実力派無職回
能力の自己解釈注意
余談なんですが、中学3年生の織田作って、まだCV.上村裕翔なんですかね?
01
風間蒼也は仮想空間の中、バックワームをはためかせ屋上からじっと下を眺めていた。
仮想空間の天気は晴れ。建物は多いが見通しがいい。風もなく、良い
風間はそのまま音もなく飛び上がり、スコーピオンを構える。
狙いは建物の隙間に身を潜める少年ーー織田作之助だった。
彼は背後から迫る風間に気づく様子はない。風間はその勢いのまま、織田の無防備な背中に切り掛かった。
「!」
しかし、その奇襲は防がれた。スコーピオンの切先だけに局所的にシールドが展開されたのだ。
間髪入れず、二発乾いた銃声が響く。
織田が背後を振り返ることもなく
風間はシールドを展開しながらも壁を蹴り、二発の弾を捌いた。
織田はその足で路地から飛び出し、追ってくる風間に向かって両手に持った
距離を詰めさせまいと、両方の銃ともに火を吹いた。
淡々と撃ち続けられるアステロイドの雨に、風間はシールドを展開しながら距離を詰めようとする。
しかし、織田の銃は風間を狙っているわけではなかった。
「!」
もう一丁の銃から放たれたアステロイドが、ビルの看板を固定する
風間が目をやると、支えを失った広告看板が、轟音を立てて目の前に迫っているところだった。
風間は織田に近づくのを一旦中断し、身軽に跳ねて看板を避ける。
「っ!」
風間が着地した。その直後だった。
瓦礫の粉塵に紛れて左から激しい銃声がした。
風間は銃声がした方向に素早くシールドを展開する。
「?」
銃声はしたのに、弾が飛んできていない。
突如、風間のトリオン体に衝撃が走った。
「な…っ」
被弾したのだ、と漏れるトリオンを見て悟る。これでは右腕は使い物にならない。
ーー左から銃声がしたはずなのに、どうして右から弾が飛んでくる?
粉塵が晴れて、織田の姿が右に見えた。
(左で鳴らした銃声はこちらの足止めし、シールドを展開させるためのブラフか!)
しかし風間は冷静だった。
トリオンが漏出しながらも織田に向かって駆け出し、左手でスコーピオンを振るった。
「……」
織田の右腕がほぼ付け根から落とされて飛ぶ。苦し紛れか、飛ぶ直前の右腕がバン、とアステロイドを放った。
しかしそれは風間に当たることもなく、明後日の方向へ飛んでいく。
「終わりだ」
風間は織田の首にスコーピオンを振るおうとした。
無防備な首に鋭い刃が迫る。
しかしなぜだろう、トドメを刺されそうになっているのに、織田はやけに冷静な顔をしていた。
(なんだ…?なぜ避けようとしない)
違和感。
風間はそれを覚えながらも、手を緩めたりはしなかった。
刃が織田の首を切り裂く直前。
「!?」
風間の左腕に【
狙いが逸らされ、スコーピオンが地面を抉る。
(右腕を切った時の、アステロイドで撃ったのか…!)
