 

「お前は自分の安全より、仲間の安全を優先する奴だ。前に秀次を助けてくれたときも、咄嗟にトリオン兵から庇ってくれた。

 だから勝負と香取の安全を天秤にかければ、隙ができる。隙さえ作れば、香取はお前に近づけるだろう……って寸法だったが、結果的には織田が自分から近づいてくれた」

「織田作さん、優しいですからね…」

 

 雄太の言葉に、そうか?と返すとそうですよと食い気味に言われた。

 

「織田は戦いでも優しさが出るときがある。無意識に手加減してるんだ。過去のログでも、仕留められるのに仕留めてないタイミングが何回かあった。

 ーーその優しさは美徳だが、戦いでは(あだ)になることもある。

 特にB級ランク戦は実戦を想定した訓練だ。仲間だからと手加減してると、いつか足元を掬われるぞ」

「……。肝に銘じます」

 

 葉子たちが子供だからと甘く見ていたつもりはない。本気で挑んでもいた。

 しかしながら、警戒が足りていないのも確かだった。

 ーーもし。人型近界民が子供の姿だったら、私は倒すことができるのだろうか。

 相手はトリオン体だ。死ぬことはないとわかっている。わかっていても、躊躇ってしまうかもしれない。

 

「とはいえ…今回は迅がいたからな。香取隊が相打ちまで持って行けたのはすごいと思うぞ」

「ごめんねー、未来の流れ的に、ここでは織田作に負けてもらうわけに行かなくて」

 

 迅は烏龍茶片手に苦笑して、葉子たちに謝った。

 葉子は頬杖をつきながら文句を言った。

 

「作戦全部教えられてるのはズルくない?スコーピオンも使ってたし」

「全部教えられてたわけじゃない。

 開き直るつもりはないが、葉子たちも東さんに頼ったし、俺も迅に頼ったんだから、ぎりぎり公平(フェア)にならないか?」

 

 私はなんとか不機嫌な葉子を説得しようと、思いついたことを言ってみる。

 お互い協力者を頼っての相打ち。試合結果的には妥当である。

 

「いやフェアじゃないから」

 

 公平じゃないらしい。

 すると、今度はブスくれた葉子に変わって華が口を開いた。

 

「迅さん。つまり私たちが勝つと、未来に悪影響があったということなんですね?」

 

 彼女は試合の結果や迅の介入はともかくとして、私が香取隊に負けた時の未来への影響が真っ先に気になるらしかった。

 冷静な彼女らしい視点である。

 

「悪影響ってわけじゃない。

 実はこの先、織田作にフリーで動いて欲しい案件がある。だから今は隊に所属されると困るってだけ」

「……?そうなのか?」

「あれ?言ってなかったっけ?」

「初耳だ」

 

 ごめん言い忘れてた、と迅は手を合わせる。

 どうやら単独での行動が必要になるらしい。完全に初耳である。

 

「……なるほど、わかりました」

 

 華は根掘り葉掘り聞かずあっさりと頷いた。引き際を弁えているのだろう。

 

「だから悪いんだけど、香取隊にはしばらく織田作との試合を休止してもらいたいんだ。秋にはB級ランク戦も始まるしね」

「はい。みんなも、それでいい?」

 

 反応は三者三様だった。葉子は「仕方ないわね」といい、若村は「わかりました」とほっと息を吐く。三浦はそんな二人の反応を見て、「迅さんがいうなら…」と同意する。

 しばらくは暗躍の手伝いで香取隊と戦えないようだ。

 

「悪いことばかりじゃないぞ。ランク戦はランク戦で勉強になる。織田と戦わない期間に技量を上げることも、手札を増やすことも大切だ」

 

 東さんが香取隊の面々を慰めるように声をかける。

 私と戦わない期間、香取隊はランク戦で腕を上げることができる。それにチームとしてボーダー内でどこのレベルにいるかもわかるだろう。

 ……もしかすると私よりもトリガーの使い方に長けてしまうかもしれない。

 私は内心ちゃんと訓練しよう、と決意を固めた。

 

