今回は短めです
難産だった
01
「織田先輩ってナニモンなんすか?」
出水公平ら太刀川隊の四人衆は、個人ランク戦専用の狭いブースの中、話し合っていた。
太刀川隊は最近立ち上がった部隊である。東率いる東隊と戦いたくなった太刀川が、烏丸と国近を集め、それを口実に誘った出水を加えた。現在5人目に画策中の人物が織田作之助である。
出水以外の三人はクラスメイトだったり伝聞だったりランク戦(1回だけ)やったりとそれなりに織田作之助について知っていたのだが、出水はとんとあの仏頂面の男についてしらなかった。
あの太刀川が勝負してまで誘いたい新人とは何者なのか。出水はそれが聞きたかったのである。
「出水は織田についてどこまで知ってる?」
「この前入った大型ルーキーってやつですよね?銃手で二丁拳銃で、迅さんの弟子とかいう」
「本当に噂しか知らない系ですね」
烏丸は木崎から聞いたことを応えることにした。
「俺はレイジさんに、織田作さんは迅さんが玉狛に突然連れてきた銃手で、拳銃射撃の精度だけならボーダー1かもって聞いてますよ」
「マジ?ここにいないでオリンピック出たほうがいいんじゃないか?」
「普通の弾とアステロイドは違うからさすがに無理じゃないすかね」
残念。
織田作之助はやろうと思えば通常の銃も撃つことができる。というかそっちが本業である。
「あとC級のときに太刀川さんに勝ったって聞きましたけど」
「あー確かに1回だけ負けたな。そのあとは4回勝った」
「C級の時点で太刀川さんと1-4!?」
10回勝負なら2回は勝っていることになる。
太刀川は曲がりなりにもボーダーで最強クラスの攻撃手だ。C級の時点でその勝率なら、今ならもっと強くなっているかもしれない。
「太刀川さん、俺って織田先輩に勝てますかね?」
「うーんまず無理だな」
「はあ!?じゃあ太刀川さんが戦えばいいじゃないですか!」
「それじゃ俺が絶対勝っちまうからコーヘーじゃないだろ」
「まあ太刀川さんと1対1で戦って勝てる奴はなかなかいませんしね」
しかし、どうして太刀川は出水の敗北を確信しているのだろう。と烏丸は考えた。
確かに織田作之助は強い。そう聞いているし、戦績を聞いても勝てる気がしない。
だが出水公平は織田作之助よりも早くボーダーに入隊している。そのときから感覚派射手の名を欲しいままにしていた天才である。
「俺が勝てないと思う理由は二つある。まず、あいつのサイドエフェクトだ。
アイツには未来が見えるからな」
「!」
サイドエフェクト。
トリオン能力の高い人間が持つ超人的な感覚。戦闘に役に立たない能力もあるが、ボーダーにいるサイドエフェクトの持ち主は、たいてい厄介な使い方をしてくる。
味方にいれば心強いが、敵にいれば厄介極まりない。
それが未来予知ともなるとなおさらである。
「未来予知って〜、迅さんみたいな?」
「あれとはまた違うな。でも未来が見えてんのは事実だ」
太刀川は続ける。
「二つ目は単純な技術の話だ。さっきとりまるが言ってた通り、多分アイツはボーダー1拳銃射撃が上手い。
銃手の間合いから撃ってくる
そこに未来視が加わるともう手が付けられない」
「ゲームのチートキャラみたいだね~」
「逆になんで太刀川さんは勝てるんですか」
「……」
こんなキャラがゲームにいたらすぐに修正が入りそうである。強すぎるキャラはゲームバランスを壊してしまう。
出水は思わず沈黙する。どうしてそんな人と戦わなければならないのだろうか。しかも隊長命令で。
「でも勝てる可能性がないわけじゃない」
出水は顔を上げる。太刀川は口元に笑みを浮かべながら指をたてた。
「まず、お前が織田に勝ってるところが一つある。トリオンだ」
「トリオン」
「確かに織田の射撃は怖い。だがお前くらい高いトリオンがあれば必ずシールドで防げる。
逆にお前は得意の弾打ちで織田のシールドを突破できるはずだ」
「たしかに…!」
「あと戦ってみて分かったが、織田の見える未来ってのは多分めちゃくちゃ短い。長くても…5秒か4秒ってところだな。ならお前は5秒間で避けられない攻撃に徹すればいい」
「いや5秒って結構でかいっすよ。んー、具体的には?」
「そりゃお前に任せるけど、俺がぱっと思いつくのはメテオラ爆撃だな。狭い場所に押し込んでからの広範囲メテオラ。避ける場所がなければシールドごと押しつぶせる」
出水は考える。相手は二丁拳銃。高い確率でフルアタックをしてくるはずだ。
そのときの攻撃は恐ろしいが、フルアタックの間はシールドを張れないし、逆に言えば大きな隙ということになる。
狙うとしたらそこだろうか。
「相打ち覚悟でいけ。そうすれば勝敗はうやむやになるから、少なくとも迅の予知には勝つことができる」
「どんだけ予知が嫌いなんだこの人…」
出水は呆れた声を出したが、先ほどのような不安はすでに消え去っていた。
