ワートリ×ストレイドッグス   作:ささき96

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お好み焼きはおいしい



21.苦戦

 

 

 

01

 

 トリオン兵の侵攻を終え、戦闘配備を解いたボーダーには、無事に侵攻を終えたという安穏とした空気が流れていた。

 後処理を終えた上層部は、ボーダー本部会議室で顔を合わせた。

 

「やれやれ…この規模の侵攻が警戒区域内で治まるとは…ボーダーの戦闘員の成長を感じますな…」

 

 根付メディア対策室長は額の汗を拭いながら言った。

 もちろん、今回の侵攻は第一次大規模侵攻より小規模だ。しかしボーダーの戦闘員がここまで育っていなければ民間人にも被害があったことだろう。

 

「ベイルアウトしたのもB級上がりたて隊員のみ。A級隊員も危なげなく戦闘を終えた。天羽が出るまでもなく、データにないトリオン兵も出なかった。ーーしかし、敵の目的がわからんのう」

「そうですねえ。迅くんはなんと?」

 

 根付と鬼怒田が城戸司令に話を振る。

 城戸司令はいつも通りの厳つい無表情で口を開く。

 

「迅は、敵方の目的はわからない、と」

「仕方あるまい。迅のサイドエフェクトも万能ではないからな」

 

 忍田がフォローをいれる。

 今回の侵攻が、威力偵察だったのか、一般市民のトリオンを手に入れる目的だったのかはわからない。

 ボーダーにとって重要なのは、侵攻を無傷で終わらせたという事実であった。

 

「結局迅くんが進言したのは、織田隊員の単独行動の許可だけでしたねぇ」

「織田隊員が戦闘にも参加せず、なにをしていたのか尋ねてもいいのかね、林藤支部長」

 

 城戸司令の質問に、林藤は煙草片手に口端を上げる。

 

「俺はなにも聞いてませんよ、皆さんと同じで。迅曰く、ヤバい未来が見えたからとのことですが」

「その未来の内容は?」

「さあ、そこまでは。ですが迅が織田を使ったってことは、ヤバい未来とやらは避けられたってことなんじゃないですか?」

「……」

 

 迅は以前、『ボーダーの未来のために』織田作之助を自由に使う許可を上層部に求めていた。

 城戸は彼を玉狛支部に【転属させない】ことを条件に、織田作之助と迅悠一のサイドエフェクトとの相性の良さ(・・・・・)からそれを許可した。

 織田作之助は本部所属のため、なにかあればーー例えば本部の都合と迅の都合が対立した場合は、本部の指示に従わなければならない立場にある。

 しかし今のところ、織田隊員に上層部が直接命令する機会はなく、迅が彼を使い倒している。

 

 ーー城戸司令はこれ以上追及しても意味はないと思ったらしい、ため息を一つ吐いて話題を変えた。

 

「根付メディア対策室長、今回の件の報道について報告を」

「はい。多数の音や光などで問い合わせがいくつか。詳細は明日メディア向けに発表する予定です。ボーダーの防衛力の高まりを強調する形になるでしょうね」

「防衛力の高まりと言っても、まだまだ技術力はあちら(・・・)には遠く及ばない。これからもトリガーの開発と強化が…」

 

 話題は織田作之助の話から逸れ、技術や防衛についての話に進んでいく。

 

(織田作之助くんと、迅悠一くんか…未来視のサイドエフェクト同士、今度はどんな暗躍をしているのかな?)

 

 唐沢は会議を聞き流しながら、稀有な才能を持った少年たちに思いを馳せた。

 

 

 

 

 

02

 

 

「よっ…と」

「お!うまくひっくり返せたじゃねーか」

「おいゾエ、マヨとれ」

「ほいほい、ソースも?」

 

 さて、話題の織田作之助であるが、特に悪巧みも暗躍もしていなかった。

 侵攻の翌日、影浦隊の三人と織田作之助はお好み焼き「かげうら」に集っていた。

 仁礼曰く、侵攻お疲れ様パーティ、とのことである。

 鉄板の上、煙と蒸気を出しながらお好み焼きが焼き上がる。青のりとソース、マヨネーズ、鰹節をふんだんにふりかけ、影浦は手慣れた様子で切り分ける。

 