それに気づくと同時にバン、と銃声が鳴り響き、風間の眉間にアステロイドが迫った。
咄嗟に頭部にシールドを展開。
しかし、その後ろに隠された二発目が、【シールドで守られていない】風間のトリオン供給機関にまともに被弾した。
「なるほど、未来視か…」
『トリオン供給機関破損』
途端、仮想空間が解除され、また無機質な訓練室が戻ってきた。
「風間さん、模擬戦ありがとね」
観戦をしていた迅がぼんち揚を齧りながら手を振った。
「礼を言われるまでもない」
風間はスコーピオンを消しながら無表情で言った。
迅は銃を腰に戻した織田を見やった。
「お疲れ、織田作。風間さんに勝つなんてすごいじゃん」
「1回目だったからだ。2回目からは通用しない手だな」
それは確かにな、と迅は思う。
織田の戦い方は未来視を利用した初見殺しだ。初めてまともに当たると訳のわからないまま撃破されるが、2回目からは
風間も、2回目からは太刀川のように間合を詰めた戦いをするだろう。
「まあとにかく、必要なデータは取れたってさ。それよりどう?そのトリガー構成」
織田作は、模擬戦をするにあたって至急開発室でB級のトリガーを揃えていた。
メイン
アステロイド(拳銃)
シールド
Free
Free
サブ
アステロイド(拳銃)
シールド
Free
バックワーム
拳銃とシールド、申し訳程度のバックワームをいれたシンプルな構成である。
「銃が増えたから、単純に制圧力が2倍になった。やれることも増えた」
「二丁とも撃ってるときはシールド張れないから気をつけてね」
「ああ。気をつける」
「うんうん。それじゃ、一旦開発室に戻ろっか」
開発室に戻りながら、織田作は模擬戦になる前のことを静かに思い出していた。
**
02
ーー数十分前
「サイドエフェクトっていうのは、トリオン能力の高い人間に起こる、文字通りの
と、迅は言った。
「
首を傾げる私に、鬼怒田開発室長が引き継いだ。
「ようするにだ。お
それにより生じる超人的な感覚…それらをサイドエフェクトと呼んでおるんじゃ」
「なるほど…」
「なるほどって。今までなんだと思ってたの?」
迅が聞いてきたので、私は正直に答えた。
「俺にだけ使える異…いや超能力だと思っていた」
「うーん…。まあそれも間違ってはないけどね」
私の異能力だと思っていたものは、今世ではトリオンによる副作用らしい。
「迅…さんも、未来視のサイドエフェクトなんだろう?」
「まあね。俺は、目の前の人間の少し先の未来を見ることができる」
曰く、迅悠一は、人を通じて私よりももっと遠くの、それこそ年単位で先の未来も見ることができるらしい。
驚異的な能力である。俺の異能が霞んでしまうほどだ。
逆に言えば、迅は見たことのない人間の未来は見ることができないらしい。
やはり万能な能力はないと言う事だろう。
「織田作は?どんな感じなの?」
「俺のは大したことはない。たった5秒先が見えるだけだ」
「いやいやいや。大した事だから」
普通の人間は未来なんて見えないんだよ?と迅は苦笑する。
「5秒といったな。なぜ『5秒』とわかる?」
鬼怒田開発室長が訝しげな顔で尋ねてきた。
「長年のその…実験?いえ、経験でわかりました。5秒以上6秒未満しか先は見えません」
「ふむ…。『見える』と言ったが、どんな様子で見える?」
「いきなり映像が降ってくる感じです。自分の手足が飛ばされるとか、撃たれるとか、そういった短い映像が見えるんです」
曖昧な答えに、鬼怒田開発室長は腕を組んで唸った。
「詳しくデータをとりたい。悪いが迅、模擬戦をしてもらっていいか?」
「いや、俺はやめたほうがいいね」
「なぜじゃ」
「未来視同士がぶつかるとお互いが未来を修正しあうから、試合にならないんだよ。でも大丈夫!適任がいるから」
迅は私の隣でぼんち揚を食べながら話を聞いていた風間の肩をドン、と叩いた。
「風間さんと模擬戦すれば、いいデータがとれるよ!」
「おい。まだ了承してないぞ」
こうして私は冒頭の通り、風間蒼也と模擬戦をすることになったのである。
*
現在
「模擬戦ご苦労だったな」
開発室に戻ると、鬼怒田開発室長は開口一番そう言われた。
迅の言う通り、私と風間さんの戦いは、データを取るのに最適だったらしい。
「結論からいうと、織田隊員は申告通り、5秒以上6秒未満の未来しか見ることはできないようだ」
鬼怒田さんの示す画面には、先ほど戦闘をしていた私と風間さんが映っていた。画面の下部には細かい数値が記載されている。
何の数値かはさっぱりわからなかったが、それにより私の能力に確信を得たようだった。
「しかし、織田隊員の未来視は迅のように起きるかわからない曖昧な未来…【可能性】を見るわけではなく、『直近に自分の周りで確実に起こる未来』だけを見ていると思われる。
名付けるなら、『近未来視』と言ったところじゃろう」
「近未来視…」
確かに私の未来視は、『予知したけれども起こらなかった』なんて事は無い。起こらなかったとしても、それは
しかし迅の予知は、あらゆる【可能性】を見る性質のもののため、『視たが起こらなかった』ということも頻繁にあるのだろう。
「織田。お前はたった5秒と言ったが、これは驚異的な能力だ。5秒あれば他の人間よりも早く動ける。狙撃を避けたり爆発を回避したり、戦場ではお前にとっても仲間にとっても、大いに助かる力になるだろう」
「……。ありがとうございます」
礼を言いながらも、私には鬼怒田開発室長が言うほど、強い能力だとは思えなかった。
この能力があっても、間に合わないことが多すぎた。
私の力は改めてボーダーに記録されることになった。
書類には『近未来視』と記載されるらしい。
ボーダーのエンジニアたちは私の力でどこまでのことができるのか見たいらしく、定期的に開発室に来るよう要請された。
「風間さん、今日はありがとうございました」
「気にするな。次は必ず勝つ」
「はい。俺も精進します」
風間さんは意外と寛大だった。
迅曰く、風間さんは前は迅とランク戦をしていたため、予知に負けるのに慣れているらしい。
…慣れるものなのだろうか?
