【完結】旅の終わりに:TS転生者と転移勇者の話 作:WhatSoon
王都エルティナの城下町。
そこは活気ある都だ。
やはり首都という事もあり、物流の中心となっている。
だから、様々な物が売られている。
街の外から仕入れた食物や、それを使った料理。
工芸品や、魔道具も。
街の中央通りは商店が並んでいて、見ていて飽きはしない。
「……確か、旅に出た初日も一緒に回ったよな」
「そうだね。あの時は、城の外に出たのは初めてだったから、何でも新鮮に感じたよ」
ユースケとそんな会話をしつつ、焦点の前を通り過ぎる。
今、俺とユースケの二人っきりだ。
ジェーンも居ない。
……お忍びで、城から抜け出して来たんだ。
じゃなけりゃ、第九王女が意味もなく城から抜け出せはしない。
ユースケの格好は旅に出ていた頃の装備だ。
厚めの生地のシャツとズボン。
なんというか、冒険者っぽい感じ。
俺の格好は普通の村娘って感じだな。
薄い茶色のワンピースに、深い緑色のカーディガンを羽織っている。
「今は見慣れたか?」
「まぁ……一緒に冒険したからね。色々な物も見られたし」
「ふーん……ま、俺も旅に出るまでは、殆ど城の中に居たからな。同じような気持ちだな」
「あれ?あの時……城下町に初めて来た時、行き慣れてるような顔してたような……」
「ばーか。そりゃ、横に緊張して迷子みたいな顔してる奴がいたら、少しは年長面したくなるだろ?」
「……気を使ってたんだ」
「おう、あの時はな。今は、使ってないけどな」
ユースケは俺に歩幅を合わせてくれている。
身長、コイツの方が高いからな……普通に歩いてりゃ、少しずつ差が開いちまう。
だから、ゆっくりと……俺に歩幅を合わせて、並んで。
店頭に並べられた商品を物色する。
「このデカいやつ、何だと思う?水を出す魔道具だってよ」
「……うーん、低出力な水魔法を行使するって事だよね?」
「そうだな。ま、飲料水の不足は旅じゃ死活問題だからな。俺みたいな魔法使いが居ないパーティなら、馬車に一台ぐらい乗せてもいいかもな」
「でも、これだけ大きいなら水の樽でも載せた方が良くない?」
「……それもそうだな」
初めて来た時は、何でも不思議そうに見てたよな。
そんなお前に、俺はあーだこうだと説明していたのを覚えてるよ。
人生二周目、精神年齢なら歳上の俺からすればユースケは子供みたいなもんだった。
「……うん、この鳥串、結構いけるね」
「当たりだな。香辛料が大量に入っていて、肉本来の臭みを感じづらい」
今はどうだろう。
ユースケを子供だとは思っていない。
旅の中で彼は成長して……俺の意識は変わった。
対等な相手だと、俺は思っている。
「このアクセサリーかっこよくない?」
「悪くないな。でも、お前には似合わないと思うぞ」
「え?そうかな……?」
「買うなら、そっちのブレスレットにしとけ」
「……うーん、これだと剣を振る時に邪魔になりそうだから」
「じゃあ、そのネックレスは?」
「……首を掴まれた時、絞まって弱点になるかも──
「文句の多い奴だなぁ」
「……ごめん」
言い争いだってできる。
互いに尊重しながら、それでも本音を言い合える。
この関係性が、俺はどうしようもなく好きだ。
信頼と、親愛と、友愛……それらが俺達の関係を形作っている。
「げ、この店、『ラブフルーツ』の酒売ってんぞ」
「え?あ……うわ、本当だ」
「恋人同士にオススメって……つまり、そういう事だよな」
「うん、そういう事だね……これ」
この関係を壊したくない。
だけど、それでも、その先の関係性を手に入れたい。
俺はユースケの手に触れた。
「……なぁ、手、繋ごうぜ」
「え?」
「こうも人が多いとさ、逸れちまいそうだし」
「……う、うん。いいよ」
俺の手の上から、ユースケの手が重なる。
剣を握るのに適した、強い……骨ばった、男の手だ。
そんな手に胸を高鳴らせつつ、俺はユースケへ視線を向けた。
「でさ、何か用事あったんじゃなかったのか?」
「え?」
「来たかったんだろ、城下町。何か理由があったんじゃないか?」
「理由は……あるけど。でも、ミリアと一緒に来たかっただけだよ」