「おいカゲ、追加で頼もうぜ」

「どれもうまいから好きなもん頼めや」

「んー、そーだね。どれにしよっかな」

「影浦、織田作スペシャル一つ」

「織田作スペシャルだけ何枚食べるつもりだ!?アア!?」

 

 他のも食べろ、と影浦はメニュー表をぶん投げた。

 織田作之助は顔に飛んできたそれを危なげなくキャッチし、繁々とメニューを眺めた。

 (ちなみに織田作スペシャルとは影浦が織田作のために開発したカレーお好み焼きのことである。メニューには織田作スペシャルとは書いていない)

 

「明太もちチーズ、おすすめだよ。あとネギ豚玉!」

「織田作〜光さんにも見せろ」

「ああ。じゃあ俺はチーズ&カレーお好み焼きを…」

「カレーから離れろバカ」

 

 カレーを禁止にされてしまったため、大人しく明太子もちチーズと、仁礼が希望したシーフードを追加で頼んだ。

 鍋奉行ならぬお好み焼き奉行の影浦は、お好み焼きの焼き加減にこだわりがあるらしく、早すぎても遅すぎてもキレる。(ひっくり返すのに失敗してもキレる)

 そのため織田作は影浦がいるときは彼の指示に従ってきっちり焼くことにしていた。

 

「織田作、焼くの上手くなったよね〜。初めて来た時は焼き方全然知らなくて、ゾエさんとカゲで手取り足取り指導したのに」

「あれは助かった。指導のおかげで、葉子と来た時にも上手く焼けた」

 

 ちなみに葉子は織田作と来ると一切焼かない。上げ膳下げ膳である。(華は焼く)

 

「ア?ヨーコって誰だ」

「香取隊の隊長だよ。織田作のいとこの。ランク戦のログ、見てない?」

「見てねー」

 

 影浦はログをほとんど見ないし、興味も薄いようだ。

 香取=葉子と結びつかなかったらしい。

 

「そーいえば、織田作とアタシらでここにくるのも久々だな」

「最近は皆忙しかったからな」

 

織田作は護衛任務があったし、影浦隊も影浦隊で結成や任務で忙しかったようだ。

こうして影浦隊の面々とゆっくり夕飯を共にするのも久々である。

 

「聞いちゃいけないんだろーけどよー、織田作、昨日の侵攻のとき一人でなにしてたんだ?」

「こらこら、仁礼ちゃん」

「……」

 

 影浦も北添も気遣って聞かなかったというのに、仁礼は切り込んで聞いてきた。

 織田作は口の中のお好み焼きを飲み込み、烏龍茶を呷ってから言った。

 

「機密だ。言えない」

「だよね〜」

「チッ」

 

 影浦は小さく舌打ちをしたが、そこまで苛立ってはいないようだ。

 仁礼は特に気にしていないようで、話を続けた。

 

「あのあと警戒区域外に出ないようトリオン兵捌くの大変だったんだからなー。もっと光さんに感謝しろ!」

「実際に捌いたのはオレらだろーが」

「レーダーにマークしてあげたのはアタシだろ!」

「うんうん、いつもありがとー光ちゃん。はい、お礼の気持ち」

 

 北添が仁礼の空いた皿の上にお好み焼きを乗せる。織田作が釣られて皿を寄せると、北添はもう一切れ掬って乗せてくれた。

 

「あ、そーいえばもうすぐB級ランク戦始まるけど、織田作は参加すんのか?」

「あ、それゾエさんも気になってた」

「しない。俺はまだ香取隊じゃないからな」

 

 そう言いながら、織田作はお好み焼きに箸を入れる。

 来月から、ボーダーでは秋のB級ランク戦が始まる。香取隊も影浦隊も、結成して初めてのランク戦ということになる。

 織田作之助が香取隊として参加するのか、仁礼と北添は気になっていたようである。

 

「よかったあ、香取隊に織田作いたら、勝てる気しないよー」

「B級ランク戦で織田作とバトれたら、ぜってーおもしれーな。香取隊のこともう少し応援すっか」

「いやいや、勝てなくなっちゃうって」

 

 織田作は苦笑した。

 影浦は戦闘が楽しいタイプの人間だ。個人でだけでなくB級の集団ランク戦でも織田作と戦いたいのだろう。

 

「香取隊もゾエさんたちも今季デビューだけど、香取隊は戦闘慣れしてそうだし、すぐ上行っちゃうかもね〜」

「…それはどうだろうな」

 

