魔王「勇者の髪の毛か? 欲しければくれてやる。探せ! あちこちにバラまいてやった!」

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爆誕、勇者ハゲ!

 

 魔王との最終決戦。

 勇者ハクは、ついに宿敵たる魔王にトドメの一撃を刺した。

 

「ぐああああ!? おのれ勇者! このままただではやられんぞ! 喰らえ! 『一生ハゲになるビーム』!!」

「のわああああ!!?」

 

 しかし魔王は最期の悪あがきとばかりに勇者に呪いをかけた。

 

「勇者くん!?」

「勇者さま~!」

「ハク殿! ご無事か!?」

 

 謎の光線を浴びた勇者を心配して仲間たちが駆け寄る。

 

「だ、大丈夫だ。不思議と痛みはない。だが魔王はいったい俺に何を……」

 

 ファサ、と勇者ハクの頭から糸状のものが落ちる。

 それは勇者ハク自慢の砂金のごとき光沢を放つ髪であった。

 

「なっ!? こ、これは!」

 

 勇者ハクの頭部から次々と髪が重力に従って抜け落ち、風と共に空の彼方へと去っていく。

 

「あ、ああ、髪が……俺の髪がぁぁぁぁ!!」

 

 勇者ハクは己の頭部を両手で触る。

 そこにはいつものフサフサとした感触がすでにない。

 ツルツルとしたまっさらな平原があるのみ。

 人それを、ハゲと呼ぶ。

 

「ゆ、勇者くんの髪が! ……ぷっ、え、ええ? お、お坊さんみたいになっちゃったね勇者くん? ぷ~くすくす!」

「勇者さま、ツルツル~♪」

「ぶふっ!? か、髪がなくともハク殿は素敵でございますよ? ぶふっ!!」

「……お前ら笑うなぁぁぁぁ!!!」

 

 長年人類を苦しめてきた恐るべき魔王は、勇者の手によって滅びた。

 だがその代償として、勇者はハゲとなった!

 

 

    * * *

 

 

 勇者一行は魔王討伐の件を国王に報せ……る前に真っ先に育毛クリニックに足を運んだ。

 どんなハゲも驚異的な再生魔法で毛根を復活させると評判の店であった。

 だが、そこの店主は勇者のハゲ頭を見て、驚愕に目を見開く。

 

「こ、これは!? 完全に毛根が死滅している!」

「なにぃ!? 治せないってことか!?」

「残念ですが勇者様、強力な呪いがかけられております! いかなる手段であっても毛が生えないという呪いが! さすがは魔王! なんという恐ろしい呪いだ!」

「ちくしょう! 魔王の野郎! 最期にとんでもない呪いを押しつけやがって!」

 

 勇者ハクは泣いた。

 どんな苦難でも決して涙を流さなかった勇者は、子どものように泣いた。

 

「俺はハゲのまま王国に戻らねばならないのか!? 民や国王にこのハゲ頭を曝せというのか!?」

「お、落ち着いてくだされ勇者様。とりあえずカツラをご用意いたします。気休めではございますが、当面はこちらで誤魔化されるがよいでしょう」

「むぅ……致し方ないか」

 

 まさか自分が国王のようにカツラを被る日が来るとは勇者は思いもしなかった。

 とりあえず国王のように不自然なほどに髪を弄らなければ、バレないはずだと信じて勇者は渡されたカツラを被る。

 

 スポン♪

 

 しかし被った途端、カツラは吹っ飛んだ。

 

「どういうことだ!?」

「な、なんということだ! 魔王の呪いはカツラすら弾いてしまうようですな!?」

「冗談じゃないぞ!? ちくしょう! 頭に乗れカツラ!」

 

 しかし何度やってもカツラは頭皮に触れる直前に「スポン♪」とアホっぱい音を立てて吹っ飛ぶ始末であった。

 試しに帽子を被ってみても同じだった。

 どうやら勇者ハクはハゲ頭を隠すことすら許されないようであった。

 

「そんな! 俺はこのまま一生ハゲとして生きろというのか!?」

「べつにいいんじゃないそれでも? すっきりしていい感じだよ?」

 

 落ち込む勇者を慰めるのはパーティーのお姉さん的存在、魔法使いのアズであった。

 

「むしろ私たちにとっては勇者くんハゲになってくれてよかったよ」

「なんでだよ!?」

「だって勇者くんがヘアセットに一時間もかけるせいで出立にいつも時間かかるんだもん。手間が減ってよかったじゃない♪」

「よくねえ! あの金髪は俺にとって自慢だったんだよ!」

 

