誤字報告助かってます
来るたび自分、間違えすぎ…!となってます
書き溜めなくなってきたのでこれからは投稿が遅くなるかも
01
玉狛支部のリビングで、二人の人物が向き合っていた。
一人は膝をつく背の高い赤毛の青年。
もう一人はその一回りも二回りも小さい三歳児。
無論、赤毛の青年は織田作之助で、三歳児は林道陽太郎である。
陽太郎はクローニンの足に隠れながら、じっと織田作のことを見つめていた。
「はじめまして。織田作之助だ」
「ようたろう。こっちはらいじんまる」
カピバラは忠実に陽太郎の隣に座っており、挨拶でもするようにフン、と鼻を鳴らしてみせた。
「陽太郎と雷神丸か。いい名前だな」
「そうだろうそうだろう」
「俺は織田作と呼ばれている。陽太郎も好きによんでくれ」
「オダサクか!いいなまえだな!」
「ありがとう。友達がつけてくれたあだ名なんだ」
「若、そろそろ足の後ろから出てください」
クローニンがしゃがみ込んで陽太郎の背中を撫でる。
「オダサクは、たまこましぶか?」
「俺は本部所属のB級隊員だ。玉狛支部所属ではない」
「じゃあ、なんでたまこまにあそびにきてるんだ?」
「色々あるが、今は迅さんと小南とレイジさんに強くしてもらっている。俺はまだトリガーに慣れてないからな」
「オダサクはよわいのか?」
「どうだろう。戦ってみるか?」
「わーーーー!!」
「おっとあぶない」
「とどめだオダサクー!」
「おしいな」
「せんくうこげつ!」
「ねえ、クローニン。あれなにしてるの」
学校から玉狛支部に帰宅した小南は、ドアを開けた瞬間飛び込んできたおかしな光景に頭を捻らせる。
寝不足なのだろうか。織田作が陽太郎に攻撃されている……チラシとテープで作った孤月で。
「ああ、桐絵嬢。あれは織田作が若とちゃんばら?をして遊んでくれてるんだ」
「チャンバラって…」
必死になってチラシとテープで作った孤月…いや剣を振る陽太郎を、織田作はギリギリのところで避けて楽しませている。
その横顔はいつもの仏頂面が嘘のように穏やかで、小南は拍子抜けした。
「アイツ、子供好きだったのね。めちゃくちゃ楽しそう」
「なら桐絵嬢もやってきたらどうだい?」
「やらないわよ!」
「なんだ小南。俺に勝つ自信がないのか?」
織田作が陽太郎を避けながら言った。
その言葉に小南はかあっと顔を赤くし、
「やってやろうじゃないの!!!!」
と言ってしまった。
小南には煽り耐性がなかったし、あまりにも乗せられやすかった。
チャンバラのルールは非常にシンプルである。織田作にチラシで作った剣を当てれば勝ち。
小南はハンデとして左手だけで剣を持ち、陽太郎は両手に剣を持っていた。剣以外での攻撃は禁止。
二人はルール説明が終わるや否や、よってたかって織田作を攻撃した。
「もおお!サイドエフェクト!使わないで!よ!」
織田作は小南の上段切り、袈裟斬り、刺突を肩を逸らして避ける。
「はさみうち!だ!」
背後に回った陽太郎が、織田作の左足へ剣を振る。それもひょいと足をずらして避ける。
ーー5分も経つ頃には、涼しい顔の織田作に対して、2人は汗みずくになっていた。
織田作は5分間、危なげなく全て躱してみせた。ちなみに小南も陽太郎もがんばった。上下左右ありとあらゆる死角から攻撃し、ときには投げるなどのズルもやらかした。
しかし織田作之助はどれも背中に目があるように避けてしまうのだ。
「な、なんであたらないのだ」
「ズル、ズルだわこんなの…」
「すごい汗だぞ二人とも。一旦休もう」
「何よ!勝ち逃げする気!?」
「そーだそーだ!たたかえオダサク!」
二人はやめる気はないようで、へろへろの攻撃を繰り出した。
「あっ」
飛びかかった途端、陽太郎が汗で足を滑らせた。
足をもつれさせ、受け身も取れずに仰向けに体を傾かせる。
「若!」
「陽太郎!」
クローニンが声を上げる。
この距離では庇えない。頭を打つ、まずい。
ーーと、倒れる直前、なぜかどこからか
パンダの顔を型どったそれは陽太郎と床のあいだに的確に収まり、頭を強打させることなく受け止めた。
「お?」
「大丈夫か?陽太郎」
なにが起こったのかわからない、という顔をしていた陽太郎だが、織田作に手を差し出されると喜色満面で起き上がった。
「びっくりした!だがだいじょうぶだ!えい!」
「おっ…と。今回は陽太郎の勝ちだな」
「やった!みたかクローニン!」
「は、はい若…」
クローニンは驚きながらも、嬉しそうな若の姿になんとか返事を返す。小南も口を開けて、剣を片手に立ち尽くしていた。
「アンタ、こんなこともできんのね…」
「?