 織田作之助はお好み焼きに目を落としながら、つぶやくように言った。

 

「香取隊は、おそらく苦労することになると思う」

 

 

 

 

 

 

 

ーー数週間後

 

 B級ランク戦は、ラウンド5に至っていた。

 織田作之助はリアルタイムでそれを観戦していた。

 観客は上位のランク戦に取られていたため、観戦席の客はまばらであった。

 今回は香取隊、諏訪隊、荒船隊との三つ巴。香取隊以外は戦闘員二人だけの部隊のため、人数的には有利である。

 

(これは…なるほど、やはり【読まれている】な)

 

 数の有利はあった。

 転送位置も悪くない。

 しかしながら諏訪隊も荒船隊も、集中的に香取隊を狙う動きをした。

 

 ーー転送後、合流するために動く香取隊の面々だったが、すぐに荒船隊の狙撃手に場所を把握され、妨害された。

 狙われたのは三浦雄太。狙撃手に牽制され思うように進めなくなった三浦は、バッグワームを着て建物で射線を切ろうとした。

 ーーしかしもたついている間に荒船隊の攻撃手、荒船隊長に追いつかれ、2対1のまま防戦一方となる。

 荒船隊と三浦が争っている間に諏訪隊と香取隊の二人ーー葉子と若村が合流。

 三浦との合流を狙う香取隊を、諏訪隊は側面から崩しにかかった。

 葉子の働きで堤を落とすことには成功したが、その間に三浦が緊急脱出。

 諏訪隊長が一人で離脱。荒船隊は香取隊に追いつきーー若村を集中攻撃した。

 葉子が暴れて、それをフォローするのが香取隊の基本戦術だ。しかし葉子が暴れるのには目もくれず、荒船隊は若村に一点集中して攻撃した。

 若村を庇い気を取られた葉子が動きを崩したところを、漁夫の利を狙っていた諏訪隊長が奇襲。

 挟まれる形になった香取隊は、まず若村が落ち、葉子も大ダメージを負った。葉子は諏訪隊長を落とそうとしたが狙撃されーーそのままベイルアウトした。

 その後は諏訪隊長が荒船隊長を落とし、荒船隊の狙撃手との睨み合いが続き、タイムアップ。

 

 最終的なポイントは荒船隊、諏訪隊、香取隊で2対2対1。

 ラウンド5終了時点で、香取隊は暫定12位であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

03

 

 

 試合が終わってすぐ、織田作之助は個人ランク戦の広間に訪れていた。

 香取隊とそこで待ち合わせをしていたためである。

 

 今季のB級ランク戦で、香取隊は下位から中位まではすぐに上がることができた。しかしながら、そこから伸び悩んでいた。

 織田作の予想の通りになったわけである。

 

(葉子は半年も経たずにマスタークラスに上がれた腕がある。あの子の実力自体に問題はない。問題はーー)

 

 彼は悩んでいた。

 自分が気づいている香取隊の問題点を彼らに告げるべきなのかどうかを。

 それは自分たちで気づくべきことのような気もするし、外部から言ってあげれば良いような気もする。

 

(俺とのランク戦でも負け続けだ。あの子達が自信を無くさなければいいが…)

 

「あ、ねえ君。織田くんでしょ」

 

 考え込んでいた織田作に話しかける人物がいた。

 顔を上げると、スーツ姿で髪の逆立った少年がそこに立っていた。

 

「隣、いい?」

「ああ、どうぞ」

 

 織田作がソファから腰を浮かしスペースを作ると、少年は目を細めてそこに座った。

 見覚えのない顔だった。どこかで会ったことがあるだろうか。

 

「おれは犬飼澄晴。二宮隊所属の銃手だよ」

「織田作之助だ。よろしく頼む」

 

 (二宮さんの立ち上げた隊の隊員か)

 

 スーツ姿なんて珍しいなと、織田作は思わずじっと見つめてしまう。それとも彼の学校の制服なのだろうか。

 

「あ、これ?二宮さん、隊服がジャージなのはコスプレっぽくて嫌なんだって」

「それでスーツが隊服なのか。珍しいな」

「でしょ?でもボーダーには他にスーツの隊ないし、逆にコスプレっぽいよね」

 

 ははは、と犬飼は朗らかに笑う。

 