 「長い友」と書いて「髪」と読む。

 毎日鏡を見ながらうっとりと見つめていた親友が消失してしまったのだ。

 これを悲しまずにいられようか。

 

「わーい♪ 勇者さまの頭ツルツルー♪ スベスベで気持ちいい♪ ジュリー、こっちのほうが好き~♪」

「ジュリー! すごい無邪気な笑顔で残酷なこと言わないでくれるかい!?」

 

 勇者ハクの頭に乗ってご機嫌に笑うのは妖精(フェアリー)族にしてシーフ担当のジュリー。

 もともと言語を必要としない種族のため、簡単な人語しか使えない小型の少女だ。

 取り繕うことのない直球な言葉を前に勇者に心理的ダメージが突き刺さる。

 

「ハク殿! 元気を出してください! たとえ毛根を失おうとあなた様の誇りが失われるわけではございません! あなた様は魔王を倒された! この偉業は決して覆りませぬ!」

「エル……」

 

 熱烈に勇者ハクを励ますのは、彼を敬愛してパーティーに参入した女騎士エル。

 

「自慢の毛根が失われ、さぞ悔しかろうとは思いますが……どうか胸を張って凱旋していただきたく思います! 王も国民も、どのような姿になろうと平和をもたらしたあなた様を温かく迎え入れてくれることでしょう!」

「……そうだな。エルの言うとおりだ。わかった! 勇気を出して王国に帰ってみよう!」

「それでこそ我が勇者! さすがですハゲ様!」

「ハゲ様つったかお前!?」

「あっ!? すみませぬ! つい間違えました! ……ぶふっ!」

「テメーさては俺がハゲ頭になって一番ツボッてんな!?」

「そ、そのようなことは決して……ぶふっ!」

「頭見るたびに吹き出してんじゃねえよ!」

 

 結局、王国に戻ることを嫌がった勇者を説得するのに三日を要するのだった。

 

 

    * * *

 

 

 かくして勇者ハクたちは国王城に到着。

 顔見知りの門番がいつものように快く通してくれるはずだったが……。

 

「そこのハゲ止まれ! いったい何者だ!?」

「俺だよ! 勇者だよ! この聖剣が目に入らぬか!?」

「そ、それは勇者しか持てぬ伝説の聖剣!? ……え? マジで勇者様? ……ぶっ! ど、どうしたんすか? その頭は?」

 

 門番たちも勇者のハゲ頭を見て笑いを必死に堪えていた。

 ここまで来る途中も民たちには笑われ、無垢な子どもたちには「勇者さまハゲだー!」とおもしろそうに指を差されたのだ。

 

「……やっぱり帰る。俺、このまま森でスローライフする」

「もう! せめて王様に魔王討伐の報告をしてからにしなさい!」

 

 アズに説教され、勇者ハクはしぶしぶと国王の間に向かった。

 

 

 

「何やつじゃ! 貴様のようなハゲなぞワシは知らんぞ!」

「アンタもかい! 俺、勇者ですよ! ほら聖剣持ってるでしょ!」

「……あ、確かに勇者じゃ。髪がないと誰かわからんの~。個性のない顔じゃからな~」

「なに? 俺ってば髪で識別されてたの?」

 

 とりあえずコトのあらましを勇者一行は国王に伝えた。

 

「そうか。魔王の呪いによって髪が……」

 

 勇者に起きた惨劇を聞き、国王はその瞳に憂いを込めた。

 国王はゆっくりと王冠の下のカツラを抜き取り、勇者に向かって腕を広げた。

 

「……同志よ」

「やめて!? 嬉しそうに抱擁しようとしないで!」

 

 ワシはお前の気持ちが痛いほどわかるぞ? とばかりに近づいてくる国王を勇者ハクは必死に拒否した。

 勇者ハクにとって抱擁されたい存在はべつにいるのだから。

 

「勇者様!」

「っ!? 姫!」

 

 いままさに頭に思い浮かべていた存在が現れる。

 傾国の美女と呼ぶにふさわしい姫君であった。

 しかもバスト105cmのKカップ。ウエスト56cm。ヒップ90cmと、まるで抜きゲーの世界から飛び出してきたかのような股間に大直撃ドスケベセクシー悩殺ダイナマイツボディの持ち主である。

 魔王を倒した暁には、この姫と結婚すると約束していた。

 愛しの姫君を前に、勇者ハクは恭しく頭を垂れる。

 

「姫。約束通り、魔王を討ち果たし、無事に帰還いたしました」

「勇者様……約束を守ってくださったのですね?」

「はい。あなたを思わぬ日はございませんでした。愛しき姫よ」

 

 勇者ハクはまさにこの瞬間のために戦ってきたのだ。

 はじめて会ったその日から、姫と約束していたのである。

 魔王を倒したご褒美に「あーんなことやこーんなことズッポリヌップリそりゃもう凄いことしてあげます♡」と。

 いままさにその夢が実現しようとしている!