「ん?……そうか?」
「……ダメだったかな」
「いや、別にいいけど……」
二人で出掛けたかっただけか。
なんだ……もっと何かあると思ったんだが。
内心の緊張を解きつつ、街の中を歩く。
……俺だけが何か緊張してて、バカみたいだな。
先日の返事を……俺の事が今も好きか、に対する返事を返して貰いたい。
だけど、急に返せって言っても訝しまれるだけだ。
少し、牽制をするか。
「ユースケ、ちょっと質問していいか?」
「うん、いいけど……?」
「お前さ……結局、愛人とか妾とか作る気出来たか?」
「……ううん、作る気はないけど?どうしたの?」
「いや、ちょっと気になっただけだよ」
仮初とは言え、俺は嫁だ。
そんな嫁に対するリップサービスなのかも知れない。
ちょっと揺さぶりをかけよう。
「いつでも作っていいからな」
「え?」
俺はそう口にして……その瞬間、凄くいやな想像をした。
作った妾の所に足繁く通うユースケ……そして、毎夜、涙で枕を濡らす俺を。
「……やっぱ作んな」
「え……いや、元から作る気ないよ?」
勝手に変な妄想して落ち込んでるの、ヤバいな俺。
どんなメンヘラ女なんだよ。
ユースケへ視線を戻す。
「…………」
顔は悪くないんだよな。
「……な、何?顔に何か付いてる?」
ちょっと中性的で、男っぽさが少ない。
威圧感のない、優しい顔だ。
だから、その気になれば愛人ぐらいすぐ作れそうだ。
……実際、旅の途中、コイツに惚れてる現地人もいっぱい居たしな。
優しいからなぁ。
ピンチの女の子を颯爽と助ける度に、甘い視線を向けられていた。
その度に俺が敵視されていたのを覚えてる。
「あのー……ミリア?どうしたの?」
「ん?あぁ……変な顔だなって」
「え、ひどい……」
「嘘だ、嘘。冗談……8点って所だな」
「それって何点満点で?」
「……お、ここのパンケーキ美味そうじゃないか?」
「ちょっ、ミリア……?」
ユースケを振り回すような冗談を言って、揶揄って……だって、ユースケのこの顔が、こう、母性本能をくすぐるんだよな。
って。
……いや、俺の悪い癖だな。
愛想尽かされたくないし、辞めないと。
後頭部を掻いて、ユースケと向き合う。
「……なぁ、ユースケ」
「うん?」
そろそろ、こうやって自由に抜け出せる時間も終わりを迎える。
あまり城内から離れ過ぎると、お忍びで来た意味もなくなってしまうからな。
だから……今、どうしても訊きたい事を口にする。
震える手を押さえながら。
「お前さ……まだ、俺の事が──
「あ、ごめん!ミリア、もう一箇所だけ、行きたい場所があるんだった……!」
質問を途中で遮られた。
……恐らく、意図的に。
その意味はきっと、答えたくないからだ。
そうに違いない。
俺の質問に返答すれば、俺が傷付くと……そう思ってるからだ。
だから、その回答は……『まだ俺の事が好きか?』という質問に対しては……きっと──
『好きではない』なんだろうな。
「……そ、そうか。じゃあ、行こうか。あまり遅くなると、ジェーンにも悪いしな……」
……大丈夫だ。
俺はこんな事では落ち込んだりしない。
分かりきってた事だ。
最初から想定していた事だ。
それでも、ユースケは俺を傷つけまいと返答を濁してくれた。
嫌われるよりはマシだ。
これからも……このままでいられるなら。
そう考えれば……よし、いつも通りの顔だ。
「……その、ミリア。行きたい場所っていうのは、『光の丘』なんだけど……」
「……あそこか?遠くないか?」
この城下町から少し離れた所にある丘だ。
旅の始まりの日、俺達は城下町から出てそこへ向かった……覚えてる。
「僕が担いで行くから」
「……担ぐな。せめて背負え、バカ」
「あ、ごめん……じゃあ背負うね?」
「そうしろ」
いや、背負われるのも嫌だが。
俺を背負ってまで行きたいと言うなら、付き合ってもいい。
ユースケが俺の事を友人として見ていても、俺はユースケのことが好きだから。
「じゃあ──
「待て待て、街の外に出てからだろ……!恥ずかしいだろうが」
「そ、そうだね。ごめん」
