織田作の咖喱飯ってルーを飯に混ぜてるらしいですね。初めて知りました。
01
「はあ?負けた?太刀川が?C級にぃ?」
「正確には、五本やって、一本取られたらしい」
小南桐絵はもう一度はあ?と言った。
木崎レイジも自分で口にしながらも、確かに信じがたかっため、腕を組んでうなずいた。
「大体なんで太刀川がC級に挑むのよ。アイツがいくらランク戦ジャンキーでも、もっと相手いたはずでしょ」
「それがそのC級、今日入隊したらしいんだが、最初の訓練で10秒切ったらしい。それで興味を持ったんだと」
「噂が一人歩きしてるだけなんじゃないの?今日入隊したばっかの新人に負けるとは思えないんだけど」
「それが本当らしい。風間から聞いた」
「風間さんが!?」
風間が嘘をつくとは思えない。小南はひとまずその噂の信憑性を認めることにしたらしい。
「ポジションは?やっぱり攻撃手?」
「銃手らしい。拳銃型のアステロイドを使っていたと聞いた」
「銃手ー?やっぱりデマなんじゃないの?」
信じたそばから疑い始めた。
確かに、銃手というポジションは攻撃手と違い、相手を倒すよりも味方をサポートする役に徹することが多い。
もちろんランク戦でも、相手をバンバン倒せる銃手は存在する。しかし太刀川が並大抵の相手に負けるとは思えない。
「五本中四本は勝ってるわけでしょ?マグレの一本なんじゃないの?」
「風間がログを見たらしいんだが、太刀川は最初の1本目で負けたあと、様子見もしないでひたすら追い打ちをかけ続ける戦法をとっていたらしい」
「それがどうかしたの?」
「少しでも間を空けたら負けると思ったんだろう」
銃手は距離をとっても攻撃できるため、確かに間合を詰めて攻撃し続けるのは理にかなっている。しかし入隊したての新人にやることではない。
少しでも時間を与えれば負けると思わせるような何かが1本目で起こったということなのだろう。
「どうしよう…。明日本部に行ってログ見ようかしら?」
「借りられないと思うぞ。そいつのログ大人気だからな」
「ええ!?じゃあ名前は!?私も戦ってみたい!」
「知らないが、まだ中学生らしいぞ」
木崎は負けず嫌いを発揮した小南を適当にあしらいながら、夕飯の支度を進める。
「お、騒がしいな。なんの話?」
「迅か。遅かったな」
キッチンに自称・実力派エリート迅悠一が顔を出した。今日も今日とて暗躍を重ねていたらしい。
「迅!アンタ聞いた?太刀川の話」
「太刀川さんの話?」
「知らないの?太刀川がぽっと出のC級隊員に負けたんだって」
「あー、その話。本部で噂になってたよ」
なんだ知ってたの、と小南は肩をすくめる。
「少し意外だよ。太刀川さんが負ける未来は【見えてなかった】から」
「予想外だったってこと?」
「ああ、面白いよね。どんな奴なんだろうな」
迅悠一は会ったこともないC級に思いを馳せ、なんとなく未来が変わっていることを感じ取っていた。
*****
02
久しぶりに、
理由は簡単。最近忙しくて咖喱を食べていなかったからだ。
これはいけない。
私は慌てて香取家に断って、今日の夕飯は俺が咖喱を作ります、と言った。するとなぜか大喜びされた。
材料費は自分で出そうと思っていたのに、財布を持たされて葉子と一緒にスーパーに行かされた。
自分の財布も持っていこうとしたが、見透かされていたようで葉子に没収された。
(その金でガチャガチャを引かされた。葉子はお使いと言うよりも、スーパーで買うお菓子の方が目的だったらしい。)
「織田作ってなんでそんなカレー好きなの?」
「咖喱が好きな理由か…考えたことがないな。おいしいから好きなんだ。葉子は咖喱が好きじゃないのか?」
「好きだけど、織田作ほどじゃない」
「そうか」
「じゃあカレー以外だったら何が好きなの?」
「咖喱以外か。そうだな、さ…。いや、すぐには思いつかないな」
「今なんか言いかけたでしょ」
「気のせいだ。
「結局カレーじゃん!」