「よし織田作。今日の夜は空いてるか?」
「特に予定はないと思う」
「じゃ、家に連絡しとけ。夕飯ご馳走してやるよ」
お言葉に甘えることにした。
香取家にメッセージを入れると、案の定葉子がズルいだの何だの送ってきていた。
私は帰りに彼女の機嫌取りになるようなものを買わなければいけなくなった。
「なにを食べにいくんだ?」
「ん?玉狛の近くのインドカレー屋」
「……」
もしかして読まれていたのだろうか。
私はこの飄々とした男をみるたび、かつての友人をどことなく思い出していた。
その友人は『未来予知』など持っていないが、未来が読めるのではないかと思うくらい、本当に人を見透かしたような男だったのだ。
**
03
「チキンカレーセットひとつ、中辛で。あ、飲み物はラッシーで」
「俺も同じものを。辛さは激辛で。飲み物は…コーヒー」
迅は食べに来たことがあるのか、慣れた注文の仕方だった。
私はインドカレーに詳しくないので、迅の頼んだメニューをそのまま頼んだ。
「激辛って。大丈夫なのか?」
「?ああ」
心配してくれてありがたいが、私は今世で前世で食べていた咖喱ほど辛い咖喱に未だ出会ったことがない。だからもしこの店の印度咖喱が死ぬほど辛くても、それはそれで構わないのだ。
それにしても、わざわざ私を夕餉に誘うということは迅はおそらく私に話すことがあるのだろう。
予想通り、先に運ばれてきた飲み物片手に、迅は切り出した。
「織田作は、ボーダーの三大派閥は知ってるか?」
「派閥?」
「知らない反応だな」
迅はボーダーの三大派閥について話してくれた。
近界民は絶対許さないぞ主義の城戸派。
街の平和が第一だよね主義の忍田派。
近界民にもいいヤツがいるからなかよくしようぜ主義の玉狛支部派。
同じボーダーという組織のなかでも、それなりに主張が分かれているらしい。
「迅さんは玉狛支部だから、近界民にもいいヤツがいるからなかよくしようぜ主義なのか」
「そうそう。それで、織田作はどれに共感してる?」
「…。どれと言われてもな」
現在、私は香取家に世話になっている。私がボーダーに入ったのは金を稼ぐためという目的ももちろんあるが、一番は彼らを守りたかったからだ。
間に合わないなんてことが、もうないように。
「俺は…両親を助けられなかった。だから今世話になってる香取家の人たちを守りたい。間に合わないのはもうごめんだからだ」
「…そうか」
なら忍田さん派かな、と迅は言った。
確かに私には街の専守防衛が性に合ってるかもしれない。
そこでふと、私は迅にずっと気になっていることを聞くことにした。
「迅さんには、俺の未来は見えるのか?」
未来視同士は、お互いの未来を見ることができるのか。もちろん戦闘をすれば、未来視がぶつかり合ってまともに視ることはできない。
ーーでは戦闘ではなかったら?