「ランク戦といえば、太刀川隊、上位入りしたんだってな」

「うん〜太刀川さん尋常じゃないよ〜。早くA級に上がりたいんだって」

 

 迅が国近に声をかける。今季のランク戦で無双していることは聞いていた。

 しかし1シーズンで登り詰めてしまう辺り、太刀川の本気度が伺える。他の面々はついて行けているのだろうか。

 

「香取隊はランク戦は来季からだし、うちとは戦えないかもね〜」

「もうA級に上がるつもりなのか?自信満々だな」

 

 隊長の太刀川はもちろん強者だが、その周りを固める出水や鳥丸も優秀だ。士気も高い。

 順当にいけばA級への挑戦権を手にできるだろう。

 

「お、いたいた。東さん」

「!」

 

 『噂をすれば影』とでもいうように、唐突に聞き覚えのある声がした。

 振り向くと、そこにいたのは太刀川隊の少年たちだった。

 

「太刀川。ここで夕飯か?」

「うちのオペが来いっていうんで。ついでに後輩に奢りに来た」

「どうも」

「どもっス」

 

 太刀川が指し示した背後から、鳥丸と出水が顔を出す。どうやら国近がここで打ち上げをしていると呼んだらしい。

 太刀川は私と迅の姿を見つけると、にやりと口角をあげた。

 

「よー、織田。今日の香取隊の試合みたぜー。やられてやんのー」

「ああ。間一髪だった」

「スコーピオンとかエスクードとか、完全に迅の亜種じゃねーか。弟子ってのも強ち間違いじゃなくなってきたな」

「いやいや。おれは基礎の基礎しか教えられてないよ」

 

 迅が教えてくれたのはエスクードの性能と出し方。スコーピオンの性質とおすすめの形状くらいだ。

 肝心の接近戦でのスコーピオンの扱い方は、C級レベルだろう。

 

「香取も前より強くなったなー。またランク戦しよーぜ」

「え。やだ。太刀川さんしつこいし」

「冷たいこというなよー」

「弓場さんとやればいいじゃん」

「わかった。弓場と俺と、織田と香取で四つ巴。どう?」

「嫌に決まってんでしょ!?」

 

 弓場さんのおかげで太刀川と香取が仲良くなっていた。結構なことである。

 とはいえその地獄の四つ巴は私も遠慮しておきたいところだった。

 

「面白そうですけどね、その四つ巴」

「と、とりまるくん…!」

 

 鳥丸が口を挟む。すると葉子は目を妙にキラキラさせた。顔も赤い。

 …もしかして風邪だろうか?

 

「じゃあ俺ら席つくんで。じゃあなーくにちかー」

「ほーい。あとでねー」

 

 太刀川隊は自分たちの席へ戻って行った。

 

 

 その後、国近は太刀川隊に着いて行き、私たちは東さんの奢りで退店した。

 私も金を出そうとしたのだが、東さんが迅の分まで支払っていた。

 ボーダーの寮まで帰る華を迅が、残りを東さんが車でそれぞれの家に近いところまで送ってくれることとなった。

 

「今日はおつかれ。織田、香取」

「はい。ご馳走さまです」

「ありがとうございました」

「……」

 

 雄太と麓郎が先に降り、最後に私たちが降りた。東さんに頭を下げ、帰路につこうと振り返ったところで、

 

「織田。ちょっといいか」

 

 東さんに車から声をかけられた。

 

「…葉子。ちょっと待っててくれ」

「?わかった」

 

 車に近づくと、東さんは少し硬い声で、しかし柔らかい表情で言った。

 

「さっき俺は、優しさが仇になることもあると言ったよな」

「…はい」

「だけど、それは優しさを捨てろ、非情になれってことじゃない。うまく利用しろってことだ」

「……利用、ですか」

「今のままだと、その優しさを逆手に取られるだけだ。

 お前は他人に優しいが、自分に厳しい。自己犠牲を繰り返してると、いつか潰れるぞ。…気をつけろよ」

「……肝に銘じます」

 