*
一方その頃、織田作はある人物に電話をかけようとしていた。
これから戦う出水公平について知るためである。
「もしもし。迅さんか?太刀川隊加入を断ろうとしたら出水と勝負になった。すまない」
『はははは。やっぱりなー』
電話越しの迅悠一は大笑いである。
「これも予知していたのか?」
『まあね。あの太刀川さんがタダで諦めるわけないし』
今まで織田作に射手・銃手対策を仕込んできたのもこのためだったらしい。
『そう落ち込んだ声出すなよ。大丈夫。未来は良い方向に進んでるから』
「……。わかった。それで、出水というのはどういう戦い方をするんだ?」
うーん、と悩みながらも迅は答えた。
出水公平はトリオン能力が極めて高い射手である。その腕は入隊時から天才と言われていた。弾トリガーの扱いに関しては頭ひとつ抜けているとか。
『だからとにかく撃って撃って撃ちまくってくる。シールドも固い。まあ大丈夫だとは思うけど、アドバイスはしとくね』
「アドバイス?」
太刀川隊のたむろするランク戦ブースに通信が入った。
織田作之助の通信である。
『太刀川。勝負のことだが、条件をつけたい』
「なんだ?」
『5本先取で頼む』
「おっ、いいねぇ」
『よろしく頼む』
5本先取
要するに先に5本取ったほうの勝ちである。
「よかったな出水。4回は負けられる」
「やめてくださいよ、縁起でもない…」
「応援してるからー頑張ってー」
「出水先輩。勝ったら太刀川さんが焼肉連れてってくれるらしいですよ」
「マジすか!?」
「おう。負けたらお前が奢れ」
「……相打ちだったら?」
「割り勘かなー」
『B級ソロランク戦 五本先取勝負 開始』
02
『B級ソロランク戦 五本先取勝負 開始』
アナウンスと共に体が転送される。
仮想空間で5メートルほど空けて、出水公平と織田作之助が向き合った。
出水は小手調べにアステロイドを出そうとし
「!?」
『トリオン供給器官破損』
次の瞬間には、なぜかトリオン器官が破損していた。
「な、…」
『緊急脱出』
織田 1 ○
出水 0 ×
出水は気がつけばランク戦ブースのベッドに戻ってきていた。
勝負の行方を見ていた烏丸は目を見開く。
第一試合の時間は、たったの3秒。転送された瞬間に終わってしまった。
「リスキルされたねー」
「すげー早撃ち。まだ隠し玉があったのか。射手の弱点を突かれたな、こりゃ」
「リスポーンしたばっかの一番無防備な状態を狙われたんだね〜。個人ランク戦じゃないとできない芸当だよ〜」
射手は、弾をそのまま打ち出すポジションだ。銃を構えればすぐに打つことができる銃手と違い、①弾を出す②分割する③撃つなどの工程により時間がかかる。
織田作之助は、出水がアステロイドを出す一瞬を狙い、その直前にトリオン供給器官を撃ち抜いたのだ。
「マズいな」
『第2試合 開始』
「あ!?」
『トリオン伝達系切断 緊急脱出』
織田 2 ○○
出水 0 ××
今度は転送された瞬間シールドを張ろうとした出水の眉間を、織田のアステロイドが貫いた。
目にも止まらないスピードで銃を抜き、相手がトリガーを使う前に仕留める。
シールドや弾トリガーを出すためのタイムラグは、織田作之助にとっては致命的な隙に他ならないらしい。
「コイツ、マジでやばいほんっとにやばい。シールドする暇も与えてくれないタイマンで戦って良い相手じゃねえ」
ベッドに戻ってきた出水が同じ部屋にいる太刀川隊に叫ぶ。
驚くべき早撃ちである。狙いをつける十分な時間もないのに気がつけば撃たれている。
「出水。次は逃げてみろ。試合が始まった瞬間どっかに隠れろ」
「……わかりました」
『第3試合 開始』
「っ、!」
転送された瞬間に左に避ける。
今度はアステロイドは飛んでこなかった。
出水はそのまま路地の中を走り、手の中にハウンドを出す。
「ハウンド」
レーダーを見ながらいくつかハウンドを撃ち出す。これで倒せるとは思っていないが、足止めにはなるはずだ。
着弾位置を確認もせず、そのまま路地に逃げ込む。
「…シールド!」
しかし嫌な予感がしてシールドを張る。
予想通りアステロイドがシールドに着弾した。
「!?」
見上げると、住宅の屋根の上から織田がこちらに銃を向けていた。
ハウンドをいなして追いかけてきたようだ。
「うお足はや!ハウンド!」
「!」
出水は手元に残していたハウンドを素早く織田作之助に放つ。
織田作之助は少しその場でハウンドを引き付け、屋根から飛び降りた。背後で先ほどまで乗っていた家が崩落していく。
時間差をつけられ、高く打ち上がったハウンドがさらに織田に飛んでいく。
出水の視界から、織田の姿が路地に消えていった。
(……?シールドを使わなかった)
今の場面は、シールドを使って出水に攻撃しても良さそうな場面だ。
どうして逃げるような真似をする?
