大皿でピーマンを   作:灯火011

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短編ということで、今回のピーマンはあっさり目に終わりを迎えさせて頂きます。

アプリのウマ娘ストーリー的な感じと思っていただければ幸いです。


①ハンバーグの種を適当に作ります。

②ピーマンを刻みます。

③ ②を①で包み込みます。

④焼きます。

肉のピーマン詰めの完成です。ピーマンの肉詰めの逆です。ご飯がススミマス。


ピーマンは分けても良いし、一緒に喰っても良い。

 あくる日の事、四月一日トレーナーは少々硬い表情を浮かべながら練習コースへと足を運んでいた。その左手にはなにやらビニール袋がぶら下げられている。

 

『そぉーれー!』

「くっそこの体力お化け!負けねぇぞー!」

「まだ行くの!?……付き合ってやるわよ!!」

 

 コースを見下ろす丘の上からは、件のトチノステラが何名かのウマ娘と共に合同練習を行っている。頑丈さと体力を武器に、毎日毎日、通常のウマ娘の2倍近く練習をする彼女は、まさに同年代の注目株と言えよう。

 

「答えは合ってるかちょっと不安だけど……」

 

 四月一日トレーナーはそう言いながら、左手のビニール袋の中身を覗く。そこにあったのは、朝採れのピーマンだ。近所の露天で売っていたもので、味はピカイチ。きっと、トチノステラも気に入ると踏んでいる。

 

「生徒会長に相談してみたときは、感触が良かったけどね」

 

 用意周到というべきか、石橋をたたいて渡るというべきか。初のスカウト成功のために、四月一日はできうる限りの裏取りも行っていた。沖野やおハナさん、たづな秘書などなど、有力な人々にトチノについて聞いて回り、答えについても相談し、そして今ここに居る。

 

『おそらく合っているだろう。彼女は、前の私によく似ている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、などとほざいていたあの頃の私にね。キミならば、トチノステラの杖になりうるトレーナーだろう』

 

 そうルドルフからお墨付きを頂いたことで、最後の決心が付いた。まぁ、それに。

 

「ここまでやって間違っていたら、それは私のトレーナーとしての能力が不足しているだけ」

 

 頷きながら自分に言い聞かせる。そして、練習がひと段落付いたであろう、トチノステラの元へと、重い腰を上げた。まずは、ピーマンを渡して様子を見よう。

 

 

『これは立派なピーマンですねぇ』

 

 袋を受け取ったトチノステラは、早速しげしげとピーマンを吟味していた。右手で感触を確かめながら、ピーマンを頭上に掲げる。なるほど、艶、色合い、そして固さは十二分に良いピーマンであると訴えている。

 

『しかし、四月一日トレーナー。残念ながら私は一日のピーマンを制限されておりまして、これは頂けないかと』

 

 そう言いながら、残念そうに袋を返そうとするステラ。だが、四月一日はそれを手で制し、一歩踏み込んで、ステラと目を合わせた。

 

「問題ないよ。それはトレーナー権限で無効化する」

『はて。()()は専属トレーナーではないですよね?どこに、そんな権限がおありで?』

 

 試すような言葉を吐くステラ。目は楽しそうに細められ、頬も少し緩んでいる。それを見た四月一日トレーナーは、小さく息を吐き、一瞬目を瞑ってから、ゆるりと口を開き始めた。

 

「トチノオーとのマッチレース。それが、トチノステラの望む『レース』」

 

 それだけを言うと、四月一日は口を閉じる。静寂。

 

「……どうしてそう思いました?」

 

 より一層笑みが深められた表情を浮かべながら、うたうようにトチノステラは言葉を紡ぐ。

 

「考えたよ。凱旋門でもない、アメリカでもない。国内でもない、でも、大きなレースってなんだろうってね」

 

 それに答えるように、四月一日も言葉を、淀みの一つもなく返し始めた。

 

「だからトチノをすべて調べ上げた。トチノオーから始まる、不思議な物語を。全員が凱旋門を目指し、そして最後には、トチノオーに負けたと言って去っていくその歴史を」

 

 頷く。トチノステラも、ゆっくりと頷く。

 

「歴史を知った時、きっと、君も最後にはトチノオーと自らを比べるのだろうと、最初は思った。だけど、そうじゃあない」

 

 トチノステラは、トレーナーの目を見つめている。否定も、肯定もない。

 

「君は、最強時代のトチノオーと、本当にレースをして比べたかった。ウマ娘の本能というか、ウマ娘の中で、()()()()()()()()というその願いを叶えるために」

 

 どうだろうか、と四月一日は言葉を止めた。トチノステラは、静かにトレーナーの顔を見ている。静かに見続けている。

 