「まったく、デリカシーがないよな……」
「う、気を付けるよ……」
「ったく」
自分でも分かる。
笑みがぎこちない事に。
それでも、俺はユースケの手を離せなかった。
離したくなかった。
『光の丘』とは通称だ。
ちゃんとした名前はなく、地図にだって書かれていない。
小さな丘の下には、廃坑した鉱脈があるだけだ。
そこには昔、魔道具の元となる『魔晶』という魔力を秘めた結晶が埋蔵していた。
炭鉱夫達によって、鉱脈は掘り進められた。
『魔晶』は青い光を放つものほど、多く魔力を秘めていた。
対して、色の付いていない白い光を放つものは、殆ど魔力を持っていなかった。
炭鉱夫は価値ある青い『魔晶』を持ち帰り、換金すらできない白い『魔晶』は捨てていった。
やがて、鉱脈の『魔晶』は掘り尽くされて、廃坑となった。
残ったのは、地上に開けられた穴と、白い『魔晶』。
その白い『魔晶』は、今も地上に開けられた穴から無色透明な光を漏らしている。
地中から光を漏らす光景。
それは無秩序に作られたイルミネーションのように、光を放つ。
だから『光の丘』だ。
廃坑してから、少しの間は観光地のようになっていたが……今はもう飽きられて、滅多に人も来なくなった。
それでも俺は、この景色が嫌いじゃなかった。
「……綺麗だね、ミリア」
「そうだな」
だから、旅に出た時、俺はユースケにこの場所を見せた。
昔、ジェーンに教えられて、数度だけ来たこの場所に。
この世界に対して、不信感を抱いて苦手になりつつあったユースケに、少しでも好きになって欲しかったからだ。
そう考えていると、ユースケが頬を緩めた。
「旅に出た初日に、この景色を見れて良かったと思うよ」
「……そうか?」
「うん。僕にとって、大切な場所になったから」
「……なら、連れてきて良かったな」
丘の上に座り、光が漏れる景色を見る。
空は茜色……夕暮れのなか、鉱脈の光と夕焼けが混じっていた。
二人、並んで光を眺めた。
あの頃より、随分と大人になった。
身も心も、立場も。
「ミリア」
「ん?……なんだ?」
「……少し、変な話してもいいかな」
変な話ならやめてくれ、と普段なら言う。
だけど──
「好きにしろよ」
その真剣な表情に、揶揄う事をやめた。
「正直に言うと、この世界に呼ばれた時……僕は凄く嫌だったんだ」
「……そうか。そうだよな。それが普通だ」
誘拐みたいな……いや、召喚魔法は誘拐、拉致そのものからな。
「いきなり怖い魔獣と戦えって言われて……僕って、あっちの世界では虫を殺すのすら無理だったんだよ?」
「……優しいもんな、お前」
首の裏を掻く。
……やっぱ、前の世界に帰りたかったのか。
「訓練も嫌だった。急に剣を持たされたのも……何もかも嫌だったよ」
「……そうか。悪かったな」
罪悪感が胸を占める。
俺がユースケを呼んだ訳じゃない。
だけど、この世界の危機がユースケを呼んだのは確かだ。
自力で自分自身を守る事ができなかったから、この国は藁に縋る思いで『勇者』を召喚したんだ。
だから、俺達の責任だ。
「それで、急に旅に出て、一人で邪竜を倒せ……って。RPGじゃあるまいし、酷いよね」
「……………」
「でも、ミリアが来てくれた」
「……同郷の人間を、見捨てられなかっただけだ」
あの時は、ただそれだけの気持ちだった。
自分達の身勝手で呼んだ一人の男の子が、孤独に旅をする事を許せなかっただけだ。
「……嬉しかったよ、僕は」
「……そりゃ良かったな」
「うん、良かった」
ユースケが俺を見て、頬を緩めた。
「僕はミリアと一緒に旅に出られて、本当に良かったと思ってる」
「……俺もだよ。俺も一緒に旅ができて良かった」
顔が熱くなる。
夕焼けの中、『魔晶』が煌めいている。
「旅の中で色々な事があったね」
「……まぁ、そりゃ長い旅だったからな」
「うん、長かった」
頭の中には今でも、あの頃の記憶が蘇る。
まだ子供で、使命のために冒険して、巨大な敵と戦う……そう、子供の夢だ。
「……それでも、僕は楽しかった」
「そうか」
「ミリアが居てくれたからだよ」
「……そ、そうか?」
まっすぐにそう言われると照れる。