「オダサク!つぎはなにしてあそぶ?」
テレビゲームでもしよう、と陽太郎を誘導する織田作を尻目に、クローニンと小南は顔を見合わせる。
「ねえ、私、なんかもうアイツら怖いんだけど」
「未来視のサイドエフェクトが合わさると、こうなるのか…」
二人はため息をついてゲームを始める二人の後ろ姿を眺めていた。
02
四月。春が来て、私は三門第一高校に入学した。
ほぼ同時期に、葉子と華がボーダーに入隊した。
葉子は戦闘員として。
華はオペレーターとしての入隊らしい。
「入隊おめでとう、二人とも」
「ありがとー」
「織田作さんも、高校入学おめでとうございます」
「ああ。ありがとう」
ボーダーの食堂で二人に会うのは変な感じだ。白いC級隊員服を着た葉子も、オペレーター服を着た華も新鮮だった。
ちなみに葉子は私と同じで、銃手として入隊したらしい。
「これ、ささやかだが入隊祝いだ」
「なにこれ?封筒?」
「ああ。二人ともなにがほしいかわからなかったから、とりあえず5000円だ」
「は?」「え?」
二人に怒られてしまった。
葉子に怒鳴られるのは慣れっこだが、普段温厚な華に淡々と責められると本当に申し訳ない気持ちになる。
曰く、気持ちはうれしいが金は大事にしろとのこと。
あと葉子が口を滑らせて、私の生活費として香取家に渡している金が叔母と叔父の手により全て貯金されていることまで知ってしまった。
「どうしても祝いたいっていうなら私に
「別に構わないが、それだけでいいのか?」
「私がボーダーに入ったらなるだけ助けるんでしょ!?」
「わかった。訓練室を予約しよう」
「わかればいいのよわかれば」
「華、怒らせてすまない。入隊祝いには改めて食事でも行こう」
「そういうことなら構いません。近いうち日取りを決めましょう」
ボーダーの真ん中で中学生の女の子二人に怒られることになるとは思わなかった。
華はオペレーターの訓練研修に行ったため、私は葉子に銃をレクチャーすることにした。
葉子は持ち前の運動神経の良さからか、少し教えただけですぐに吸収していった。
銃の構え方、狙いの付け方、撃つとき、撃たないとき、フェイントをいれるタイミング。
教えれば教えるほど吸収する。
もちろん戦い方は千差万別だし、結局は葉子自身も自分のスタイルを見つけるしかないのたが、それにしたって葉子はあまりにも天才肌だった。基礎をやらずとも応用にいけるタイプの人間だ。
「そーいえば織田作って今ポイントどれくらい?」
「ポイント?…ああ、正隊員になってから見てなかった」
「ランク戦やってないってこと?」
「いや。友達とはよくやっている」
「…大丈夫なの?」
ポイントを確認してみると、現在は5748だった。
「マスタークラス目指せばいいのに」
「マスタークラス?」
「8000ポイントまで貯めると、マスタークラスになれるんだって。目指さないの?」
「まぁ、マスタークラスを目指すことが目的ではないからな」
ふーん、と葉子は興味がなさそうに言った。
葉子はそのマスタークラスを目指す意思があるらしい。
「じゃあ私ランク戦してくるから」
「行ってこい。お前ならすぐに正隊員になれる」
「当たり前でしょ、私天才だから」
忙しなく訓練室を出て行った葉子を見送り、あとからランク戦ブースへ向かった。
「マスタークラスか…」
個人ランク戦ブースは入隊したばかりのC級で賑わっていた。
…そういえば影浦のポイントはすでに私のポイントを超えていた気がする。前にランク戦をした際、随分増えていて驚いた。
影浦は戦いが好きなだけだと思っていたが、真剣にマスタークラスを目指していたのかもしれない。案外真面目な奴のようだ。
「お?マスタークラス目指すのか?」
「?」
肩を叩かれて振り向くと、見覚えのある顔が立っていた。
「よっ、織田」
「太刀川か。久しぶりだな」
「おう。最近見ねえから探したぜ。ランク戦すんのか?」
「いや。見ていただけだ。従姉妹が入隊したんでな」
「いとこ?」
あの子だ、と大画面に表示されている葉子の姿を指す。
「髪以外似てねえな」
「そうか?」
「でも戦い方は似てるな。お前の弟子?」
「?いや従姉妹だが」
「
「ああ。頼まれたからな」
「じゃあ弟子だろ。お前ほどじゃないが、強くなりそうだなー」
「…?」
弟子にした覚えはないのだが、太刀川の中では弟子ということで決着がついたらしい。
ボーダーの中では師弟関係を結ぶのが強くなるための近道なのだとか。それで勘違いをしたのかもしれない。斯くいう太刀川も忍田本部長直々の弟子だと迅が言っていた。
「おっと忘れてた。ちょいこっち来い」
「?」
太刀川は私に用があったらしい。言われるがままに着いていくと、少し離れたソファに三人の男女が座っていた。
どうやら太刀川と同じ隊のメンバーのようだ。二人の少年は太刀川と同じ裾の長い黒いコートに身を包んでいた。
「太刀川さん。いきなりどっか行かないでくださいよ」
