知り合いだというニャンコ先生が、その妖について語る。
妖怪の総大将、その二代目だという妖の男を。
※夏目友人帳に二代目が斑の飲み友として平然といる話。二代目がかっこいい感じではなくいたずら小僧な感じで終わります。
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枝垂れ桜の下で開かれるは、人ならざるものの宴会。
夏目レイコの孫たる夏目貴志は、犬の会の面々に連れられ、月下の宴会を楽しんでいた。
「今宵は月が良く見えるねぇ!そう思わないかい?夏目」
「ああそうだな、本当によく見えるなぁ……」
「ささ、夏目様も一杯どうですかな?」
「秘蔵の妖命酒が手に入りましたからなぁ!我らの気分も良い!」
「む、待てお前たち!夏目の分は私が貰うぞ、夏目のやつはお子ちゃまだからまだ飲めんのだ」
「気持ちだけ受け取っておくよ。あ、こら先生!また飲み過ぎて……」
「いや〜、本当によく見えるよなぁ。今宵は月見酒で一杯ってとこか」
「ああ、本当に……って」
ぴしり、と石のように固まる夏目。
錆び付いた機械のように首を動かせば、そこに居るのは何時ものメンバー。
……の中に、一人だけ場違いと言うか、明らかに異質な存在がいた。
人ならざるものが混じる宴で、美男の姿をしていた。
品の良い煙管を片手に、煙りを吹かす仕草。
形だけ見れば、街で持て囃されるような、着流し姿の立派な色男。
重力に逆らうように後ろに伸びた長い黒髪。
鋭くも優しげな金の瞳。
凛々しくもどこが荒々しさを感じさせる端正な顔立ち。
見れば見るほど、魅入られるような不思議な色合いをしたその男は、――そこに居るのに居ないように感じた。
明らかに異質である筈なのに、僅かな違和感も感じなかった。おかしいとすら思わなかった。
水面に映る月のように、実像が捉えられない。
――その違和感にぞくりと肌が粟立つ。
ぴり、と息が詰まるような威圧が犬の会の面々から放たれる。見知らぬ第三者に警戒するのは当然だった。
が、男は素知らぬ顔で笑みを浮かべた。
「おいおい、んなにピリピリすんな……とまでは言わねぇが。深呼吸でもしたらどうだ?」
「俺にアンタらを害する気は無ぇよ。……それに俺は、古い友人と飲みに来ただけだ。」
そう言って男は肩をすくめると、ニャンコ先生の方を見た。
「だろ? 斑……って。おーい、そこのデブ猫……起きてるか〜?」
呆れたように呼びかける男に、ニャンコ先生はむにゃむにゃとうわ言を言いながら目を開けた。
「うん?おお、ぬらりひょんか!久しぶりでは無いか!……所で、何故お前がこんな所にいるのだ?」
きょとりと目を瞬かせるニャンコ先生に、
「お前が呼んだんだろーが!……前言ってたろ?百年後に月見酒でもしねーかってな。ほれ、来たぞ」
男が懐から取り出した酒をチラつかせる。
「ほう!こ、これはあの阿武知山の妖命酒では無いか!良くやったぬらりひょん!」
持ち上げた酒に飛びついて喜ぶニャンコ先生の姿に、
「先生……」
「なんだ、あんたの知り合いかい、斑」
「なんとも人騒がせな」
毒気を抜かれた面々が緊張を解いた。
「分かって貰えたようで何よりだ。さて……」
どん!と酒瓶を置いた男は、ニヤリと笑い、
「まずは一杯……お前らもどうよ?」
そんな男の誘いに――もとより宴を好む妖たちであるので、銘酒を味わう機会を逃すはずが無く。
「ひっく……!お前達も楽しんどるかぁ〜?」
「さすが妖命酒……あんたの知り合いのおかげだねぇ、斑」
気付けば、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎへと発展していた。
ぬらりひょんという男の妖も、それとなく混じって騒いでいるようだ。
ため息を吐いた夏目に、ニャンコ先生がポテポテとやってくる。
「先生……アイツは一体?」
「ん?何だ、知らんのか夏目」
上機嫌に酒を飲むニャンコ先生は、興が乗ったらしく芝居じみた口調でぬらりひょんについて語った。
「ここらの土地ではあまり見かけんが、他の場所では妖怪は徒党を組み、妖の集団組織が多くあるという」
――かつて人は妖怪を畏れた――
その妖怪の先頭に立ち、百鬼夜行を率いる男――
人々はその者を、妖怪の総大将――あるいはこう呼んだ。
魑魅魍魎の主、ぬらりひょんと…。
「そしてやつは、そうした組織の長――関東の妖組織をまとめる奴良組の総大将でな」
「まぁ端的に言えば、妖のヤクザ者だな」
「はて……二代目だか三代目だったか……まぁ良いか。ともかく奴は、ぬらりひょんという妖怪であり、妖をまとめる総大将という立場なのだ」
そんなニャンコ先生の話に聞き入りながら、感心する夏目。
「ぬらりひょん……妖の総大将。そんなに凄いやつだったのか、あいつ」
「なんだ。意外と物知りなんだなぁ、斑」
「わっ!? いつの間に……!」
ぬらりと隣に座り込んでいたぬらりひょんに、思わず声を上げる夏目。
まるで気配を感じなかったと戦慄する夏目に、ぬらりひょんは「それが俺の能力だからな」と笑った。
得体の知れない飄々としたぬらりひょんに、警戒心を露わにする夏目。
「お、これが夏目友人帳ってやつか?」
不意に視線を滑らせたぬらりひょんが、友人帳に目を向ける。
止める前に、あろう事かパラパラと捲り、眺めている。
――まずい!
友人帳の存在を知っている――目的が分からない男に、取られるのは避けるべきだ。
ちらりと先生に目を向けるが、泥酔してそれ所ではなかった。
「返してくれないか、それ」
「そうだなぁ……お前が俺に触れたら返してやるよ」
ほれ、と男がふわりと後方に飛ぶ。
「くそ……!」
追いかけながら何度か拳を振るうが、ぬらりくらりと避けていく。
しかし何度目か奮った拳が、ぬらりひょんの体に当たった。
――はずだった。
当たったはずのぬらりひょんの姿が、どろりと溶け消える。
「なっ……!」
「――良い拳だったぜ。当たりはしたが、触れなかったって所が惜しいが」
煙のように消えたぬらりひょんは、気付けば夏目の近くの木の幹の間にもたれかかっていた。
煙管の煙を揺らしながら、夏目友人帳を手に笑うぬらりひょん。
「つーわけで返してやる」「は?」
ほらよ、と軽く投げ渡された友人帳を慌てて手に取り、唖然とする夏目。
それを眺めていたニャンコ先生が、あくび混じりに呆れた口調で言った。
「夏目で遊ぶのは構わんが、あまり度が過ぎるとソイツが泣いてしまうぞ」
「だろうな。だからこの位で返してやったろ?」
からからと快活に笑うぬらりひょんに、からかわれたのだと分かり、震える夏目。
「これがぬらりひょんって妖怪だからな。よろしく頼むぜ、夏目」
ふざけた態度の妖怪たちに、夏目の怒りが爆発するのは当然だ。
「……れが、」
「誰がよろしくするか!この酒浸り妖怪共――!」