そこに異性としての好意がなくても、だ。
「だから……これからも一緒に居て欲しいんだ」
それでも心臓が跳ねる。
「ま、まぁ……いいけど。俺とお前はもう、夫婦だし……」
言ってて悲しくなる。
形だけの配偶者、形だけの夫婦、形だけの愛……そんなものに縋ってる自分に。
「でも、関係は……少し変えたいんだ」
「……それは、つまり──
「うん、ミリアの思ってる通りだと思うけど──
胸が痛い。
苦しい。
聞きたくない。
ユースケの口からは、聞きたくない。
「僕はミリアのことを──
「離婚したい、って事だろ?」
だから、先に口にした。
俺に異性としての好意を向けておらず、関係性を変えたいのであれば、そうとしか──
「え、えっ?ミリア?」
「……分かってるんだ、ユースケ。分かってる。俺とお前は仮初の婚約者だったからな……でも、大丈夫だ。離婚しても、ちゃんと友達──
「ちょ、ちょっと待って……!僕はミリアと離婚するつもりなんてないよ!?」
「……じゃあ、夫婦という立場だけ残して、不必要な接触をしないように──
「だ、だから、違うって!」
ユースケが立ち上がった。
先程までの穏やかな顔ではなく、少し焦ったような……困ったような顔をした。
「ぼ、僕は……っ!」
夕焼けの所為か、顔が赤く見える。
「僕は、ミリアの事が好きなんだ……!今でも……ずっと……!」
そして、その言葉に……頭の中に疑問符が浮かんだ。
「……ユースケが?」
「うん、僕が」
「……俺を?」
「ミリアを」
「好き?」
「好きだよ……!」
「……本当に?」
そして、ようやく少しずつ理解を始めて。
「本当だよ……僕は……君と、本当の夫婦になりたい。形だけじゃなく、本当の」
心の中に渦巻いていた色々が、ぐちゃぐちゃになって。
そして、俺は……。
「っ……」
「ミ、ミリア……?」
涙を流した。
とめどなく、感情を涙腺から溢した。
「うぅ、うっ……」
止めたくても、止められない。
涙を流しながら、嗚咽を漏らして……服の袖で拭って。
想いを伝えられて、嬉しいのに。
悲しくないのに、涙が止まらない。
「ご、ごめん、ミリア……やっぱり、迷惑だった……?」
慌てて、首を横に振る。
「ううん……違う、迷惑じゃない……」
涙を拭って、立ち上がる。
そして、ユースケの顔を見上げる。
そして、俺は口を開いた。
「嫌じゃない……嬉しくて泣いてんだよ」
「……そ、そんなに?」
「ぐすっ……お前が思ってる以上に悩んでたんだよ、俺は……女心が分からない奴だな……まったく」
「ごめん……」
指で目元を拭って、ユースケと視線を合わせる。
「でも……良いのか?俺、元々、女じゃないんだぞ?」
「うん、僕はミリアが好きだからね。肩書きだとか、過去だとか……そんなの、些細な話だよ」
「……些細じゃないと思うけど」
「些細に感じられるぐらい、好きって事だよ」
……急に、そんな『好き』って言うな。
まだ慣れてないから、言われる度にすっごくドキドキしてるんだぞ。
くそ、お返ししてやる。
「ユースケ……」
「うん」
「俺もユースケのこと……好きだからな」
「う、うん……あ、ありがとう?」
顔を真っ赤にして、目線が泳いだ。
ざまぁみろ。
少し愉快になって、笑う。
「でも、アレだな。今、告白したけど……俺とお前、既に結婚してるんだよなぁ」
「あ、そうだね……」
「順番、変だよな」
「……偽装結婚する前に、ちゃんと告白しておけば良かったのかな」
「そうしたら、最初っからちゃーんと夫婦だったな」
くつくつと笑って、ユースケの肩を軽く叩いた。
叩かれたユースケも表情を緩めた。
「でも……うん、良かったよ。これからは、ちゃんと夫婦だね」
「そうだな。正真正銘、愛する夫婦だ……んんっ、いや、なんだかむず痒いな」
「はは……慣れていかないとね」
恥ずかしいことを口にしつつ、俺は苦笑した。
そして──
「ユースケ……そう、あれだな。キスぐらい、景気付けに一発やっておくか?」
「う、うん。いいよ……景気付けってのはよく分からないけど」
「じゃあ……その」
「うん、少し屈むから」
顔の高さを合わせて……。