咖喱以外で好きなものと問われ、思わず「酒」と言いそうになった。だがそういえば今は未成年だったと思い出し、慌てて違う答えを出す。
印度咖喱とごまかしてしまったが、そういえば私は印度咖喱はあまり食べたことがないのだった。
今ついた嘘のせいで、私は今度食べに行って印度咖喱の味を知らなくてはならなくなった。
「え!?ご飯とルー混ぜちゃうの!?」
「ああ」
「これ本当にカレー?」
「ああ」
「生卵かけんの!?ねぇほんとに大丈夫!?」
「ああ」
前の私はこの咖喱飯の作り方を知らなかったが、今世で改めて似たようなメニューを探して作り方を勉強した。
もちろん店長の味には勝てないが、それでもかなり近い味にはなったと思う。
「「「「いただきます」」」」
生卵を崩しながら、少しずつ混ぜ、口に入れる。
久しぶりの咖喱飯だ。
懐かしい味だった。前世で、何度も何度も通って何度も食べた味だ。
やはり店主の味には敵わないな、と味わいながらも改善点を探す。
すると、なぜか食卓が静かになっていることに気がついた。
「?葉子、どうした黙って」
「カ」
「か?」
「辛すぎ!!!水!牛乳!」
葉子は大声で叫んで、そのまま冷蔵庫まで走って行った。
「作之助くん、コレ、おいしい。おいしいけど、すっっごく辛いね」
「舌の感覚がないんだけど」
「美味しいのは確かなのに〜味がしない〜!」
辛すぎて味がしないとまで言われてしまった。
香取家の人々は、汗みずくになりヒィヒィ言いながら咖喱を食べていた。
「すみません。今度から甘口も作ります…」
私はその日大いに反省し、自分用の辛い咖喱と甘口の咖喱とを作り分けることを決意した。
03
さて、ボーダーでランク戦を始めてしばらく経った。
現在、私には悩みがあった。
誰もランク戦を受けてくれないことである。
ランク戦以外の訓練もあり、現在は3500ほど溜まっているのだが、太刀川に勝ったという噂が一人歩きして誰も勝負を受けてくれなくなったのだ。
しかしそんな私とも戦ってくれるありがたい相手がいた。
「おい、織田作。面ァ貸せや」
「影浦」
同期の影浦雅人である。
影浦は当初、私に対し非常に威圧的だったのだが、何故かわからないが態度が軟化した。
理由を聞いてみると、『何を言っても怒らないので萎えた』らしい。
私がそれに対し『何か怒るようなことを言っていただろうか』と返すと大笑いし、それからなぜか頻繁にランク戦をしてくれるようになったのである。
理由は知らないが、影浦は非常に奇襲に敏感だ。
私が気配を消して、背後からアステロイドを撃っても、たいていは反応される。
そのため私は奇襲作戦を止め、背後ではなく正面から攻撃し、影浦が回避するところに
影浦曰く、こちらを狙っている弾ではないため、
「まじでお前キショイ戦い方だよな。なんか持ってんじゃねえのか」
「なにか?特に不正はしていないが」
「そうじゃねーよ」
影浦はため息をつくと、それ以上聞かず、ランク戦ブースに歩いて行く。
「てかお前、なんで太刀川サンを呼び捨てにしてんだ」
「?太刀川は上司なのか?」
「単純に年上だって話だ。確か2つ上だったはずだぞ」
私は驚いた。確かに太刀川は私より背が高かったが、砕けた口調に苦言を呈してこなかった。そのため同い年くらいだろうと思っていたのである。
「マジかお前。知らなかったのかよ…」
「太刀川…さんも訂正しなかったからな。今度謝っておく」
太刀川が寛大だっただけらしい。今度会った時は敬語で喋ろうと私は決意する。
「まあいいけどよ。早くランク戦しようぜ。十本な」
「ああ」
奇しくも影浦からポイントを巻き上げることになってしまうのだが、影浦は私よりポイントが低いため一回でも負けると此方からごっそり持っていかれるので油断はできない。
今日は8-2で勝つことができた。
「チッ今日も負けか」
「今日は危なかった。あと少しスコーピオンが長かったらこちらがやられていた」
改めて私は腰の拳銃を見やる。やはり拳銃一丁では限界があると悟ったのだ。