 もう一度頭を下げると、東さんは去って行く。

 

 優しさを逆手に取られる。自己犠牲。

 意外なことに、私は自分の心情をかなり正確に把握できていた。

 

 『罪悪感』

 一言でまとめるとこれに尽きた。

 自分ひとりだけが生き残っている、のうのうと幸せになろうとしていることに対する罪悪感。

 私はそれをずっと感じていた。

 今世の両親のことだけではない。前世で失った数多くの人々の顔が脳裏にチラつくことがある。

 だから、『助けなくては』と思う。自分が、自分だけが生き残った分、人を助けなくてはならないという罪悪感がある。

 東さんはこれを『優しさ』と言った。

 しかし私は、これが罪の意識の発露に過ぎないのだと知っている。

 

「織田作?」

「悪い、葉子。帰るか」

 

 暗い夜道を街灯の灯りを頼りに歩く。

 葉子と肩を並べて二人で帰るのは、久しぶりだった。

 

「東さん、なんだって?」

「俺は優しすぎると言われた」

「それはホントにそう。ランク戦相手に容赦すんのは逆に失礼なんだけど」

「……すまん」

 

 葉子は試合中に助けられたことを根に持っているらしい。これに関しては私が悪いので、素直に謝る。

 

 そのときふと、魔が刺した。

 

「葉子。その…もし」

「なに?」

「……もし、俺が生き残ったことに罪悪感を覚えていると言ったら、どうする?」

「……」

 

 葉子が足を止めた。

 私も並んで足を止める。

 ーーどうしても聞いてみたかった。情け無いことに、慰めて欲しかったのかもしれない。いや、責めて欲しかったのかも。

 とにかく、なにか言葉が欲しかった。

 葉子は私の目を見てしばらく黙り込んだ。そして唐突に口を開いた。

 

 

「人は自分を救済する為に生きている」

「……え?」

「昔、織田作が言ってた。好きな言葉だって」

 

 確かに言った。

 だがずっと昔だ。葉子が小学校の頃、両親が無事だったときに言った言葉だ。

 葉子に、好きな言葉を書くという宿題があって、葉子は適当に辞書で引いた言葉を書いていて、ついでに聞かれたのだ。

 私の好きな言葉はなにかと。

 

「うまく言えないんだけど…ていうかこーゆー相談は華にしてほしいんだけど…、この言葉に従うなら、他人を助けんのも大事だけど、まず自分で自分を助けないと駄目なんじゃないのかなって…」

「……」

「織田作がボーダー入ったのも、うちら守るためって言ってたでしょ。…もうちょっと我儘になっていいと思う。…私がいえたことじゃないけど。ゴメン。滅茶苦茶だわ」

「……」

「あー、ごめん!早く行こ!帰ろ!」

 

 葉子はズンズン先を歩き出す。

 私は慌ててその背中を追いかけた。

 

「葉子」

「なに?」

「ありがとう」

「……どーいたしまして」

 

 不思議と私の足取りは軽くなっていた。

 

たった一冊の本で、人生が変わることがある。

たった一言、そう慰められただけなのに、心が変わることもあるのだろう。

 

 人は自分を救済する為に生きている。

そうだった。

随分大切な言葉を忘れていた。

 

 

「じゃあ早速わがままなんだが」

「なに?」

「締めの咖喱が食べたい。コンビニ寄っていいか?」

「……マジで言ってる?」

 

 このカレー中毒!と罵られた。

 思わず口から笑いが溢れた。笑い過ぎたせいか、目尻から涙が溢れたのには、気づかないフリをした。

 

 

 

 

 





 
 織田作ってサバイバーズギルトすごそうだなと思った。
迅のメンタルは織田作に回復してもらったので織田作のメンタルは葉子ちゃんに回復してもらったよ

 人は自分を救済する為に生きている。
 文ストの中でも特に好きな名言です

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