俺はユースケと唇を重ねた。
「んっ……」
もう恥じらう事もなくなった、形だけの婚約者として熟してきたキス。
だけど、今は少し意味合いが違う。
相手が……ユースケが、俺の事を好きなのだと知っている。
その上でのキスは、いつもよりも……甘く感じた。
互いの背中に手を回して、抱きしめて。
愛を確かめ合うように。
ゆっくりと、時間をかけて……唇を重ね続けて──
「……っ」
そして、離した。
「……ミリア……凄い、ドキドキしたね」
「お、おう……まぁまぁだな」
俺は口元を拭くフリをしつつ、緩みそうになる頬を無理矢理押さえた。
そのまま、ユースケへ目線を向ける。
「そうだ、ユースケ。次は舌でも入れてみるか?」
「え゛、舌……!?」
俺が口元に指で触れると、ユースケの目線が泳いだ。
「ディープキスって奴だな。恋人ならそれぐらいするのが普通だろ?」
「ふ、普通なの……?って、いや、そうじゃなくて……ここ、外だよ!?流石にそれは──
「次って言っただろ。今すぐじゃないっつーの」
「あ、ごめん……」
「このスケベが」
「え……何で僕が罵倒されるの……?」
あぁ、最近ずぅっと悩んでた事が解決して気分がいい。
欲しかった物が手に入って浮かれている子供のようだ。
つい、揶揄ってしまうぐらい。
「……ふふ、これからは夫婦らしい事をしような」
「夫婦らしいこと……え、夫婦らしいこと?」
「あぁ、色々とな」
「色々と……」
ユースケがまた、顔を赤らめた。
……ん?
「……またスケベなこと考えんのか?」
「ちょっ、酷いよ……!これ僕が悪いの……!?」
「いいや、悪くないな。どっちかと言うと、揶揄ってる俺が悪い」
「……ちゃんとした夫婦になっても、そうやって揶揄うのはやめないんだね」
「……やめてほしいのか?」
「いや、別にやめなくて良いけど……」
「ぷっ」
ユースケの返答に、思わず笑う。
「酷いよ、笑うなんて」
「……悪い悪い、これも愛の形の一つなんだよ」
「調子のいいこと言うなぁ、もう」
ユースケが疑うような目を向けてくる。
揶揄いすぎて、疑心暗鬼になってる。
「ま……揶揄って悪かったな」
「そうだよ、まったく」
少し反省して、ユースケに密着して……胸板に手で触れる。
筋肉に覆われた、硬い身体。
「……家に帰ったら、するか?」
「する?するって何を?」
「……バカ」
「え……?何、何?」
理解してなさそうなユースケの肩を軽く叩いて、一歩下がる。
「もう遅くなったし……帰るぞ。ジェーンに怒られる」
「あ、本当だ。ちょっと拙いかも……急がないと。また背負っても良いかな」
「あぁ……でも──
ユースケの背中へと手を伸ばす。
「間違っても落とすなよ、旦那サマ」
「……み、耳元でそんな事言われると、すごくドキドキするんだけど……」
顔を真っ赤にしているユースケに密着して乗る。
速すぎない速度で、足を進め始める。
「……これで正真正銘、旅が終わったな」
「え?とっくに終わってたと思うんだけど……」
「いや……俺の中では終わってなかったんだよ、多分な」
邪竜討伐の旅。
異世界から来た少年との旅。
仲間との旅。
子供のような旅。
それらは終わりを告げて、これからの俺達は……きっと、また新しい旅になるだろう。
過去の旅なんかよりも、ずっと長い長い旅になる。
「……ミリアって結構、ポエムとか好きだよね」
「あん?悪口か?」
「いや、感受性が豊かだな……って」
「……悪口か」
「え?いやいや、感受性が豊かなのは悪口じゃないよ……!?」
俺が揶揄って、慌てたユースケが否定する。
今までと同じ光景だけど、少し違う。
ひとしきり笑って、俺はユースケの背中に顔を埋めた。
「……愛してるからな」
「うん、僕も」
「……お前も、『愛してる』って言え」
「え……あ、愛してる?」
ぎこちないけど、まぁ良いだろう。
『勇者』と『魔法使い』の旅は終わった。
これからは……『夫』と『妻』。
ただの『ユースケ』と、ただの『ミリア』の旅になるだろう。
それが嬉しくて、嬉しくて。
俺はユースケの背中を、強く抱きしめた。
ご愛読、ありがとうございました。