魂をあの世に送り届ける役目を持つ「空先案内人」。そんな仕事を担う悠は、かつて空先案内人に死語の世界に案内されたうちの一人だ。殆どの魂は成仏した後、生まれ変わりを望むのだが悠は空先案内人の仕事に関心を抱き業務を始めた。「魂の皆さま、『あの世行き列車』は間もなく発車致します。心残りのお忘れものが無いようお気をつけ下さい」悠はその日の乗客魂の人数を確認するのだが、どうも魂一人分が足りないと見た。『送り魂リスト』を確認するも、乗客魂がやはり一人分現れない。この世とあの世とをつなぐ『狭間駅』の場所が分からないか、或いは……。(何かに足止めされている可能性が在るのかもしれない)土地勘の無い霊が迷うのは時々在る。そんな場合は案内を先送りにするのだが、もう一つの理由として『足止め』を食らう事だ。それには、正しい訳が在る。「あ!こちらです!間もなく発車致します!」霊が現れ、悠が呼びかけを行う。その時、手の中の『送り魂リスト』が震えた。リストを開くと、今到着した魂の名前が点滅している。(この現象……まだ早いんだ)魂が列車の扉を潜ろうとした瞬間……。ポン……。誰かがその魂の縁に触れた。魂が振り返るが、その誰かはいない。発車時刻だ。ーパアアアアアア……ー向こうの世界から霊柩車のクラクションが長く響いた。このクラクションが発車ベルとなっており、音が止むと列車は発車する。扉が閉まり、その魂はホームで立ち尽くす。「お忘れものが御座います。向こうの世界に」悠がそう言い一礼すると、魂も上下に浮遊しペコリと揺れた。リストから魂一人の名前が消え、ホームからも魂は消えた。悠が窓から上空を見上げると、竜が一匹飛来していた。『アシドメ』と云われる竜を見つめ、悠は列車が行く先を真っ直ぐ見た。竜は空の彼方をゆっくり目指し、雲の向こうへと消えていった。悠の記憶に舞い戻る。自身が死後の世界へと案内された日の事が。悠を案内した空先案内人は少し若い感じがする男性だった。「人生を真っ当されたのですね」「えっ?」突然語りかけられ驚いたが、穏やかな表情を見せる彼を見、悠も気持ちが和らいだ。「真っ当かどうかは……分かりません。良くも悪くもという、素朴な人生でした」「それが一番、真っ当です」悠が自信なく答えた言葉を、空先案内人は大きな心で受け止めてくれた。報われた気がして、思わず自然に言葉がこぼれたら。「ありがとうございます」自然な言葉に、自然な言葉が返る。「こちらこそ、真っ当な御乗車感謝致します」空先案内人が言葉を伝えた時だった。ーパアアアアアア……ー向こうの世界から霊柩車のクラクションが鳴り響いた。「列車が発車致します」扉が閉まり、列車はゆっくり動き出した。あの日と同じで、少し違う今にゆうはいる。あの時の空先案内人は他界され、今は向こうの世界を生きている。前方にあの世が見えてきた。「間もなくあの世、間もなくあの世です……」悠の優しい導きの声が、列車内に響き渡る。