「……その通り、と申しておきましょう。四月一日トレーナー」

 

 そして、トチノステラの口から出た言葉は、正解の二文字であった。

 

 

「まぁ、判り易く言えば、嫉妬なんですよ」

 

 トチノステラは四月一日に向けてか、それとも、誰にでも向けてないのか、独り言のように言葉を吐いた。

 

「トチノオー。私とは関係のないウマ娘です。『トチノ』という名前だけが同じという、なんとも奇妙な関係です。

 だから、最初は気にしていませんでした。両親が『あのトチノ!?』と驚いていた事すらも、気にしていませんでした。

 ただ、どうしてもこの名前というのは目立つもので。どこにいっても注目されるようになってしまったんですよね」

 

 昔話だ。トチノステラ。ウマ娘の名前は両親が急に、運命で示されるように思いつく、というのは良く知られている話だが、トチノステラは全く、そのトチノとは関係のないはずのウマ娘であった。

 

「草レースに行っても、みんなと走ろうとしても『トチノ、トチノ』。少しづつ走るのが嫌になってきた時期があったんですよね。だって、私はステラなのに、私を通して『トチノオー』の幻影を見ている人が多すぎて」

 

 良くある話だ。名ウマ娘の名前と同じ経歴、名ウマ娘の血筋、そういったもので、期待を背負わされてしまう。特にトチノステラが『トチノ家』のようなものではなく、ただただ、トチノという名前が入っているから注目されている、という状況は、彼女にとって好ましいものでは無かった。

 

「そんなに言うのなら、どれほどのウマ娘だったんだろうか、と思って、親戚のおじさんに頼んでトチノオーのレース映像を見せてもらったんですよ。そうしたら……魅入られました」

 

 そう言うステラの顔は、どこか遠くに憧れを抱く乙女のようで、四月一日が一瞬見ほれてしまうほどの笑顔だった。

 

「美しい走り。本当に。そして早かった。なるほどと納得してしまったんですよ。これなら、トチノというウマ娘に期待をしてしまうな、と。そして、だからこそ嫉妬したんです。私を見ろ、ってね。その頃からです。この映像の中のトチノオー。最強のトチノオーを負かして、私が世界で一番速いウマ娘になるって決めたのは」

 

 トチノステラは言い切って、ふう、と肩から力を抜いた。

 

「ただ、これはオフレコでお願いします。生徒会長さんには『全てのウマ娘の幸福』が私の最終目標、って見栄を切っていますので」

「え?なんでそんなことを?」

 

 四月一日はポカンと口を開けしまっていた。なぜ、そんなウソのような台詞を生徒会長であるシンボリルドルフに切ったのか?

 

「ピーマン喰ってた時に生徒会室に呼び出されたからです。食い物の恨みは怖いんですよ?」

 

 ピーマン野郎からしてみれば、当然の対応だったらしい。ニヤリと、悪い笑みを浮かべている。

 

「ま、ただ、私がトチノオーを超えられれば、新たな希望なんかも見せられるんじゃないかなーとか、ちょっとは思ってますから。安心してくださいよ。トレーナーさん」

「……わかったよ。トチノステラ。で、もう一度確認だけど、私のスカウトは、受けてくれる?」

 

 そう言って、四月一日は右手を差し出していた。間髪入れずに、トチノステラの右手が伸びる。

 

「もちろんです。四月一日トレーナー。私のためにここまで奔走してくれたんですから、断る理由がありません」

 

 ぐ、と固く握られた握手。四月一日の顔には、笑顔の花が咲いていた。

 

「……それで、トチノステラ」

「ステラでかまいませんよ」

「ステラ。その、じゃあ、まず、契約記念ってことで……私に何かしてほしい事って、何かない?」

 

 四月一日は少し気恥ずかしそうに、そうステラに問いかけた。少しだけ、考え込むようなそぶりを見せたステラは笑顔を浮かべて、こう告げる。

 

「大皿でピーマンを」




架空馬の経歴

トチノステラ 牡馬 

 トチノオーのラストクロップ。無敗で皐月賞、日本ダービーを勝利。その速さに確信を持った陣営は、秋はクラシック三冠路線をキャンセルし、凱旋門賞へと路線変更。
 直前のフォワ賞でも圧倒的な強さを見せたため、陣営は自信をもって凱旋門賞へと出馬させた。そして偽りの直線から加速を始め、流星のようにゴールへとなだれ込み、栄誉を手にせしめた。タイムはレコード保持者であったトチノオーを超え、『流星が凱旋門と、トチノオーの頭上を飛び越えた!』とアナウンサーが叫んでいた。

 が、その直後、流星が燃え尽きるが如く、ターフ上に倒れ、そのまま息を引き取った。
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