出水がシールドを張っていたからか?
時間差でハウンドが迫っていたからか?
(!あの人、もしかして…)
出水は手にもう一度ハウンドを出した。
一方その頃、織田作はハウンドを避けるため路地に入っていた。前に迅とやったように引き付けてから適当なブロック塀の裏に入りやり過ごす。
「!」
しかし、ハウンドが壁を突き破って迫ってくるのを「見た」織田作は、慌ててその場を離れた。
振り向くと、壁を突き破ったハウンドが先ほどまで自分がいた場所をハチの巣にするのが見えた。
「なるほど、これがトリオン差…」
出水公平のトリオンでハウンドを撃つと、下手な建造物は木っ端微塵になるらしい。
もしシールドを張っても時間が経てば削り殺されるな、と織田作は考える。
「それに…」
織田作は建造物越えて降り注ぐハウンドの雨を避けながら、レーダー上で追ってくる出水の姿を見やった。
(どこかに誘導されているな…)
織田は考える。
この誘導に乗るか、離脱するか。
「ここはあえて乗る」
織田作はぴたりと足を止める。
途端、目の前を塞ぐようにハウンドが降り注ぐ。
こちらには行ってほしくないらしい。
(この先になにがある?)
自分が走る方向を見やる。
狭い路地が続いているだけの普通の住宅街だ。
地図上でも大して変わらない。
レーダーでも、出水は相変わらず背後から追ってきている。
「!?」
角を右に曲がったとき織田は目を見開き、そして足を止めた。
止めざるを得なかった。
具体的には、道の真ん中に破壊された住宅が積み上がり、完全に道を塞いでいた。
東西南北全ての道がご丁寧にも瓦礫の山だ。
出水公平は、ハウンドで織田作を攻撃する傍ら、家を破壊して逃げる場所をなくしていたようだ。
どうやら出水が手ずから作った袋小路に誘い込まれていたようである。
「メテオラ」
織田作が顔を上げると、屋根の上から出水公平がメテオラを撃ちだしているところだった。
爆撃音が響く。
『トリオン供給器官破損 緊急脱出』
織田 2 ○○☓
出水 1 ☓☓○
03
「おー勝ったー!」
国近が声を上げる。
出水公平の初白星である。
「うまいこと罠にはめたな」
ベッドに戻ってきた出水に太刀川が声をかける。
太刀川の提案したメテオラ爆撃もうまくいった形になる。
「気づいたんスよ。あの人、シールド張るの慣れてないですね」
「シールドを?」
烏丸は驚いた。シールドはボーダー隊員のほぼ全員が2つ装備している優れものだ。
それを
出水は続けた。
「未来が見える弊害ってやつだと思います。避けれる攻撃は全部避ける。防ぐって発想がない。だからハウンドでひたすら狙い打てば、全部がんばって
誘導しやすかったですよ、と上機嫌に出水は言った。
「織田先輩の見える未来が短いってのもホントでしたね。罠に気づいた様子がなかった」
「アイツと戦うときは罠に嵌めんのが一番楽だな」
太刀川は笑う。
仮にもチームメイトに誘っている男をなぜ罠に嵌める算段をつけているのだろう。
「じゃあ次も勝ってきます」
『第4試合 開始』
自分の中の織田作が最強すぎて出水を勝たせるビジョンが湧きませんでした。
だけど出水が天才だったおかげでなんとかなりました。
追記:加筆修正しました。コメント欄みてて転送距離確かに短えなって思ったので。アニメ版のヒュース対生駒ランク戦とか見て思ったんですけど攻撃手って割と転送近いですよね。どれくらいの距離で転送されるんだろう。孤月の間合いもあるし2メートルとか?