 

「わたくしも、勇者様の帰りを待ちわびておりました。ですが……」

「ですが?」

「……なんでハゲになっちゃったんですか!? いやです! ハゲを旦那様にするのだけはいやあああああ!!」

「そんなあああ! 姫様あああああ!!」

 

 勇者ハクはあっさりフラれた。

 所詮、見た目だけしか見ていない女だったのである。

 

「辛いよね? ハゲって理由だけで嫌われるの。わかるよ。ワシも『お父様、カツラ見苦しいです!』って言われてから口も聞いてもらえてないもん」

「やめて? 同類扱いするのマジやめて?」

 

 国王に肩をポンポンと優しく叩かれ、勇者ハクは余計に惨めな気持ちになった。

 

 

    * * *

 

 

 姫との婚約は破棄されたものの、魔王を滅ぼした英雄を讃えないワケにはいかない。

 盛大なパレードが幕を開いた。

 誰もが勇者の(物理的にも)輝かしい姿を前に賛美を送り、ときどき吹き出しながら声援を送った。

 

「勇者ハク万歳!」

「ハゲ万歳!」

「ハゲェェェ!」

 

 途中から悪ノリした連中もいたが、民に手を出すわけにはいかないので勇者ハクは頭中に青筋を立てながら堪えた。

 国中が勇者ハクに感謝を伝え、その偉業を語り継ぐべく、早速銅像が各所に建てられた。

 実に逞しいハゲ頭の勇者の銅像が。

 

「なんでハゲにしてんだよ!? フサフサだった頃の姿を銅像にしてくれよ!?」

「何をおっしゃいますか! 髪を代償に魔王を討ち滅ぼしたという英雄譚を後世に正しく伝えるべきでしょう! 何より『ハゲでも偉大な存在になれる』とすべてのハゲたちに勇気と希望を与えることにもなるのですから!」

「俺はもともとハゲてねえんだよ!?」

 

 歴史家と彫刻家の美学を揺るがすことはできず、かくしてハゲ頭の勇者の銅像はあちこちに造られることとなった。

 無論『勇者ハクの銅像』と書かれたプレートに各地のいたずらっ子が『ハゲの銅像』とラクガキするのは必然の理であった。

 

「……オレ……モウ、人前ニ出ナイ……」

 

 パレードが終わった後、勇者一行はこっそりと王国を抜けだして森の中に入った。

 勇者は体育座りをして落ち込んだ。

 なぜだ? なぜこんなことに? 魔王を倒したのに、この結末はなんだ?

 あまりに無慈悲な末路に勇者は膝に涙をこすりつけた。

 

「今頃姫様のあの爆乳を好き放題しているはずだったのに! すべては髪を失ってしまったせいで! おのれ魔王! 絶対に許さねえ! ぶっ殺してやるううう!」

「いや、もうぶっ殺したんだって」

「うるせえぞアズ! お前の正論なんて聞きたかないんだよ!」

「まあまあ、元気出しなって。ていうかあの姫様、いろんな男と遊んでいる清楚ビッチって噂だよ? むしろフラれて良かったんじゃない?」

「やめて! 聞きたくないそんなこと!」

 

 アズの無慈悲な言葉に勇者ハクは耳を塞ぐ。

 

「……そんなにおっぱい揉みたいなら私のいくらでも触らせてあげるのに」

 

 勇者ハクが耳を塞いでいるのを見計らって、アズはこっそり本音をこぼした。

 姫様ほどではないが、豊かな膨らみが揺れる。

 されどこのハゲ勇者は生粋の爆乳好き。

 下位互換なぞには目もくれないようで、まったくアズを女として見ない始末なのである。

 ……だが、それもいまや昔の話になるであろう。とアズは睨んでいた。

 なぜならハゲを恋い慕う女性など、そう現れないであろうから。

 