「ここで会ったのもなにかの縁だし、ちょっとランク戦しない?」

「今からか?待ち合わせをしてるからーー5本だけなら」

「そう来なくちゃ」

 

 じゃあそこのブースでやろう。

 隣同士で空いているブースがあったため、5本勝負と設定しランク戦を開始する。

 転送されてきた犬飼は、突撃銃を携えた銃手のようだった。

 

「よろしく、織田くん」

「ああ」

 

 返事をした直後、犬飼の銃が火を吹いたーー。

 

 

 

結果的に言うと、織田作は犬飼相手に5-0で勝つことができた。

 

「いや〜負けた負けた!やっぱ強いね」

「ありがとう。犬飼も良い腕だ」

 

 犬飼は腕のいい銃手だった。突撃銃という仕様上、チーム戦ではサポートが主だった仕事なのだろう。

 銃手本来の役割に忠実な印象である。織田作のように前に出て相手を獲るタイプには見えなかった。

 

「犬飼はどうして俺に挑んできたんだ?どこかで会ったことがあるだろうか」

「いやいや。織田くんの名前は銃手界隈じゃ有名だから、一度挑んでみたくて。君、銃手ランク4位でしょ?」

「……そうなのか?」

「…え?知らないの?そんなことある?」

 

 マジで?と言いながら、犬飼は織田作に端末を操作して画面を見せてくれた。

 一位にいる弓場、そのすぐ下、四位の位置にあるのは織田作之助の名前だった。ポイントは9301pt。いつの間にかポイントが増えていたようである。(おそらく香取隊や影浦との戦いで増えたと思われる)

 

「マジで知らなかったの?」

「ポイントを気にしたことはなかったからな」

「うーん、まあそんな感じはするけど」

 

 犬飼は見るからに微妙な表情をした。張り合いがない、といった感じである。

 

「じゃあ銃手の先輩として、おれにアドバイスとかない?」

「……どうだろう。ボーダーで(・・・・・)突撃銃(アサルトライフル)は使ったことがないからな。どういう仕組みのトリガーなんだ?」

「あ、そこから?えっとね…」

 

 突撃銃トリガーは拳銃型よりも射程が長いらしい。近距離で撃ち合いをする拳銃型とは違い、中距離から連射する。

 ーー現実のアサルトライフルとコンセプトは同じようで、より制圧性が高い面の攻撃をしてくるイメージだ。

 

「おれの方が射程長いはずなのに当ててくるからビビったよ。あれどうやってやってるの?」

「どうやってと言われてもな…」

 

 通常の拳銃型よりも射程と弾速を上げ、威力を落としているだけである。威力が落ちたとしても、シールドの隙間を縫ってトリオン体に当たれば大ダメージだ。

 これは織田作ほどの精密射撃があるという前提のチューニングであるため、これを犬飼に教えても意味がないだろう。

 

「弓場さんの師匠っていうから、すっごい早撃ち攻撃手みたいなタイプなのかと思ってたけど、織田くんのほうが銃手っぽい感じなんだね」

「早撃ちもできなくはないがーー俺は弓場さんより距離をとって戦う性質(タチ)ではあるな」

「そっちの方が厄介じゃない?」

 

 と犬飼は笑う。

 

「そうでもない。威力は落ちてるわけだから、全体シールドを張られるとなす術が…」

「それはもう片方の銃で調整してあるんでしょ?」

「……」

「片方は射程の長い方の銃で、もう片方は威力重視で調整してあるんでしょ。精密射撃を避けようとシールドを広げすぎると、威力重視のもう一方の弾が飛んできてシールドが割られるーー織田くんの二丁拳銃のカラクリって、大体こんな感じじゃない?」

「……」

 

 織田作は相変わらずの仏頂面だったが、内心では驚いていた。

 たった五回の勝負でそれを見抜いた犬飼の観察眼に目を剥いたのである。

 

「素晴らしい観察眼だな。二宮さんがお前を勧誘したのもうなずける」

「あ、認めるんだ?」

「よく見れば誰でもわかることだ。隠しているわけでもない」

 

 よくよく考えると、二宮さんのフルアタックを見たことがあったから、犬飼は織田作のトリガー調整について思い至ったのかもしれない。

 風間蒼也と初めて戦った時から、織田作はシールド対策に苦心していた。迅や弓場と相談した結果、銃ごとに調整を変えるという結論に至ったのである。

 