それに何年も銃を握っていなかったから、勘も射撃精度も鈍っている。
B級に上がるまでに体の感覚を取り戻しておく必要があるだろう。
「あ!いたいた。おーいカゲー!オダサクー!」
「あ?ゾエか」
待ち合わせしていた北添と合流する。
北添は元々影浦と
(ちなみに合流したのは、影浦がお好み焼き屋に連れていってくれると言ったからである。)
「いやー、今日もランク戦すごかったねえ。オダサク、よくあんな動きできるよね」
「変わった動きだったか?」
「いやいやそうじゃなくてさ。隙間を縫うみたいなアステロイドの使い方だよ!エグいよね!?どうやったらあそこまで正確な射撃できるの?」
「どうやってと言われてな…反復練習しかないんじゃないか」
「だよねー」
ゾエさんは適当だからなあ、と肩を落とす。
北添は突撃銃での高い火力による制圧力が特徴の銃手だ。そこに正確な射撃力が加われば敵なしだろうが、相手にとってはその重火力だけで十分脅威と言えるだろう。
「そういえばオダサクってトリオン能力いくつ?」
「トリオン能力?」
「ア?…知らないで今までやってたのかよ」
北添と影浦は親切にトリオン能力とやらがなにかを教えてくれた。
体内のトリオン器官から作られるトリオン量には個人差があり、特に銃手の火力は個人のトリオンに依存するらしい。継戦能力にも関係するのだろう。かなり重要な話だった。
私は首をひねり、初日に貰った数値を思い出す。
「初日に紙を貰ったから一応覚えてる。確か…8だったか」
「8か。結構あるね」
「そうか?一桁しかないが」
「トリオン量は10が最大なんだよバカが」
「ちなみにカゲは7。ゾエさんは9だよ」
「並んでるな」
「そこかよ」
そこで一瞬視界が乱れた。
【角から飛び出してきた少女が北添がぶつかり派手に転ぶ。少女の手に持っていたペットボトルが宙を舞い、私の頭からジュースがかかる】
そこまで見えて、私は北添の背中の服を掴んで後ろに引っ張った。
「えっ!?」
少女が飛び出してきた。北添が下がったのでぶつかることはなかったが、驚いた様子で手からペットボトルが落ちる。
垂直に落ちていくそれを、
「え!?はぁ!?」
「よかった。こぼれなかった。足で受け止めて悪かったな。ペットボトルを持っているときは落ち着いて歩いたほうがいい」
驚きの声を上げる少女にペットボトルを拾い上げ、返す。
「なんっだ今の動き…」
「ゾエさんびっくりしちゃったんだけど」
「北添も服を掴んで悪かったな。伸びてないか?」
「トリオン体だから!それより今のどうやったの!?
北添にそう問われ、どう誤魔化したものかと考える。
「ああ。俺は未来が見えるんだ」
「え!?そうなの!?」
「冗談だ。本当はただの勘だ」
「エエ?勘なの?ホントに?」
「……」
今までの経験上、こう言えば誤魔化せる。私は茶化すようにそう言って、廊下を進んでいった。
そのときの私は影浦のサイドエフェクトを知らなかった。そのため『誤魔化すために嘘をついている』ことがバレているとは思わなかったのである。
04
次の日、影浦はランク戦ブースの前で北添と話していた。
「なあ、ゾエ」
「どしたのカゲ。神妙な顔しちゃって」
「昨日のことなんだが」
「昨日?お好み焼きの話?」
「ちげーよ、その前。ボーダーでアイツが妙な動きしやがった時だよ」
「アー、あれね。未来が見えるーとか何とか上手く誤魔化されちゃったけど、結局なんだったんだろうね?」
「アイツ、『冗談だ』って言ってただろ」
「うん。言ってたね」
「嘘ついてたぞ」
「え!?」
「『未来が見える』って言ってたときには何も刺さってこなかったのに『冗談だ』って茶化したときには、『誤魔化し』と『ウソ』が刺さってきやがった」
「ってことは…」
「織田作、
「影浦隊員、今の話は本当か?」
そんなわけで同期は影浦でした。
気性が粗くてもそうでなくても人付き合いできるのが織田作の良いところだとおもいます。
でも隠し事するには影浦は向かない。ホントに
次回!『織田作死す!』