「勇者くんがハゲになってくれたおかげできっとライバルも減るよね!」

「そうですな。いくら勇者といえどハゲ頭と添い遂げたい物好きな娘はおりますまい。いまがチャンスですぞアズ殿!」

「アズ~、がんばれ~♪」

 

 すでにアズの気持ちを知っている二人は快く声援を送った。

 そう、勇者ハクが傷心しているいまこそがチャンスである。

 世界も平和になったことであるし、長年の気持ちを打ち明けるときだ。

 

「こほん。えーと、勇者くん? 私はたとえ勇者くんがハゲでも気にしないよ? むしろそっちのほうが愛嬌あってますますいいというか……」

 

 モジモジとしながらアズが告白をしようとした途端、勇者ハクはとつぜん立ち上がった。

 

「……髪だ。俺の髪の気配を感じる」

「は?」

「俺にはわかる。近くに……近くに俺の髪がある!」

「ちょ、ちょっと勇者くん!?」

 

 とつぜん意味不明なことを口にしながら、勇者ハクは森の奥へと走っていった。

 慌ててアズたちも追いかける。

 

「あ、あれは!?」

 

 しばらく走っていると、森林の向こう側に巨大な影があることに一行は気づく。

 大型の魔物であった。

 

「ど、どうしてここに大型の魔物が!? 魔物避けの防護結界が王国に張られているはずなのに!」

 

 しかも魔王城で戦った上位レベルの魔物だとアズはすぐに見抜いた。

 明らかにこのような土地にいるべきで魔物ではなかった。

 どうあれ、ここで倒さなければ王国に被害が出るかもしれない。

 魔王は滅んだが、危険な魔物はまだあちこちに点在している。

 勇者パーティーとして見過ごすワケにはいかない。

 アズを始めとした女性陣たちは颯爽と武器を構えた。

 

「勇者くん! とりあえず、いつも通りの陣形であの魔物を……」

「……見つけた」

「ゆ、勇者くん?」

 

 勇者ハクは涙を流していた。

 魔物に向けて、震える指を差し出す。

 

「髪の毛だ! 俺の髪の毛があの魔物にくっついているんだ!」

「は?」

 

 感涙を流している勇者ハクの言葉にアズは真顔になる。

 試しに魔王の体を魔力を込めた瞳で観察してみる。

 すると、感じ取れた。

 魔物の体に馴染みのある気配を宿した一本の異物が付着していることを。

 

「っ!? ほ、本当だ! あれ、勇者くんの髪の毛だ!」

 

 魔法使いにとって髪の毛は有用な触媒のひとつである。

 ゆえに魔法使いであるアズはすぐに理解した。

 勇者であるハクの髪の毛が、あの魔物を凶暴化させているのだと。

 

「……どうやら魔王城から散らばった勇者くんの髪の毛があの魔物にくっついてしまったようだね。そしてその髪の毛をエネルギー源として魔力が増大しているんだ!」

「なんと!? さすがはハク殿の髪の毛! 毛の一本だけであそこまで恐ろしい魔物に変えてしまうとは!」

「勇者さまの毛、やべ~」

 

 やはり腐っても勇者は勇者。

 毛根の一本だけでも、とんでもない影響力を与える。

 

「とにかく、あの魔物を放置するわけにはいかない! 勇者くん! すぐに倒して……」

「うおおおお! 俺の髪の毛、返せえええ!!」

「うわあああ!? いきなり必殺技撃つなああああ!!」

 

 予告もなく、いきなり大技を放って魔物を瞬殺する勇者ハク。

 明らかなオーバーキルで森にクレーターができてしまった。

 

「髪の毛ぇぇぇ!」

 

 必要以上の森林破壊も気にせず、勇者ハクは魔物の死骸から剥がれた髪の毛に飛びつく。

 すると、不思議なことが起こった。

 一本の髪の毛が光を発したかと思うと、勇者の頭部の天辺にくっついたのである。

 

「ゆ、勇者くんに髪が!? たった一本だけど……魔王の呪いが発動してない!」

「と、ということは呪いが解けたということですか!?」

「う、ううん。呪力はまだ働いている。でも……あの髪の毛からはそれを感じない。どうやら魔物を倒したことで、魔王の呪力が解けたみたい」

「なんと!」

 

 アズの言葉を聞いていた勇者ハクの瞳に輝きが戻る。

 