「あれだけフルアタックして死なないの、織田くんくらいだと思うけどね。……君が入ってあげれば、香取隊はもっと勝てるようになるんじゃないの?」

「……」

 

 香取隊はB級ランク戦で満足に勝てていないことを、犬飼は知っていたらしい。とはいえ、今季デビューした新人チームの中位入りは、早い方ではあるのだが。

 

「香取隊が勝てないのは、俺が加入するしない以前の問題だろう」

 

 そう言うと、犬飼は少し驚いた顔をして、なにか言おうと口を開いた。

 

「あ、織田作さん!」

 

 しかしそのとき、聞き覚えのある呼び声が聞こえたため、話は一時中断された。ーー織田作はランク戦ブースの入り口に立つ若村を振り返り、手を振った。

 

「すまないがもう行く。対戦ありがとう。二宮さんによろしく伝えておいてくれ」

「こちらこそありがとう。…織田作って、あだ名?」

「ああ。お前も好きに呼んでくれ」

「じゃ、ありがたく。織田作って呼ばせてもらうよ」

 

 織田作が立ち上がると、犬飼はにやりと口端を上げた。

 

「香取隊に助言してあげればいいのに。わかってるならさ」

「……。そうだな」

 

 飄々とした態度の犬飼に苦笑して、織田作之助は待ち合わせ相手に会うため、もう一度礼を言ってからその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

04

 

 

「葉子のやる気がなくなった?」

「はい…それで遅くなったんです」

 

 葉子は突然『やる気をなくしてしまった』らしい。

 織田作を迎えにきた香取隊の若村麓郎の談によると、試合が終わり、待ち合わせ場所へ向かおうとした際、唐突に動かなくなったしまったのだとか。

 

「急に『やる気なくなった』って緊急脱出用のベッドの上で動かなくなっちまって…すいません。それで来れなくなったんです。作戦室まで来てもらっていいですか、一緒に」

「ああ」

 

 織田作が返事をすると、若村はほっとしたように速足で歩き始める。織田作はその後を追いかけ、並んで歩いた。

 

「こういうとき、どうしたらいいんすかね。いとこの織田作さんなら、なんとかできますか?」

「……どうだろうな」

 

 葉子は不意にやる気をなくすことがある。なにかに負けた時、華と喧嘩をしたとき。どうしようもなく落ち込んだとき。自分でも原因がわからず、会話を拒否し引きこもることが多い。

 織田作之助の経験上、葉子が動かなくなったときは、再び燃え上がるよう着火剤(・・・)を与えるのが一番の解決法である。

 

「麓郎、やる気がなくなった原因に、心当たりはあるか?」

「それは…」

 

 若村は一瞬口ごもり、足を遅くした。しかし思い至っているらしい、すぐにそれを口にした。

 

「ランク戦でずっと負けてるから…それが悔しいんだと思います」

「十中八九、そうだろうな」

 

 香取隊は織田作との賭けで、他のB級下位よりもよほど戦闘経験を積んでいる。

 葉子にはそれだけ自信があっただろうし、自身の経験が通用すると思っただろう。しかし実際には快勝とはいかず、苦戦する日々が続いている。

 やる気を無くしても仕方がない、と若村は思ったのかもしれない。

 

「あ、あの!織田作さん。今季の次の試合だけ、一緒にランク戦出てもらえませんか!?」

 

 思い切ったように、若村が言った。

 

「……俺がか?」

「はい。一回でも勝てれば、葉子もやる気を取り戻す気ぃするし…織田作さんがいれば、百人力っていうか!」

 

 若村は早口で言い募る。

 それだけ焦りが積もっているのだろう。

 エースの葉子のやる気がなければ、獲れる点も獲れなくなってしまう。しかし若村にはやる気を取り戻す方法がわからない。

 そのため織田作之助を勧誘するという方法を取ったのだろう。

 ーーしかし。

 

「お前たちは、俺が入らなくても勝てるはずだ」

「…え?」

 

 その言葉に、若村が目を丸くする。

 

 そこで香取隊の隊室に到着したため、話は中断された。若村が扉を開けると、室内では深刻な顔で話し込む三浦と華の姿があった。

 

「あ、織田作さん!」

「試合お疲れ様。雄太、華」

「お疲れ様です。あの、葉子は…」

「ああ。麓郎から聞いている」

 