「いやーすまん出水。知り合い見つけたもんでな」
「別に平気ですよ。その人は?」
一人は明るい髪色で、猫のような尖った目をした少年で、もう一人は耳までかかる黒髪の、凛々しい顔の少年だった。
「あー、なんかみたことあると思ったら織田くんじゃん〜」
最後の一人、オペレーター服を着た少女のことは知っていた。
「なんだ国近。知り合いか?」
「一高でおんなじクラスなんだよ〜。ね〜?」
「ああ」
国近柚宇とは同じクラスのため何回か話したことがあった。国近はゲームが好きだったし、私も葉子から受動的に得たゲームの知識があったため、話が弾んだのである。
しかしボーダーに所属していたとは今はじめて知った。逆に国近の方は、私がボーダーにいることを知っていたようである。
「織田作之助だ。銃手をしている」
私を知らないであろう二人に自己紹介すると、黒髪のほうが驚いた顔をした。
「あなたが噂の織田作さんですか。レイジさんから色々聞いてますよ」
「レイジさんから?」
黒髪のほうはレイジと知り合いらしい。
太刀川は黒髪の頭を雑に撫でながらメンバーの紹介をはじめた。
「この全身黒いのはとりまる。万能手で、レイジさんの弟子なんだよ」
「とりまるです。どうも」
「こっちの生意気そうなのがいずみ。射手」
「どもっす。出水公平です」
「で、こっちがオペのくにちかだ」
「どもども〜ここ座りなよ〜」
国近が隣をすすめてきたので、私はお言葉に甘え座らせてもらった。
私の正面には、太刀川がどかっと座る。
対面は男三人で窮屈そうだ。
「実はお前に話があってな」
太刀川は改まった様子で言った。
嫌に真剣だが、楽しそうな様子である。
「織田、お前俺のチームに入れ」
「すまないが断る」
「断るの早くね?」
太刀川は納得できないのか、口は笑いながらも目が笑っていなかった。私はどうしてよいかわからず、とりあえず見つめ返した。
「理由は?」
当然聞かれる質問である。
どう答えたものだろうか。素直に迅の予知があったからだと言っていいものなのだろうか。
一瞬迷った末、私は無難な答えを出した。
「一身上の都合だ」
「ふーん、いっしんじょうのつごうか」
「太刀川さん、意味わかってます?」
出水が横からツッコミを入れる。
太刀川は、ただじっとこちらを見つめていた。
いやににこやかな様子だ。
「ところでお前、迅と仲良いらしいな」
「ああ。最近世話になっている」
「ふーん」
2度目のふーんが入った。
「予知されてんだろ」
「………」
バレている。思えば太刀川のほうが迅との付き合いは長いのだから、こうなるのは当然かもしれない。
私は焦りを顔に出さないように努めたし、否定も肯定もしなかった。
しかし沈黙を肯定と取ったのか、太刀川は満足そうに口角をあげる。
「大体わかった。うんうん、予知されてんなら仕方ない」
「…すまないな」
太刀川は納得してくれたらしい。
私はほっと息をつきながらも申し訳なさを覚えていた。私の実力をかって隊に誘ってくれたのに、検討もせず断ったことに罪悪感を覚えたのである。
がしかし、話は終わっていなかった。
「ーーだけどやっぱりダメだ。俺はアイツの予知を
「えっ」
私は思わず声をあげる。
迅の予知を知りながら、それを覆そうとする奴を初めて見た。
太刀川にとっては、迅の言う最善の未来などどうでも良いらしい。私は、太刀川から迅に勝ちたいと言う強い意思だけを感じていた。
「勝負しようぜ、織田。俺…とは流石に勝負にならないから、そうだな…」
太刀川は、ちらりと横に座る出水を見た。
「よし、うちの出水と戦って、出水が勝ったら俺の隊に入れ」
「ちょっ、なに勝手に決めてるんすか!?」
出水が抗議するように立ち上がる。
私も冷静さを失ってはいなかった。
「俺が勝負を受ける理由がないだろう」
「理由ならある。迅の予知だ」
「!」
太刀川は食いついた魚を見るような目で笑った。
「お前はなんでか知らないけど、迅から『チーム入りするな』とでも言われてるはずだ。もしここで勝負を受けなかったら、俺たちは明日も明後日もお前を誘う。お前が俺のチームに入るまで誘い続ける。
ーーだがここでお前が勝てば、俺たちはもうチームに勧誘したりはしない。迅の予知を実現させるつもりなら、お前は俺との勝負を受けるべきなんじゃないのか?」
「………」
私は迅から太刀川隊への誘いを断れ、と命を受けている。
ここで勝負を受けなかったら、太刀川隊からの誘いを断りチームに入らなかったという未来が訪れないのかもしれない。
それならばここで勝利し、太刀川隊への参入固辞を明確にしたほうが、迅さんの言葉に従ったことになるのだろうか。
「わかった。口車に乗ってやる」
「いよっしゃ!出水。気張れよ」
「プレッシャーかけないでくれません?」
「何か面白いことになってきましたね」
「ね〜」
さすが俺らの太刀川さんだぜ!
次回、出水戦