「つまり、取り戻せるのか? 俺は髪の毛を、取り戻すことができるのか!?」

「た、たぶん。さっきみたいに髪の毛がくっついた魔物を倒したりすれば……でも、いくらなんでも全部の髪の毛を探すなんて無茶だよ!」

「……その心配はなさそうだぞアズ」

「え?」

「見ろ。俺の髪の毛が次なる髪の毛の位置を教えてくれている!」

 

 見てみると確かに勇者ハクの頭部に一本だけ蘇った毛がピンピンと方向を指すように動いていた。

 

「うわ、キッショ」

 

 思わずそう言ってしまうアズだった。

 

「どうやら各地に散らばった俺の髪の毛は魔物たちに良くない影響を与えているようだな……このままではいかん! 勇者として俺が責任を持ってすべての髪の毛を回収する! そして俺はフサフサだったあの頃に戻る! 勇者の銅像を造り直させてみせる!」

 

 瞳と頭部を輝かせながら、勇者は宣言した。

 

「俺は再び旅に出る! 皆とはここでお別れだ! これまでよく助けてくれた……君たちへの恩は決して忘れな……」

「ちょっとちょっと! なに解散みたいな流れになってるの!? 私はまだ勇者くんと一緒にいるからね!」

「……え?」

 

 アズの思わぬ言葉に勇者ハクは呆とする。

 

「なに意外そうな顔してるの!? だいたい勇者くん、私がいないと炊事も洗濯もできないでしょ!? 誰が勇者くんの面倒見るの!」

「ぐっ……だ、だがやっと魔王との戦いが終わったんだぞ? 皆だって、それぞれやりたいことや行きたい場所があるだろ?」

「であれば、わたくしも同行せずにはいられませんな」

「ジュリーも~」

 

 アズだけでなく、他の女性陣も同行する気満々だった。

 

「もとよりわたくしはハク殿のお役に立ちたくてパーティーに参入したのですから。ハク殿がお困りならば、手を貸さないワケにはいきますまい」

「ジュリー、魔物から助けてもらった恩返し、まだした~い」

 

 エルは誓いを立てる騎士のごとく敬礼をし、ジュリーは甘えるように勇者ハクの頭にひっついた。

 

「そういうわけだから、前と変わらずこのパーティーで旅に出るよ! そもそも勇者くん、私たちがいないと無茶ばっかりするんだから。誰かが見張ってないとね」

「お前たち……くっ! 俺は、幸せ者だな」

 

 仲間たちの温かな思いやりに、勇者ハクの瞼に頭部と同じ煌めきが閃いた。

 

「よし、行こう! 俺の髪の毛を取り戻す旅に! 皆、協力してくれ!」

 

 かくして、ハゲとなった勇者による毛根を取り戻す旅が始まるのであった。

 

「……しかしアズ殿、良いのですか? このままですとハク殿はフサフサに戻ってまたモテモテになってしまうかもしれませんぞ?」

 

 勇者ハクに聞こえないように、エルはこっそりアズにそんな耳打ちをする。

 

「まあ、当面はハゲのままだろうし……その間にじっくり堕としてやるつもりだから♪」

「なるほど。恋する乙女は逞しいですな」

 

 そんな恋バナをしている二人の前方で、ジュリーはいつものように勇者ハクの頭の上に乗っかっていた。

 勇者がハゲになってからは特に乗り心地がよくジュリーは気に入っていたのだが……。

 

「……ん~。この髪の毛、痒くて邪魔~!」

 

 ブチッ!

 無邪気なフェアリーは容赦なく一本しかない髪の毛を毟り取った。

 

「ぎゃああああ!! なにしとんねんこのチビスケ~!?」

「やっぱりツルツルのほうがいい~♪」

「そんなに可愛らしく言ってもメッですよ~!? 俺はフサフサに戻りたいの~! ああ~行かないで俺の髪の毛~!!」

 

 夕日に向かって舞い踊る一本の毛を追って、勇者は空高く跳んだ。

 夕日の光がハゲを煌めかせ、実に眩しい光景であった。

 

「……これ、髪を取り戻してもジュリーがすべて毟り取ってしまうのでは?」

「それならそれでもいいけどね。私、惚れた相手はハゲでも愛せるから♪」

 

 はたして勇者ハゲは……ではなくハクは無事に髪を取り戻せるのだろうか。

 そしてアズの思いは報われるのか。

 どちらにせよ、末永く爆発しろこのハゲ。

 


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