「見えるには見える。けど、変わりやすい。織田作は自分で未来を修正できちゃうからね。ーー例えばさっきの模擬戦。お前が風間さんに勝てる未来は、
私は次の5秒で確実に起こるであろう未来を見ることができる。
それを回避し続ければ、サイコロで常に1を出し続けるような低い可能性の未来にたどり着く、ということなのだろう。
「その上で言うが、織田作。お前高校行かないつもりだろ」
「……」
「図星って顔だな」
迅は笑った。
私は話の繋がりがわからず混乱するばかりだった。
要するに迅の目にも、私が高校に進学しない未来が
「お前はこう考えてる。両親が死んで、いとこの家で世話になるのが申し訳ない、だから高校には行かない。
…アドバイスしておくけど、高校には行っておいた方がいい」
「なぜだ?高校に行かなくとも、ボーダーなら就職できるし、金も稼げる」
「ははは、でも俺の視えている範囲だと、お前はそれがバレた瞬間、おっかない従姉妹にドヤされるし、ボーダーの友達にもキレられることになる」
「それは…困るな」
「高校では楽しいことが沢山ある。だから行っておいた方がいい。ハイこれ。ボーダー推薦の書類」
見透かしたように、迅は私に封筒を手渡した。
「もしホントにうちに就職するとしても、高校卒業してからでも遅くない。
もっと色んなことを見て、聞いて、知った方がいい。
それが、お前の叶えたい夢に繋がる。
おれのサイドエフェクトが、そう言ってる」
どうして私の夢を知っているのか、などと野暮なことは聞かなかった。
なにかを言おうとしたが、丁度カレーが運ばれてきたため、私はなにも口に出すことができなかった。
・
帰路についたときにはすっかり暗くなっていて、香取家のドアを開けたとき出迎えたのは葉子ではなく叔母だった。
「お帰りなさい。遅かったわね」
「先輩に夕餉をご馳走になったので」
「なにたべたの?」
「印度咖喱です」
「相変わらず好きねー。でもまあ、仲良いひとができたのね、よかったわ」
「……」
今日は他になにがあったの?と嬉しそうに聞いてくる叔母に私は機密事項が多いので…と誤魔化した。
私の帰りが遅かったことがよっぽど嬉しかったらしい。
「そういえば夕方に中学校の先生から電話来てたわよ。作之助くんだけ進路希望調査票出してないって。高校、どこにいくか決めたの?」
「……えっと…」
図ったようなタイミングの電話である。
いや、図っていたのは迅だろう。私にあの話をしたのは、この未来が見えていたからなのかもしれない。
「実はさっきまで先輩に相談に乗ってもらっていて…。三門第一高校に、ボーダー推薦で行けると思います」
「あらよかった!学校行ったら先生にちゃんと言うのよ」
見るからに安心した叔母の顔に、私は迅の忠告に従っておいて良かったと、ほっと息をついた。
ーー風呂に入り、髪も乾かさず寝台に寝転がる。いろいろなことがあった疲労感がどっと襲ってきて、そのまま沈んでいきそうだった。
ぼうっと天井を眺めながら、私は別れ際の迅悠一との会話を思い返していた。
迅は私にこう言った。
「織田作、お前に頼みがある」
「俺に協力してほしい」
「俺は、ボーダーが最悪な未来に行かないよう動いている。なるだけ多くの人を救って、人が死なないように」
「俺じゃ、どんなに頑張っても取りこぼすことがある」
「ーーでもお前となら、俺が諦めるような、可能性の低い、『最高の未来』を選べる。頼む。俺と一緒に戦ってくれ」
切羽詰まった声だった。
一人で戦っている人間の声だ。
ーー私は、かつて殺し屋だった。
しかし、一つの小説に救われた。
人殺しを止めて、小説家になりたかった。
その夢は今も消えてない。
私は弱者を救い孤児を助けるような、
ーー良い人間でありたい。
「わかった。俺もお前と戦う」
迷いはなかった。
私は迅悠一と、この孤独な青年と共に戦う決意をした。
織田作は前世的に、学校にまともに通ったことなさそうなので「通わなくてもまあ生きていけるだろう」と思ってた。知らないものはありがたみもわからない。
迅は『一緒に戦おう』と言えば、織田作が必ず乗ってくることを『見ていた』と思いますので、ちょっと罪悪感を覚えたりしてるかもしれませんね