 ちらりと奥の部屋を見ると、ベッドの上でぼおっと宙を眺める葉子の姿があった。

 

「急に塞ぎ込んでしまったんです。待ち合わせ場所に行けなくてすみません」

「構わない。ランク戦をしていたからな」

 

 葉子はこちらの声など聞こえていないかのようで、華の謝罪の声にも、三浦が目の前で手を振っても、菓子を置いても反応しなかった。

 

「華とも話してたんですけど、負け続けてるからこうなっちゃったんじゃないかって…」

「はい。だから織田作さんにアドバイスを頂けないかと思って」

「アドバイスか…」

 

 どうやら葉子を復活させるために織田作を呼んだらしい。

 しかし本気でやる気をなくした葉子を復活させるのは、織田作にさえ難しい。なぜなら香取葉子は自分自身にさえ、なぜこんなにも不機嫌なのかわかっていないことが多いからだ。

 しかし今回の件に関しては、解決策は簡単だった。

 

「やる気を取り戻させる一番手っ取り早い方法は、勝つことだろうな」

「ですよね…」

 

 若村は肩を落とす。葉子がいなくてはそれができないから困っているのだ、という風に。

 香取隊は葉子というエースを中心としたチームだからだ。

 

「では、勝てない原因はなんだと思う?」

「うーん…。香取隊はまだ発足したてだし、実力不足だし…経験積んでる中位の人たちに勝てなくても仕方ないんじゃないですか」

 

 三浦は勝てない原因は経験不足のせいだという。確かに、それも間違ってはいない。

 

「他には?」

「他!?え、えーっと…」

「他の隊にも実力不足を見抜かれて、集中的に攻撃されているからではないでしょうか」

 

 華が淡々と答える。

 確かに試合運びを見ていると、香取隊はよく狙われており、他のチームよりも集中的に攻撃されていた。

 

「他には?」

「ほか。他には…あー、すいません、思い浮かばねえ…」

 

 若村も眉間に皺を寄せて考えこんだが、浮かんでこないらしい。

 三人は顔を合わせて、織田作に続きを促した。

 

「まず、お前たちのチームは対人戦闘の経験を、同時期にデビューした他の隊よりずっと積んでいるはずだ」

「織田作さんとの戦いのおかげですね」

「ああ。チームとしての経験については、ある程度のレベルまで達していると思う」

 

 そこで織田作は一度言葉を切った。

 

「つまり、勝てない原因は他にある」

「他に…?」

「それを今から教える」

 

 織田作は緊急脱出用のベッドルームへつかつかと入り込み、宙を見つめる葉子の顔を覗き込んだ。

 

「葉子。起きろ。お前たちが勝てない原因を教える」

「……。え?」

「そのために模擬戦をする。だから起きるんだ」

「も、模擬戦!?はあ!?いきなり!?」

 

 突然着火剤を与えられた葉子は、がばりと起き上がった。

 勝てない原因を教えるという言葉に反応したらしい。

 

「華。トレーニングルームの用意を頼む」

「はい。わかりました」

 

 華は何も聞かずにオペレーター用のデスクに腰掛けた。

 戦闘員の三人は戸惑ったように織田作之助の周りに集まった。急展開についていけていないようである。

 

「も、模擬戦って、いつもみたいに1対3で?」

 

 三浦が慌てて換装しながら言った。釣られたように、葉子も麓郎も換装する。

 

「いや、2対2でやる。麓郎と俺、葉子と雄太で組もう」

「え、俺が織田作さんとっ?」

 

 若村は目を丸くした。思っても見なかった、という顔である。

 

「華。トリガーチップはあるか?」

「はい。あります」

「じゃあ俺のを入れ替えてくれるか」

 

 織田作は換装を解除して華にトリガーを手渡した。

 

「ハンデとして、俺は麓郎と同じ突撃銃のみを使う」

「はあ!?」

 

 葉子が大声を上げた。

 

「それでは模擬戦のルールを説明する」

 

 有無を言わせず、織田作之助は香取隊の面々に説明を開始した。

 

 時間をかけてでも己で気づいて、自信を取り戻して欲しい。

 アドバイスをして、短期間で解決方法を教えたい。

 その両方を実行するため、織田作之助は実地で勉強させることにしたのである。

 

 

 

 

 





原作より香取隊の結成は早くなってます
あとまだ実況システムない時代
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